本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳あ りません。 ====================================== =============           『fou you』 (1)                            from 涼夜 肌が刺すように寒くなり、新雪の雪が舞う一月。 スカリーがキャビネット奥で一枚の写真を見つけてから、二週間がたとうとしていた。 あの日、写真をモルダ−の机の上に置いてからしばらくしてオフィスに戻ってみると、 そこに彼の姿はなく写真も消えていた。        その後モルダ−は普段と変わらず仕事をこなし写真については一言も触れなかったの で、スカリー自身も忘れかけていた。 そう、彼にかかって来たあの電話を聞いてしまうまで....。 モルダ−の出張中、検死解剖を済ましたスカリーが地下のオフィスに戻ると、デスク の上の電話が鳴り響いていた。 急いで扉を開けたが一瞬遅く、カチっと言う音とともに電話は留守電に切り替わった。 両腕にファイルをかかえていたスカリーは諦めたようにため息をついて、相手の声を 待つ。 しかし外の騒音は聞こえるが、相手からのなんの反応も無い。 不審に思ったスカリーが、受話器に手をのばそうとした瞬間...。 「...モルダ−?私よ、ロクサーヌ」 聞いた事のない女性の声に、スカリーの動きが止まった。 「ごめんなさい、職場にまで電話して....何度かあなたの家にもかけたのだけど、 繋がらなかったから....きっとお仕事、忙しいのね」 親しみを込めたその話し方に、スカリーは受話器を取る事が出来ずに立ち尽くしてい た。 「...今年はどうするのか聞きたかったの、帰ったら電話を下さい。あっ、この間 は懐かしい写真をありがとう。じゃ...」 それだけを言うと電話は短く切れ、スカリーは、はっとしたようにカレンダーを見た。 そして今年もまた、彼に事情を聞けない月が来た事を知った。 見なれたカレンダーには彼女が気がつかない間に、小さな赤い丸が記されている。 "1月24日"毎年この日が来ると一年中仕事中毒のモルダ−が珍しく、その日から二 日間休みを取る事にスカリーはパートナーを組んで三年目に気がついた。 「どこに行くの?」 何年か前に一度だけ聞いたことがある。 けれどモルダ−は目をふせて「ちょっとね」としか答えなかった。 それが彼の、触れられたくないプライベートな部分なのだと感じたスカリーは、それ 以来聞くことはなかった。 そして今年もその時が来た。 「スカリー、明日から息抜きに二日ほど休む事のにしたから」 出張から帰って来て三日後、オフィスに入って来たモルダ−は一枚の紙をスカリーに 向けた。 休暇願いだ。 「そう....」 スカリーは小さく呟くと、チラリとモルダ−を盗み見た。 あれから"ロクサーヌ"と言う名の女性からオフィスに一度も連絡はなく、あの返事を モルダ−がどうしたのかスカリーは知らない。 けれどあの女性の話し方で、モルダ−と彼女が毎年会っているんだろう事は、スカリー にもすぐ分かった。 そして電話を切る瞬間に言っていた"懐かしい写真をありがとう"その一言が、電話ご しの彼女の存在をそのまま示してた。 美しい薄い紫色の瞳に、茶色の髪....。 写真の中で、モルダ−と手を握って優しく微笑んでいた人。 「じゃ、悪いけど二日ほど頼むよ」 「え?ええ、気にしないで」 「ありがとう」 モルダ−はスカリーに笑顔を向けると、鞄の中に書類を詰め込みだした。 「....息抜きなのに、仕事を持って帰るの?」 その様子を見ていたスカリーが呆れたように口を開く。 いつもはそんな事を気に止めないスカリーに、"いかにも彼女らしい"と心の中で呟き ながらモルダ−は苦笑する。 「....今年はこれが条件なんだよ」 「.....大変ね」 「まぁ、いつもスキナーには迷惑以上の物をかけてるからしょうがないさ」 「スキナーには??」 おどけて言ったモルダーに、スカリーは即座に切り返した。 意味ありな微笑みを向けて。 その言葉を痛いほど自覚しているモルダーは、目の前の相棒に両手を広げて降参した。 気まずそうに視線を下を向けた彼に、スカリーは満足げな微笑みを返す。 「分かってるならいいのよ。休暇中にまで心配かけないでね」 「....了解」 きちんと釘をさされて、モルダーはますますバツが悪そうな顔を向けた。 「じゃ、二日後」 「ええ」 鞄を持ち上げて、コートを着たモルダ−はドアノブに手をかけた。 「モルダー!」 「ん?」 スカリーの声に、半分開いた扉の前でモルダーは振り返る。 「.....いい休暇を....」 消えいりそうな彼女の声にモルダーは軽く微笑んで、扉を閉めた。 静かに閉まった部屋の中で一人取り残されたスカリーは、今年もまたモルダーに事情 を聞くことが出来なかった自分に苛ついた。 今年こそは、聞こうと思っていた。 毎年そのタイミングを逃し続けてきたのだから....。 けれど言葉にしようとした瞬間、スカリーの中に"ロクサーヌ"と言う女性の影が浮か び、言葉が詰まってしまった。 矛盾している自分の気持ち。 でも心のどこかで、聞かずに済んでほっとしている自分がいる事に気付く。 「ダメね...」 スカリーは小さく呟き、モルダーが出て言った扉を見つめた。 自分の中に存在している二つの思い。 それは言葉にするにはまだ弱く、はっきりと形をなしえていない。 認めている自分と、否定する自分。 聞きたくない言葉を聞いてしまうかもしれない、言いたくない言葉を言ってしまうか もしれない。 そのほんの少しの恐怖が、今年もスカリーを捕らえて離さなかった。 彼女は小さなため息をつき、赤い丸で囲まれたカレンダーの今日"1月24日"の日付 けを見つめた....。 一歩足を踏み入れると別世界に感じる時がある。 懐かしく甘い思い出の場所....。 騒がしい街の騒音にときどきどうしようも無い吐き気を覚える自分。 過去のしがらみから逃れたくて、声を出せずに泣いている心。 諦める事と信じ続ける事が紙一重だと知ったのは、いつだったんだろう...。 自分のたどって来た道を振り返るたびに実感する残酷な現実。 忘れた事など一度も無い。 そう、一体どれだけの人間を傷つけて来たのか....。 諦めきれない想い、責め続ける罪悪感。 そして今年もまた、忘れないために受け止める。 「モルダー....」 久し振りに聞くその声に、彼は振り向いた。 ずっとそこで待っていたのだろう、彼女の肩にほんの少しの雪が降り積もっている。 「風邪を引くよ....」 彼はおだやかな微笑みを向け、自分の名前を呼んだその女性に歩み寄った。 遠い昔に諦めてしまった優しい"夢" 二度と、取り返すことの出来ない温もり。 「お帰りなさい」 それでもこの手は変わらず暖かい。 自分の手を優しく握る彼女の肩を、モルダーはゆっくりと引き寄せた。 「ただいま、ロクサ−ヌ....」 静寂の雪の中で、二つの影は寄り添う。 時間が止まったような感覚に、モルダーは空を仰いだ。 空から舞うこの雪が消える頃、季節は春に変わる。 一面をおおう白い雪は溶け、懐かしい草花の香りが辺りを包み込むだろう。 そして、美しい新緑が広がりを見せる。 懐かしい季節を感じた瞬間、ふとモルダーの脳裏を一人の女性の姿がよぎった。 ここにいるはずのない、相手。 「.........スカリー....」 ほとんど聞き取れない声でその名を口にする。 そして彼は思った。 春が来たら...そう、きっと彼女の瞳と同じ色の暖かい緑に、大地は支配されるだ ろう、と.....。 to be continued....。 ====================================== ============= で、できた....。やっと続編が(涙) ん?ストーリーが見えてこない??結局どうしたいんだって?(滝汗) こ、これから、これから(苦笑) ちなにこの中の1月24日とは日本では『初地蔵』の日だったりします。 前回の『遠い約束』の12月3日は『カレンダー』の日だったりもします(笑) 「歳時記、雑学ノート」の本から調べずみです☆(なんとなく得意げ) でわ、でわこの辺で(^^)/ よければ感想を→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp