本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 なので、一切の責任は負いません(笑) ======================================      『 bond − 失われた存在を求めて − 』(6)                             from  涼夜 「いつかあなたと同じ意見を語る事が出来るのかしらね」 呆れたように小さくため息を吐く女性の前で、彼はおかしそうに微笑んだ。 「何ごとにも始まりがあるように、きっと意味があるんだよ」 「私達の意見の相違に?」 「そう」 深く頷いた彼の前で女性は腕を組むと、首を傾げた。 「つまり永遠に議論し続けるのさ。それを繰り返していくんだ」 「それのどこに意味があるの?」 二度目のため息が女性の口から漏れた瞬間、彼は満面の笑顔を浮かべた。 「お互い他には考えられない相手なんだよ、きっと離れる事のない・・・存在なんだ」 その言葉に女性は何も言わなかったが、それでも彼には分かった。 困ったように、それでも少しだけ嬉しそうに彼女が微笑んだ事が・・・・。 そして彼女の胸元に光る美しいネックレスが一瞬の閃光に包まれ、そこで" 彼 "は目を覚ました。 現実の世界へと。 「あっ・・・・」 ぼやける意識もまどろみの感覚を持たず、モルダ−ははっきりと夢から戻って来た。 カウチに伸ばしていた足を床に下ろし、夢の中の自分とその意識に残る相手の事を想う。 あれは誰なのか・・・・なぜこんなにも優しい気持ちなれるのだろう。 夢の中の会話も女性の顔さえもモルダ−の現在意識にはいつも残らなかったが、それでも彼は自分がその相手を求めているのだと強く感じる。 目を覚ますのと同時に感じる胸の懐かしさ、ほっとする安心感。 それは一瞬で消えてましまうけれど・・・心に強く残る。 「誰なんだ・・・・」 モルダ−は両手を組むと、神に祈るような体制で目を瞑った。 思い出せそうで思い出せない。届くようでいつも離れ行ってしまう記憶の夢・・・。 記憶の片隅で微笑むのは・・・あの相手は・・・。 雲を掴むような彼の探索の意識をそらしたは、部屋を叩く控えめなノックだった。 夜の10時を回り、しかも記憶喪失の自分の元にこんな時間に誰が? ほんの少しの疑問を感じモルダーがドアを開けると、そこには見なれた赤毛の女性が立っていた。 「やぁ・・・・」 モルダーはいささか面くらいながらも、目の前の相手を見た。 「いい?」 スカリーの同意を求める声に彼は一瞬躊躇したが、体を横にづらすし彼女を招き入れた。 そして部屋に一歩踏み込んだスカリーも言葉を失った。 いつもは乱雑に置かれている雑誌や新聞はきとんとしまわれ、部屋に入ると絶対脱ぎ散らかされる服は一枚も見当たらない。 キッチンの洗い物は全て片付けられて、かざりに等しい本棚には新しい本が何本が埋まっている。 完璧に片付けられたその部屋は、まるでスカリーの知らない部屋のようだった。 「これ・・・あなたが片付けたの?」 「えっ?ああ、そうだよ」 信じられないと言う顔のスカリーに、彼はそれがあたり前のように頷く。 「それで何かあったのかい?こんな時間に」 「時間?」 不思議そうに聞き返したスカリーに、モルダーはデジタル時計を指差す。 「10時だよ?」 「えっ、ああ・・・」 そう言われてスカリーは今が深夜前なのだと言う事に気付いた。 そしてそれを気にする彼に、記憶ない頃はモルダーに常識があったのだと実感する。 彼の知られざる一面にスカリーは苦笑したが、何も言わず口を開いた。 「出られる?」 部屋での短い会話を終えた後、モルダーは何も説明されないままスカリーの車に乗り込んでいた。 あまりに真剣な彼女の瞳に外に出る事を承諾した物の、車が走りだしてもどこに向っているのか彼は分からなかった。 それでも沈黙の空気と彼女の横顔に聞く事をためらわれたモルダーは黙っていた。 それでも・・・車の中から見る風景に、この道に何かを感じる。 場所は分からないし、どこに向っているのかも知らない。 それでも・・・・この道を何度も車で走ったような気がする。 そう、ごく最近に・・・・。 モルダーは目をつぶってその感覚に身を任していたが、やがてスカリーが車のブレーキを踏んで車を止めたので、彼女を見た。 「もっと早く来るべきだったのかもしれないわ。降りてくれる?」 スカリーはモルダーを見ずシートベルトを外すと車を先に降りた。 彼女に続くようにモルダーは車から降りると、静かな周りを見渡す。 ひんやりとした空気に肌を刺すような冷気でモルダーは後ろのスカリーを振り返ると口を開いた。 「ここは墓地?」 スカリーは短く頷くと、モルダーの手をとった。 「こっちよ」 導かれるように進むスカリーにその手をとられ、モルダーはゆっくりと彼女の後に続いた。 白い墓標に目を走らせながらも、モルダーはスカリーの背中を見つめていたが、やがてある一角で立ち止まる。 「モルダー・・・・」 いたたまれないようなスカリーの表所を確認した後、モルダーはその場に膝まづくと、そっと石碑に書かれた文字を確認した。 そこに彫られた文字を何度もなぞり上げる。 サマンサ・モルダー・・・それは彼の妹の名だった。そしてこれは彼女の墓でもあった。 「・・・・・ここに?」 震える声を押さえてモルダーはスカリーを見上げた。 でも彼女は悲しそうな目をすると、小さく首を振った。 「いいえ、名前だけよ・・・あなたがせめて形だけでも残したいって・・・・」 「そう・・・あの報告書どうり、肉体はここにないんだね」 「ええ・・・・」 「それでも、ここに・・・・?」 「・・・そうよ」 それでもここに眠っているといい切るスカリーの言葉にモルダーは文字をなぞる手を止めると彼女を睨んだ。 「ここに?肉体もその器もないのにサマンサはここにいるって言うのか!?文字が書かれてるから納得しろって!?」 「モルダー」 「そんなの出来ない!!今の僕には割り切れない!」 「モルダー!それでもあなたは事実を知ったわ!だったら記憶がなくてもその真実を受け止めちゃいけない!」 自分の方向に向けて強く言い切るスカリーの視線からモルダーは無理矢理視線を外す。 「逃げても問題は解決しないわ」 「でも・・・・」 「モルダー・・・辛いと思うわ、思い出せなくて苦しいと思う・・・でも、もうサマンサはいないの」 スカリーはモルダーの頬を両手で包むと、自分の方へと向かせた。 「もういないの・・・でもあなたはちゃんと、真実を見つけたわ・・・ちゃんと妹さんを見つけだした」 「でも僕は・・・・」 「ずっと側で見て来たのよ、私が一番分かってるわ」 「でも・・・・」 モルダーは小さな子供のように首を振ると、スカリーの両手をその大きな手で包みこんだ。 「でも・・・・助けられなかった・・・どうして・・・」 「あなたのせいじゃないわ」 「僕のせいだ。僕の責任なんだよ」 「あなたのせいじゃない」 スカリーはモルダーの体を引き寄せると、彼を強く抱き締めた。 「あなたのせいじゃない、絶対にあなたのせいじゃないわ」 「けど・・・・」 「たとえそうだとしても、あなたは自分の人生の全てかけて歩いてきたわ。彼女を見つけだすために」 「っつ・・・・・」 「あなたのせいじゃない・・・絶対に・・・」 モルダーを抱き締める腕に力を込めると、スカリーは涙を流す彼の耳もとで何度も囁いた。 " あなたのせいじゃない "と・・・・・。 何度も繰りかえされる彼女の言葉にモルダーは静かに涙を流す。 暖かいその腕の温もり中で、吐き出せなかった心の想いを涙に変えて、ただずっと泣き続けた。 何があっても離さないと想いのこもった、安心を感じる事ができるその腕の中で・・・・。 どれぐらいそうして、どのくらいその場所にいたかモルダーには分からなかったが、彼が次ぎに はっきりと意識を感じた時は、ベットの側で手を握ってくれていたスカリーの姿があった。 そのまま眠ってしまったのだろうか? スカリーはモルダーの手の辺りで椅子に腰掛けたまま身を預け、静かな寝息を立てていた。 モルダーは微笑むと、彼女の金褐色の柔らかい髪に指を通す。 そして何度も優しく頬から口元の輪郭をそっとなぞった。 その時、彼の中に雑念も混乱もなく、ただ一つ素朴な疑問が頭をかすめた。 彼女を・・・愛していたのだろうか?と・・・。 それは目を覚ました日から今日までずっと、彼が心の中で考えていた事だった・・・。 そして記憶を持たない自分自身にずっと問い続けていた。 側にいれば不思議と心は落ち着き、自然と笑顔になれる。 不安を強さにかえ、消化し切れない思いを優しさに変えてくれる。 何も言わずとも・・・ただそこにいてくれるだけで、暖かい気持ちで満たされる。 ・・・これは愛ではないんだろうか? 記憶を持たなくてもこんな気持ちにさせてくれるこの女性を、自分は愛していたのではないだろうか? ずっと・・・彼女だけを・・・? モルダーはそこまで考えると、小さく笑った。 その考えは彼には自分でも到底信じられなかったのだ。 こんなに側にいて、愛していたならきっと想いを伝えていたはず。 それにもし自分達が恋人同士だったら、目覚めた時に彼女から言っていたはずだ。 意識を取り戻して、記憶の無い日がもう一ヶ月も続いてるが、それでもスカリーは何も言ってはこない。 なら答えは簡単に自分達は恋人同士ではない。 それが今の彼が現状から下した彼女との関係の答えだった。 スカリーは仕事のパートナーであり、深く心から信頼しあっている相手。 ただそれだけなのだと、モルダーはずっと心の中で繰り返して来た。 それでも・・・彼女を見るたびに言葉に出来ない物が心をよぎる。 胸の中の呼吸が速度をまし、締め付けられるような感覚にみまわれる。 それが愛なのか、それとも深い友情なのか彼には答えを出す事は出来なかった。 言い様のない暖かさを感じるが・・・同時に、彼は分からない刹那さにも支配されていたのだ。 刹那さに似た、それは深い悲しみ・・・彼女への悲しさ。 なぜモルダーは自分がスカリーにそんな感情を抱いているかが分からなかったが 彼の中には彼女に対してこの二つの感情が存在していた。 愛しいような甘く痺れる感情・・・でもそれを決して許さない、許してはいけないもう一つの感情。 葛藤を繰り返しながらも、どこかでモルダーにも分かっていた。 スカリーに触れる時に、自分が感じる想いが愛しさよりも分からない悲しみを強く感じている事に・・・。 甘い感情で接するよりも、一歩下がってそこから彼女を見つめている方が自分に相応しいこと。 そして記憶の無いモルダーにもそれが自然のようにしっくりと来た。 そんな感情を・・・愛と呼ぶのだろうか・・・。 思い出せない、記憶の中の相手は彼女なのだろうか・・・。 スカリーの頬にかかる金褐色の髪を、モルダーは指先でそっと払う。 まるで少女のようなあどけない寝顔に、彼は微笑んだ。 それでもどこか疲れている彼女の寝顔には疲労の色を感じる。 モルダーは自分がそうさせている張本人だと思い出すと、苦笑した。 「・・・・モルダー・・・」 急にスカリーが声を出したので、モルダーは驚いて指先を止めた。 でもまったく起きる気配のない彼女に、今のが寝言なのだと彼が思った瞬間小さくスカリーの体が動いた。 「モル・・・ダー・・・モルダー・・・」 うわ言のように繰り返すスカリーの声には辛さを感じる。 一体夢の中の自分に何を訴えているのだろうと、モルダーが顔を近付けた瞬間、彼の指先に冷たい物が触れた。 それは堅く閉ざされたスカリーの瞳から流れ落ち、モルダーの指先を濡らす。 涙は普段見せないであろう彼女を泣かしてしまうほどの自分の存在を彼は憎く思った。 こんなにも気丈な人を泣かしてしまう、彼女の中の自分の存在を・・・・・。 泣かす・・・・。 モルダーは指先の動きを止め、スカリーの顔を見つめた。 泣かして・・・困らせて・・・彼女が自分にくれたのはかけがいの無い物だったのに・・・・。 そう・・・・どれだけの物を彼女といて得る事が出来たが・・・・。 一体どれだけの物を・・・・。 モルダーは自分の頭の中を駆け巡る考えに身を投じようとしたが、それは激しい耳鳴りと頭痛によってかき消される。 「つっ・・・・・」 苦しそうに両手で頭をかかえるが、それでも彼の記憶は早いスピードで鮮明にかけめぐって行く。 「ああっ!!!」 圧迫するようなあまりの痛みに耐え切れず、モルダーは声を荒げた。 その声に、スカリーが反応したのは一瞬だった。 「・・・・モルダー?・・・モルダー!ちょっ・・大丈夫?」 半分ぼやけた意識もスカリーはすぐに振り払うと、モルダーの顔を両手で包む。 「頭が・・・!頭が割れそうに痛いんだ・・・っう・・・あっああっ!!」 「すぐに車を呼ぶわ!!」 スカリーは立ち上がってコートの中の携帯を取り出すと、相手に向って大声で車の要請を求めた。 彼女の視線の先にはベットの上で頭を押さえて苦しむモルダーの姿が、痛々しいほどに写る。 「ああ・・・・!!」 遠い意識の中でモルダーはスカリーの声を聞きながらも、失ってしまった記憶を探していた。 ぼやける意識、はっきりとしない視界。 それでも・・・・そこに誰かがいる。 自分にとって大切で・・・・大切で・・・・・・。 混乱する意識の中、暗闇の中でモルダーは手を伸ばした。 自分に向って差し出してくれる手を握るために。 けれど、その相手の姿がどんどん遠ざかって行く。 「待ってくれ・・・・!誰なんだ・・・!!」 うわ言のように呟くモルダーの手をスカリーは強く握りながら、心配そうな視線を向ける。 「待ってくれ!!」 「モルダー!!」 スカリーに強く抱き締められ、モルダーの意識はそこで途切れた。 彼の脳裏には、通り過ぎる雨のように無くした記憶が高速で駆け巡っていた・・・。                         to be continued・・・。                      ====================================== とうとうパート6まで来てしまいました ((((((;゜Д゜))))) ぉぉぉ 一体この先どうなるんでしょう(汗) なんか長くなりそうな予感が・・・・。 スカちゃん本当に幸せになれるのかなぁ・・・(呟き)←自信がなくなって来た奴。 よければ感想を☆ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp でわ次でお会いしましょう(笑)                     *涼夜* 短い後書きだな・・・ ( ´∀`)