この小説の登場人物・設定等の著作権は、全てクリス・カーター、1013、 20世紀フォックス社に帰属します。 また、この作品は作者個人の趣味によって創造されたものであり、 他のいかなる作品・作者様の著作権等を侵害するものではありません。 「Warm rain」 Spoiler:S5の最後、FTF、S6の前半…なんとなくそのへん。(あいまいだ(汗)) Author:みっち **************************************** いつの間に降り出したのだろう。 パラパラという雨音に、スカリーは窓辺に向かった。 そっと窓の外を覗くと、大粒の雨が窓ガラスを打ちつけていた。 冷たい雨…。 部屋の明かりのせいで、窓の外はまるで漆黒の闇が広がってるように、 暗幕を張られているような黒。 冷たい闇と雨から自分を守るように、彼女はシルクのパジャマ越しに そっと自分を抱きしめた。 何から守りたいのか、何を守りたいのか。 スカリーは自分の無意識の行動に苦笑した。 ゛忘れる゛という特技を持っているはずの人間。    忘れたいのは…。    あなたの指先が触れる度に揺れる心。    ふと見たあなたの眼差しが、優しかったこと。    だけど、彼女を見る目に宿る懐かしさ。    抱きしめられたあなたの胸が大きかったこと。    アパートの廊下で、あなたと口接けしそこなったこと。    冷たくなった私に、息吹を与えてくれたあなたの暖かい唇。 スカリーは忘れてしまいたい事実を羅列してみる。 まるで、分別ゴミを分けるように。 だけどそれは、ちっとも上手くいかない。 なぜなら、忘れてしまいたいことは、忘れられないことだから。 揺れる心も、優しい眼差しも。 あの女性を見る時の彼の郷愁も、彼の胸も。 そしてあの…、蜂が邪魔をしなければ交わしたであろう、彼との 口接けも、命を繋ぎとめた彼の唇も…。 相変わらず窓を打ちつづける雨音。 パラパラ、パラパラ、パラパラ。少し不規則なリズムを刻む。 自分の考えがまとまらないのは、この、雨音のせいだと思った。 「いまいましい雨…。」 独り言を呟く。    忘れたいのに。怖いから…。     −Prrrr、Prrrr、Prrrr− チェストに置きっぱなしだったセルが、ふいに鳴った。 こんな時間にかけてくる相手は決まっている。 彼女は、のろのろとセルを取った。 「Scully」 『Scully, It's me.』 やはり、モルダーだった。 『やぁ、もしかして寝てた?』    そう思うならかけてこなければいいのに。 「いいえ。」 スカリーは静かに答えた。 彼女が、今は話したくない…というタイミングを彼は知っている。 そして電話をかけてくる。いつも。 自分の心を見透かされているようで、スカリーは少し憂鬱になる。 『雨…だね。』 「そうみたいね。」 『眠れないんだ。』 「だから?」 『だから…君に電話したんだよ。』 モルダーの声は穏やかだった。ボソボソと。 まるで耳元に囁くように。少し低くて擦れた声。 穏やかな囁きは、彼女のペースを乱す。 いっそ、もっと傲慢に喋ってくれれば、スカリーも何か他に言いようが あっただろうに、静かに話されると聞くしかない。 彼女はそっと瞼を閉じた。 「私を睡眠薬代わりに使うつもり?」 トゲトゲしく聞こえないよう、細心の注意を払いながらスカリーは言った。 ははは…と電話の向こうから、小さな笑みが響く。 『君が睡眠薬なら、僕は中毒になっちゃうよ。』 「どうして眠れないの?」 『どうしてかな。僕は慢性的な睡眠不足だ。』 「カウチなんかで寝るからよ。」 『じゃあ、君のベットを貸してくれるかい?』 スカリーはからかって言った言葉なのに、モルダーの声にジョークの色はなく、 だからといって、緊張してるふうでもなく、とても自然に。 まるで、「ボールペンを貸してくれないか?」とでも訪ねられたかのような 錯覚を覚えるくらいに、それくらい自然にその言葉は発せられた。 雨が…、急に激しくなった。 ザーザーという大きな雨音以外、この世界に音などないのではないかと思うくらいに。 自分の鼓動がさっきより早くなっていることに、彼女はその時気がついた。 いつもなら、おどけたジョークに意味深な言葉を乗せて、スカリーの反応 を楽しんで。 そんなモルダーなら、彼女もあしらい方を知っている。 でも、今の彼に、どう言葉を返せばいいのかわからない。 雨音がうるさくて。気のきいた言葉が見つけられない。雨音がうるさくて。    (ドクン。ドクン。ドクン。)    どう言えば、いつものようにジョークになるの?    (ドクン。ドクン。ドクン。)    早くなにか言わなくちゃ、ほら…いつものように…。 『スカリー?』 少し心配げなモルダーの声に…彼女は軽く頭を振って、考えることを諦めた。 「別に。ただあなたが…。」 『僕が、何?』 「ただ時々、夜が怖くて、逃げ出したくなることがあるわ。何故だか解らないけど。  何の前触れもなく、突然ほうり出されるような。一人ぼっちになるような。  そんな感覚に襲われて。」 『子供みたいだな。』 モルダーは優しく笑った。 そして、本当の子供に話しかけるように、ゆっくりと言葉を選びながら 話はじめる。 『君が、一人ぼっちになるなんてありえないよ。だから怖がる必要なんて、  これっぽっちもないのに。』 「どうして、そんなことが言いきれるの?」 『言いきれるんだよ。』 「なぜ?」 『スカリー、僕が恐れてることが、何か知ってる?君のいない世界だよ。  君の暖かい抱擁がなくちゃ、僕には何の意味もない。どんなに真実に近づこうと、  君がいなければ無意味だ。前にも言ったよね、君がいたから頑張れた。  君は僕の魂だから。』 とうの昔に、そんなことは知っている。スカリーはそんな気がしていた。 彼女にとっても、彼は。 「そんなこと、とっくの昔に知っていたわ。」 くすりと笑って、彼女は答えた。 スカリーはふと、゛自分の忘れたいことリスト゛を思い浮かべる。    何を…何を忘れなきゃいけないことがあるのだろう?    忘れられるはずも無いのに。あなたのすべてを、    忘れられるはずは無いのに…。    忘れたいんじゃなくて、ただ、怖かっただけ。    時々見えない、あなたの心が。    がまんできずに、今にも溢れそうな私の思いが。 彼女の心がじわりと穏やかになっていく。 いつのまにか雨音は、ポツポツと柔らかな響きになっていた。 『知ってたなら…。』 モルダーがまた、優しく笑った。柔らかく笑った。 電話越しに、ゆっくりと髪を撫でられているような錯覚。 『知ってたなら尚更、何も怖がることなんかないじゃないか。そうだろ?』 「そうね。ありがとう、モルダー。本当に、私は何も怖がる必要はなかったんだわ。」 『ああ、そうなんだよスカリー。怖がらなきゃいけないのは、僕のほうさ。君がいつ、  僕に愛想をつかすか、いつもハラハラしてるよ。』 「あなたにも、怖いものがあったのね。」 スカリーの口元が僅かに緩んだ。 『ああ、僕は臆病者だから。それよりも、君に怖いものがあったってほうが  以外だったけど。』 モルダーはクスクスと笑う。本当に面白そうに笑う。 つられてスカリーも笑い出した。 子供が、小さな秘密を共有したときに、思わずもらすような。 『これは内緒だよ。』『私達だけの秘密ね。』そんな小さな声が聞こえて きそうな、密やかな笑み。 ポツ、ポツ、ポツ。大粒の雨が小さな打楽器を鳴らすように、 軽やかに窓を打つ。 窓にぶつかる水滴が、パッと花のように開いては散っていく。 ガラスには、次々と新しい花が咲いては消えていた。 『ねぇ、スカリー、まだ君の知らない僕を。僕を全部あげるから。だから…。』 モルダーが秘密を打ち明けるように囁く。甘く。 『だから、怖がらないで。』と。 降り止まない雨に、いますぐ打たれたくて。 「そんなの電話じゃ無理ね。もしも、あなたがまだ眠れそうもなくて、  私のベットを貸して欲しいなら。すぐに、来て。」 『もし君が今、僕の全部を欲しいなら。』 降り止まない雨に、いますぐ打たれたくて、スカリーは窓を開けた。 そっと手をかざす。 雨粒が彼女の手のひらではじけて飛んだ。思ってたよりずっと…。 窓枠をまたいで、ゆっくり素足を芝に下ろす。 水を含んだ芝は、柔らかくスカリーの足を包んだ。 思ってたよりも、雨はずっと暖かかだった。 両手を広げ、顔を天に向け、暖かい雨を全身で感じる。 きっともうすぐ、モルダーがやってくるだろう。 パジャマ姿で雨と戯れる彼女の姿を見たら、彼はどんな顔をするだろうか? スカリーは濡れた髪をかきあげて、思いっきり頭を振って、そして笑った。 5年前のオレゴンでも、2人は雨の中で笑っていた。 相棒が、あまりにも突拍子もなくて。 今の彼女を見て、モルダーはきっと笑うだろう。 彼女が、あまりにも突拍子もなくて。きっとまた2人で笑うのだ。 車のヘッドライトの明かりが、スカリーを照らす。 ほら…彼が来た…。    In the warm rain.    It makes me feel like that I am in your love. 〜〜〜 Fin 〜〜〜 ******************************************* あとがき 最近ずっとS5、FTF、S6をボーッと見てました。 ダイアナが登場してからの、モルのスカに対する仕打ち(笑)、 なのに、Kissしようとしたり、命がけで南極までスカを助けにいったり。 あんたどういうつもりよ!スカをどうしたいのよ!と今更ながら(本当にな) 混乱したりして。そんな感じです。(←どんな?(笑)) S8も終わって、なんとなくまるく(?)納まってるのに、今どきこんなFicを 書いてる私を許してください。過去を振り返ってばかりいます。(笑) なんとなく、電話だけで話しをすすめてみました。 この後2人はきっと、お互いに知らないお互いを(くすっ)見せあうのね。 それでは、最後まで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。 みっち☆mitti14@excite.co.jp