DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. TITLE   『No Words U 〜遠回り〜』 AUTHOR    Ran Spoiler    Small Potato ・Macy's 11:40am とりあえず、何か食べようというMulderの提案で、二人はメインストリートにあるレス トランに座っていた。 「ゆうべは結局、たいしたものを食べられなかったしね」 Mulderの何気ない言葉に昨夜の記憶の片鱗を思い出したScullyは、自分達は間違いを犯 したのかもしれない、と甘い記憶に心を痛める。余計な感情は、感傷を生み、判断力を鈍 らせ、ひいては自分達の命取りになると、ずっと自分をコントロールしてきたのに、Eddie のせいでとんでもないことになったものだ。 「ねぇ、Mulder、私たち…」 “ん?”と、Scullyの顔を覗き込み、彼女の様子にMulderが心配そうな顔になる。 「どうした?」 「いえ、なんでもないわ」 さりげなく髪をかきあげながら、Scullyは自分の考えを振り払って、相棒に微笑む。 ああ、もう、彼のこのての顔に弱いのだ…せっかくの朝に、彼をがっかりさせたくない。 「おまちどうさまで〜す」 そんなScullyの思考を遮るように、明るい声が降ってきた。 金髪の若いウエイトレスが、注文した シェフのおすすめランチ を二人の前に並べる。 「お客さん達も、カーニバルに来たんでしょう?」 サラダの上に、チーズを振り掛けながら、彼女は陽気に尋ねた。 どうして、地味なスーツの二人連れを観光客だと思えるのか…しかし、Scullyのため息と は逆に「カーニバル? どこでやってるんだい」Mulderは興味津々に聞き返している。 すると、“あら”とウエイトレスは驚いた顔になり、壁のポスターを指差した。 「場所は、あそこに出てるわ、1年に1度よ、移動遊園地も出て、すごくにぎやかなの」 壁には観覧車やメリーゴーランドやビンゴ、子豚やピエロ、笑顔の子供達など…が描かれ たポスターが貼られていた。 「行ってみよう、Scully」 Mulderが、まさに子供のような笑顔でScullyを振返った。 「いいわ、行きましょう、Mulder」 Scullyはまたしても敗北を認め、半分自棄になって肯いた。 ・ Carnival 確かにウエイトレスの言った通り、カーニバル会場はたくさんの人で溢れていた。 空は晴れ上がり、暖かい風が吹く日曜日。家族連れはもちろん、若いカップルも大勢歩い ている。寄り添うように歩き、時々、立ち止まってキスを交わす彼らに触発されたように、 移動遊園地の中をふらふら歩きながら、Mulderはさりげなく、Scullyの手に指を絡めた。 「なつかしいなぁ、移動遊園地が出ると、決まって父が連れてきてくれたよ」 「あなたが気に入りそうなものがたくさんあるものね」 クルクル廻るブランコや上下に移動する乗り物で、子供達が歓声を上げている。 「うん、父に無理を言って、“人魚のショー”を見たことがあるよ、すごく楽しかった」 MulderはScullyの皮肉な口調を気にも止めない。 「本当は人間が作り物の尻尾をつけてるんだって、わかってるんだけどね…とにかく小屋 全体が生臭くてさ、とりあえず長居はできないんだ」 「そんなこと言って、少しは信じてたんでしょ」 てのひらから伝わる温かさに戸惑いながら、振りほどくチャンスを失い、照れくさい気持 ちをなるべく黙殺して、Scullyは引かれるままにMulderと歩く。 「君は、子供の頃から、そんなに冷静沈着だったのかい?」 「そんなことないわ、大人になっただけよ」 肩をすくめるScullyの顔をチラリと見て、Mulderが苦笑する。 まったく素直じゃない。本当はうれしいはずなのに…、Mulderはどうしても、彼女の笑 顔がみたかった。 先の激しい口論と、昨夜の仲直り、本当なら今朝は幸せな朝で始まるはずなのに、彼女は なぜか元気がない…どことなく寂しげな彼女をこのまま、あの街へ返したくなかった。 「いいよ、僕がこういう時の楽しみ方を教えてあげる」 と、Mulderは周りをくるりと見回した。 「まずは…風船を買ってあげる、おいで、Dana」 そう言うと、Mulderはなかば強引にScullyをひっぱって、たくさんの風船を売っている シルクハットの男に向かって歩き出した。 * *********************************** Mulderが見逃すはずはなかった。 それはいかにも、怪しげで、いかにもインチキ臭いテント、「ゴースト・キャビネットとい う看板がかかっている。 「見ていこう」 「いやよ、どうせ子供だましだわ」 Scullyはすっかり心を奪われている彼を、テントから遠ざけようと手をひっぱったが、“Mr. Robertsonの交霊術だ、たった今、始まったよ”テントの前の男が目ざとく二声をかける。 「ほら、行こうよ、Scully」 「やめましょう、Mulder」 “せっかく彼氏がそう言ってるんだからさぁ、めったに見られない、本物だ” 「ほら、僕がおごるから…」 MulderはScullyの肩を抱き、さっさと呼込みの男に二人分の料金を支払う。 「もうっ」 最後に彼女はそう抵抗したが、スーツ姿に赤い風船を持って、興行のテントの前でもめる のはいかにも大人げない、多少周りの目を気にして、Mulderに従うことにする。 テントの中に入ると、小さな子供を連れた家族連れや、10代のカップルで予想以上に混み 合っていた。 「ショータイムだ」 Scullyの耳元でそう囁くと、結局、自分の意見を押し通したMulderは満足そうに微笑み、 薄暗いテントの中のやっと空いた椅子を見つけて、Scullyの手を放さずに腰を下ろした。 正面の舞台では、二つの脚立のうえには二つのドアがついた「幽霊部屋」がスポットライ トを浴びていた。“ゴースト・キャビネット”だ。そして、舞台に立つシルクハットに燕尾 服の男が「床下から出入りできないこと」をわざとらしく強調しているところだった。 部屋には二つのドアから成っており、観客に中が見えるようにと、ドアは開け放たれてお り、片方には痩せた男が座り、片方には誰も座っていない椅子が置かれていた。 「なぜ、椅子の方のドアには窓があるの?」 体温が伝わってくるほど近くで、ギュっと手を握られたまま、Mulderを意識せずにはい られないScullyが、照れ隠しに尋ねた。 「お楽しみだよ、Scully」 シルクハットの男は、箱の中の男こそ、「かの有名なMr. Robertsonだ」と紹介した。 そして、彼が、これから“霊”を呼ぶのだと、しかし、集中力が必要なので、ドアを閉め なければならないと、説明する。そして、“いんちき”だと思われないためだと言って、 男の手足を身動きできないように椅子に縛りつけた。 部屋のライトはいっそう暗くなり、どこかで聞いたようなメロデイが部屋に流れ出す。シ ルクハットは、「誰か、証人になってくれ」と観客に呼びかけ、それに応えて手を挙げた 小さな子供を何人か選んで、舞台に呼び上げた。 これから何が起こるのか、たいていの大人にはわかっている。しかし、男の話術の巧みさ に引きづられ、子供達の反応を期待して、黙って成り行きを見守っているのだ。「確かに Mr. Robertsonは縛られている、動けない」と確認され、2つのドアが閉められる。男が 声を潜めて、舞台の子供達に説明する…あの、ドアについた小さな窓に手を入れてごらん、 幽霊と握手できるよと。 やがて、箱がカタカタと小さくゆれ始め、“う〜っ”という気味の悪い声が聞こえてくる。 「さぁ、勇気がある子はどの子かな?」 子供達は次々に窓に手を入れ、「きゃー」と引っ込める。「今、冷たい手がさわった」 一人の少年の手が抜けなくなる、「離してよぉ」と、泣きそうになる。 男が、少年に囁く「これからは、みんなの言うことを聞いていい子になるかい?」男の子 が肯くと、霊は手を放してくれる。 そして最後に、男がドアを開けると、Mr. Robertsonは、いかにもぐったり疲れ、椅子に 縛り付けられたまま座っているのだ。 子供達は驚いた様に目をみはり、大人は拍手…そして、最後に男はMr. Robertsonの縄を 解いてやる。 「Scully」 ふいに耳元でMulderの声がして、Scullyは驚いて彼を振返った。 いつのまにか、Mulderは左の手首に風船の紐を結んでいる。 そして、紐と手首の間に右手の指を差し込み、すーっと紐をずらして、手首を引き抜いて みせた。 「ダベンポート結びさ」 簡単なトリックなのだ。音楽と照明に支えられたMr. Robertsonのすばやい縄抜けの術。 「19世紀の後半に、ダベンポートという兄弟によって考えられた方法だよ。もう少し、手 が混んでたけどね、二人はこれで大もうけしたんだ」 そんなこと、わざわざ実践して見せてもらわなくても、Scullyにだってわかっている。 「営業妨害よ」 「君に尊敬してもらえると思ったんだけどなぁ」 その残念そうな顔を見たとたん、彼が不機嫌だった自分を気遣っていたことに、ようやく 気がついた。Scullyが思わずなだめる様に、腕に手をかける。 「もちろん尊敬してるわ、Mulder、それに…」 テントを出ようとはしゃぐ子供達にぶつかられ、よろけたScullyをMulderは自分の腕の 中にすっぽりと納める。 そして“わかっている”という風に彼女のこめかみに軽くキスをして、黙ったまま、ぎゅ っと抱きしめた。 * ****************************** いつのまにか、眠ってしまったのだろう。 Scullyが目を覚ますと、車は山道を登っているところだった。 既に空は深く蒼い。白い月が木々の間に見え隠れしている。 「起こしてくれれば良かったのに」 シートの中で姿勢を立て直しながら、ハンドルを握るMulderに話しかける。 「あと5分ぐらいで到着するはずだよ」 どうやら、車はD.Cに向かっているわけではないらしい。 時計を見ると、もう、5時をまわっている。 「明日の朝、9時までにオフィスに出られなくなるわよ」 「Darcyに言って、適当ないい訳を考えさせるさ、彼の依頼で僕らは、午前中、どこかで 調べ物をしていることにすればいい」 「で、どこへ行くの?」 「古い知り合いを尋ねるんだ」 「そのつもりだったのなら、カーニバルなんて寄らなければよかったのに」 「暗くなってからの方が都合がいい場所なんだよ、それにカーニバルでデートするのは、 子供の頃からの僕の夢だったんだよ」 そこで「あら?」と、Scullyは肩を竦めた。 「もう、その夢は、とっくに何度も叶ったんじゃない?」 わざと“何度も”にアクセントをつけてそう続けた。 車がゆっくりとカーブを曲がった。 「ほら…」 Mulderの視線をたどると、木々の間に白い大きな建物が見えてきた。 ・Flemyung家 ドアを開けたのは、やんちゃそうなゴールデンレトリーバーを従えた、初老の男だった。 金色の髪にブルーの瞳、丸いメガネが端正で柔和な顔立ちにアクセントを与えている。 「よぉ、シャーロック、来てくれるなんて思わなかったよ」 “シャーロック?”の呼び方に、Scullyは相棒に顔を見上げた。 「FBIに入った時から、そう呼ばれてる」 Mulderが説明する。 「友人の、Paul Flemyung、彼女はDana Scully」 Mulderは二人を紹介し、Paulと握手を交わした。 「これは、これは…、お前はブルネットが好みなんだと…」 「Paul、よせよ」 Mulderが慌てたように遮って、彼女の顔を目の端でうかがった…怒ってないだろうか? 「残念ながら、彼がシャーロックなら、私はワトソンという役どころなの」 Paulに差し出された手を握り返しながら、Scullyはにっこり笑っている。 しかし、その一言で、MulderはScullyの怒りをかったことを理解していた。 「FBIのパートナーよ、もう組んで5年になるわ」 「美人だな…それに賢そうだ。今までに紹介された中では、ぴかいちだ」 「Paul!」 自分に向けられている、Scullyが冷たい視線は、なるべく見ないようにするしかない。 「入ってもいいかな?」 「もちろん! あれを見に来たんだろう?」 何も気がつかないかのように、Paulが二人を広いリビンクに招き入れる。 「ああ、彼女に見せたくてね」 Mulderはほっと胸をなで下ろした。 これ以上、Paulに余計なことを言わせるわけにはいかない。 「その前に、一杯やらないか…空はほろ酔いぐらいがちょうどいいんだ」 「ええ、ぜひ」 Mulderが口を挟む前に、極めてすばやく、Scullyが笑顔でそう答えた。 Paul Flemyungは陽気で楽しい男だった。 Mulderとは、父親を通じた友人で、家族ぐるみの付き合いだったらしい。 「こいつが小さい頃から知ってるんだ」 Paulが披露する幼い頃のMulderにScullyは大笑いしながら、それでも彼が、妹の名前 を出さない心遣いに気がついていた。 “シャーロック”という愛称も、Mulderが自分の名前を嫌っていることを知っているせ いかもしれない。 「本当に強情な子供だった、言い出したら聞きやしない。従順な顔で大人のお説教に耳を 傾けるふりをしながら、自分の意見を証明する方法を必死で探してるのさ」 「で、お説教が終わったとたん、飛び出していってしまうんでしょう?」 Scullyの言葉にPaulが大きく肯く。 「そうだ、それで帰ってきやしない」 声を合わせて大笑いする二人のとなりで、Mulderは居心地が悪そうに、それでもPaulが Scullyにあれ以上、余計なことを言わないかと気をもみながら、傍らに座るゴールデンレ トリーバーの頭をなでたりしている。 彼女が笑っていることには満足だ…でも、相手が自分ではないことに、苛立ちがつのる。 Paulはビールのせいか、どんどんおしゃべりになり、Scullyを相手に熱弁を振るった。 ニューヨークの証券業界で30年働いたこと、その時のもろもろの貯金を元に、ここに移 り住んできたこと…Scullyはすっかりくつろぎ、Paulの入れたコーヒーのお代わりまで して、話に聞き入っている。 とうとうしびれを切らせたMulderは、証券業界で有名な大金持のおばあさんの話がひと 段落ついたときを狙って、「そろそろ…」と、立ち上がった。 「僕らを二人だけにしてもらってもいいかな、Paul」 Paulはめずらしく直接的な言い方をしたMulderに、にやりと笑った。 「悪かったな、シャーロック、お前のパートナーを一人占めしてしまって」 「とんでもない、とても、楽しかったわ」 またしても、Mulderが口を挟む前に、Scullyがうれしそうにそう答えた。 * *********************************** Scullyは、Mulderに促され、台所の脇の小さな階段でFlemyung家の二階に向かった。 「みてごらん、Scully」 先にあがったMulderに手を引っ張られ、階段を上りきったScullyは目をみはる。 部屋は広いフロアになっており、真ん中に大きな天体望遠鏡が備え付けられていた。 壁は星の写真で彩られ、大きな地球儀がディスプレイされており、立派な天体観測室とい う趣だ。 「趣味の範囲を超えてるだろ?、Paulが苦節30年、ため込んだ金をほとんどつぎ込んだ 代物さ」 そう言いながら、Mulderが壁にあるスイッチに手を振れると、球場の天井がゆっくりと 開いていく…そして、星々が瞬く蒼い空が二人の上に広がっていった。 「そもそも、僕に最初に星や宇宙を教えてくれたのは、Paulなんだ。誕生日に小さな望遠 鏡をもらった…」 Scullyが感心したように肯きながら、部屋の中を見まわす。 「すごいわねぇ」 Mulderは相づちをうちながら、望遠鏡を覗き込む。 望遠鏡を調整しながら、Scullyをチラリと盗み見る。ご機嫌は悪くない、“ブルネット” に関するPaulの発言を忘れてくれたらしい。 「こっちへおいで、Scully」 目的のものを探し当てたMulderが声をかけた。 Scullyは振返り、少し笑って、近づいてくる…Mulderは彼女のほうへ腕を伸ばして、そ のまま自分の胸の中に抱きしめたい衝動に駆られる。 しかし、Scullyはさりげなく、彼の腕から逃れ、望遠鏡を覗き込んだ。 彼女の目の前に広がったもの…それは、すばらしい光景だった。 蒼い空に数個の明るい星を囲んで、淡いベールが広がっている。それは、花にとまってい る蝶のようで、美しい。 「オリオン大星雲だよ」 言葉を失うScullyの耳元でMulderが囁いた。 「とっても奇麗だわ…Mulder」 「顕微鏡より、気に入った?」 「なかなか、気に入ったわ」 「1500光年彼方にある。あの光の奥には巨大な暗黒星雲があって、今も新しい星々が次々 に生れているんだ」 Mulderの言葉に、思わずScullyが顔をあげ、クスクスと笑った。 「相対性理論によれば、光の速度で物体が移動することは不可能なんだから、“彼ら”が 地球に来るためには…」 「人類が生れて10万年なんだよ、Scully、彼らはずっと前に星を出発したのかもしれない」 MulderがScullyの講義を遮る。 「だぁって、もし、そんな昔から高度な文明を持っているのなら、なぜ、地球人にもわか る方法でメッセージを送らないのかしら?」 負けず嫌いのDana Scully…Mulderは笑い出した。 「そういえば、最初にあの地下室で会った時も、君はそんなことを言っていたね」 「生意気だと思ったんでしょ、経験のない“小娘”のくせにって」 「小娘? 僕はそんな差別的な言葉では物を考えない」 Mulderがちゃかす。 「じゃあ、自分を監視しに来たって?」 「うん、それは思ったね」 今度は正直に答えた。 「じゃぁ…そんな私に、なぜ、あなたは妹さんのことを正直に話してくれたの?」 「君が下着姿を見せてくれたお礼だよ」 すぐ話しを混ぜ返して、人を煙に巻こうとするんだから、とScullyが小さくため息。 「信じやすいのは、あなたの命取りよ、Mulder」 心配そうな彼女をよそに、Mulderは肩を竦める。 「大丈夫さ、人を見る目には自信があるし、それに…君がいる。僕が間違いそうな時は、 君が黙ってない、だろ?」 “人を見る目に自信がある?”これまで何度もだまされたくせによくそんなことを。 でも…とScullyはふと考える。Mulderの側にいる人は、なぜかこっそり、彼のことを好 きになる、手助けしたくなる、それは本当かもしれない。 「だから、君がいなくちゃ駄目なんだよ、Scully」 殺し文句… Mulderの笑顔に本日3度目の完敗。Scullyはその胸に体を預け、それを受けて彼が彼女 の背中に手を回した。お互いの鼓動が規則ただしいリズムを刻んでいる。 「心臓が二つあるみたい」 「僕の腕はダベンポート結びみたいに、簡単にははずれないよ」 Scullyはまたもやクスクス笑いを漏らす。 「今時、あんなの、信じられない」 「いいんだ、観客だって、信じてないんだから…そういう意味ではペテンですらない」 Scullyが顔を上げて、彼を見上げた。 「ひとつ、聞いてもいい?」 「なんでも、どうぞ」 「ブルネットが好きなの?」 Mulderは苦笑した。忘れてなかったのだ、この人が、一度心にひっかかったことを忘れ てくれるなんて、自分が甘かったと反省する。 「僕は…赤毛で、割と小柄な女性が好きなんだ。強がりで、意地っぱりで、ちょっとヤキ モチ焼きだったりして、でも、その気になれば世界で一番優しくなれる人が好みだよ」 Mulderの指がScullyの髪に触れる。 Scullyは目を閉じる。気持ちのよい満足感。 それでも、自分の懸念を繰り返す…この感情はいつか、判断力を失わせるかもしれないと。 「Mulder…私、昨日からずっと考えてたの、今回のことが、仕事の障害になる日がくるか もしれないって」 Mulderは一瞬眉をしかめた…そうか、そういうことか、と理解する。 言われてみれば、彼女らしい… 彼女の肩に手を回し、Mulderは顔を覗き込む。 「Scully、君の感情が理性を越える日がくるなんて、僕には信じられないけど…」 確かめる様に自分を見つめるMulderの視線…ああ、やはりこれには抗いがたい 「そんな時が来たら、必ず、僕が教えてあげる」 “僕が教えてあげる?”Scullyはにっこり微笑んだ。 それは彼には期待できない…でも、そう言われて、気持ちが少し楽になる。 大丈夫、きっとやっていけると、根拠のないまま確信できる。 少しMulderに似てきたのかもしれない… もたれあうようにして床に座る二人の頭上は、ますます美しくなっていく夜空だ。 なにものにも邪魔されず、月が輝き、星が瞬く。 Mulderがじっと、その夜空を見上げている。 Scullyは、言葉にならない彼の気持ちを想った。 明日からの自分達を想った。 安請け合いはしたくない、楽観できる見通しもない、障害は多く、行く手は厳しいだろう。 彼を信じて、自分はやるべきことをやるだけだ。 “それでも、まぁ…あなたとなら、だいじょうぶ” Scullyは、気負いうことなく、いつの間にか、そう信じていた。 The End… <後書き> 「No Words」のラストシーンから、“いったい二人は、どこへ遠回りをするのか?”とい う感想をいただきまして、で、事件なしのFicに挑戦いたしました。 なぁんか、話がまとまらないなぁと思いつつ、なんとか The End です。 またまた、感想など、お聞かせいただければ、うれしいです。