「One Night」by Miyuki Spoiler フェチシズム これは性描写を含むMulder&Scully RomanceのFictionです。 18歳以上で、それでもいいと思う方だけ読み進んでくださいませ。 モーテル “ミネソタ州 メネアポリス” 「本当に大丈夫かい?」 レンタカーのエンジンを切ったMulderは、助手席のScullyに改めて尋ねた。 Mulderには、ドニー・ファスターの家から救出されたばかりに彼女が、顎の先に小さな擦り 傷を残したまま憔悴した様子に見えたのだ。 「ええ、もう、大丈夫よ、すっかり落ち着いたわ」 思った通りの答え。きっとそう言うと思った。 この事件の最初から、Scullyがひとり問題を抱えていたことは、Mulderにもわかっていた。 しかし、いくら尋ねても、彼女は首を横に振って答える。「私は大丈夫」と。 「本当に? 無理をしなくてもいいんだよ」 そう言い募るMulderの腕にScullyが手をかける。 「本当よ、大丈夫、心配しないでMulder…今日は早めに休むわ」 まるでこっちが慰められているみたいじゃないか、とMulderは思った。 ついさっき、自分の胸で声を上げて泣いたことなどまるでなかったように、 Scullyはシートベルトをはずして車のドアを開ける。 「明日の朝、8時に電話するわ、一旦、支局に寄って報告書を作りましょう」 彼女のプロ意識。支局に行けばいやでもドニー・ファスターに会わざる得ないのに。 「それじゃ、おやすみなさい、Mulder」 「うん、おやすみ」 Mulderは自分も運転席のドアを開け、外にでた。 「Scully、何かあったら…」 既にモーテルの自室に向って歩き出した彼女を呼び止めてみる。 「ありがとう」 振返った彼女の顔は頼りなげで、思わず駆け寄りたくなるほど。 しかし、Mulderは車のドアに手をかけたまま、黙って手を振った。 彼女がそれを望まないことは、痛いほどわかっていたから。 ・ モーテル Scully's room 11:20p.m 窓から差し込む、ほのかな光はまずい、余計な幻想を呼び寄せる。 Scullyは奥の遮光カーテンをしっかりと閉じてから、ベッドに入り、 “大丈夫よ、あなたなら乗り切れる” まだ、かすかに震える手をきつく組みあわせて、言い聞かせるように言葉にする。 ライトを消した暗闇の中、Scullyはベッドの中でしっかりと目を閉じた。 自分がドニー・ファスターの家で見た影…耳の大きな人間とは思えない姿、あれは何だったのか。 低俗なテレビ番組の影響、昔読んだ童話に出てきた怪人、それとも… 自分が誘拐されたいた時期の記憶がないことが、Scullyの心に大きな負担をかけている。 あれが私を誘拐したものの正体なのだろうか…消された記憶の奥にかすかに残った残影なのだろうか… 消された記憶? ばかな…と、そこでScullyは一人で苦笑する。 それじゃ、Mulderみたいな考え方じゃないの?  記憶が消されたなんて、そんな証拠はどこにもないのに。 「FBIだ」といいながら部屋にMulderが飛び込んできてくれた時、本当にホッとした。 心配そうに自分の顔を覗き込む彼の優しさに負けて、おもわず声をあげて泣いてしまった。 あの地下室のオフィスで初めて出会ってから今日まで、これほど彼を身近に思ったことはなかった… Scullyは殆ど無意識のうちに、サイドテーブルのライトを点ける。 “彼の声を聞きたい”と… ベッドを出てMulderの部屋と繋ぐドアの内鍵をはずす。 ノックしようと、右手を上げてから、その自分の白い手の甲をしばらく見つめた。 彼に「守ってやりたい」と思わせたくない…自分の言葉を頭の中で反芻する。 結局、Scullyは思い直して、そっとベッドに戻ると、枕に顔を押し付けた。 “だいじょうぶ、さぁ、目を閉じてDana” “いろいろあったでしょう、あなたは疲れてるわ、きっとあっという間に眠れるわよ” そう言い聞かせて、彼女は、自分を自分で抱きしめた。 ・ Mulder's Room 12:25a.m Mulderはパソコンをネットに繋ぎ、LGMのアドレスに最新号の感想をメールで送信し終えたところ だった。 コーヒーでも飲もうかと、部屋に置かれたサイフォンを取り上げながら、ふと、Scullyの部屋と 繋ぐドアを見つめる。 “もう、眠ってしまっただろうか” もともと今度の事件は、仕事を口実にフットボール観戦に彼女を誘いたくて引き受けた。 事件はUFO絡みではないと最初から気楽に構えていたし、3時間のドライブ費用を出張費で浮かせ られるのも都合がよかった。 だいたい事件がなければ、Scullyをデートに誘うなんてとても出来そうにないのだ。 現場を見た後、適当なアドバイスを残し、彼女とグラウンドで歓声をあげ、食事でもして帰るつもり だった。 “それがこんな結果になるとは…” 再び彼の胸に、感情を押さえ込んだようなScullyの表情が浮かぶ。 Mulderはサイフォンをセットして、ドアに近づいた。“一度だけノックを…” それはかすかな声だった… 時計を見て、ノックをあきらめ、Mulderがドアに背中を向けた刹那。 “助けて、モルダー” Scully…? Mulderは振り返って、さっとドアに戻る、耳をあててみる…物音はしない。 それでも、少し考えて、自分の耳を信じて、彼は思い切って自分のほうの鍵をはずし、ノブを ひねった。 普段なら戸締りを忘れない彼女がめずらしく内鍵をはずしていたらしい。 “助けて” 再び聞こえた鋭い叫び声に、Mulderは飛び込んだ。 緑色に光る細長い手に首を締められ、息ができない。 大きな空洞にも似た目が、自分に迫り、飲み込もうとしてくる。 “助けて、モルダー” くいしばった歯の間から漏れる言葉…モルダー、“助けて” 「スカリー、スカリー」 もう駄目だと薄れ行く意識のなかで、彼女が半ばあきらめかけたとき、なつかしい声が彼女の名前 を呼んだ。 「目を開けるんだ、スカリー、目を開けろ」 その声に励まされて、スカリーは強く閉じた目を再び開ける。 息があがり、身体がこわばって、自分の思い通りにならない。 「だいじょうぶか? スカリー?」 その声に、突然何かの呪縛が解けたように、Scullyは一気に身体が軽くなるのを感じた。 「あぁ…いったいどうしたの?」 「夢をみた?」 上からのぞきこむように、Mulderがやさしく彼女の額にかかる褐色の髪を払いのける。 「あ、ええ、多分」 あの怪人とは違う生き物…不気味に緑に光る、目の大きな生き物…それが迫ってくる夢。 ドニー・ファスターの家でも一瞬見たような気がする…いいえ、あんなもの存在するはずがない。 Scullyの心はバラバラと千路に乱れ、混乱のきわみ。 「スカリー? ダナ? 僕を見て」 まだ息荒く、落ち着かない様子のScullyの両側に手をついて、Mulderはあやすように彼女の瞳を 捕らえた。 「大丈夫かい? 大きく息をして」 「モルダー? あなたなの?」 Scullyは素直に言うことを聞き、まるで小さな女の子のように、大きく深呼吸を繰した後で、Mulder に尋ねる。 「そうだ」 Mulderがおどけた顔をしてみせた後、彼女の片手を自分の両手で包み込んだ。 「君が眠るまで手を握っててあげる」 そう言いながら、彼は彼女のベッドの縁に軽く腰を下ろした。 まるで子供に向かって言うみたいなセリフ… そのMulderの言葉が胸に響いて、無類の安心感が自分を包み込む。 しばらくこのままでいたい、彼のぬくもりを独占していたい、今の私の苦しみをわかってくれるのは あなただけ、 そんな本音が溢れ出しそうになる。 今だけでも… 唐突にScullyは空いたほうの手で、彼のシャツを引き寄せた。 「忘れさせて、モルダー…」 Scullyがやっとそう言って、彼の首に両手を回して自分から唇を押し付ける。 予測できなかった彼女の動きに、彼が動揺したことが、身体全体の緊張感から手にとるように伝わる。 Scullyの行動の行く先に見当をつけ、Mulderは、これが今回の事件の後遺症ではないかと疑った。 「後悔することになるぞ、スカリー…」 戸惑いを残した彼の言葉をさえぎって、Scullyが首を横に振る。 「後悔なんかしないわ、ただ、今だけ…すべてを忘れさせてほしいの」 “あの誘拐事件を、記憶のない自分を、忘れさせてほしい” 痛々しいほどの決意をにじませた、まっすぐな瞳。 Mulderはじっとその目を見詰めた後で、態勢を立て直し、ゆっくりと彼女の頬に手を添えながら、 まずは顎の傷に、そして額にまぶたに、最後に唇に、そっとキスを浴びせた。 「…抱いて」 ほとんど聞き取れないほどの声に促され、Mulderのキスが深さをましていく。 お互いに舌を絡めあいながら、重ねた体の体温をぎりぎりまで上げていく。 やがて待ちきれなくなったように、彼の片手がScullyのシャツのボタンをはずし、パジャマの下に 滑り込み、服の上からでも十分感じられた胸をやさしく包んだ。 自分の腕の中で彼女の全身に一瞬力が入るのを感じながら、 MulderはT-シャツを自分から脱ぎ捨て、 首筋から鎖骨へ、 いまではすっかり露になったその頂へとゆっくりと移しながら、肌を合わせていく。 「はぁっ」…暗闇の中でもほのかに尖ってみえるそこに、Mulderの舌が到達すると、Scullyの体は 小さく跳ねて、その唇から声にならない声が漏れた。 頬を赤く染めて、目を閉じて、歯を食いしばっている彼女の表情を盗み見ながら、Mulderがさらに 愛撫を進めていく。 「きれいだよ、スカリー」 唇の位置はそのままに、Mulderは片手で彼女のボディラインをなぞりながら、徐々にシャツを取り去り、 そして背骨を数えるようにパジャマのズボンの中へしのばせる。 かすかに残った羞恥心から思わず、彼の手に自分の手を重ねたScullyに、やさしくMulderは首を振った。 「だめだスカリー、もう間に合わない」 その濃いブルーのシャツから現れる白い透き通るような肌は、彼の愛撫にしっとりと汗ばんで、 まるで誘うように手の平についてくるのが、彼を心地よく刺激する。 「今夜から君は僕のものだ」 彼女が、なんとか言い返そうと探し出した言葉は、それを察して戻ってきたMulderの唇に激しく奪われて いった。 二人の息遣いだけが徐々に大きくなっていく夜の闇の中、とうとう自分の芯に到達した彼の指に翻弄 されて、Scullyは恥ずかしいほどに濡れていく自分を感じる。 重なり合った手、触れ合った唇、お互いの体が求め合う。 いつのまにか、一糸纏わぬ姿で相手しか目に入らない夜が、ゆっくりと時間を刻む。 「お願い…モルダー」 「なにを?」 わざと意地悪く応えてはみたものの、とぼける余裕を残した自分を軽く睨むScullyが愛しくて、 本音はもっと喘ぐ顔が見てみたくて、Scullyの乱れた息に誘われるままに、Mulderは指を抜き、 彼女の潤んだ瞳を見据え、足で彼女の膝を割ると、一気に侵入をはかった。 「あっ…」 その瞬間、彼女の白い喉がのけぞり、胸がそりかえる。 両手で彼の肩をぎゆっと握り締めて、その快感にScullyは耐えようとする。 が、Mulderはそれを許さないように、しっかりと両手で彼女の腰を捕らえて、リズムを早め彼女 を追い立てていく。 「あ…、モルッ…」 自分の腰の動きに同期してあがるScullyの声に刺激され、Mulderは最後の力を振り絞って、さらに ピッチをあげていく。 「もう…だめ、わたし、ほんとに…」 やがて彼女が痙攣するように震えるのが伝わると、それと同時に彼自身も絶頂を迎え、 二人は官能の波にさらわれまいとお互いを強く抱きしめあった。 力強い最後のMulderの動きを感じながら、Scullyは一瞬、意識が遠のく。 そして、彼の腕の中に崩れ落ちた彼女のこめかみにやさしく触れる彼の唇の感触が、その夜の最後 の記憶になった。 ・ 6:25a.m 窓から差し込む光でScullyは目を覚ました。 誰かと愛し合ったのは久しぶりだった。 まさか、彼とこんな風になるとは思わなかったが、Scullyの中には後悔の気持ちはない。 Mulderの愛撫を思い出す…それは本当に彼女の体を愛しいと思っていることをScullyに伝える動き だった。 おかげで…あれから十分に眠れ様な気がする。 夢もみなかったし、途中で目を覚ますこともなかった。 情事の後そのままに、彼女の体に腕を回して眠っているMulderに「ありがとう…」とささやいて、 彼の唇をそって指先でなぞってみる。 シングルベッドは狭かっただろうにずっと傍にいてくれたことが、うれしかった。 「おはよう…」 Scullyの気配に、Mulderは小さく伸びをして、微笑む。 「起こした?」 「いいや」 それは幸せな恋人達の朝のはずだった。 ほどよい疲れが腰の辺りに残っているのを感じながら、MulderはScullyの体を抱き寄せる。 「ねぇ、モルダー?」 しかし、今朝はさりげなく、それでもはっきりと、Scullyは彼の手を押し留めた。 “なに?”という表情でMulderが彼女を見詰め、しばしの沈黙が流れる。 「昨夜は本当にありがとう…でも、昨夜の私を、忘れてほしいの」 Scullyはなるべく優しく彼の頬に手をふれながら、きっぱりと告げた。 「ごめんなさい モルダー」 そして、突然のことにやや呆然としたMulderのその頬に軽くキスをすると、 スルリとベッドを抜け出して、バスルームへ向う。 「スカリー…」 彼女の言葉の意味を反芻し、起き抜けの回転しない頭でなんとか受け入れ、それでも昨日までの 彼女とはうって変わった様子に満足している自分を認めてから、Mulderは彼女の後ろ姿を見送った まま呼びかけた。 「君は強い人だよ、スカリー、でも、忘れないで。君が必要な時には、必ず、僕は駆けつける」 今、考えつく、せめてもの言葉… 「ありがとう、忘れないわ」 振返ったScullyは、今までに見たどんな彼女よりもあでやかに笑って肯いた。 パタン……バスルームのドアが閉まる。 “いったい どうやって 忘れるっていうんだよ” Mulderは“はぁ〜”と大きくため息をついて、勢い良くベッドの中に倒れ込んだ。 The End