DISCLAIMER// The characters and situations of the television program "The X-Files" are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. Also the following movie and song do not belong to me, either. *"I'm Your Baby Tonight" sung by Whitney Houston *"Pretty Woman" starring Julia Roberts and Richard Gere No copyright infringement is intended. ------------------------------------------------------------------------------------------ −前書き− ・本作品は、数年前にヒットした某有名映画をモチーフにしたFicです。ほとんどそっくりそのまま いただいてしまっている(^^;)ので、「パクリもの」に抵抗をお持ちの方はご遠慮下さい。 ・本作品には、ある事柄について一部問題のある表現が含まれています。これは本作品の都合上 避けられないものであり、決してこの事項に関する問題提起を行っているわけではない事を ご理解下さい。 ・本作品は筆者の個人的な想像の産物である事をおことわりしますと同時に、お読み下さる 皆様には、登場人物の設定に対しての寛大なご理解をお願い申し上げます。 このFicをリクエストしてくださったJさんに感謝いたします。 ------------------------------------------------------------------------------------------ Title: Leaving Behind (1/5) Category: MSR / Comedy and Angst Spoiler: None Inspiring: Pretty Woman(starring Julia Roberts and Richard Gere) Date: 04/01/01 By Amanda ------------------------------------------------------------------------------------------ Whatever you want from me あなたが私に望むもの I'm givin' you everything 全部あげるわ I'm your baby tonight 今夜 私はあなたのもの You've given me ecstasy あなたがくれたecstasy You are my fantasy 私のfantasy I'm your baby tonight 今夜 私はあなたのもの 「これからはアジア市場がもっと伸びるんじゃないのか。侮ってると後で痛い目に遭うぞ」 「おい、ダニエルじゃないか!! 久しぶりだな、どうしてたんだ?」 「ファースト・ミストラル社の動向がアヤシイんだ、何か情報持ってないか?」 「先日のセミナーでお会いしましたわよね? 覚えていらっしゃるかしら?」 「ワールド・プランニング社の社長がとうとう強攻策を取りだしたって噂だってさ」 ....まったく、コイツらときたら ダークスーツに身を包んだビジネスマン・ビジネスウーマン達を眺めながら、フォックス・モルダーは 心の中で悪態をついていた。 外面はいいが、腹ン中で何を考えてんだか.... きっと人の顔が札束にしか見えてないんだろうな そういう彼も、オックスフォード大で心理学を学びながらにしてMBAの資格を取るという離れ業を やってのけ、FBIからのヘッドハンティングをいとも簡単に断り、今では国内でも注目の的である コンサルティング会社『トラスト・アンド・カンパニー』を経営するという、誰もが手をかざしたく なるような輝かしい経歴の持ち主である。 『トラスト・アンド・カンパニー』は、フォックスの父親兼先代の社長であるウィリアム・モルダーが 興した会社で、ロサンゼルスの中心地の一画であるセンチュリー・シティに本社を構えている。 普段モルダーはマリブビーチの近くにある自宅で仕事をする事が多いのだが、息抜きと気分転換、 そして会議に出席する必要が生じた時に、この『天使の街』の心臓部へ足を運ぶ。 彼自身は、自分は仕事に魂を売ったわけではないと思っている。他の仕事野郎達と一緒にするな、 と、機会があれば公共の場で演説でもしてやろうかと計画中だ。彼は、接待ゴルフよりも自分の 趣味 ―― TVドラマ『The X-Files』の鑑賞 ―― を大事にしている。そのへんの女よりも ブラウン管の向こうで活躍する赤毛のFBI捜査官、ビジネスの利益よりもドラマの展開に愛着を 持つ彼は、この広いビジネス界でも「スプーキー・モルダー」として有名である。 「フォックス、久しぶりじゃないの」 振り向くと、左手にシャンパングラスを持ったブロンドの女性が、階段の手すりにもたれて 彼を見つめていた。 「やあ....えぇと.....」 「フィービー」 「ああ、そうだ。フィービー、元気かい?」 「『元気かい』ですって? つきあってる彼女に向かってそのセリフはないんじゃない?」 フィービーは、先日のビジネスパーティーで知り合った、イギリスのなんとかいう企業の 市場調査部長を務める女性である。一応、彼らはつきあっている事になるらしい。モルダーに とっては所詮「ほんのはずみ」だった彼女の事など、ほとんど記憶にないのだが。 「あなた、自宅の合鍵をくれるって言わなかったかしら?」 「そうだっけ?」 「ええ、二週間前。あなたと二回目の食事をして、三回目のお熱い夜を過ごした晩の事よ」 「記憶力がいいんだな」 「いいえ、あなたの記憶力が悪いのよ」 ニヤリと笑いながら、フィービーはモルダーに顔を近づけた。モルダーの耳元でそっと囁く。 「まあ気長に待ってるわ。ただし、くれる前に連絡をちょうだいね。夫のラリーに見つかったら 大変だもの」 フィービーは、顔だけをモルダーの方に向け、意味ありげな視線をよこしながら人込みの中へと 消えていった。彼女の後ろ姿を眺めながら、モルダーは軽く苦笑いを浮かべた。 「やあモルダー、なかなかの盛況ぶりじゃないか」 今度は男の声がした。握手を求めながら近づいてきたのは、モルダーのビジネスパートナー兼 数少ない親友のペンドレルだった。年下で純な男だが、その仕事ぶりはなかなかのものである。 「ペンドレル、来てたのか」 「当たり前だろ。君が主催する恒例のパーティだ、イケてる女達とおいしい食べ物をみすみす  逃すなんて、そんなのもったいなさすぎるからね」 ペンドレルは、手にしていたシャンパングラスの中味を空けて言葉を続けた。 「モルダー、楽しんでるか?」 「ああ、もちろんだ」 「嘘つけ、『こんな下らんパーティなんて、ケッ』って顔に書いてあるぞ。どうせ頭ン中では UFOがハイウェイを疾走してる姿でも想像してるんだろ?」 「当たりだ」 モルダーが鼻で笑いながら答えると、ペンドレルは呆れたように笑った。 「そんな事だろうと思ったよ」 「じゃあ、見事正解した君には豪華賞品をプレゼントだ」 そう言って、モルダーは玄関へと歩き出す。彼は後ろから聞こえてくる「おい待てよ!!」という ペンドレルの声を無視して外へと出ていった。 「モルダー....おいモルダー!! 待てって!!」 息を切らしながら追いかけてきたペンドレルに向かって、モルダーは楽しそうに言った。 「これから君の愛車を運転してやるよ、この僕が。それが君への豪華商品だ」 「な....何だって!?」 荒い息を落ち着かせようとしていたペンドレルの心拍数が、再びピョンと跳ね上がった。 「ビジネス界でも有名なスプーキー・モルダーが、君の車を運転するって言ってるんだぞ。 嬉しくないのか?」 「....新車なんだけど.....しかも日本車.......」 「大丈夫さ。それに僕の車は、パーティに来た人達の車に邪魔されてここから出せないしね」 『ほれほれ』と手招きをするようなゼスチャーで、モルダーは車のキーをよこすように示した。 それに降参したのか、ペンドレルはしぶしぶジャケットのポケットからキーを取り出し、 モルダーにポンと放り投げた。 「気をつけてくれよ、普通車と違って大きいんだからな」 「了解了解」 ペンドレルにとっておきのスマイルを見せたモルダーはキーを突っ込んでドアを開け、ステップを 使って中に乗り込んだ。 「ワオ!! さすがに車体が高いと見晴らしがいいな。それじゃ、イケてる女と食べ物いっぱいの パーティを楽しんでくれ」 ゴキゲンな表情でエンジンを入れ、アクセルをふかすと、タイヤがきしんだ音を立てて急発進した。 ♪♪♪パラリラパラリラパラリラパラリラ〜〜〜〜♪♪♪ ペンドレルは、砂煙を巻き上げて走り去っていく愛車を不安そうな目で見送った。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「さすがに目が高いな、ペンドレルのヤツ。やっぱりトラックと言えば、デュ・ト・ロ」 モルダーは胸ポケットからサングラスを取り出した。 彼は、ヒノとか言う日本企業が作ったトラックを大層気に入った。ステアリングといい、ハンドル のスムースな動きといい、全てがモルダーにとってしっくりくる出来栄えだ。ただ、トラック の荷積み部分いっぱいに描かれた日本人女性の顔のアップと、その横に歌舞伎字体で書かれた 「静香命」という文字が気になってはいたのだが。静香って誰なのだろう? 「よし、ホテルまでドライブでもするか」 今となっては「お宝物」とでも言えそうな8トラのカセットテープをデッキに差し込み、流れて くる日本の音楽に合わせてモルダーは首を縦に振る。 「Yeeeee-Haaaa!!」 更にアクセルを踏み込み、今やSMAPのなんとか言うメンバーの奥方という地位におさまった 「静香」の顔が描かれたド派手なトラックは、一路ロデオドライブへと向かった。 ♪♪♪人生〜いろいろ 男も〜いろいろ 女だ〜ってい〜ろいろ 咲きみ・だ・れ・る・の〜....♪♪♪ ------------------------------------------------------------------------------------------ ピピッ....ピピッ....ピピッ.......ピピピピッ....ピピピピッ....ピピピピッ.... ピピピピピピピピピピピピピピピピ............ 「Shutta f_ _ _ up!!!!!」 ブンッッッ!! ぐわっっっっしゃぁぁ〜〜〜ぁぁぁぁんっ!! しつこいぐらいに鳴り響く目覚し時計がまた一つ、その命を落とした。ご主人様が寝過ごさない ように、と、ただその使命を懸命に果たそうとしただけなのに....合掌 ....oops, I did it again そういや誰か、こんなタイトルの曲歌ってたわね 心の中でそうつぶやいてからモタモタと体を起こしたが、まだ頭は半分眠っている。 今....何時? サイドテーブルにあったテレビのリモコンをつかんで電源ボタンを押すと、小さなテレビ画面が チカチカとせわしなく画像を映し出した。 6時....夜の....仕事行かなきゃ ようやくベッドから抜け出し、身支度を始める気になったようだ。 立ったまま、右足をベッドにのせる。爪先から膝へ、両手でゆっくりと慎重にストッキングを 引っ張り上げていく。太腿のところでうまくおさまるので、ガーターベルトは必要ない。 左足にも同じようにつけ終わると、今度はスカートを手にした。前かがみになると、後ろにいる 人が目のやり場に困りそうなほどの長さしかない、青いビニールのタイトスカートだ。 黒いレースのブラの上から身につけた白いタンクトップ。丈が短いので、ゴールドのピアスを つけたおへそがチラチラと見える。膝上まである黒い色のロングブーツで足を包み、ジッパーを 閉める。ヒールは折れそうなほど細く、これまたびっくりするほど高い。歯磨きをしながら メイクを済ませ、鏡に映った自分に向かってニッコリと微笑んだ。 「それじゃ今日も行きますか、ダナ・キャサリン・スカリー」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「ハイ、ダナ。起きた?」 「『起きた?』じゃないわよ!! キム、早く貸した家賃返してくれない?」 「え、何? 聞こえなぁ〜い!!」 クラブの騒々しい音楽が、彼女達の会話を困難にしていた。 毎晩ダナとキムが立つストリート沿いにあるクラブ『クリスタル・メソッド』が二人の溜まり場 である。キムは、だらしなくカウンターのスツールに座ってビールを飲んでいた。 「家賃よ、や・ち・ん!!」 「だぁって〜、最近不況なんだもん」 「2ヶ月間もあなたの分を立て替えてるんだからね、私だって楽じゃないのよ。さっきも大家さん にイヤミったらしく今月分の催促されちゃったんだから」 「まあまあ、固い事言わずにさ。アンタも座んなよ」 キムはポンポンと隣の席を叩いてダナに勧める。仕方なしに腰を下ろすと、恰幅のいい バーテンダー、リッキーがカウンターの反対側から身を乗り出してきた。 「Heyダナ、何にする?」 「水でいいわ」 「アンタ、最近だんだんキレイになってきたぜ」 「私にそんな事言う暇があったら、他の子に言えば?」 「つれないなあ、俺、アンタにだったらいくらでも出すのに」 「友達相手に商売はしないの」 水をチビリと飲んで喉を潤す。 「いつから始めたんだっけ? この仕事」 「3週間前」 「あの頃はまだサエねえ感じだったけど、今じゃキムより垢抜けてるよな」 「リーッキーィ、大きなお世話!!」 キムがすかさず彼に鋭い声でチェックを入れる。 「ったくもう....出よ、ダナ」 「おいおい、冗談だっつーの!! ベテランさんは言われ慣れてんだろーが」 「そーよ、その通り。さっさと仕事に戻んなさいよ、リッキー」 「わかってるって、ベイビー」 キムがダナの背中を押して店を出ようとするのを、彼はニコニコしながら見送った。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「リッキーのヤツ、だんだんアタシに遠慮がなくなってきたみたいだわ」 「好きなのよ、キムの事」 「ジョークは客のために取っときなよ」 「私はあなたの事が好きだし、感謝してる。あなたがいなかったら、今ごろ私はビバリーヒルズの 汚い路地裏で毛布にでもくるまってたわ」 「ふふ....でも、もったいない事したよね。なんで家出てきたの?」 「親の敷いたレールに乗るのがイヤだったの。家を飛び出してタクシーに乗ったら荷物ふんだくられて 着ぐるみ一つになっちゃってね。野宿用の古新聞探してたところに、ちょうど守護神のあなたが通り かかったってわけ」 「ご両親はアンタに何をさせたかったのさ?」 「医者よ」 「医者がフッカー!?....イケてるな」 「かろうじて解剖学は今の仕事に役立ってるかな」 「そりゃ納得、体のすみずみまでお見通しってか」 パーーー、パパーーーーッッッ!! 「うわっ!!」 突然、二人の目の前に巨大トラックがすさまじい勢いで突っ込んできた。思わず耳を塞ぎたくなる ような音で急ブレーキをかけられたタイヤが乱暴に停止すると、道路とブレーキの摩擦でわずかに 白い煙を立てた。 「ちょっと!! アタシ達を殺す気!?」 怒りでカッとなったキムは、このバカなドライバーのまぬけ面を一目見てやろうと車の運転席側に 回り、ドアをガンガンと叩き始めた。 「顔ぐらい見せなよ、このアホたれ!!」 「ちょっとキム、落ち着いてよ」 「殺されかけたのよ!! 黙ってられるかっての。ちょっと、ねえってば!!」 トラックのガラス窓がスーッと開いて中から男が顔を出した。意外にもその「美形な顔立ち」に 今までの彼女の威勢の良さは、一瞬にしてチュニジアあたりに吹っ飛んでしまった。 「悪かった。ケガはないかい?」 うわっ、ち、チョーいいオトコ!! 「え....あ....あ〜......ええ、なんとか」 「突然ブレーキが効かなくなってしまったもんだから....本当にすまない」 「こんなでっかいトラックでここを突っ走るなんて、アンタも相当なスプーキーだね」 「道に迷ってしまったんだよ」 その言葉を聞くと、キムはそっとダナの腕をつついた。 (『私が案内する』って言いなさい!!) 「はっ!?」 キムが耳打ちすると、ダナは突然すっ頓狂な声を上げた。 「ん?」 「あ、ううん、何でもないよ。ねえアンタ、ちょっと待っててくれる?」 そう言い残すと、キムは無理やりダナをトラックから離れたところに引っ張っていった。 「『はっ!?』じゃないよ!! いいカモじゃない、行っといでよ」 「でも....」 「んな事言ってたら今月の家賃払えないよ。それに彼、めちゃくちゃリッチそうだしさ」 「それじゃ、あなたが行けばいいじゃない」 「ああいうヤツにはアンタみたいなタイプの方が好かれるんだよ、ダナ。ここは一つアンタに任せる。 ガッポリ稼いどいでよ。ホラ、行って!!」 ドンと背中を押されてダナは一瞬フラついたが、気を取り直してトラックへ近づいていった。 「....ね、ねえ、私が案内してあげようか」 「君が?」 「道に迷ったんでしょ? 言っとくけどここ、私の地元よ」 顔を上に向けてダナがニッコリと笑った。タンクトップから胸の谷間がチラチラと見え隠れして いる。その可愛らしい色気は、モルダーにとってはむしろ微笑ましいような雰囲気を持っていた。 「OK、じゃあ頼むよ。助手席に乗って」 「そうこなくっちゃ」 ウィンクを投げかけると、ダナは助手席側に回り込み、トラックのドアを開けた。背が小さいので 精一杯ジャンプをする。3回目の跳躍で、なんとか席に飛び乗る事ができた。 「行き先は?」 「リージェント・ビバリーウィルシャーホテル」 「了解、まずはこの道を真っ直ぐね」 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「ねえ、名前は?」 フロントガラスを通して見えるロデオドライブの町並みを眺めながら、ダナはトラックの窓を開けた。 都会の匂いを含んだ心地のいい風がダナの髪をサラサラとなびかせる。 「モルダー」 「それ、ファーストネーム?」 「『フォックス・モルダー』」 「フォックスぅ?」 呆れたような表情を浮かべてダナは笑った。 「芸名使ってるの?」 「そうならいいんだけど。君は?」 「好きなように呼んでくれていいわよ」 「『好きなように』って....」 意外な答えを返されたモルダーは当惑した。口ごもってしまった彼をひとしきり大声で笑い飛ばして から、彼女は青色の瞳でまっすぐモルダーを見た。 「ダナよ、ダナ・スカリー」 「ダナか....」 ゆっくりと噛んで含めるように、モルダーは口の中で『ダナ』という名前を反復する。 「ところでスカリー、君は....その....えーと....」 「『いくら?』」 「........」 言い出しにくかった事をズバリと指摘されたモルダーは、そのあっさりとした物言いに言葉を失った。 「遠慮しなくていいわよ、これが仕事なんだもの。ねえ、どうでもいいけど、なんでラストネームで 呼ぶの?」 「あ、ああ....仕事のクセでね。イヤかい?」 「別に構わないけど、そういう人って初めてだから」 「それじゃあスカリー、こういう時の相場を教えてくれないか」 「そうね、100ってとこかな。時給で」 じっ、ぢきゅうだぁっっっっ!?!? 「ちょっと待てよスカリー、時給100ドル!?『がんこ寿司』の10倍じゃないか!!」 「寿司屋と一緒にしないで。体売ってんだから当然でしょ? 言っとくけどこれはノーマルの料金よ。 特別プレイは料金割増だからね。ねえ、タバコいい?」 シガレットケースからタバコを一本取り出し、右手の指に挟んで火を点けた。いかにも吸い慣れている ように見せかけていたが、モルダーにはなぜか大人に憧れる女の子が無理にタバコをふかしているふう にしか見えず、思わず口元がほころんだ。 「よし、じゃあ200ドルで一晩、僕の相手をしれくれるかい?」 「400じゃダメ?」 「250だ」 「300」 「決まりだ、300ドル」 「了解」 ダナがニヤリと笑った時、二人を乗せたトラックはリージェント・ビバリーウィルシャーホテル へ到着した。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「これはこれはモルダー様、お帰りなさいませ」 がっちりした体の上に、かっちりしたスーツを着こなした男がモルダーに近づいてきた。その歩き方は とてもスムースで、にこやかな笑顔とスマートな身のこなしが、この男を「非常に紳士的な男」として 演出していた。 「やあスキナー、今日も元気そうだね」 「おかげさまで。ところでそちらのレディーは?」 「彼女かい? 彼女はダナ・スカリー。僕の....パートナーだ」 「はっ? パートナー、ですか?」 「そう、よろしく頼むよ。スカリー、こちらはこのホテルの支配人、ウォルター・スキナーだ。とても 信頼できる男でね、彼にはとても世話になってる」 「ふーん、そうなんだ。よろしく、ウォルター」 「ウォ........え、ええ、こちらこそ。ミズ・スカリー」 いきなり親しみを込めてファーストネームで呼ばれてしまったスキナーは、心の中で誰にも気づかれない ように照れた。 「それじゃ、部屋に戻るよ」 「おやすみ、ウォルター。いい夢見てね」 「はぁ....おやすみなさいませ」 唖然としたままのスキナーを置いて、二人はエレベーターの中へと姿を消した。 モルダー様は、ああいった方が好みなのか うむ、確かに可愛かったな....って、わ、ワタシは一体何て事を!! ------------------------------------------------------------------------------------------ モルダーがカードキーを使って部屋のロックを外す。ドアを開けると、横から「ヒューッ」という ダナの口笛が聞こえてきた。 「すっごい部屋!!」 「最上階のペントハウスだよ」 「バルコニーもあるし....うわーっ、キレイな眺め!!」 「気に入ってもらえて嬉しいよ」 コンコンコン 「誰か来たわよ」 「ああ、ルームサービスだ」 ドアを開けると、ボーイがカートを押しながら部屋に入ってきた。真っ白なテーブルクロスをかけた カートの上には、キラキラと光る銀食器と、見事なほどに透き通った細長いグラスが乗っている。 「モルダー様、ご注文の物をお持ちしました」 「ありがとう、そのテーブルに置いてくれ」 「かしこまりました」 用を済ませてモルダーからさり気なくチップを渡されると、ボーイは軽く会釈をしてうつむき加減に 出ていった。顔は無表情だったこそすれ、おそらく二人はどんな間柄なのかと、心の中では興味津々 だったはずだ。案の定、彼はペントハウスのドアを閉めた後、顔の筋肉をニンマリと緩ませながら エレベーターへと歩いていった。 待ってましたとばかりに、ダナが皿の上にかぶせられていたドームのような蓋を開けると、 その可愛らしい顔立ちはわずかに怪訝な表情を浮かべた。 「....ねえモルダー、これ何?」 「ビールと合うんだよ、スカリー」 「これってハツカネズミの常用食じゃなかった?」 「いいや、『僕の』常用食だ」 「..........」 銀食器に反射した光が、ダナの顔にぼうっと当たる。モルダーは、皿の上のものから目を離せなく なっている彼女の背中越しにその顔を近づけた。 「うん、いい匂いだ。うまい具合にローストしてあるな」 「ロースト......」 「やめられない止まらないヒマワリの種さ。遠慮するなよ、どんどん食べてくれ」 微笑みを浮かべながらそう言い残して書斎に入っていったモルダーの背中を見つめながら、 ダナの右の眉がピクンと上がった。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 「お腹は満足かい?」 一時間後、ヒマワリの種もすっかり食べつくし、今流行りのテレビドラマ『Sex and the City』を床に 寝そべって見ていたダナは、書斎のドアにもたれて彼女を見つめているモルダーの方を振り向いた。 「いつからそこにいたの?」 「5分前」 腕を組んで優しい微笑みを浮かべる彼の表情には、いつもダナの心の奥深くに住み着くモヤモヤした 気持ちをたっぷりと包み込んでくれるような暖かみがあった。そんな彼を見ていると、ダナの顔にも 自然に笑みが浮かぶ。 「ヒマワリの種でもてなされるなんて初めて」 「いくらサービス業とは言っても、クライアントがワンパターンじゃつまらないだろ」 「スプーキーな人ね、やっぱり」 途端に穏やかな笑顔を見せていた彼女の表情が、わずかに妖しい雰囲気を帯びた。 「じゃあ、今度は私がもてなす番ね」 「スカリー....」 「今晩はあなたに『買われた』んだもの、何でもやってあげる。唇へのキスはダメだけど」 そう言いながら、彼女はモルダーのネクタイをゆっくりと引っ張り、リビングのソファへ突き倒した。 仰向けに倒れた彼の上へフワリとかぶさると、モルダーのシャツのボタンを上から一つずつ外していく。 「ス、スカリー、ちょっと待ってくれよ」 「こういうのってキライ?」 「そうじゃなくてさ....」 「じゃあ、これは?」 シャツの襟元を少しだけめくってモルダーの首筋に唇をつけると、彼の口から思わず息が漏れた。 「スカリー、一つ聞いてもいいかい?」 「何?」 「どうして唇にしないんだ?」 「ホレたら困るから」 「君が僕に?」 「あなたが私によ」 ダナが顔を上げてかすかに笑みを作ると、モルダーが身につけているベルトのバックルへ右手を 伸ばしていく。 モルダーはゆっくりと目を閉じた。 胸元にあった彼女の頭を、モルダーはいとおしげに優しくなでていく。その指先の動きがあまりにも 心地良くて、体の芯が熱くなるのを隠せない。ダナもゆっくりと目を閉じて、彼をたっぷりと味わい にかかった。 ------------------------------------------------------------------------------------------ 真っ白で眩しい 目を閉じているのに、まだ眩しい なんだかクラクラする.... うつ伏せに寝返りを打って腕を投げ出すと、ベッドのスプリングでわずかに腕がポンと跳ね返った。 ....?? 朝の太陽が放つ眩しさを堪えながら目を開けると、皺が寄ったシーツの上にダナの姿はなかった。 寝ぼけた顔のままパチパチと数回瞬きをすると、モルダーは体を起こした。 「スカリー?」 寝起きのかすれ声で名前を呼んでみたが、返事は一向に返ってこない。 あれだけガメツい値段交渉を吹っかけてきたのに金も受け取らずに帰るなんて有り得ないし、 などと考えていると、違う部屋からかすかに物音が聞こえた。 シロアゲテー......アゲマセンー...... .......シロアゲテー...........アカアゲテー.... どうやらそれが、彼の探し求めている人物の声のようだった。モルダーはベッドから下りると、 体にバスローブだけを巻き付け、バスルームへと歩いていった。 ....オイシイギュウニュウ................ そのわめき声 ―― どうやらこれは歌声らしい ―― は、バスルームへ近づくにつれて次第に迫力を 増していく。 ペントハウスのバスルームは、『ペントハウスの』というその冠言葉にふさわしく、広々としていて ピカピカに磨き上げられていた。上品な色合いのタイルが床と壁に張り巡らされ、輝くような真っ白い バスタブは、まだ誰にも踏み荒されていない雪景色を思い出させる。モルダーがバスルームにそっと 忍び込むと、バスタブの中からバブルがフワリと舞い上がるのが見えた。 『♪ぱっぱっぱっぱ おどろう さわごう ぱっぱっぱっぱ ぱぱぱだぴょ〜〜ん♪』 目に心地良い白のバブルとは対照的に、耳には何とも形容し難い調子っぱずれな詩吟....もとい、 歌声(?)が直線的に突っ込んできた。 う、うわっ!! よく見ると、大きなバスタブの中にスッポリと収まった小さなダナが、ヘッドフォンラジカセを 聞きながら音楽に合わせて歌を歌っていたのだ。バブルバスに身を任せて目を閉じ、気持ち良さそうに 朗々と....ではなく、エネルギッシュに歌い続ける彼女の様子があまりにもおかしくて、モルダーは その場で面白そうに見物していた。 『♪自分を信じていくのだぴょ〜〜ん 白あげて 赤あげて じゃんけんぴょんっっ♪』 『じゃんけんぴょんっっ♪』のところで空中にグーの手を突き出しながら、ダナは目を開けた。 今にも吹き出しそうな顔をしているモルダーと目が合った彼女は、照れ笑いをしながら泡だらけの 右手でヘッドフォンを外した。 「ミニモニの『ジャンケンぴょん』知ってる?」 「ミニモニだったの? 今の歌」 ニヤニヤと笑いながらモルダーは突っ込んだ。 「あまり気持ち良さそうに歌ってるから、僕には浪曲にしか聞こえなかった」 「あらら、建設的なご意見どうもありがと」 すました顔でそう答える彼女を見ていると、モルダーはいよいよ笑わずにはいられなかった。 「そんなに下手だった?」 「くっくっくっ......い、いや.......ス、スカリー、君はサイコーだ!!」 そう言って、モルダーは腹を抱えてヒーヒー笑い出した。 「何よ、失礼しちゃうなあ」 いつまでも笑いが止まらないモルダーを見て、ついにダナもムッとし始めた。 「いーじゃない、私、歌手じゃないんだもん。ねえ、あなたこそ勝手にバスルームに入ってきて 一体何のつもりよ。私のジャマしないでくれる?」 モルダーの腹筋が引きつり始めた頃、ようやく彼の笑いは収まりを見せた。 「あーっ、まったく君って人は....こんなに笑ったのはいつ以来かな」 笑いすぎであふれてきた涙をぬぐいながら、モルダーは咳払いをして調子を整えた。 「よし、決めたよ。スカリー、君を正式に僕のパートナーとして迎えたい」 「パートナー?」 鼻の頭にバブルをつけたダナは、キョトンとした顔をモルダーに向けた。 ....to be continued −追記− これは筆者であるわたくしの個人的な楽しみのために作成したものであり、 『ミニモニ。ジャンケンぴょん』の著作権を侵害するものではない事をご了承下さい。 −後書き− 昨年『モルスカ版ゴーストFic』を書き上げた時に「モルスカ版プリティー・ウーマンなんてどーです?」 とBBSに書き込みがあったのを見つけ、なんとなく書き始めたのが昨年の9月。最近、書くペースが どんどん落ちてきてるよーな気が....おまけに話も長い長い。これだけ書いたのに、まだ導入部分(汗) もっと簡潔に書けんのか、私はっ!? 実は校正直前まで、ダナちゃんが歌っていた曲は『慎吾○マの○はロック』だったんです。 書いた時点ではタイムリーな曲だったのですが、投稿前に読み返してみると何とも古臭いような 気がして(^^;)急きょ変更しました。ダラダラ書くからこんな事になるんや>自分(反省) これを書いててふと思いました。『もしやDDとGAは、XFの各キャラよりも、このFicの方が彼ら 本来の性格に近いんじゃないか』と。クールなモルダーやってるDDだけど、実はこのFicのモルダーの ように「お坊ちゃん」のカラーがあるんじゃないか。そしてアイスクイーンなスカリーやってるGAは、 こんな感じでバタバタ動いて言いたい事バッサリ言ってケラケラ笑ってんじゃないか。 そんな風に思うのは私だけ? ....そして私の「産みの苦しみ」は続くんだぴょーん(爆) Amanda