本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 なので、一切の責任は負いません(笑) ======================================      『 bond − 空白の7年 − 』(8)                             from 涼夜 一夜明けて、スカリーは沈んだ表情のままモルダーの病室を出た。 連絡を受けて飛び込んできたジルとスキナーに状況を説明すると、彼女はそれ以上その場にいられず病室を後にした。 病室を出る時" ありがとう"と言ったモルダーの言葉が頭を離れない。 溢れ出しそうな涙を押さえて、スカリーは自分のアパートへと車を飛ばす。 モルダーは記憶を取り戻した、取り戻したように見えた・・・・。 でも・・・・・。 彼は全てを思い出したわけではなかった・・・・。 「モルダー・・・本当に思い出したの?」 心配の眼差しで覗き込こむジルに、モルダーは小さく微笑んだ。 「ああ、思い出したよ」 「・・・・でも全部じゃないんでしょ?スカリー捜査官に聞いたわ・・・・」 ジルの言葉にモルダーは困ったような笑みを浮かべ、小さく頷いた。 「・・・・Xファイル課に転属してからの、スカリーが配属されてからの7年間の記憶だけが思い出せないんだ」 「スカリー捜査官の事は思い出したの?」 「・・・・いや、少ししか覚えてない。彼女が配属されて、それから・・・少しだけ一緒に仕事をした事しか記憶にない」 「そう・・・・」 ジルが視線を伏せたので、モルダーが彼女に優しく微笑みかけた。 「そんな顔しないで、僕はそこまで気にしてないんだから」 「えっ?」 「なんだか、変に・・・頭がすっきりしてるんだ。今までは何も思い出せなくて いらいらしてたけど・・・でも今は記憶がなくても分かるんだ。僕はきっとあのXファイル課で、自分のために毎日をかけていたんだろうって」 「モルダー・・・・」 「僕があの課に転属願いは出したのは、見つけたい事があったんだ。 でも今はもうその答えも見つかってる。知りたい事には・・・答えが出たんだ」 寂しそうに微笑むモルダーの頬に、ジルはそっと触れた。 「手がけていた事件の詳細もファイルでよんだ、これからの7年間に僕がどんな事件を扱ってきたのかもね」 モルダーはジルの手をそっと包み込むと、強く握った。 「もし僕の目的に答えが出て無かったら、きっと思い出したいと願ったと思う。 でも答えは見つかったんだよ、ジル・・・僕の目的は7年後に達成されたんだ・・」 「モルダー・・・・」 「過去はいい事ばかりじゃなかった。どちらかと言うと辛い事だけだったんだ。 だからいつも思ってた。この道と、違う道を選んでいたら僕はどうなっていたんだろうって」 モルダーは思い出すかのようにそっと目を瞑った。 答えを見つけるためにFBIを選び、アカデミーに入った。 そこには大切な出会いあって、人を拒絶していた心を癒し優しくしてくれた。 でも友人との別離、死・・・そして探し求めていた大切な妹、過去への後悔には今はもう答えが出ていた。 彼にとって無くしてしまった記憶の中で答えの出た今にはもう、なんの興味もなかった。 翌日、モルダーが病院を抜け出したと連絡を受けたスカリーは、迷わず二人が出会った場所に向った。 地下に響く足音を懐かしく感じながら、スカリーは静かにドアを開ける。 彼女の予想通り、中にいた人物は驚いたように振り向いた。 「やぁ・・・・」 すぐに無邪気な笑顔を向けるモルダーにスカリーは、困ったように微笑んだ。 「病院を抜け出して何してるの?」 「・・・・ある程度記憶が戻ったから、もう一度この場所を見てみたくて・・・」 モルダーは懐かしそうにあたりを見回すと、壁に張られた指定席のポスターを見つめた。 「これは7年たっても変わらないんだな」 「いいえ」 スカリーの小さな否定の言葉にモルダーは彼女へと振り向いた。 「それ・・・一度燃えたのよ。それは同じだけどあなたの覚えてるポスターとは別の」 「燃えた?ここが・・・?」 驚いたようなモルダーの表情にスカリーは頷いてみせる。 「・・・・話くれるかい?聞きたいんだ・・・思い出せない7年の事を」 モルダーの真剣な声と瞳にスカリーは一瞬とまどった。 けれど自分が彼なら知りたいと願うだろう、そしてもし立場が反対なら彼が話したとスカリーは思い、頷いた。 「だけど、後でちゃんと病院に戻ると約束してくれたらね」 スカリーの言葉にモルダーは微笑むと両手を広げた。 「誓うよ、ドクタースカリー」 それから数時間、二人は狭いXファイル課のオフィスで色んな事を話し合った。 事件の事、このオフィスが燃えた事、何度もXファイル課が封鎖されそうになり、その旅に乗り越えて来た事。 その辛さや悔しさ、怒りはすべて口で伝えられる物ばかりではなかったが、それでもスカリーは思いの全てをモルダーへと向けた。 モルダーも決してスカリーの言ってる事を冗談にはとらず、どんなに話しも全て真剣に受け止めた。 そして二人が過ごして来た7年で自分がどれだけ彼女を信じ、助けられたのかを感じた。 二人の間には強い絆が生まれ・・・それは決して簡単には手に入れる事の出来ない物で、どれだけ救われたのか・・・・。 モルダーは考えるだけでスカリーに心の底から感謝した。 でも同時に、彼の心を痛い現実といいようの無い空しさが走った。 それほどの出来事を少しも思い出せず、彼女に心から全て同意出来ない事。 そして様々な犠牲を払ってずっと求め続けて来た愛しい妹の死。 結局自分は、他人を巻き込んで傷つけて、何も出来なかったんではないだろうか・・・? 7年もかけて得た物は真実には遠く、回りの人間を傷つけただけ。 スカリーは事件と7年の間の出来事しか話さなかったが、モルダーには分かっていた。 自分のせいで多くの人間が傷付いてきたのだろうと言う事を・・・・。 話の途中、どんどんモルダーの瞳が遠くなって行く事にスカリーは気付いていたが、話しを止める事は出来なかった。 彼には7年間の出来事を知る権利があり、それが彼を遠ざけてしまう事になっても自分には話さなければならない責任がある。 ずっと側で、彼を見て、彼と共に歩んで来たのだ。 スカリーは辛い気持ちを押し殺し、自分の身に起こった事だけを伏せて全てモルダーに話した。 話し終わった後、オフィスには小さな沈黙が流れたが、それを先に破ったのはモルダーの方だった。 「・・・・色んな事があったんだな・・・・」 「・・・・ええ、今話した通り・・・・・本当に色んな事があったわ」 スカリーは小さなため息をつくとモルダーとの歴史を振り返るように目を細めた。 「・・・でもあなたと一緒に仕事をして、私もあなたと同じに真実を知りたいと思うようになったのよ」 真剣なスカリーの口調にモルダーは黙って彼女を見つめた。 スカリーは嘘をつく女性ではない。 今の自分には彼女との半年間と言う短い記憶しかないが、出会った頃からそれは分かっていた。 生真面目で何事も冷静に物事を判断する、知識のある知的な女性だと。 それはきっと今も変わらないのだろう。 自分の記憶の中のスカリーはロングの髪で、幼さを感じる相手だったが、今の彼女はまるで別人のように美しく輝いてる。 でも、その瞳の中の、彼女だけが持つ強い信念は7年たって変わっていないとスカリーの瞳を見て、モルダーは感じた。 7年たっても、たとえ記憶がなくとも、彼女は変わっていないのだと・・・・。 モルダーは嬉しそうに微笑むと、スカリーを見つめた。 「ありがとう・・・そう言ってもらえて、感謝してる。でも・・・君の口から、そんな言葉が出るなんて正直驚いてる」 その言葉にスカリーはモルダーへと向き直ったが、モルダーは困ったような言いにくいそうな表情で彼女を見つめ返してた。 「その・・・今の僕は、君と出会って半年分しか記憶がないからなんだけど、君はすぐにここから出て行くと思ってたから」 「えっ?」 「ごめん、だけど本当にさっさと出て行くと思ったんだよ」 モルダーは申し訳なそうに微笑むと、スカリーから視線を外して言葉を続けた。 「だって僕らは出会った頃から正反対だったろ?口を開けば言い合いか、口論か。意見がまとまった事なんて・・・今の僕でも記憶上一度もないな」 モルダーの意見にスカリーは小さく苦笑する。 「それはあまり・・・今も変わってないかもしれないわ」 「やっぱりな」 モルダーは自分の予感が適中して笑い声を上げた。 「それに君は・・・・」 言いかけたモルダーが" しまった "と言う顔をして言葉を止めたので、スカリーは首を傾げた。 「何?」 「いや・・・・」 どこかバツが悪そうなモルダーの表情に、スカリーはさらに「何?」と続ける。 「なんなのモルダー?いいかけたんだから、最後まで言って頂戴」 スカリーの刺すような視線に降参したモルダーは言いにくいそうに口を開いた。 「だからその・・・・君は・・・・」 モルダーは天井を見上げてスカリーと目を合わせないようにすると、小さく呟いた。 「結婚すると思ったんだよ」 「!!!」 モルダーの言葉にスカリーの目が大きく開き固まったのは言うまでもない。 「何・・・それ?」 「プライベートな事だし口を出したく無くて、言わなかったんだけど・・・スカリー、君、恋人いただろう?」 「!!」 さらにスカリーは驚いたようにモルダーを見つめた。 「君は簡単に恋人を作るような人じゃないし、真剣な付き合いをしてるだって分かってたから 1年ぐらい仕事して、そして結婚してやめるんだと思ってたんだよ」 「モルダー・・・あなた知ってたの・・・?」 「まぁ・・・ちなみに名前も知ってるよ」 肩をすくめてモルダーは笑ったので、スカリーはもう言葉が出て来なかった。 「今はもう7年もたってるから時効かな?よく仕事帰りに待ち伏せされて・・・・」 モルダーが思い出したように笑いだしたので、スカリーは話しの続きが引っ掛かった。 「・・・・・もしかして、何かされたの?」 「いや、殴られたとかそんなわけじゃないんだ。ただ君の事を本当に心配してたんだなって」 「何があったの??」 スカリーの語尾を荒げた聞き方に、モルダーは彼女をなだめるように微笑んだ。 「対した事じゃないんだよ。ただ何度か君を巻き込むなって言われたけどね。 後、君とのデートを僕は何度も邪魔したらしいな。それは・・・言われてから気おつけるようにしたけど」 「そんな事があったの・・・」 「けど君を心配しての行動だよ。僕が反対の立場だったらやっぱり、大切な恋人を 振り回すような男、しかも" スプーキー "ってあだ名の奴にはガツンと言ってやりたくなるだろうしね」 「あなた一言もそんな事・・・・」 「君のプライベートだし、彼の真剣さも分かったから何も言わなかったんだ。 彼を責めちゃ可哀想だよ。でも、あれで君に対する見方が変わったのも確かだけどね」 スカリーが不思議そうな表情をしたので、モルダーは軽く頷いてみせた。 「きちんと、この仕事をしてくれているんだなって。君の人間性を紙の報告書以外で理解出来た」 モルダーの満足そうな微笑みに、スカリーは小さく微笑み返した。 「だから驚いてるんだ、まだ君が・・・ここにいて僕と7年間も一緒に仕事をしてたって事実に」 「反発もしたし、言い合いなんて日常茶飯事よ」 「はははっ、きっと楽しかったんだろうな。思い出したいよ」 モルダーは懐かしむように、記憶をたぐりよせるに優しくスカリーを見つめた。 「・・・・僕らは親友になれた?」 「・・・ええ・・・・」 「僕は、君を信じたんだね?」 「私もあなたを信じたわ、あなたは・・・信じてると言ってくれた」 「・・・・そうか」 モルダーは嬉しそうに、優しい表情で微笑んだ。 7年の時間の中でずっと願っていた「人を信じること」それを得られた事が彼の心を優しくさせた。 「ありがとう、スカリー・・・話してくれて」 「いいえ、あなたは知る権利があるもの」 目の前で自分を真っ直ぐに見つめるスカリーは、彼が知っているような彼女ではなく その容姿の変わりは記憶のないモルダーにも、はっきりと流れた7年の時間を感じさせた。 少女のようなあどけなさをなくし、美しい大人の女性に変わったスカリーに、モルダーは微笑む。 そして7年も仕事を通じて大切な関係は続き、今も一緒に過ごせる事を感謝した。 「本当に、ありがとう」 モルダーは満面の笑みを浮かべると、座っていた椅子から立ち上がった。 手元の数冊のファイルを鞄に押し込むと、かけてあったコートに素早く袖を通す。 「約束通り病院に戻るよ、1人で大丈夫だから」 送って行くと言いかけたスカリーだったが、てきぱきと片付けするモルダーを見て納得したようにため息をついた。 「ああ、そうだ」 オフィスを出る瞬間、モルダーは思い出したようにスカリーを振り向いた。 「彼は元気なのかい?」 「えっ」 「さっきの事、彼には内緒にしてやれよ。いくら何年も前でも恥ずかしいと思うし」 「ち、ちょっとモルダー・・・」 「彼はいい奴だ。きっと幸せになれると思うよ」 「・・・・・!」 「じゃあ、また」 モルダーは軽く手を挙げると、スカリーの返事を待たずに満足そうにオフィス出てドアを閉めた。 遠ざかって行く足音を聞きながら、追いかけて説明出来ない自分にスカリーは目を閉じた。 まさか彼がそんないい出すとは思わなかったし、逆にモルダーならしょうがないと彼女は思った。 確かにあの頃付き合っていた相手とは真剣だった。 それを少なからずモルダーは分かっていて、しかも今の彼の記憶にはその時の気持ちしかない。 モルダーの中のスカリーの評価は何に対しても真剣で、真面目。 これが最初からスカリーの印象だった。 だから、その彼女が真剣に付き合っていた相手と簡単に別れるわけがないとモルダーが思ったのも無理はない。 今思い出してみれば、一緒に仕事をするようになってから半年が過ぎた頃に、彼の態度は急によそよそしい物になった。 仕事以外では決して一緒の時間を過ごそうとせず、スカリーのプライベートを尊重するように距離を取り始めた。 彼女がその相手と別れるのに、それから対した時間はかからなかったが、モルダーはずっと知らない振りを続けていたのだ。 そう思うと心が酷く痛んだスカリーは、それが過去の事だと分かっていても割り切れない物が胸を締め付けた。 7年目に知った真実は彼女にとっては痛く、乾きのような感情が気持ちを支配して行く。 彼女には気づけなかった自分も、言わなかったモルダーも、責める事など今となっては出来るはずもなかった。 " あんたがフォックス・モルダー か? " "・・・・そうだけど、君は? " " フレイド・トーナーだ、あんたの相棒のダナ・スカリーの恋人だ " "・・・・・・僕に何か用かい?" " 彼女を下らない事件に引っ張り回すな!彼女は物じゃない!!" "・・・・でもそれは仕事だ " " 仕事?無い物を追いかけ回してるのかが!? " " 君は結局、僕に何がいいたいんだ? " " あんたと仕事し始めてからダナには生傷が耐えない!一体どんな事をやらしてるんだ!? " " 僕は強制してやらせてるつもりはない、嫌なら止める事だって出来る " " 週末も休暇も与えないでか!? " " 本当に嫌なら止めればいい。彼女には選択して選ぶ権利がある、僕に突っかかる前にスカリーときちんと話し合ったらどうだ? " " 彼女は俺の話なんて聞きいれない " " 物じゃないからだろ? " " ・・・・・!!" " ・・・だけど、僕が勤務外に君と彼女のプライベートに立ち入ってたなら、それは素直に謝るよ、すまなかった " " えっ・・・・" " 今度からはきちんと配慮して考える、君と彼女の間に波風を立てる気ないんだ " " 本当に・・・・? " " 彼女は仕事のパートナーとしては最高の相手だよ、だから幸せになって欲しいと思ってる " " モルダー・・・" "・・・・それに、抜けだせる内に抜け出した方がいい・・・・今ならまだ間に合う " " 今なんて・・・・ " " いや、なんでもないんだ・・・・・ " そう、今ならまだ間に合う。    こんな風に想ってくれる相手がいる彼女は、きっと幸せになれる・・・・。 「・・・・ルダー・・・モル・・モルダー!!」 「えっ!?」 耳の奥まで響くような大声で自分の名前を呼ばれて、モルダーは驚いたように顔を上げた。 「どうしたの?具合悪い??」 心配に自分の顔を覗き込んで来るジルに、モルダーは一瞬で我に返った。 「あっ・・・ゴメン、ちょっと考え事してたんだ。大丈夫だよ」 「よっぽど大切な事でも考え込んでたの?話しは聞いてないし、料理には手もつけてないわ」 「ああっ・・・本当だ」 ジルに言われてモルダーは自分の皿の上の料理が少しも減ってない事に苦笑する。 「しょうがない人ね」 ジルはおかしそうに微笑むと、食事を続けた。 今日の朝に退院したモルダーは一緒に食事を・・・と言うジルの誘いにレストランへと向った。 最初はジルと会話を楽しみながら彼女の気づかいを嬉しく思い話しに夢中になっていたが ふと目をやったカウンターのレジの所で金褐色の髪の女性を見てから、意識がそれていった。 思い出したのは昨日スカリーに話した彼女の恋人の行動の事。 モルダーにとってそれは最近の出来事ようだったが、実際あれから7年も立っている事に、彼はまだ少しだけ馴染めずにいた。 鮮明にどんな会話をしたのかも思い出せるのに、それはもう7年も前の事。 たとえモルダーにとって昨日の事でも、現実の世界、ここではそれは7年前の一瞬の出来事でしかない。 あれから・・・7年もたっている。 記憶の無い彼にとっては信じられない気持ちだったが、TVやニュースの今の情報を疑う訳もなかった。 「ねぇ、モルダー・・・・」 「ん?」 「・・・これから、どうするの?Xファイル課に戻るの?それとも記憶が戻るまでプロファイリングに専念するの?」 「・・・・・・」 「あっ、ごめんなさい・・・私・・・」 視線をテーブルに移したモルダーに、ジルは困らせたと気付いて謝った。 「・・・いや、いいんだよ。気にしないで、それにきちんと考えないといけない事だしね」 「・・・・じゃあ・・・どうするか決めてるの?」 「いや、まだ・・・休暇はまだたくさんあるからスキナーにはゆっくり決めろって言われたよ」 モルダーは肩をすくめて微笑んだので、ジルも小さく笑った。 「正直まだ決めてないんだ。・・・休暇中に記憶が戻るとは限らないしね。 それに、もしかしたらもう何も思い出せないかもしれないし・・・・」 「そう、そうよね・・・・ごめんなさい、私のせいで・・・・」 モルダーはジルが俯いたので、彼女が涙を流しかけている事に気付く。 そっとテーブルの上の彼女の手を握ると、顔を上げたジルに優しく微笑んだ。 「もう・・・本当にそんなに自分を責めないで欲しいんだ。君は良くしてくれた。逆に感謝してるぐらいなんだよ」 「えっ・・・・」 「君は献身的に色々と力になってくれて、記憶を失ってもリハビリに手伝ってくれて・・・感謝してるんだ」 「そんなの当たり前だわ!私の責任なんだから!!」 怒るように声を上げたジルにモルダーは一瞬驚いた物の、落ち着かせるために彼女の手を強く握った。 「本当に、いいんだよ・・・・君が助ける価値もないような人間だったら僕は自分をきっと呪ってだろう」 「・・・・モルダー・・・」 「でも、君は凄く素敵な人間だ。気持ちも、考え方も・・・だから凄く今の僕は救われてるよ」 モルダーの言葉の奥の優しさに、ジルはさっきとは違う涙が頬を伝いそうになって手で拭った。 「・・・・それに・・・・それにね、本当はそこまで考え込んではいないんだ」 「えっ?」 彼の以外な発言にジルは驚いたように目を開いた。 「きっと僕にとって、探し出していた物の答えを見つめる事が"今"では出来てるからかも しれない。心の中は不思議と穏やかで、優しいんだ・・・もしかしたら・・・・」 「・・・モルダー?」 「・・・・もしかしたら、思い出す必要が無いのかもしれない」 「・・・・・!!」 「無理に思い出す必要もないのかもって・・・考えてるんだ」 「・・・それでいいの?」 「・・・・まだ分からない。思い出すべきなのか、思い出せるのか・・・・」 「モルダー・・・・」 ジルは優しくその名を囁くと、強くモルダーの手を握り返した。 「覚えてるかい?病院で言った事を・・・」 「・・・・心に引っ掛かってる物があるって言った事?」 ジルは真剣な面持ちで聞きかえした。モルダーも真顔で頷く。 二人の距離がこの場所から進まないのも、モルダーが彼女の思いに答えないのも、この事が原因だった。 まだ少しの記憶も戻らないモルダーが思いを告げたジルに言った「心に引っ掛かってる物」 それがなんなのか彼女は分からなかったが、でもモルダーの心の深くに強く存在してるのだと思う。 だから記憶がなくとも、彼が自分の気持ちを簡単には受けれ入れないのだと・・・。 ジルにとって、モルダーの「心に引っ掛かってる物」が彼の恋人や想い人なら耐えられる物ではない。 モルダーに思い出して欲しい気持ちと、思い出し欲しくない女としての気持ちが、ジルの中で葛藤を繰り返していた。 「それが何か今だに分からないけど、でも・・・きっとその何かが僕の忘れている記憶の全てなんだと思う」 一言、一言を噛み締めるようにモルダーは言葉を口にする。 「思い出せれば、きっと記憶も戻る・・・でも、頭にプロテクトがかかってるみたいに、思い出そうとすると頭痛がするんだ」 「・・・・お医者さまはなんて?」 「この状態が続くのは良くないって、体に影響が出ていつ倒れるか分からないから」 「そんな・・・・」 「聞いてくれ、ジル・・・・」 モルダーは握りしめていた彼女の手を両手で覆った。 そして真剣な瞳で彼女を見つめる。 「・・・まだ決めてないけど、もし・・・僕が、思い出せない記憶を切り捨てて生きて行くと決めたら・・・・」 「モルダー!!」 「まだ決めては無いんだ。近い内に答えを出すよ・・・・でももし僕がそう決めたら・・・」 「・・・・モルダー?」 「そしたら、君の気持ちに答えていきたいと思ってる」 「・・・・・!!・・・・本気で?」 モルダーはジルから目をそらさらずに深く頷いた。 「もし、君の気持ちがまだ変わってなかったら・・・だけど」 弱い口調で自分を見つめるモルダーの手を、今度はジルが強く握り返えした。 「私の気持ちは変わってないわ・・・!!本当よ!!」 「ジル・・・・」 「変わってないわ、モルダー・・・あなたに話したままよ・・・・」 「・・・・・ありがとう」 モルダーは彼女の言葉に気持ちが暖かくなる物を感じて優しく微笑んだ。 彼女なら、愛していけるかもしれない・・・・。 消え去らない孤独も、胸を押す寂しさも、彼女となら忘れられるかもしれない。 モルダーがジルに支えられていたのは確かだった。 記憶の無い自分を想ってくれ、たとえ記憶が戻らなくても関係ないと強く断言して、まっすぐにぶつかってくれる。 心の中の影は消えないが、それが前に進めない原因になっているなら・・・断ち切らなければいけない。 「だけど・・・・」 「ん?」 「・・・・スカリー捜査官の事はいいの?」 その一言に、モルダーは驚いて目を大きく開いた。 「・・・・・・・スカリー??」 確かめるようにその名前をジルに繰り返す。ジルが頷いたので、モルダーは首を傾げた。 「なんてそこにスカリーが出て来るんだ??」 「だって・・・・!」 「ま、待ってくれよ。スカリーは仕事のパートナーで友人だよ?それ以上でもそれ以下でないよ」 「でも・・・・」 「なんならスカリー本人に聞いてみるかい?」 モルダーが肩をすめておどけて微笑んだので、ジルは言葉に詰まった。 「・・・・でも、あなたは・・・・」 「僕は?」 「彼女といると楽しそうだわ」 「楽しそう?それは・・・・・」 「それに、彼女と一緒にいて今の記憶も思い出したんでしょ?」 「ま、まぁそうだけど・・・・」 「じゃあ・・・・」 「でも聞いてくれ、ジル」 モルダーは少し強い力で彼女の名を呼ぶと、一呼吸置いて嘘の無い気持ちを話す決心をした。 「確かにスカリーといると僕は笑顔でいられるし、落ち着く。これは否定はしないよ、でも・・・」 今にも泣き出しそうなジルの頬にそっとモルダーは触れる。 「でもそれが愛なのか?って聞かれたら違うと言い切れる。彼女の事は好きだ、でもそれは友人としてだ」 「モルダー・・・・」 「きっと・・・無くした記憶の僕も、今の僕と変わらない気持ちだったんだと思う。 友人として、仕事のパートナーとしては僕と彼女はとてもいい関係だったんと思う、でも恋人同士じゃなかった」 「・・・・7年も側にいたのに?」 「だからこそ僕が彼女を、彼女が僕を想っていたなら、関係は変化したはずだよ」 「モルダー・・・・」 「でも何も変わってはいない。彼女も僕とはいい友人になれたって昨日きちんと言ってくれたよ」 「そうだったの・・・・ごめんなさい、私・・・・」 「いいよ、別に」 モルダーはジルが納得したのを感じて、軽く笑った。 そう・・・確かにスカリーといて記憶を取り戻した。だけど、彼女と共に仕事をした7年は思い出せなかった。 スカリーは美しくなったと思う。お世辞でも社交辞令でも無く彼は本心から思った。 病院の屋上で記憶を取り戻しても、一瞬誰か分からなかったのだ。 髪型も、雰囲気も、それはモルダーの知っているスカリーではなかった。 記憶の中の彼女より、感じた事のない" 強さ "が伝わって来た。 そして・・・彼女が見つめているのは、自分ではない気がする。 「僕だって、まさかスカリーが7年もあの場所にいるなんて思わなかったからね」 くったくなく笑うモルダーに、ジルの心は切ない物が走った。 同じ女性だから分かる。なぜあの場所で彼女がモルダーと仕事を続けてこれたのか。 なぜあんなにも優しく、彼女がモルダーを見つめるのか・・・・。 「モルダー・・・私・・卑怯な人間にはなりたくないわ」 「えっ?」 「でも、私はそんな出来てる人間でもない。だから・・・何も言わない・・・」 「ジル?」 「女の意地ね」 「さっきから何言ってるんだい?」 「見えない相手と戦ってるのよ」 意味を掴めないモルダーは不思議そうに彼女を見つめていたが、ジルは困ったような微笑みを浮かべた。 「モルダー・・・もしあなたが、記憶を切り捨てて生きて行くと言うなら・・・」 「・・・・ジル?」 「その時は、一度だけきちんとスカリー捜査官と話し合ってね」 「・・・それは、もちろんそうするよ」 「ちゃんとね・・・私の事は、それからでいいから・・・」 " あの二人はきっと愛しあっている " そう言ったトレイシーの言葉を伝えない自分を卑怯だと思う。 でも話してしまえばモルダーは自分の前から去ってしまう。 けれど彼に失った記憶の覚醒をして欲しいと心から願っている自分もいる。 モルダーが記憶を思い出して自分の前から去って行くなら、それを引き止める事は出来ない。 だからせめて・・・記憶が戻る前に、自分を想って欲しい。 その前に・・・・・。 胸の中の罪悪感が心を責めながらも、ジルはそう思わずにいられなかった・・・・。                          to be continued・・・。 ====================================== すいません(土下座) 言い訳する前に謝ります。本当にすいません許して下さい。 なんでこんなにスカちゃんをいぢめるんだよっ!!って? いや・・・とくに理由はないんっすけどね(汗)しいて言えば・・・なんとなく? ( ゜Д゜)ゴルァ!!! ひぃ(゜Д゜ノ)ノ<ごめんなさい(涙) こんなんでこの先やっていけるのか?(汗) そんなこんなで感想をw→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp