本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 ======================================       『 bond − 序章 − 』(1)                             from 涼夜 オフィスのドアを開いた彼は、もうほとんど癖になっている"相棒"の姿をその目で探した。 しかし彼女がいるはずもなく、彼は小さく息をはくといつも"相棒"が使っているデスクに触れた。 こうしているとあの日の光景が蘇る。      あの日・・・スカリーをオフィスで抱き締めた日・・・。 想いを伝えられなかった日。 いや・・・あえて伝えなかった日。 それでも彼女は心で自分の想いを感じてくれた。彼女が流した涙が何よりの証拠だろう。 でも『言葉』にすれば全てが変わった。 『言葉』にさえしていれば、今ここに1人でいる事はなかっただろう。 あんな風に・・・彼女を送りだす事も・・・。 モルダーは目を閉じると、三日前スカリーと交わした最後の会話を思い返した。 あの日以来彼女はいつも変わらず職務をこなしていたが、それでもスカリーは仕事以外口を開かなかった。 でもその横顔は怒っているわけでも傷付いた風でもなく、ただ何かを考え込んでいるようだった。 スカリーの意志を尊重し、モルダーの中でも"あの日"の事は無かった事として彼女に接した。 そんなスカリーが三日前、少しでいいから休暇を取りたいと言って来たのも、彼は冷静に受け止めた。 「いい?」 短く聞いて来たスカリーにモルダーは微笑んで頷いた。 「僕らは休暇がありあまるほど余ってるから、使いたい時に使うべきだよ」 スカリーがそうするであろう事はどこかでモルダーには分かっていた。 彼女は今、自分達の状態を元に戻そうとしている。 お互いの想いを心の奥深くに封印し、その感情を2度と表に出さないために距離を置こうと。 そしていつもの二人に戻れるように新しく始めようとしている。 そんなスカリーの気持ちを、モルダーは痛いほど分かっていた。 自分が出した結論を、スカリーは非難する事なく受け入れたのだ。 彼女にも分かっていたんだろう。僕が出すであろう結論を。 そしてそれが一番正しい事も・・・。 「じゃ・・・三日ほど休ませてもらうわね」 「ああ、ゆっくりと休むといいよ」 胸に刺すような痛みを感じながらも、モルダーは笑ってスカリーを送りだした。 でも、オフィスを出る時に見せた彼女のあまりに儚い微笑みは、彼の心に深く焼き付いた。 明日スカリーは帰って来る。 そうしたら"あの日"の事も、お互いの気持ちも、二人の間で出る事は2度とないだろう。 でもこの先、スカリーは自分の側から何があっても離れる事はない。 たとえ二人がお互いの気持ちを共有できなくても、それでも彼女を失う日は永遠にこない。 絶対的な安息感が彼の中を満たした時、同時に激しい刹那さが胸を走った。 そう・・・モルダーは永遠の約束を手に入れるかわりに、永遠にスカリーとの"今"を失った。 その笑顔もあの温もりも、2度と自分は触れる事はできない。 遠い将来、近い未来かもしれない。自分意外の誰かがスカリーを幸せにする・・・。 いつかそんな日が来たらそれは耐えがたい苦痛だろう。 でも彼女の存在を失う事は出来ない。何があっても自分を拒絶しない心を持ち、誰よりも大切な人。 だから、いつかくる悲しみも辛さも受け入れなければいけない。 それが"あの日"二人の関係に答えを出して彼女を傷つけた罰なのだから・・・。 でも、スカリーが帰って来る明日までは・・・このオフィスで次に彼女と会うまでは・・・それまでは許される。 ただ彼女に恋をする、1人の男としてここに存在する事を・・・・。 モルダーが抱えた不安そして未来への悲しみ、それは彼と同じくスカリーの中にも存在していた。 "あの日"以来、完璧にいつもと同じ自分をスカリーはモルダーの前で演技続けて来た。 心の中の辛さも、言葉にしてしまいそうな想いも、決して表には出さず押し殺して来た。 でも今のままでは自分を保つ事が出来ず、いつか彼に自分の想いをぶつけてしまうとその数日で実感した スカリーは、モルダーから距離を取る事を決めた。 今まで関係にもどるため、そしてこの想いを打ち消す為に。 自分が出した提案をモルダーはすんなりと受け入れてくれた。 むしろ彼もそれを望んでいるようだった。 お互いに必要なのは今は時間と、そして離れる事だという事を彼も分かっていたのだろう。 かわりに次に再会した時、モルダーはずっと側にいて微笑んでくれる。 ただ2度と・・・抱き締められる日がこないだけで・・・。 そして2度と抱き締める日がこないだけ・・・ただそれだけなのだ・・・。 ならなぜ・・・こんなにも心は痛い? 納得したはずなのに、どうしてこんなにも胸が痛むのだろう・・・。 スカリーは軽く頭を降ると、その考えを追い払うかのように金色のクロスに触れた。 指先に感じる十字架の感触は触りなれた物で、いつも彼を失うかと思った時、祈ったものだった。 そのたびに自分の想いを打ち消し神に懺悔を乞うように、否定し続けてきた。 そうする事で均衡を保って来た。けれど気付いてしまった。 いつからか・・・自分の瞳には彼以外は写っていない事を・・・。 ただ側にいれば世界が変わる。回りに色がつき音を感じる。 素直にはなれないが、なりたかった自分にはなれた。 彼の側でだけは、本当の自分でいられた。 それが幼き頃からの自分の理想だと気付いた時、同時にその想いも溢れ出て来た。 だからずっと自分の想いに気付かない振りをし続けて来た。そうすれば、痛い現実を見なくていいから。 望んだ瞬間に、諦めなければいけない悲しみを、知らなくてよかったからだ・・・。 この7年、思っては打ち消して来たこの気持ち。 次に彼に会う時は、この想いの終わる時・・・・・。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「よければ・・・取りましょうか?」 仕事を終えたモルダーは、帰り道に立ち寄った本屋で一生懸命背伸びをしている女性に声をかけた。 普段の自分なら女性に声をかけるなど考えられない行動だったが、その女性が一生懸命に本を 取ろうとしている姿が、オフィスでよく見る相棒の姿とだぶって見えたのだ。 資料に手が届かなくても、決して最後までとって欲しいとは言わずに自分1人でなんとかしようと悪戦苦闘するスカリー。 そんな彼女が可愛らしくて、でもそんな事は絶対に口に出す事の出来ないモルダーは、自分も資料を とる振りをして"ついで"と言う形でスカリーの分もとって彼女に渡していた。 初めてスカリーの笑顔を見たのも、資料を手渡した時だった。 仕事中にも関わらず、不謹慎にも美しいと思ったのを今でも覚えている。 もちろん今は資料棚の横には小さな脚立が置かれているが・・・・それでも時々 彼女の笑顔を見たいと思った日はスカリーが来る前に、それを奥の部屋にしまったりなど子供っぽい事もした。 それだけで、十分だった。彼女の笑った顔が見られただけで・・・・。 そんなモルダーの思いが、いま自分の目の前で背伸びをしている女性に声をかける衝動に走らせたのだった。 「えっ?」 背後からのモルダーの声にその女性は振り返ると、驚いたように彼を見つめた。 「だから・・・それ・・・・」 モルダーは彼女が必死になって取ろうとしていた一番上の棚の本を指差した。 「えっ、でも・・・・」 「これでいいんでしょう?」 モルダーは確認するように聞くと、彼女が戸惑いながら頷いたのを見てその本を手渡した。 そしてそれで終わるはずだった・・・しかし・・・。 「・・・・あっ!!」 モルダーは目の前の女性がお礼を言ようと口を開く前に、彼女に手渡した本の題名を見て驚きの声を上げた。 「これ・・・・」 「あの・・・何か?」 モルダーは自分を見つめる女性の視線に気付くと、はっとなって微笑み返した。 「いえ、なんでも・・・」 「でも・・・」 「本当に、なんでもないんで気にしないで下さい」 モルダーが両手を相手の前で振った瞬間、その手のひらに書かれた文字に、今度は女性が釘づけになった。 「・・・・・持論カオス倫理説・・・・」 自分の手の平を見つめて呟く女性の声を聞いて、モルダーは再びはっとなる。 それはオフィスを出る前に彼が本の題名を忘れない為、メモ代わりにと手にペンで書いた物だった。 「あの・・・これは・・・・」 曖昧に答えるモルダーに、目の前の女性は自分の持っている本を見つめた。 それこそ、彼が買おうとしていた『持論カオス倫理説』と書かれた本だったのだ。 もちろん、それに気がつかない相手ではない。 「あの・・・よければ、これ・・・」 「あ、いいですよ!」 戸惑い気味に本を差し出す彼女にモルダーは大きく首を振ると、さっさとその場を離れようとした。 「待って!!」 しかし、相手の女性に腕を捕まえられるとモルダー観念したように彼女へと向き直った。 「本当にこれどうぞ」 「いや僕の方こそ、本当にそこまで欲しかったわけじゃないし、ほんと気にしないで下さい」 「でも、買うつもだったんでしょ?」 率直な質問に一瞬モルダーが言葉に詰まらせると、目の前のブロンドの女性は微笑んだ。 「どうぞ」 「でも・・・」 「本をとって頂いたお礼と言う事で」 女性は自分の本をモルダーに手渡すと横をすり抜けようとしたが、今度はモルダーがそれをふせいだ。 「じゃ僕は本を譲ってもらったお礼をしないと、はいどうぞ」 手渡された本をまた彼女に返すと、モルダーは微笑んだ。 モルダーの意外な行動に彼女は小さく吹き出すと、やがて諦めたように「ありがとう」と呟いた。 彼女が確かに本を受け取ったので、やっとこの場から解放されると思ったモルダーが背を向けると、もう一度彼女に引き止められた。 「待って下さい」 「えっ?」 「それじゃあ、私の気がすまないわ」 「えっ?それどういう・・・」 モルダーの問いかけに彼女は少し考え込んだ後、真剣な顔で口を開いた。 「私、ジル・バレンタインです・・・えっと・・・・」 「ああ、モルダー・・・フォックス・モルダーです」 モルダーが名前を名乗ったので、彼女は微笑んだ。 「時間ありますか?」 「はっ?」 驚いて聞き返したモルダーに、ジルと名乗った女性は彼に本を見せた。 「私、本を読むのはかなり早い方です・・・だから、もし2時間ぐらい頂けるなら・・・全部読めますけど」 彼女の言ようとする事をすぐに理解すると、モルダーはさらに首を振った。 「いや・・・本当に・・あっ、他の所で買いますから」 「この本売ってるのってここだけなんですよ」 「えっ?本当に??」 それは予想してなかったモルダーも、目を丸くした。 「だから・・・・・」 そう言って申し訳なそうな顔で微笑むジルを見て、モルダーはなぜ彼女がここまで気を使うのかが理由が分かった。 そして彼女の申し出を断れば、さらに彼女に気の引ける思いをさしてしまうと言うことも・・・。 「・・・・じゃ・・お言葉に甘えて・・・」 モルダーは少し考えてそう答えると、さっきまで罪悪感一杯だったジルの顔がほっとするのを感じた。 「良かった。じゃあ、いきましょか」 ジルが安心したように微笑んだので、モルダーもほんの数時間の事として割きりると、あまり深く考えずに彼女の後に続いた。 しかしこの出会いが、モルダーのこれから長く続く暗闇へ道の始まりだった事を、まだ彼自信知るよしもなかった・・・。 結局ジルが本を読み終えるまで待つはずだったモルダーは、彼女が不意に漏らした地球外生命の言葉に興味を惹かれ その話しに夢中で耳を傾けると、自分の意見を述べたり考えを話し込んだりして、最初の目的から大きく脱線してしまい 二人がその事実に気がついたのも、喫茶店に入って数時間が経過した頃だった。 「ごめんなさい、私ったら・・・・」 「いや、僕の方こそ・・・・」 二人はバツが悪そうにお互いの顔を見つめあうと、おかしくなって吹き出した。 回りからみればさぞ、奇妙な光景に写っているだろう。 「ああ・・・おかしい、モルダーあなたっておもしろいわ」 「君だってそうとうね、久し振りにこんな風に笑ったよ・・・・」 「よく言うわね」 彼の言葉にまた楽しそうにジルは微笑むと、笑い出した。 モルダーは目の前で微笑む彼女を見て、今の自分の言動を思っていた。 そう、もう何年も友人やスカリー以外とこんな風に話す事はなかった。 だからモルダーには今が信じられないでいた。楽しいと思い笑っている自分が・・・。 こんな生き方もあるのかもしれない・・・そんな考えが頭に浮かんだ瞬間、モルダーは自嘲気味に微笑んだ。 「じゃ・・・そろそろ帰ろうか?」 「そうね・・・あっ!本どうしましょ・・・」 向いあったテーブルの上には、まだ封も破られていない新品の本が置かれていた。 もう一度二人は微笑むと、小さく笑った。 「じゃあ・・・・」 モルダーが本に手を伸ばそうとした時、一瞬にして店の中が静まり返った。 異様な店内の雰囲気にモルダーが視線を写すと、入り口に1人のライフルを持った男が人質を連れて入って来た。 一瞬にして店内は騒音や悲鳴に切り替わる。 「皆、ふせろ!!」 男の声に多くの客達は反応すると、怯える声をだしながら男の誘導にしたがい床に身を伏せ始めた。 「ジル・・・・」 モルダーは心配になって彼女を振り返ったが、彼が思うよりもずっと彼女の表情は冷静そのものだった。 「今日は厄日だわ・・・・」 呟いた彼女の声にモルダーが顔を向けた時にはすでに遅く、ジルは立ち上がって男に向って走り出していた。 「ジル!!!」 モルダーもすぐに彼女の後ろを追う。 ジルは男の罵声も気にする事なく走りよると人質、店の中の客に発砲する前に、あっさりと男を蹴り倒した。 「FBIよ!!大人しくしなさい!!!」 彼女の一言にモルダーは驚いたように瞳を開いた。 「君がFBI??」 モルダーはジルが男に手錠をかけるのを手伝いながら、彼女を見つめた。 「ええ、モルダー大丈夫だった?」 「僕は大丈夫だけど・・・でも、少し危なくないかい?今の捕まえかた」 「えっ?」 彼女は聞き返そうとしたが、店の中の客達の感激の歓声と、店主が呼んだ警察の騒音ですぐにかき消されてしまった。 そこで事情を聞かれたモルダーもFBIの身分証を見せると、今度はジルが驚いたように目を開いた。 「あなたも!?」 「ああ、本当に奇遇だね」 肩をすくめて見せると、モルダーは彼女が自分の顔をじっと見つめているのに気付く。 「ジル?」 「あなた・・・・思い出した!"スプーキ"モルダー!!局で有名な捜査官!!」 ジルは思い出しように手を叩くと、嬉しそうにモルダーを見つめた。 「あなただったの・・・あなたが・・・」 本当に嬉しそうに自分を見つめるジルに、モルダーは自分が影で何を言われているのかが大体察しがついた。 「ジ、ジル・・・何もそんな事をこんな所でいわなくても・・・」 「ああ、ごめんなさい。でも、私ずっとあなたの話しを聞いていたから・・・驚いたわ」 「僕の話し?」 「ええ、トレイシー・カートから」 「・・・・トレイシーを知ってるのかい?」 「友達だもの」 にっこりと微笑むジルの笑顔に、モルダーはトレイシーが何を言ってるのかも大体理解した。 「・・・・驚いた」 「私もよ、モルダー。でも、ずっとあなたに会いたいって思ってた」 「僕に?」 意外なジルの言葉に、モルダーは訝し気な表情を浮かべた。 「ええ。局であなたの噂を聞くたびに、ずっとどんな人なんだろうって・・・」 「理想が崩れたかな?」 「いいえ、予想をもっと裏切ってくれてたわ。今日の日を感謝しなきゃ」 ジルの言葉にひっかかる物を感じながらも、モルダーは目の前で子供のように喜ぶ彼女見て、小さく微笑んだ。 「とりえず、本の心配はいらなくなったでしょ?」 「えっ?」 「読んだら貸すわね」 「ああ・・・・そうだな・・貸してもらおうかな」 「じゃあ食事に行かない?」 「えっ・・・ああ・・・」 モルダーは彼女の申し出に頷こうとして、ふとジルの手首に光るブレスレットに目をやった。 するとそこには、彼が愛してやまない女性がいつも付けていると同じクロス型の十字架が揺れていた。 「モルダー?」 自分を呼ぶ彼女の声にモルダーは我に返ると、ジルに微笑んだ。 「ごめん・・・悪いけど今日はもう帰るよ。さっきまで大変だったしさ、君もゆっくり休んだ方がいい」 「そう?・・そうね、今日は帰りましょう」 「ああ、送っていくよ」 「トレイシーに言っておくわね。あなたは紳士だったって。待ってて、荷物をとって来る」 悪戯っぽく微笑み店の中に荷物を取りに入ったジルの後ろ姿を見送ってから、モルダーは空を見上げると 夜空に輝く星を見て、ここにはいない別の相手の事を想った。 いつだったか・・・彼女を"星"にたとえた時の事を思い出す。 あれは初めて二人で夜空を見上げた時、まだ二人に深い傷が生まれる前・・・もう、何年前だったろうか? まだ彼女を愛している自分に気がつく前だった。 それでも彼女の存在を自分の中で表したくて"星"と言う言葉を引用した。 そう・・・自分にとってスカリーは星のような存在。永遠に輝き続け、その光りを失わない尊い存在。 どんな暗闇も深い迷いの中からも、常に照らし続けてくれる、ただ1人の女性。 そして自分を導いてくれる愛しい存在・・・。 ほんの一瞬でさえも、彼女を忘れる事ができない。こんなにも深く彼女は自分の心の中に根付いてしまった。 でもだからこそ・・・諦める事ができた・・・。 もっと早く想いを告げていれば何かが変わっただろうか?抱き締めていれば・・・・。 それは彼の中で"あの日"から自分自信に繰り返されてきた問いだった。 でも答えはない。時間は流れ過ぎたのだ。 ただ今は・・・彼女のいない人生は考えられない。 彼女を失えば、生きている意味さえもたなくなるだろう。 ずっと目の前にいて欲しい。 微笑んでくれなくともいい、触れ合えなくてもいい・・・・。 ただ・・・ずっと、側にいて欲しい。 手を伸ばせばその手を握り返えしてくれる距離に・・・・。 生きて側に・・・・スカリー・・・。 「お待たせ、モルダー・・・・」 ジルの声に現実に引き戻されると、モルダーは慌てて振り返った。 でも次の瞬間、顔が驚きに変わる。 「危ない!ジル!!!」 「えっ?きゃっ・・・!!」 彼女の後ろから出てきた店員が、両手に大きな箱を抱えてジルに気付かずに彼女を突き飛ばしたのだった。 「ジル!!!」 モルダーは反射的に彼女を抱き寄せたが、その衝動で体制を崩し、二人は抱き合ったまま階段を転げおちてしまった。 彼女を庇うように抱き締めたモルダーは、自分の後頭部を何度か手すりに強く打ちつけてしまう。 強い衝撃がモルダーの脳裏に何度も響く内に、彼は回りの光景が、スローモーションのように写った。 倒れ込むように地面に落ちたジルは、自分を庇うように抱き締めてくれていたモルダーにすぐにむきなおる。 「モルダー!!モルダー!?大丈夫!?モルダー!!」 「つっ・・・」 「モルダー・・・!」 彼女はモルダーの後頭部から血が出血しているのを見ると、店員に救急車を!っと叫んだ。 「待ってて!止血しなくちゃ!!」 ジルは止血できるものをとりに店への階段を急いで上がって行く。 消え入りそうな意識の中で、モルダーは少し離れた場所にさっきの衝撃でジルのブレスレットから切れてしまった シルバーのクロスが地面に落ちている事に気付いた。 ほとんど無意識にそれに手をのばす。 「っ・・・・スカ・・・・」 しかし、後のほんの少しと言う所でモルダーの指先は力をなくし、彼はそのまま深い暗闇の中へ落ちてしまった。 どこまも続く、星一つない深い暗闇へ・・・。 − 5時間後 − 連絡を受けたスカリーがモルダ−の元へと駆け付けたのは、もう朝日が登る頃だった。 焦る気持ちを押さえてゆっくりと病室のドアを開く。 青白い顔をしてベットに横たり、規則正しい呼吸を繰り返しているモルダーを見て、スカリーは全身の力が抜けた。 いきなりのスキナーからの連絡に心臓がわしづかみにされたのだ。 胸が苦しくて、モルダーの顔を見るまでは気分が悪く何も考えられなかった。 スカリーはそっとモルダ−に近付くと、その手を優しく握った。 暖かい・・・。 スカリーはもう片方の手で、彼の頬に触れる。 「モルダ−・・・・」 彼女は優しくその名を囁いた。 何度この言葉を繰り返してきただろうか? 苦しい時も辛い時も、彼の存在があったから今までやってこれた。 離れて見守ろうと思った事もあった。側にいても何も出来ないと無力な自分に腹がたった事もあった。 でも・・・それでも、彼はいってくれた。 『 君が必要だ 』と・・・・・。 その言葉でだけで、想われない気持ちは満たされた。 ただ、それだけで・・・自分の意味を持てた。 どんな試練も、二人なら乗り越えられる。 そして自分には・・・彼が必要だ。 「・・・・・モルダー・・・」 スカリーの瞳は潤み、涙が溢れ出て来る。 この気持ちを誤摩化す事はできない。何も無かったように、振る舞う事など・・・。 二人の間にあるのは痛い現実かもしれない。辛い未来だけなのかもしれない。 それでも彼女は思った。 こんな思いを繰り返して行くなら、その道を選ぼうと・・・。 たとえ二人の未来にあるものが苦しさや悲しさだけでも、一緒に歩いて行きたいと・・・。 そう、自分にも彼にもお互いしなかいないのだ。 愛せるのも、信じられるのも・・・・。 だたお互いだけ。 「モルダー・・・あなたの意識が戻ったら、今まで伝えられなかった言葉をいいたいわ。 だから早く目を覚まして・・・あなたが必要なのよ・・・私は・・・あなたを・・・」 懇願するようにスカリーはその美しいグリーンの瞳に涙を溜めてモルダーの耳もとで囁いた。 その瞬間、スカリーは自分の手が確かに握り返されるを感じた。 「・・・・モルダー・・・?」 「っ・・・・う・・・」 「モルダー・・・・!!」 モルダーは体中の痛みに耐えながら、自分の名を呼ぶ相手へとゆっくり目を開いた。 「・・・・・ここは・・・・?」 「病院よ、あなた階段から落ちて・・・良かった」 グリーンの瞳に涙を溜めて微笑む彼女を、モルダーはただ黙って見つめた。 本当に自分を心配してくれているのだけは、なぜか痛いほどに伝わってきた。 それはどこかで感じた胸の痛み・・・。 それでも、自分を見つめるこの美しい女性に彼は聞かなければならなかった。 ただ一言だけ残酷な、そして純粋な言葉を彼女へと、投げかけた。 「・・・君・・・・・だれ・・・・・?」 静寂な部屋の中に響いたモルダーの声。 それは、彼を見つめるスカリーの瞳から彼を想う色が消えた瞬間だった。 そしてここから二人は遠く長い道を進んで行く事になる。 見つめ合うほど側にいながら・・・・・。                        to be continued・・・。 ====================================== うわ〜〜〜〜〜〜〜(滝汗) あの・・・本当にごめんなさい。許して下さい(><) あ〜あ。。。もう言葉にならない(爆) 多くの方からメールを頂き、モルとスカちゃんの幸せを願う声が本当に多くて 私自信もそうしたかったんですが・・・序章って事で(笑) さてさて・・・本当に幸せになれるんだろうか・・・? でもそうしないと私は川もしくは山、それか星にされるだろう。 ここまで書いてきたら私にも情が出てきて幸せにして上げたいww よければ感想をw→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp