本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 ======================================          『 adoration − 憧憬 − 』(後)                            from 涼夜 誰かが言った。 彼は・・・『波』のようだと。 寄せてはかえす波のように触れようとすれば遠ざかり、いつまでたっても決して その姿に触れる事は出来ず、甘い言葉も冷たい言葉も届きはしない。 『波』のような存在だと。 「何考えてるんだ?」 モルダーは少年のような笑顔で「心ここにあらず」の彼女の顔を覗き込んだ。 「えっ?ああっ・・・」 一瞬目を大きく開いたスカリーは、自分を見つめる瞳に苦笑した。 「昔に聞いた話を少し思い出してたのよ」 「おとぎ話かい?」 「違うわ、たとえ話」 「たとえ話?」 「そう、人物を物や言葉に例えたりするやつよ」 「へぇ・・・・」 モルダーは楽しそうに考えると、思い付いたように空を見上げた。 「じゃ、僕にとって君は星だな」 「星?」 「そう、空に輝く星だよ。不満かい?あっ、分かった!君の事だから星なんか"宇宙のゴミ"って言いたいんだろ?」 得意そうに自分の言葉を予想するモルダーに、思わずスカリーは吹き出して笑い出した。 「違うわよ、モルダー」 「化学者なのに珍しいね」 「それは別なの」 「ふうん?まぁ、いいけど。気に入ってくれた?」 「引用はね」 「たとえは不満?」 首を傾げたモルダーに、彼女は小さく首を降った。 「いいえ。そうじゃないのよ、モルダー」 『星』と『波』 彼女は心の中で呟いた。 "それじゃあ・・・いつまでたってもその距離は永遠に埋まらないわね・・・" スカリーは少しだけ寂しそうに微笑むと、彼が見つめる夜空の星を見上げた・・・。 そう、あれはもう何年前の事だったろうか? 彼女は自分の部屋の窓から光る夜空の星を見上げて思った。 それはまだ、彼が自分を見つめる瞳に"悲しみ"が無かった頃。絶対的な信頼感と、熱情に近い情熱を向けてくれていた時。 初めて一緒に星を見た彼は、優しく微笑んでいた。 滅多に見せないその優しい笑顔を"側でいつまでも・・・"あの頃、確かにそう願った。 今でも覚えている。今もそう願っている。 望んだのは、たった一つだけ・・・・"彼"だ。 でもそれは決して手に入らない物。永久に・・・。 あなたは知っているだろうか?私がいつも怯えている事に。 これが最後の会話になるんじゃないかと、もう二度と笑った顔を見れないんじゃないかと・・・。 あなたを感じるたびに心は痛み、呼吸の仕方が分らなくなる。 これほどの刹那さが・・・あなたに分かるだろうか? 伝える事の出来ない心の"苦しみ"に、そして言葉に出来ない心の"想い" 永遠に表に出る事のないその感情。 けれどお互いに分かっている。 これからも、この先も・・・お互いしかいないと言う事を。 でも触れ合う指先が痛い。微笑むその横顔が悲しい。 届かなくて・・・見つめ合う日々の繰り返し。 今を選んで壁を崩すか、永遠に見つめ合って行くか・・・。 夜明け前に浅い眠りについたスカリーは、赤い目をこすりながら仕事場へと向った。 歩き慣れた道を進み、地下のオフィスへと向って行く。 オフィスのドアを開いた彼女はその一瞬、言葉を失った。 振り向いた相棒の姿はスライドを覗き込む体制に眼鏡をかけ、驚いたように首を傾げている。 それはまるで7年前、彼と初めて出会った日のようだった。 "あの日に戻れたら・・・" 彼女の心を切ない物が言葉も無く駆け巡っていく。 「おはよう、スカリー」 「・・・おはよう、モルダー」 くったくのない少年のような笑顔で、モルダーは微笑んだ。 でもスカリーの小さな変化を見逃すわけもなかった。 「・・・・目が赤い。寝てないのか?」 「昨日少し眠れなかったのよ・・・所で何見てるの?」 「ああ、これ?ローンガンメン達から借りた資料だよ。きっと君の気に入らない物」 「何?」 「見てもしょうがないよ。これは別にXファイルじゃないだし」 「だから何?」 「いや、だから本当に下らない物だよ」 「じゃあ見せて」 「だから、本当にたいした物じゃないんだって!!」 スカリーの白い手がスライドに伸びた瞬間、モルダーは後ろに隠すように立ちはだかり それでも腕を進めて来た彼女を手を反射的に掴んで自分に引き寄せた。 勢いで引っ張られたスカリーはモルダーの腕の中に抱き締められる形になって、驚いて顔を上げた彼の瞳と視線がぶつかった。 鼻先が触れ合うほどの距離で二人は見つめ合う。ただお互いの瞳の中に自分の姿を確認していた。 今を生きるか、永遠を選ぶか・・・。 スカリーの金褐色の髪に指を通すと、モルダーはそのまま彼女の両頬を優しく包み込んだ。 薔薇色の唇、新緑のような美しいグリーンの瞳、透けるように白い肌、指先に感じる確かな温もり。 そして彼女の心臓の鼓動、スカリーが生きている何よりも確かな証。 "今"しか感じられない彼女の暖かさ。 失う事に怯えて、何も伝えずにこのままで本当にいいのだろうか? 幸せに出来ず彼女からたくさんの物を奪ったからと言って、これほどの女性には2度と会えないと分かっている。 そんな相手を諦めて、自分意外の人間にまかせても後悔しないだろうか? スカリーの気持ちを知っている自分がいるのに? 本当に・・・・? モルダーの脳裏を、さまざな思いがよぎって行った。 二人で乗り越えて来た物、時間をかけて築いて来た信頼、生きて来た中で誰にも感じた事のない、この想い。 そう、言葉にすれば全てが変わる。 ただ一言伝えるだけで、胸の奥の気持ちを解放するだけで・・・。 それは、彼が何度も思い描いて来た瞬間だった。 「・・・スカリー・・・・・」 優しく自分を呼ぶモルダーに、彼女は自分の胸が高鳴るのを感じた。 鼓動が早まり、その真剣な瞳に心臓が波打って行く。 甘い痺れにも似た感覚が体中を走り、愛しいと想う感情が溢れ出そうになる。 ただ一言、小さな子供のように『好き』だと言うことさえ自分には許されない。 「モルダー・・・・・」 言えずに来たその想いが心を締め付け、スカリーの瞳に涙がたまっていく。 「スカリー・・・・僕は・・・・」 何度も想い描いた日。いつか、こんな日が来るかもしれないと・・・。 「僕は・・・ずっと・・・・」 いつか、こんな日がくればと・・・・。 美しいグリーンの瞳にたまった涙を、モルダーはそっとすくい上げた。 そして宝物を扱うように、愛しそうにスカリーを見つめる。 大切で大切で・・・・大切で、言葉に出来ないほど愛しくて・・・・・。 本当に・・・・愛しくて・・・・・。 だから・・・・・・。 モルダーは優しく微笑むと、そっとスカリーを抱き寄せた。 抱き締めたこの腕の中の彼女は暖かい。 涙が出るほどに・・・・。 そう、だからこそ・・・・。 腕の中のスカリーの存在を確かに感じたモルダーには分かっていた。 自分が彼女を『愛している』事を・・・・。 だからこそ、諦めなければいけない事を・・・・・。 頬に彼女の金褐色の髪が触れた瞬間、彼の鼻孔を柔らかい香水の香りが広がった。 その甘い香りにモルダーは目を細めると、抱き締めていた腕に力をこめてさらにスカリーを引き寄せた。 これが"今"だけなら、この想いもその想いも受け止めて受け入れて、離さなかっただろう。 何があっても、永遠に。 でも、そうではない・・・・。 いつも、スカリーを諦めている前提には彼女との"未来"があった。 今が全てで、未来さえなければ絶対に離しはしない。 だけどスカリーの瞳の中にある未来を奪う事は出来ない。 色んな物を奪ってきた自分が、自分と言う存在で彼女の未来を奪う事だけは・・・・。 「・・・・・モルダー・・・・?」 とぎれそうなスカリーの声を聞きながら、モルダーは思った。 彼女をこの腕に抱き締めただけで、なぜこんなにも胸は満たされ心は優しくなれるのだろうと。 なぜ、それだけで生きていけると思えるのかと・・・・。 「スカリー・・・・少しだけ、このままで・・・・・」 何も望まない。何も求めない。 ただ今だけは・・・・・。 スカリーの金褐色の髪に優しい口付けを送った瞬間、彼は思い出した。 七年も側にいて、言葉に出来ないくらい大切な人だと分かっていたのに、抱き締めた事が数えるぐらいしかなかった事を。 自分を抱き締めるモルダーの腕が微かに震えている事に、スカリーは溢れ出て来る涙を押さえられなかった。 それでも肩に込められたモルダーの腕の力が弱まった事を感じると、その目を閉じて最後の瞬間を心に刻んだ。 そこにもう言葉はなかった。 お互いの想いは痛いほど分かりきっている。 触れ合うのも抱き合うのも、これが最後になるのかもしれない。 「モルダー・・・・・・」 スカリーが名を呼んだのを合図に、モルダーは彼女の体をゆっくりと引き離した。 涙をたたえた彼女の頬にそっとキスすると、モルダーは今まで決して表には出さなかった愛情を込めた笑顔を向けた。 "愛している" まるでそう言っている微笑みに、スカリーも微笑みかえした。 小さく頷いたスカリーは照れたように笑うと「顔を洗ってくると」オフィスを後にした。 その後ろ姿を見つめながら、モルダーは心に後悔がない事を感じた。 次ぎに彼女がこの部屋に戻ってくる時は、パートナーとしてのダナ・スカリーだろう。 いつもの冷静さと、深い思いやりで自分をいたわり守ってくれる最高の仕事のパートナー。 彼女を愛している。これからも、この先も。 彼女だけを永遠に愛していくだろう。 でも、モルダーは知ってしまった。 スカリーと自分が同じ線上に立っている事を。 お互いの視線の先には常にどちらかがいて、手を伸ばせば届くけれど・・・・。 決して二人がすれちがって振り向く事もなければ、その想いが交わる日もこないと・・・・。 痛い現実だった。悲しい真実だった。 けれどそれはもう少年の日のような恋ではなく、好きになって夢中になる恋でもなく、ただ・・・・ そう、ただ愛し過ぎてしまった、彼女の事を。永遠を願うほどに。 スカリーを愛さなくなる日は自分には訪れない。 たとえ気持ちが交わる日がこなくとも、その姿を永遠に側で見つめ続けて行く。 永遠に彼女に憧れて続けていく。 自分にとって、彼女は触れる事の出来ない存在なのだから。 たった1人、本気で愛した人なのだから・・・・。   だからこそ、未来を感じられる自分意外の相手と幸せになって欲しい・・・                                                                         to be continued・・・。 ====================================== ・・・・・うわ〜っ・・・・ごめんなさい。続きます。 怒ってます??怒ってますよね??なんでここまですれ違うんだよって!? すいません(><)←平謝り。 でも、でもですね(滝汗) 恋愛って本当に色々な形があると思います。 手を触れてドキドキしたり、側にいれば安心したり・・・人それぞれですけど、 でも思いを伝えるのだけが恋愛じゃないと私は、思います(^^;) 私の↑のモルってはとても繊細で儚いってイメージなんですよ。 スカちゃんに対して『償い』と『責任』が入り交じってて、でもやっぱり『愛』もあって。 けど、それを伝えてもモルはもうスカちゃんの気持ちを分かっているから彼が望んでいるの は『恋人』同士になる事じゃないんです。 もちろんモルには『償い』と『責任』って言葉よりも『愛』の方が大きいですよ。 だからスカちゃんの未来を過去にあった色々な出来事を忘れさせる(それはちょっと無理 かもしれないけど)事ができると言う自信があるくらい彼女の事を想っています。 でも、だからこそモルは『恋人』同士になって壊れるかもしれない可能性より、永遠に 彼女を見つめ続けて行きたいと言う道を選んだのです。 スカちゃんを"本気"で愛したからです(○^^○) 世の中にはこんな愛情の形もあります。 それと、感想を下さったたくさんの方々、本当にありがとうございました。 これからも頑張ります。暖かい言葉、本当に感謝しています(^^)/ でも、絶対にスカちゃんを幸せにします。(滝汗) しつこくも続きますが、お願いします〜。 よければ感想を→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp モルはこの後どうなるんでしょう(^^;) けど誰にでも『憧れ』ってあると思います。 それは決して手で触れていけないもの。心の中の、一番大切な場所に置いておく物。 見ているだけで満たされる・・・モルにとってスカちゃんはそんな相手なのです。