DISCLAIMER// The characters and situations of the television program"The X-Files" are the creations and property of Chris Carter,Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= おことわり:この話は「星」の後、違う道に行ってしまった二人が、どこへ行ったのかと勝手に       想像し、また、惑星の影響から離れ、冷静になった二人がどうやって仲直りをした       のかなと考え、想像を膨らませて書いてしまいました。       そして、作品中の二人の会話を、後のエピから引用した部分があったりもします。       もし、話のイメージを崩してしまったら申し訳無いので、それでもよいという方だ       けお読みください。       また、処女作なので拙い点がいろいろとあると思いますが、もしよろしければアド       バイスや感想等のメールをいただけたらとてもうれしいです。       e-mail  creoblue@ymail.plala.or.jp   =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 「仲直り」 by Hiyo 「あっ、Scully。いまの標識を曲がらないと!」 「黙りなさい!」 「…わかった。どうぞ、ご勝手に…」 車は、来た道とは違う方向に進み出した。 Scullyはどうにもいらいらが収まらなかった。 今回の事件では、なぜだかわからないが、Mulderのやることなすことすべてが彼女の心に 嫌な形でひっかかった。 こんなことは初めてではないとは思うものの、ここまでいらいらしているのはかなりめず らしいと、心の底では理解している。 地元警察との連携はとても大切だし、彼らの協力なしでは先に進みづらいという事も、わ かりきっていたはずだ。 その点においては、いつもは自分がMulderを正しい方向に軌道修正しているのに、今回は 見事に役割が逆になっていた。 white刑事の顔がよぎる。 事件が終わって二度と会う事がないと思うだけでほっとしている自分がいる。 でも、そんな些末なことにほっとしている自分が嫌だった。 まるで嫉妬しているみたいじゃない…とScullyはそんな思考をしている自分を感じ愕然と した。 Mulderには皆目見当がつかなかった。 Scullyをここまで怒らせてしまった理由がわからない。 White刑事に従って動くと言ったのが、そんなにプライドを傷つけられたのか? 足が短いと言ったことがそんなに腹に据えかねているのか? でもあそこではああでも言わないと立つ瀬がなかった。 Scullyはいつでも冷静だ。 そんなことで、腹を立てるような女性ではない。 なにか自分が思いもよらない大きなミスを彼女にしてしまったのではないだろうか? 一瞬、White刑事とのキスシーンを見られたことが頭に浮かんだが、それは残念ながら 速攻にリストからはずされざるを得ないような気もする。 あの事くらいですねてくれるScullyというのがまったく想像できなかったからだ。 怒るとしたら、「仕事中になんて不謹慎な!」ってくらいが関の山だろう… 街から離れるにつれ、どんどん冷静になっていく自分を感じたScullyは、やっと廻りに視点 がいき、びっくりしてしまった。 自分の思考の中に埋没していたときには、ただ機械的に目の前の道をまっすぐ進んでいた だけだったが…ここはどこ? 森の中をずんずんつき進んでいる気がする。 どこかに、本来の道のほうに曲がる道があれば、そちらにいけば戻れるだろうとは思って いたが、曲がるどころかどこまでも両側は木に囲まれている。 そして、心なしか緩い上向きの勾配になっている気もする。 外灯もまったくない、真っ暗な道。 Sucllyは、だんだんあせってきた。 思わずハンドルを強く握り締める。 一方、Mulderの方は、街から遠ざかるにつれ、さっきまでのあせりの気持ちがうそのよう に消えていた。 なにを、自分はおろおろしていたのだろう? いつだって、Scullyとはちゃんとわかりあえている。 もちろん、事件の解明の時点で、科学的根拠のないことだったりすると、ぶつかったりする が、そんなことは問題じゃない。 要は、お互いに相手を誰よりも信頼して、必要としているということだ。 それは、言葉では表現できない。 強いて言えば…それは絶対に断ち切られる事のない絆? 月明かりに映し出されている相棒の顔をそっと見つめる。 冷静な顔を装っているが、内心あせってきているのが手に取るようにわかる。 そんなSucllyを見て、もう笑いがこみ上げてくるのをなんとか押さえる。 つくづく自分は逆境に強いのかも? この状況を楽しもうとし始めている自分を感じ、Mulderは不謹慎にもなんだかわくわくし ている。 二人の間の空気が変わったのを、Scullyは敏感に感じていた。 いったい、いつ降参したらいいのかとタイミングをはかっていると、先にMulderが口を開 いた。 「Scully、もしよかったら…僕に運転させてくれないかい?」 その言葉に心底ほっとしたScullyは、素直に謝る事ができた。 「私が悪かったわ、Mulder。考えなしだった…」 すると、Mulderはにっこり微笑んだ。 「いつもは考えなしが僕の役目だからね、Scully。僕も反省したよ。」 車を止めて入れ替わる。 なんだか、やっといつもどおりになった気がして、Scullyはほっとため息をついた。 車はもと来た道を戻り始めたが、行きには見つけられなかった枝道を発見した。 木の茂り方の関係で、反対方向からだと気づかなかったようだ。 でも、方向はあっているようだか正しい道かは、わからない。 さっきまでの自分なら迷わず入っていたかも…しかし、冷静になった今では考えられない 選択だわ、と苦笑しかけると、Mulderは迷わずそちらに曲がったので、思わず引きつって しまった。 「Mulder、ここまで来た私がいうのもなんだけど…」とScully、思わず異議を唱える。 「でも、方向はこっちであっているよ、Scully。ガソリンも残り少ないし、できるだけ町 に近づく事を考えなきゃ」 ガソリンが少ないと言われると、なにも言えなくなってしまうScullyだった。 しかし、ついに車は止まってしまった。 Mulderがセルを何度となくまわすが、虚しく空回りの音だけが響く。 彼はため息を一つついて、ドアを開け表に出た。 Scullyもそれに続く。 長時間の運転の終わりに、Mulderは空を見上げてうーんと背伸びをした。 そこで、急に叫んだ! 「Scully!みてごらん!上だよ!!!」 Scullyは、Mulderのその言葉に一瞬ギョッとしてしまう。 アブダクトされた時の断片的な記憶が蘇り、Mulderが叫んだ続きは「UFOだ!」と来 そうな気がしたからだ。 でも、そんなScullyの心配をよそに、Mulderは相棒のそばにやってきて、耳元でささやい た。 「これを僕らは見に来たんだよ…きっと。」 おそるおそる空を見上げると満天の星が輝いている。 久々に見たその星の輝きに圧倒され、思わずそばにいた相棒の腕にしがみつきそうになった が、はっと気がつき手を引っ込めた。 そんなScullyをよそに、Mulderのほうは楽しそうに自然と肩に手を回してくる。 なんだか一瞬遠慮してしまった自分にとまどいながら、腕組みをした。 「Mulder」 「なんだい?Scully」 「…本当に素敵な星空だけれど、とりあえずこれからどうするかをか考えない?」 Mulderはどこまでも現実的な相棒を驚いた表情で見つめ、そして腕を離して答えた。 「もう、歩くしかないかな?」 「来た道を戻れば確実に町へ戻れるわね。」 「Scully、ガソリンがなくなるほど進んできた道を戻るのかい?」 「満タンだったわけではないわ。それに、これ以上迷い込むよりは、来た道を戻った方が、 他の車に遭える可能性もあると思うのだけれど…」 同意を求めるように相棒の顔をじっとみるが、彼は不服そうだった。 「せっかく、途中の枝道で街の方向に向かいなおしているのだから、このまま歩いた方が 早いんじゃないかい?それにここまで他の車に一度も遭っていないのだからあてにするの もどうかな?自力で帰れる方法を考えないか?」 “じゃあ、この道が正しいという根拠があるの?”と言いかけて、Scullyは口をつぐんだ。 今回はとにかく最初の自分が悪かったのだという前提があるので、これ以上抵抗はしづら い。 Scullyがなにも言わないのをMulderは了解のしるしと受け取ることにして、先に歩き出し た。 二人は、もうかれこれ1時間近く歩いている。 ただ、無言だった。 終わりのわからない道のりは、よけい時間の流れを遅く感じさせる。 さっきまでの道は、いまや車がやっと一台通れる程度の幅まで狭まっていた。 そして… 「階段だよ、Scully」 岩を簡単に組み合わせただけの代物だった。 これで、この先に車が現れる可能性はなくなった。 ほんの10段ほど降りると、予想通り獣道よりちょっと幅広の道が森の奥へと進んでいる。 「Mulder」 「進もう、Scully。」 相棒の言葉に信じられないといった表情で見つめる。 「Mulder、危険だわ。こんな夜中に森の中へなんて。なにが出てくるかもわからないのよ!」 「じゃあ、戻るのかい?」 その言葉にいままで歩いてきた道のりを考えると、確かに面倒くさい気がした。 普段のScullyなら元の道を引き返した方が安全であり、未知の森の奥深くに行くよりはマシ と思ったのだろうが、そんな思考力もうせるほど疲れていた。 「ここに、人為的に作った階段があるってことは、この奥に誰かの別荘とかがあるような 気がしないか?」 「…確かに。」 その言葉は今のScullyにとって、とても魅力的なものだった。 Mulderに従う事を決める。 だいぶ高くなってきた月の明かりに照らされた相棒の顔を見て、うなずいた。 しかし、ほんの十分とたたないうちに、突然雨が降ってきた。 廻りを見渡すが、都合よく山小屋など見つかるはずもない。 とりあえず、Mulderのコートを二人で被り、道を進む。 いったいどうなってしまうのかと思いつつも、Scullyには不思議と不安はなかった。 すぐそばに相棒がいるだけで、一人きりではないと思うだけで、平静でいられる。 片手はコートの端を持ち、もう片方の手には相棒の暖かい手とつながれていた。 とうとう土砂降りになった。 前が見えないほどだ。 さすがに、余裕がなくなってきた。 さっきまで歩いてきた道の区別もつかなくなる。 春とはいえ、夜、しかも山の上でみるみる温度を奪う雨にさらされているのだから、かなり 震えがやってきた。 そして、この雨を少しでもさえぎれるところはないかと探していたとき、不意につないで いたMulderの手が離れ、抱きかかえられたかと思うと、どこか真っ暗な狭い場所にひきず りこまれた。 Scullyは声も出ないほどびっくりしたがなんとか搾り出した。 「Mulder?」 「どうやら、岩穴だよ、Scully。」 ようやく、暗闇に目が慣れてじっくりとみまわすと、どうやらそこは岩の裂け目のようだ った。 とても長細い卵形を横にしたような形で、ちょうど上の方が少し出っ張っており、しかも 地上から少し高いところにあるために雨が入ってこないのだとわかった。 ほっと、一息つこうとした瞬間とんでもない事に気づき、つい声をあげてしまった。 「Mulder!」 自分が横になっていたのは相棒の胸の上であり、ちょうどその上に寝そべっているかたち になっている。 「…しょうがないよ、Scully。この狭さで二人で雨宿りをしようと思ったら、こういう体勢 になるしか…」 相棒は、長い足をもてあまし気味に少しもぞもぞさせた。 「でも、Mulder。一晩こんな体勢でいるのも大変だわ!」 「君が小柄な事に感謝しているよ。」Mulderは事も無げに答える。 「ひょ、ひょっとすると、もう少し歩いたら山小屋があるかも?」とにかく一晩この体勢 が続くのかと思うとくらくらしてくる。 「Scully、その可能性も否定はしないけれど…疲れたんだよ、この居心地に文句はないさ。 もう一度雨の中を歩くよりはね。」 確かに、ある当てのない山小屋を探しに出て、都合よくみつかるとは限らない。 でも… 「まあ、僕の事は高級なベッドだと思ってくれよ。」 「高級?」 Sucllyは、思わず吹き出してしまった。 「ひどいな、Scully」 「このあたりの、スプリングがちょっとやわらかすぎるみたいだけど…?」と、相棒のお腹 を押してみる。 「君の為に、いまだけ筋肉を移動させてあるんだよ。」 Mulderはちょっと言い訳がましく答えた。 「あと、ひとつ頼みがある。」 「何?」 「その、手が苦しいんだけど…」と、Mulderの胸の上で枕にしているScullyの腕を指差す。 「どうしたら?」 すると、Mulderが自分の胸をとんとんと叩いた。 「…!?」 「どけてもらえるとすごく楽になる。」 直接Mulderの胸に自分の顔を乗せるのが、気恥ずかしくてつい、壁を作るつもりでおいて いたが、確かにMulderが苦しいのは尤もな事であるのに気づき、そろそろと胸に顔を乗せ てみた。 Mulderは満足そうに目を瞑った。 トクントクンと正確な心臓のリズムが聞こえてくる。 さっきまで寒かったのも、お互いの体温のおかげでうそのようにあたたかい。 すぐそばに人がいてくれるのはなんて安心できるんだろうとScullyは思った。 でも、そう思うのは一緒にいるのがMulderだからなのかもしれない。 これがもし他の人でも同じように思えるのかしら?などと考えをめぐらせてみた。 「Scully、寒くないかい?」 「私は大丈夫だけれど、あなたは?」 Mulderがベッド代わりになっている分、背中が直に岩肌についている。 そこから熱が奪われていてもおかしくはない。 「僕の上に暖かいブランケットがあるから平気だよ。でも、こういうときは誰かと一緒に 裸で寝袋にはいるのが一番いいらしいよ。」 「…残念ね、ここには寝袋は無いわ。」 相手の言葉に少しよこしまなものを感じて少し体を固くする。 すると、Mulderはちょっと調子に乗りすぎたなと気づき、できるだけ冗談ぽく言った。 「心配しなくても襲ったりしないよ、これだけ狭いところじゃね。身動きひとつとれない し。」 「そんな心配するわけないでしょ?」 すると、Mulderはおやおやという顔でScullyを見つめる。 その顔があまりにも近くてどぎまぎしてしまったが、必死で冷静さを装う。 「クワンティコで、自分の身の守り方くらい叩きこまれているもの。あの女刑事さんのよ うにはいかないわ。」 …とつい答えたが次の瞬間に後悔した。 結局、ずっと頭から離れなかった事が口に出てしまったというのが、Mulderに気づかれた だろうか。 するとMulderは、しばらくじっとScullyを見つめたのちに、口を開いた。 「Suclly、どうしてもわからないんだが…」 「な、なにかしら」 「何をあんなに怒っていたんだ?」 「…」言葉に詰まるScully。 正直言って自分にすら、なぜあんなに腹を立てていたのか今となってはわからないのだ。 いや、なんとなく思い当たるところもあるが、それだけは絶対に認めたくない事だった。 「…質問したら必ず答えがかえってくるというものでもないわ、Mulder」 Scullyは努めて静かに答える。 すると、Mulderは含み笑いをしはじめたようで、胸がかすかに震えているのが伝わってき た。 「僕の想像どおりの答えならうれしいんだけど…」 案の定、楽しそうなMulderの声が返ってくる。 「発表しても?」 「あまり、聞きたくない想像のようだから、遠慮しておくわ。」 Scullyはあくまでも気づかないふりを決め込もうと、極力興味がなさそうに答えた。 それなのにMulderは、とうとうScullyが一番聞たくなくて聞きたかったことを口にした。 「関係ないかもしれないけれど、あれはWhite刑事と同意してしたことではないんだよ。」 「…」Scullyはなにも答えない。 「だからって僕の意思でもないんだが…」 そこで、Mulderは相棒の顔を覗きこんで様子を伺おうとしてみたが、彼女はMulderの胸に 顔をおいたまま、横を向いている。 「男だからって僕の方が無理やりされないって言う保証はないだろ?Scully」 するとSucllyは「もう黙って」と言う気持ちを瞳にこめてMulderをにらんだ。 その目を見てMulderは、Scullyの不機嫌の原因がやはりここにあったのだということを確信 し、不謹慎にもにやついてしまいそうになったが、とりあえずこの会話はここまでにして おいた方がいいと察し、別の話をする事にした。 「せめて、ここが山小屋とかなら、もうちょっとなにかが違っていたかもね?そう思わな いか?Scully。」 「……」 「夜通し暖炉の前で昔話をするのもいいよね。」 「……」 「運良くギターとかがあれば、歌って過ごしたらあっという間に朝とかさ…」 「……」 「こんな狭いところだと、軍艦ゲームもできないしね。」 「…そうね。」 ずっとだまっていたScullyがいきなり声を発した事のほうに驚いたMulderだった。 「そうねって、軍艦ゲームがしたかった?」 「…違うわ。」 「じゃあ…」 「…もう寝るわ。ここなら交代で眠らなくても良さそうよね。」 「ねえ、Scully。山小屋だったらどうしていたと思う?」 どうしても答えさせてみたくて、Mulderは食下がってみる。 するとScullyは、Mulderの上で小さくため息をつき、呟くように答えた。 「…寝袋を見つけて一緒に暖まっていたかもね。」 思わず口にしてしまったこの言葉は、Mulderに対して冗談で返したつもりのものだったが、 なんだか自分の今の気持ちにしっくりと馴染んでしまった。 自分にとって限りなく本音に近いような気がする。 “Mulderは今の言葉をどう受け止めるのかしら。” Scullyは、自分の脈が速くなっているのを感じる。 まるで、愛の告白をしてしまった後のように、ドキドキしながらMulderの反応をうかがって しまった。 すると、MulderはぎゅっとScullyを包むかのように、彼女の背中の上に指を組んだ。 「…それは、かなり残念だったよ。」 Mulderのその言葉と腕の温かさに、Scullyはなんとなく満足感を覚えて、相棒の胸を軽く 叩いてみた。 「じゃあ、もう寝よう、Scully。山小屋にいる夢でも見るよ。」 「私は、高級ベッドで眠っている夢を見るわ。」 そのお互いの言葉に二人はしばらく笑って、そして眠りにおちた。 夜中にScullyはふと目を覚ました。 雨はやんで、月明かりが見える。 あんなにやみそうになかったのがうそのようだ。 そっと、頭を持ち上げてみると自分を包んでいる相棒の顔が目に入った。 …月明かりに浮かぶ端正な顔。 見慣れている。 初めて逢った時から、なにか大きな事がない限り、自分のそばにいなかったことはない。 …正確な寝息。 いつも、この息がかかるくらい顔を近づけて話をするくらい日常茶飯事のことなのに、今 の自分はなにを意識しているのだろう。 …唇。 White刑事とのキスシーンや、Green刑事とのことまで思い出が蘇って来る。 そのとき、まるで引き寄せられるように、Scullyは自分の唇を重ねていた。 そして離して思わず一言つぶやく。 「少しだけ、気持ちが晴れたかも…」 その時、こころなしか、さっきより自分を包む腕に力が込めらた気がした。 少しぎょっとして、もう一度Mulderの顔を見てみたが、目を覚ましている風も無い。 その様子に安心したScullyは、また相棒の胸に顔を乗せ、眠りにつくことにした。 「Agent Mulder、Scully?」 突然の声に驚いて顔をあげるとそこにはAD Skinnerがいた。 「Sir!なぜここに!?」びっくりして、飛び起きようとした瞬間にScullyの頭が思いきり Mulderのあごにぶつかる。 「Ouch!」 あごをさすりながら、苦悶の表情のMulder。 でも、そんな二人をもっと驚いた顔でみつめるSkinner。 とりあえず、二人は岩穴から外に出た。 「山道で君達の車が他の通行車両に発見されたのだ。」 それではあの時、ちゃんとした街への道を歩いていたら、今ごろは行き交った車に乗せて もらってこんな事はなかったのかも?とScullyは複雑な気分になる。 「心配したぞ、大丈夫なのか?」 「…はい、Sir。道に迷ってしまっただけで…お恥ずかしい限りです。」 Mulderは殊勝に頭を下げた。 そんな部下にSkinnerは安堵と呆れた感情の両方が入り混じったため息をつく。 「ちゃんと始末書は書いてもらうぞ。」 「わかりました、Sir。」とMulder。 「でも、助かりました、ありがとうございました。」Scullyが頭を下げるとSkinnerは ちょっと驚いた表情をして、そしてちょっと照れくさそうに微笑んだ。 「…君達が無事ならなによりだ。」 そこへ、アーミー姿の若者がSkinnerのもとへやってきた。 「失礼します。突然ですが、無線機が故障してしまったようで、本部に連絡がつきません」 「なんだって?」 安堵したのもつかの間、Skinnerの顔色が変わる。 「今行く。」 二人を残して歩きかけたSkinnerだったが、ふと立ち止まってMulderを呼んだ。 「何ですか?」 そんなMulderの顔をじっとみつめてSkinnerは口を開いた。 「…本当に事件はなかったのか?」 どうもSkinnerとしては、Mulderの普段が普段だけに単なる道を間違えただけとは思えない らしい。 Mulderは苦笑して、答えた。 「帰ったら、ちゃんと報告書に書きますよ。僕の不始末をね。」 Skinnerはそれでもすっきりしない顔をしていたが、とりあえずうなずいてアーミーの方に 走って行った。 「なんだったの?Mulder」 「僕はこれからは、もうちょっと仕事以外にも情熱を傾けているものがあるってわかって もらえるように努力をしたほうがいいのかと、少しだけ悩んだよ。」 と答えて事の顛末を話すとScullyは笑った。 なんとなくなごやかな雰囲気になったところでMulderは言った。 「僕は助かると信じていたよ、Scully。」相棒は、妙に機嫌がいい。 「いつでも前向きなのは偉いわ、Mulder」と、Scullyが受けると、彼は彼女の耳に顔を近づ けてそっとささやいた。 「実は夢に聖母マリア様が現れてね。」 Scullyは片眉をつりあげる。 「それで?」 「ぼくにキスをしてくれたんだ」そういうとMulderはウィンクをしてみせた。 Scullyは一瞬頭が真っ白になったが、なんとか冷静さを取り戻そうと言葉をつむぎ出す。 「あ、あら、そおだったの?あなたの夢にならリトル・グリーンマンが出てきそうだけど、 そうじゃなくてよかったわね。」 すると、Mulderはリトル・グリーンマンにキスされるのをリアルに想像したのか、とても イヤそうな顔をして、首を振った。 「Scully、それはあまりにも気持ちが悪いよ。」 そんなMulderの表情を見てScullyは、少し安心する。 たまたま、夢が重なっただけかも…? 「でも、確かあなたは神を信じないんじゃなかったのかしら?」 歩き出そうとする相棒が、本当に気がついていないのか確認をしたくて、話をすぐにやめ ればいいものの、つい、言いつのってしまう。 すると、相棒は振り返って大きく目を見開いて見せた。 「普段はそうなんだけどね、Scully。」 Scullyのほうに戻ってくる。 そして、にやっと笑ったかと思うと、耳元で囁いた。 「彼女は君にそっくりだったんだよ。」 「…!」 Scullyは思わず息が止まりそうになり、慌てて深呼吸をする。 そんなScullyの気持ちを知ってか知らずか、相棒は笑っている。 なんて人なのかしら? 気づいていたとも、気づいていないともどちらとでもとれる表現だ。 「これで、男だからって抵抗する間もなく、キスされる可能性を証明できただろ?」と、 さらに追い討ち。 「…一応、夢の中だけど…」と、とどめのようにウインクまでしてみせた。 本当に機嫌が良さそうである。 けれど、一方のScullyはそんな相棒の一言一言にぎくぎくしっぱなしだった。 やっぱり、気づいている? もし、そうならなんて言えばいいのだろう? 昨夜の自分はどうかしていたと? でも、昨夜はなんの躊躇する事も無く、自分の感情のおもむくままにキスをしてしまった が、今考えるとまるで夢の中の出来事のようにぼんやりとしている。 しかし、してしまった事は事実で、うまい言い訳も浮かばない… …Scullyは悶々と悩むのも嫌だったので、意を決して単刀直入に聞く事にした。 「Mulder、昨夜のことなんだけど…」心臓が早鐘を打つ。 「私があなたに…」 「Agent Mulder!!!」 そこで、さえぎったのはSkinnerだった。 部下と話していたところから、走り寄ってくる。 「どうしました?Sir。」 「いや、やっと本部に連絡がついたから、5分後にはヘリがやってくる。」 「え?無線が直ったのですか?」 「そこの山小屋のなかに偶然あった無線機を勝手に拝借したのだが…」と、Skinnerがあご でしゃくった先に、ログハウスの頭が木の奥に見えた。 「えー?!」 あまりのMulderの驚きようにSkinnerは思わずいぶかしげに彼を見た。 「どうした?Mulder」 「…いや。こんな近くに山小屋があったとは…」 「…あー、もっとはやくに気がついていれば、こんな岩穴ではなくちゃんと雨宿りができ たのにな。」 落ち込んだように肩を落としている部下の背中をぽんぽんと叩き、めずらしく慰めるよう にSkinnerが言った。 「…いや、そうじゃなく。」 口の中でもごもご言っているMulderを、Skinnerは少し不思議そうに一瞥したが、Scully に軽く眉をあげて見せるとそのままアーミーのほうへ戻ってしまった。 すると、MulderはScullyを見て肩をすくめた。 「結局のところ…すべて君の言う事を聞かなかった僕のせいだね」 確かに、Scullyの言うとおり、街に引き返していたらこんな事にはならなかったし、エン ストした時点でおとなしくしていれば通行車両に発見されていたし、もう少し歩けば山小屋 で一夜を過ごせたに違いない。 …でも、一番の原因は自分で、道が違っているとわかっていても、怒りに任せて進んでし まったところにあると思うScullyには何も言えない。 そして、二人はしばらく見詰め合ったが、なんとも言えない複雑な表情をお互いがしてい るのに気づくと、どちらからともなく笑いがこみ上げてきて、声を出して笑いあってしまっ た。 その時、頭上でヘリの音がした。 Skinnerが遠くから手招きしている姿を見つけ、二人はそちらのほうに走っていった。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました。 そして、作品中のモルスカの会話の一部を書くにあたり、メールからの引用を こころよく許可してくださったRanさん。 本当に感謝しております♪ ありがとうございました。