本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 なので、一切の責任は負いません(笑) ======================================      『 bond − 離れゆく心 − 』(5)                             from  涼夜 浅い眠りの中にいた彼は、自分の肩にシーツをかけられる感触で目を覚ました。 まどろみの感覚でその目に写ったのは、朱色の小さなブーケの花を持った女性だった。 「ん・・・ジル?」 「あっ・・・起しちゃった?」 ぼやける意識を振り払うかのようにモルダーは、ゆっくりとベットから体を起こす。 「いや、大丈夫だよ」 「・・・良かった」 ジルは小さく微笑むと、手に持っていた小さな朱色のブーケをモルダーに手渡した。 「ありがとう・・・ジル、この間の事なんだけど・・・」 「待ってモルダー!私から言わせて!!」 ジルはモルダーの前で両手を開くと、大きく息を吸い込んだ。 「ごめんなさい」 「えっ?」 「いきなり、あんな事言ってしまってもっと、ちゃんと話すべきだったのに・・・」 「ジル・・・・」 「本当にごめんなさい」 「僕の方こそ、少しイライラしてて・・・半分以上やつあたりだったんだ・・・その、きつい言い方してごめん」 ジルはモルダーの言葉に目を丸くすると、小さく微笑んだ。 「あなたはね・・・FBIに入ってからの私の目標だったの」 「僕が??でも、僕は聞いた話じゃ無い物を追いかけ回してる変人だって言われたけど」 モルダーは苦笑すると、ジルを見た。 それでも彼女は穏やかな笑みを浮かべたままモルダーの事を見つめていた。 「初めはね、局に入った頃にあなたの噂を聞いて、どんな優秀な捜査官なんだろうって思ってた。 あなたのプロファイリングや捜査能力はとても評価されてて、私達入ったばかりの新人には雲の上の存在だったのよ」 「本当に?」 モルダーはおもしろそうに目を開くと笑った。 「でもあなたはXファイル課って言う地下室にこもりだして・・・直接会う事は一度もなかったんだけど あなたは私の友達と知り合って・・・彼女からあなたの話しを聞く日々が始まったの」 「友達って・・・あのブロンドの人かな?」 「ええ、あっトイレシーから聞いたの?」 「うん・・・三日ぐらい前に凄い剣幕で呆れて怒ってた。でも、君の事を助けてくれてありがとうって」 「トレイシーらしいわね」 「どうやら・・・僕と彼女はケンカしてたみたいなんだけどね」 モルダーは小さく笑うと、肩をすくめた。 「モルダー・・・あなたは私の事を何も知らないって言ったわよね。それは・・・事実だわ。 私もあなたの事はあの日と、今まで聞いて来ただけしかしらない・・・だから、知りたいと思う」 「ジル・・・」 「そして、私にもあなたの事を知ってもらいたい」 ジルはその大きな目に精一杯の勇気を振り絞ってモルダーを見つめた。 「迷惑・・・?」 彼女の一生懸命な言葉とその気持ちはモルダーにも伝わって来た。 そしてそんなジルの姿を、彼が愛らしいと思ったのも・・・また事実だった。 真っ直ぐに想いを伝えようとしている彼女の行動は、1人の人間としても嬉しかったのだ。 そう、恋人も好きな人もいなかったと聞かされたモルダーにはジルの好意を断る理由は見つからなかった。 それでも・・・・彼の心を別の影が走る。それは記憶を失った日から彼の心に引っ掛かっていた物だった。 それは何なのか、そして誰だったのかモルダーには思い出す事も出来なかったが、とても大切だと言う事だけは分かっていた。 そして自分が、それを思い出さなければいけない事も・・・。 「・・・・モルダー・・・?」 答えずに一点を見つめたままの彼を、ジルは不安そうに見つめる。 「ああ・・・ごめん。あの・・・君の気持ちは嬉しいよ。本当に、嘘じゃない。でも・・・・」 「でも・・・?」 「心に・・・引っ掛かってるんだ。ずっと・・・。僕にとってはとても大切で、このまま忘れていいわけないんだと思う」 「過去があるから、今のあなたがあるのよね・・・あなたの言いたい事少しは分かるわ。だから、私も協力する!! ううん、したいの。だって私の責であなたはけがをして記憶までなくして・・・だからお願い、私にも手伝わせて」 「ジル・・・・」 「私への答えは、その後でいいから・・・ねっ?」 まるで小さな子供が、新しいおもちゃに触れる事に許しを乞うように、純粋な想いを感じたモルダーは小さく微笑んだ。 「じゃあ・・・・いいの?」 「・・・・君には負けたよ。さすが・・・捜査官だな」 モルダ−はおかしそうに笑うと、嬉しそうな笑顔をたたえたジルの手をとって、軽く握手した。 「よろしく、ジル」 「こちらこそ!!改めてよろしく、モルダ−」 楽しそうな二人の姿を、窓の向こうの夕日だけが照らしていた。 2週間後、人気の感じられない地下室のドアの前で、1人の女性が考えこんだように立ち尽くしていた。 彼女の名前はトレイシー・カート。 彼女が友人のジルからモルダ−への想いを告げられたは、つい夕べの事だった。 昨日無事に退院を果たしたモルダ−は、ジルとトレイシーに見送られて自分の家へと帰った。 その時、モルダ−とジルがとても親しそうな様子にトレイシーは気付いてはいた物の、あまり深く考えずジルを夕食に誘った。 彼女がその席でジルから彼の事を想っていると聞かされて、凍り付いたは言うまでもない。 もっと驚いたのは、モルダ−がジルの想いをはっきりと振り切らなかったと聞いた時だった。 いくら記憶が無いからと言っても、長年モルダーを知っているトイレシーには信じられなかった。 そしてそれは、彼女が一番避けて欲しいと願った状況だったのだ。 トレイシーは目の前のドアを見ると、小さくため息をついた。 ノックするべきか、しないべきか・・・・・。 昨日病院からの帰り際モルダ−は明日、休みを利用して記憶を思い出せるきっかけになるようにと、Xーファイル課に行くと言っていた。 ドアの向こうからは忙しそうにキャビネットを開いたり閉じたりしている音が微かに漏れて来ている。 モルダーが中にいる事は確信出来たが、訪問理由についてトレイシーは頭を悩ませるとそのドアをノック出来ずにただ立っていた。 何を言えばいいのか・・・・。 複雑な想いがトレイシーの中を走り抜けていく。 彼女はモルダーの気持ちもスカリーの想いも、もう随分前から知っていた。 二人の関係をずっと側で見て来たのは自分だと行っても過言ではない。 想い合っているが、触れ合わない。その気持ちをお互いに伝えようとさえしない。 それでも二人の仲に第三者が入る隙間もないくらいお互いを想い、強く信頼しあっている。 言葉にしなくとも、お互いだけだと・・・二人の瞳からはそれを感じられた。 もうずいぶんと昔、トレイシーがモルダーを諦めた絶対的な理由はそれだったのだ。 決して他人の入り込む事のない、他の人間など写っていないあの瞳・・・。 優しくて、強い思いやりに溢れていたあの眼差し・・・・。 モルダーの心には、たった1人の女性しか存在しない。 それは今もこれからも変わらないだろうと彼女は思っていた。 しかしモルダーは記憶を失い、あれほど想っていた女性を忘れ思い出せずにいる上に、今は自分の友人が彼に恋をしている。 それはトレイシーにとっては最悪の状況でしかなかった。 記憶が戻ったら、間違いなくモルダーはジルを振るだろう。そうなれば期待していた分だけジルが傷付く。 かと言って、二人の想いを勝手に自分が人に言う事はできない。そしてジルの想いを止める事も。 でももし、このままモルダーの記憶が戻らずにジルと間違いでも起こってしまったら? その後に記憶が戻ってしまったら・・・・・? それにモルダーとジルがそんな関係になってしまっても・・・スカリーはきっと何もいいはしないだろう。 自分の気持ちも、二人の関係も・・・スカリーは何もいわずに黙って心の中に閉まってしまうのが、トレイシーには分かっていた。 そして二人にはそんな風になって欲しくないと思っている自分がいる事も、また確かだった。 二人の想いをしりながらも、ずっと二人の関係を近くで見て来たのだ・・・。 だからはいつかうまく行って欲しいと、彼女はずっと思って来た。 そう、モルダーの心を動かせるのはたった1人の人間で・・・・自分は決して、彼の友人以上の存在にはなれないのだから・・・。 これ以上複雑にしないためにもモルダーに全て言おうと、トレイシーがドアをノックしようとした瞬間、地下にレベータが降りてきた。 彼女は慌てて廊下の奥にある棚の後ろに隠れ足音のする、エレベータから降りてきた人物を覗き見た。 それは赤毛の女性で彼のパートナーであり、トレイシーがさっきまで考えていた人物だった。 オフィスのドアを開けたスカリーは、その部屋の中の光景に思わず息を飲んだ。 デスクや床に散らばった書類の数々、無造作に写し出されたままのスライド、そしてつけっぱなしのパソコン。 この部屋をこんなにした張本人は、スカリーが入って来た事にすら気付かずになにかのファイルを熱心に読みふけっている。 そのあまりの真剣な表情に一瞬、スカリーは声をかけるのを躊躇した物のためらいがちに話しかけた。 「・・・・モルダー?」 それでも彼からの反応はない。目と神経は全てファイルに注がれている。 「モルダー!」 さっきよりも少し強めにスカリーが声をかけるとやっと気付いたのか、モルダーは驚いたように振り向いた。 「やぁ」 モルダーはスカリーの姿を確認すると共に、微笑んだ。 「家で休んでなくていいの?」 「大丈夫だよ。色々に気なるしね」 「それで・・・これ?」 「えっ?」 スカリーが広げた両手を見て、モルダーは初めてこの部屋の汚れように気付く。 オフィスに入った所からすでに書類は散乱しており、足の踏み場もない。 「あっ・・!ごめん!!」 「手伝うわ」 「ごめん、頼むよ。端の棚からファイルを読んでて、片付けるのを忘れてた」 そのもっともらしい口調に、スカリーは小さく微笑んだ。 「何?」 彼女のおかしそうな顔に、モルダーは首を傾げる。 「あなたが部屋を片付けない事は今に始まった事じゃないわ」 「・・・なんだか僕って・・・迷惑かけまくってたんだなぁ」 「過去系なの?」 「・・・いや・・・今も、だね?」 都合悪そうに視線を泳がせるモルダーに、スカリーは吹き出した。 そしてモルダーも、照れたように小さく微笑む。 「全部読んだの?」 「大体は読んだと思うよ」 「あれは?なんの事件の奴を真剣に読んでたの?」 スカリーは視線で投げかけると、モルダーはさっきまで読んでいたファイルを振り返った。 「えっ?ああ・・・・」 少し曇った瞳をしたモルダーは、ファイルを黙ってスカリーに手渡す。 受けとったスカリーも、そのファイル名を見て言葉を詰まらせてしまう。 「これ・・・・」 「ここに君の名前が」 モルダーは一番後ろのページをめくると、そこを指差した。 「解決してたんだね。しかもごく最近に・・・・」 「モルダー、ごめんなさい私・・・もっと早く言っていれば・・・」 謝罪の言葉を口にする彼女に、モルダーは優しく微笑んだ。 「いいんだ。僕の体を気づかってくれてたんだろ?だから・・・気にしないで」 「モルダー・・・」 「せっかくだからコーヒーでも入れてくるよ」 モルダーはおどけて笑うと、そのままオフィスを出て行った。 それでも、彼の悲しそうな横顔を見て送りだしたスカリーは、酷く胸が痛んだ。 そして自分の腕の中の、サンマサ・モルダーのファイルを強く握りしめた・・・。 トレイシーはモルダーがオフィスから出て来たのを見て、思わず後に続いた。 「モルダー!」 エレベータに勢いよく乗り込んで来たトレイシーに驚きながらも、モルダーは慌てて場所を空ける。 「大丈夫かい?」 「えっ?ええ。あなたこそ、本当に来たのね」 「うん。あっ、昨日はありがとう」 「いいのよ、そんな事」 「地下に何か?資料でも取りに来たの?」 「えっ・・・・あっ、ええ」 「そう」 モルダーは小さく微笑むと、エレベーターのボタンを押した。 暫くモルダーの横顔を見つめて考えていた物の、トレイシーは自分がここに来た理由を思い出し、モルダーへと向きなおった。 「モルダー、本当はねあなたに会いに行く所だったのよ」 「僕に?」 「話しがあるの」 「今じゃないとダメかな?・・・この後まだオフィスに戻らないといけないんだ」 「あ・・・なら、後でいいの」 「すまない」 モルダーは小さく呟くと、そのままボタンを押してエレベータを降りて行った。 横切った彼の瞳が曇っていた事にトレイシーは気付いていたが、声をかけられずその後ろ姿を扉が閉まるまで見送ったのだった。 トレイシーの話しをほとんど聞いてなかったモルダーは、自動販売機の前でぼんやりと立ち尽くし その手に握られたコインは入り口にあてがわれる事なく彼の手の中に強く握りしめられていた。 7年もの時間をかけて探した妹は、結局自分の願いとは正反対にもう二度と会う事は出来ない。 記憶の無い彼にとって、ファイルの中の出来事は信じられない現実だった。 それでも全て真実だったの思う。記憶が無くても、心が覚えている。 妹を思うたびに痛んだ傷はどこか和らぎ、毎日感じていた辛さは今はほんの少しか感じない。 それよりももっと、やっと辿り着いた安心感が心を包む。 消える事のない傷だけれど、胸を刺す悲しみは今は少しの優しさに変わる。 「モルダー!!」 考えこんでいた彼の意識の現実に戻したのは後ろからの呼び声だった。 モルダーが振り返ると、片手に大きなファイルを抱えたジルがすぐ側まで来ていた。 「やぁ」 「体調は?」 心配にそうに訪ねて来る彼女に、モルダーは微笑んだ。 「大丈夫だよ」 「なら良かった!そうだちょうど今、あなたの所に行こうと思ってたのよ。これを・・・」 ジルは手に持っていた大きなファイルをモルダーへと差し出す。 「あなたの過去の経歴のファイル」 「えっ、わざわざ調べてくれたのかい?」 「何か力になれる事があるかと思って」 そうくったくなく笑うジルを見て、モルダーは彼女の目が赤い事に気付く。 「・・・まさか寝ないで?」 「えっ、ううん。そんな事ないわよ」 慌てて否定してみせる物の、明らかに嘘をつく彼女の心遣いはモルダーの中を暖かい物で満たした。 「・・・・・ありがとう」 本当に嬉しそうなモルダーの優しい微笑みにジルはほんのりと赤く染まると、はにかんで視線をそれらした。 「あなたはここで何を?」 「えっ、ああ」 ジルに質問され、モルダーはやっと自分がコーヒーを買に来た事を思い出した。 「コーヒーを」 彼が自動販売機を指差すと、ジルは少しだけおかしそうに笑った。 「何?」 「だってコーヒーを買うにしては、ずっと自動販売機を睨みつけてたから」 「そんな顔してたかな?」 「ええ、声をかけずらかったもの」 「そうか・・・」 モルダーは照れたように頭をかいた。 「何か考え事をしてたんなら、それを邪魔するつもりは無かったの。とりあえずそれを先に渡したくて」 「ジル・・・・」 「少しでもあなたの力になれれば・・・・」 「十分してくれてるよ・・・本当にありがとう」 モルダーは無意識にジルの手をそっと握ると、彼女の瞳を見つめる。 ジルは本当に照れたように首を振ると、ほんの少し見つめ合った後、その場から静かに離れて行った。 そんな彼女の後ろ姿を、モルダーは見えなくるまでただ見つめていた。 胸の中に感じる甘い感情。 優しい彼女の心遣いを素直に嬉しいと感じている。 記憶があってもなくてもジルは気持ちは変わらないと言った。 相棒のスカリーは、僕はXファイルに情熱をかけていたと話してくれた。 妹を見つけるために、全てをかけてきたと・・・。 でも、ずっと探し続けて来た妹には答えを見つけ、もう僕が全てをかける理由は消えてしまった。 記憶を失う前の僕は・・・なぜこの場所に今もとどまっていたのだろう。 それほどにまで大切なものが、ここにあったのだろうか? 失ってしまった記憶には、決して忘れていけない誰がいたのだろうか? モルダーは大きなため息をはくと、ジルに手渡されたファイルを黙って見つめた・・・。                            to be continued・・・。 ====================================== そんなこんなで後書きです(^^) なんかやばぁい展開になってますよね(汗)モルとジルが・・・(滝汗) なんか今のモルっちは記憶を失ってしかも25歳の若さまでバックしているので かなり素直な青年って路線でやってみました。 やっぱり回りは知らない人だらけで自分は記憶を失っている状態。 なのでかなり初々しく素直な状態じゃないのかと思い、純真モルって感じです☆ かわりに深く考え込む事はなくなったんのですが(笑) けれどやっぱりこんな状態でも自分に好意をよせてくれ自分の事をもっと知りたいとまで 言ってくれ、過去に記憶に繋がる手助けをして優しくしてくれる相手に自分も最初は何も 思わなくてだんだん好意が芽生えていきますよねぇ。(しみじみ) はっΣ( ̄□ ̄;) しみじみしている場合じゃない!!(汗) →そんなこんなで感想をw rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp