本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳あ りません。 ======================================          『 adoration − 憧憬 − 』(中)                            from 涼夜 理想の恋人。 それは理解があり、包容力があり、支えてくれる存在。 まさしく目の前のこの人の事がそうだろう。 スカリーは今、自分の前で楽しそうに話し込んでいる相手を見つめた。 ダーク・ブラウンの髪にモルダーと同じヘイゼルの瞳。 男性とは思えない透き通るような肌に、しなやかな筋肉。 職業は弁護士であり同じ医者の資格も持っている。 知り合って二週間、話題に困る事は無かった。 彼は優しくて楽しい、とてもいい人間だ。 趣味も近く、すぐに好意が持てた。 でも・・・・。 「っでね・・・ダナ?聞いてる??」 「えっ?ええ、もちろんよ。セイク」 声をかけられて現実に引き戻されたスカリーは、慌てて作り笑いを浮かべた。 「そう?」 悪戯っぽく微笑むその顔は、まるで少年のようだ。 そのままセイクはテーブルの上の彼女の手をそっと握った。 驚いて手を引っ込めようとしたスカリーは、真剣なセイクの瞳によって力を失う。 「・・・・何?」 表情をこわばらせながら、スカリーは緊張の面持ちで聞いた。 「ダナ・・・もし、良かったら・・・・」 あまりに真剣な口調に、スカリーは思わずセイクの瞳から目をそらした。 そして次に彼の口から出るであろう言葉に、この場から消えたいと思った。 知り合ってから二人は何度かデートを重ねた。 食事にコンサート、時間の決まらない自分にセイクがほとんど合わせてくれて、どれ もすばらしかった。 帰り際もキス一つ求めてこない態度は男性としては紳士で、それは信用が生まれた。 スカリー自信、こんな相手は滅多にいないと思ったほどだ。 こんな相手となら、きっと幸せになれるだろうと・・・。 でも、彼女の心はいつも別にあった。 そしてそれを本人が一番分かっていた為、スカリーはどう切り出そうか迷いながらも 今日まで言えずに来た。 でも、次にセイクの口から出た言葉は、それはスカリーの想像とは違う物だった。 「もし良かったら、こんな風に二人で会うのは今日で最後にしないかい?」 「・・・・えっ?」 このシュチエーションから次に来るのは愛の告白か、甘い言葉だと思っていたスカリー は自分の耳を疑った。 「そんな意外そうな顔しないで、ダナだってそう思ってたんじゃないのかい?」 優しく微笑むその顔に、彼女は全てを理解した。 「君とのデートはすばらしかったよ、とてもね。いつも次があればって思ってた。で も・・・そこには君の心も欲しかったんだ」 「・・・・セイク・・・私・・・」 「だから今なら戻れる。僕が君に本気になる前に、友達で止まろう」 「セイク・・・」 「後から振られるのはかっこわるいからね」 おどけて笑って見せたセイクは、軽く肩をすくめてみせた。 「・・・・・ごめんなさい」 「君のせいじゃないよ、僕が悪いんだ。君に恋人がいないなら、紹介して欲しいって モルダーに無理矢理頼んだんだ。だから謝らないで」 「でも・・・」 「ただ、好きな人がいただけ。そうだろ?」 「・・・セイク・・・」 「僕こそ・・・もっと早く気付いていれば・・・ごめん」 「そんな・・・」 「君の目はさ、綺麗だよダナ。でもその美しい瞳に写ってるのは残念ながら僕じゃな くてあいつなんだよなぁ」 悔しそうに口をとがらすセイクに、スカリーは小さく微笑んだ。 「伝えないのかい?」 真剣な口調になったセイクと少しの沈黙の後、スカリーは小さく首を振った。 「そうか・・・君がそう決めてるなら、僕は何も言わない」 「・・・・ありがとう」 「それ振った男に言うセリフじゃないよ」 楽しそうに笑うセイクに、スカリーも笑い出す。 傷つけたにも関わらずにここまで理解を示してくれる彼に、スカリーは感謝の気持ち で一杯でだった。 二人はそれから短いランチ・タイムを終えると、その場別れた。 最後までセイクは自分を応援してくれたいた。 手を振りながら去る彼の後ろ姿を見つめながらも、彼女の心はこの時でさえも違う相 手を想っていた。 そんな自分に小さなため息が漏れる。 最初から分かっていたのだ。でも、努力もした。それでも無理だった。 どうすればいい?心はこんなにもあの人にある。 彼からセイクを紹介された時、ショックで無かったと言ったら嘘になる。 責めたかった。怒りたかった。 でも、どちらも言えず何も言葉が出て来なかった。 きっとどこかで分かっていたのだ。それに確信が持ててしまっただけ。 彼は、私を諦めていると・・・。 それも分かっている。彼にはそうするだけの理由がある。 でも、それが彼の本心だったら? いつもその答えに辿り着いた時、そこで考えが止まってしまう。 結局は・・・自分も怖いのだ。 彼の心を知るのが・・・・。 翌日、オフィスで会ったモルダーは何も言わなかった。 いや、それは最初からだったのかもしれない。 セイクを紹介後も、モルダーは後の事を一度も聞いては来なかった。 あの時も、オフィスにかかって来た電話をモルダーが偶然とり、そこで「セイクによ ろしく」としか彼は言わなかったのだから。 サマンサの事件解決後、「自由」になった彼は変わった。 仕事に対する情熱が失われたわけでも、その生き方に変化が出たわけでもない。 ただ、今の可能性を広げたのだろう。 Xファイル以外の自分、その次に大切な事、そして自分の望み・・・。 彼は決して口には出さないが、彼にとって・・・それは私だったのだ。 モルダーは私に触れない。 隣で肩を抱き、側で微笑む事はあっても・・・その先にある将来を見つめる事はしな いだろう。 分かっていたはずだ。そうしてしまうには色んな事があり過ぎた。 彼が仕事をどけて私を見つめる瞳には、信頼以外に苦しみしかない。 そこには彼の後悔、自責、罪の意識が入り交じっている。 それしかない。 私は彼を責めない。責める日など来ない。 だから彼は、自分で自分を責め続けて行く・・・。 そんなモルダーに、今度は私が何も出来ない。 「スカリー」 急に名前を呼ばれてスカリーは驚いたが、名前を呼んだ本人のモルダーはキャビネッ トに身をかがめてファイルを忙しそうにあさっている。 「・・・・何?」 「君に会えた事は奇跡かもしれないな」 「どうしたの?急に?」 モルダーは振り向かなかったが、キャビネットの中の彼の手が止まった事にスカリー は気付いた。 「でも・・・出会わなければ良かったと、思った事も・・・あったよ」 「モルダー・・・?」 「悪いんだけど今日、早めに帰ってもいいかな?」 振り向いた彼の表情はもういつもの顔だった。 「え、ええ」 「ありがとう」 モルダーはいつもどうり微笑むと、鞄に書類を詰め込みだした。 「約束?」 何気なく聞いたスカリーにモルダーは満足そうに頷いた。 「鋭いね、スカリー。今日ロクサーヌとロージーが来るんだ、食事の約束してて」 「そうなの」 「ああ、じゃ」 モルダーは手を上げるとさっさとオフィスを後にした。 残されたスカリーはどこかほっとしている自分に気付きながらも、モルダーの言葉が 頭を回っていた。 "出会わなければ" 彼女がついた小さなため息は、吐息と共に部屋に溶けて行った・・・。 「モルダー!!」 両手を広げて自分に向って駆け寄って来る女性に、モルダーは嬉しそうにその名を呼 んだ。 「ロクサーヌ!」 二人は軽く抱き合うと、顔を突き合わせて微笑みあった。 「久し振りだね」 「ええ。元気そうで良かった!」 「君も・・・あれ?ロージーは?」 当たりを見渡しても彼の姿はない。 「もしかして・・・仕事?」 「そうよ」 おもしろくなさそうに口をとがらす彼女を見て、モルダーは微笑んだ。 「まぁ、しょうがないよ。行こう、なんでも君の好きな物につき合うからさ」 「・・・・そうね、来る前にさんざん嫌味は言って来たし、久し振りにあったんだも の」 「そっ、楽しもう」 「ええ」 すぐにロクサーヌは機嫌を戻すと、モルダーと車に乗り込んだ。 二人は始終昔話しで盛り上がった。 過去は辛いものでしかなかったモルダーにとって、こんな風にロクサーヌともう一度 ソニアの事を笑いながら語り合える日が来るとは思っていなかった。 そして、彼女のこんな笑顔をまた見られるとは。 「それって、昔からよね?モルダー」 「えっ?」 「人の顔をじっと見るの」 「ああっ・・・ゴメン」 それまで意識していなかったモルダーは、急にバツが悪そうに視線をずらした。 そんなモルダーの様子を、ロクサーヌはおもしろそうに見ている。 「あなたは目をそらさない。いい時も、悪い時」 「そうかな?」 「そうよ」 「意識してやってるわけじゃないんだよ?」 「そうだったら、困るわよ」 ロクサーヌが笑い出したのを見て、モルダーも微笑んだ。 こんな風に、また穏やかな時間が流れるとは思ってもいなかったあの頃。 変わって行くのだ・・・色んな事が。でも、それは寂しいんじゃなくて嬉しい。 時間がたっても、関係は変わらないから・・・。 「そういえば・・・彼女元気?」 「彼女?」 「そうやってすぐとぼける。スカリーさんよ」 「ああ・・・元気だよ」 曖昧に答えたモルダーを見て、ロクサーヌは顔をしかめた。 「何?」 「忘れたの?私も心理学専攻よ」 「そんなの何十年前の話しだろ?」 遠回しに歳について皮肉を言われたロクサーヌは、テーブルの下からモルダーの足を 思いっきり蹴り飛ばした。 「いっ・・・・」 「あなたについては年中なのよ」 「そ、そう・・・・」 「何かあったの?」 「別に」 「モルダーあのね、そんな顔して別に。なんて言われても全然説得力ないの」 「もういいよ、それは」 ロクサーヌはさらに言葉を続けようとしたが、モルダーが店員を呼び追加オーダーに 逃げたためそこで会話は打ち切られた。 "やれやれ"ロクサーヌは心の中で軽いため息をつきながら、目の前のモルダーを見つ めた。 まるで母親の気分だ。 そしてモルダーは小さな子供。 彼は感情を素直に伝える分だけ親しい人間、嘘をつかなくていい人間にはありのまま の姿を見せる。 それは友人としては嬉しいものだが、時には手のつけられない子供のようでもある。 普段は感情を奥底に隠し、完璧なポーカー・フェイスを決め込む。 でも、時々彼自身が苛ついている時は回りを傷つけてしまう傾向がある。あまり誉め られたものではない。 けれど昔とは違い、再会してからモルダーが変わった事は彼女にも分かった。 それがひとえに彼の相棒のおかげだと言う事を、ロクサーヌはスカリーと実際会って 納得した。 食事を終えた帰り道、ロクサーヌはゆっくりと話し始めた。 二人を包む懐かしい空気が、優しい時間に変わりモルダーの警戒が消えた事を感じた からだ。 それでも言葉を選びながら彼を傷つけないように注意した。 「モルダー・・・」 「ん?」 「あんな人、他にはいないわよ」 モルダーはロクサーヌが誰をの事を言っているのか今回は素直に認めた。 「・・・・分かってる」 自分にとって、そんな相手は1人しかいないのだから。 「なのにずっとそうやって遠くで見つめて行くの?」 「・・・それしかできない」 「違うわ。あなたはそれしか、しないんじゃない」 「これが一番いいんだよ」 「今の関係が?」 「そう」 「・・・・それは、彼女も一緒の気持ち?」 「多分ね」 「だったら、私は何も言わないわ・・・でもね、モルダー誰かを愛したら、道は二つ に一つよ」 「振るか振られるか?」 モルダーがおどけて微笑んだので、ロクサーヌも小さく微笑んだ。 「伝えるか、伝えないかよ」 「・・・・・・」 「きっとそれだけで、全てが変わるわ」 「・・・そうだね・・・・」 「分かってるなら・・・どうしてそんな風に寂しそうに笑うの?」 それでもモルダーの表情は変わらなかった。 優しい微笑みを浮かべるその瞳からは、深い悲しみが伝わって来る。 「怖いんだよ、ロクサーヌ」 モルダーは真剣な眼差しで彼女を見つめた。 「前に言っただろ?彼女の事をそんな対象として見たことはないって」 「・・・・ええ」 「あれは本当なんだ。ずっとそうしないようにして来たことだから」 「愛してないの・・・?」 ロクサーヌの問いかけに、モルダーは小さく首を降った。 「でもそれは、僕にとってどの気持ちか分らないんだ。ただ分かってるのは一つだけ。 僕じゃ彼女を幸せには出来ない。どんなに努力してもね。」 「どうして?」 「・・・・彼女は僕と関わった事であわなくていい目にあって、しなくてもいい苦労 をした。 恐怖も苦痛も悲しみも味合わせた。それだけじゃない、たくさんの物も奪った。      でもロクサーヌ・・・皮肉な事に、僕は彼女に幸せだけは与えられなかったんだよ」 「モルダー・・・・」 「本当に色んな物を奪ったんだ。」 そう・・・色んな物をスカリーから奪った。 一体どれだけの物を彼女からこの手で、存在じたいで奪ってしまったのか? 普通の生活、出世する夢、大切な家族、女生としての幸せ。そして時には命さえも。 誰もが望むささやかな幸せ。それすらも彼女から奪った。 移動の車の中、信号待ちの時、捜査中、どんな時も子供を愛しそうに抱く母親がいる と、スカリーはそれを無意識に見ている。 とても悲しそうに、そしてとても遠い目をして。 僕は彼女の存在に甘え、頼り、側にいて欲しいと願った。その結果がこれだ・・・・。 どんなに望んでも、彼女が失った多くは手に入れた物と引きかえにしても二度と戻る 事はない。 あの強さの裏で、スカリーは何度涙を流したのだろうか? それを決して、僕には分らないように。 強くて気丈なスカリーも1人の女性だ。心が傷付かないわけじゃない。 でも抱き締める事さえも自分には許されない。 そんな自分が、なぜ彼女の気持ちに答えられる?奪う事と傷つける事しか出来ないの に・・・・。 「モルダー・・・・泣いてるの?」 「・・・・・っ」 「モルダー・・・・」 ロクサーヌはそっとモルダーを抱き寄せた。 声も上げず小さく肩を震わせる彼を、ロクサーヌは酷く小さく感じた。 そしてそれほどまでに、スカリーが大きな存在なのだと知った。言葉では、言い表せ ないほど・・・。 「落ち着いた?」 「情けないな・・・いい歳した大人が」 「何言ってるのよ!」 ロクサーヌは微笑むと、モルダーの頬を両手で包み込んだ。 「この世界で巡り会うか会わないかの可能性の中で、あなたはその奇跡を掴んだのね。 そして出会ってしまった。自分だけの、生涯ただ1人の人に・・・・。 だからこそあなたは彼女を愛さない。そうすればずっと一緒に入られるから。 愛さなければ、築いて来た信頼も尊敬も壊れる事もなく、その関係は永遠だから・・・ 」 「・・・・・・」 「だから怖いんでしょ?今の自分の気持ちを認めるのが」 「・・・・そうだよ・・・・」 「でもね、一瞬のすれ違いが全てを壊すことだってあるわ。だからどんな時も、人は 後悔せずに生きたいと願うのよ」 「ロクサーヌ・・・・」 「一度っきりの人生よ。よく考えて答えを出して」 「・・・・・ああ」 モルダーは深く頷くとその言葉を胸に噛み締めた。 一度っきりの人生。 変化して行く毎日の中でも、いつも・・・スカリーに対する信頼だけは消えなかった。 どんな時も。 傷つけた。色んな可能性を奪った。 自分とXファイルの責で命の危険にも何度もさらした。そしてこれからも・・・。 彼女を失うのは今日かもしれない。明日かもしれない。 それもとも一年後か、十年後か・・・・。 きっとスカリーは笑うだろう。憶測で物を言い、見えない恐怖に怯える僕を。 でも、いつも君の一番近くで微笑むその顔を見つめていたいと言ったら、そこから僕 達はどうなるんだろう? 幸せに・・・なれるだろうか? 幸せ・・・それは今の二人の関係であり、そして今の二人にとって一番遠い響きなの かもしれない。 目に見えない二人をわかつ確かな壁。 その壁が崩れた時、どちらかが一歩を踏み込んだ時、それは始まりになるか終わりに なる。 無限に広がる可能性の中から僕は君に出会えた。 見えない明日に向っても、不安も恐怖もなく心から信じあえる君と・・・。                                                   to be continued・・・。                           ====================================== ども×ども、再び涼夜です。 な、なんか今回もスカの出番が・・・(滝汗) すいません〜(涙)上が私の精一杯です。 んでもって後編では二人の関係に決着をつけます!! どうしてこんなficになるかと言うと・・・思えば(思わなくても)スカちゃんは 本当に辛い事を 乗り越えているなぁっと・・・。そしてそれに関して少しは責任を感じているモル。 ってのを表にだしたくて(^^;)でも一番悪いのもちろん、○ス○・○ー○奴です (怒) もちろん、私だって二人のラブラブが夢ですよ! でもねぇ・・・やっぱりさー・・・色々とさ・・・(ぶつぶつ) だから他の方のficを読むと満たされます(笑)幸せ〜な気分に☆ でもやっぱり心から信じあえる人と出会えるのは凄い事だと思います。 この広い世界の中からですよ?そしてそこには深い絆と歴史が生まれるんでしょうね。 その相手は自分にとって目の前の人かもしれないし、そこのあなた!!かもしれない (笑) つまり可能性は誰もがもっているのです。 そして待っているのでしょう。出会える日、巡り合う時を。 そうですねあとは・・・・きっと・・・。     きっと『信じる心』ですよ(笑)