本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 なので、一切の責任は負いません(笑) ======================================      『 bond − 優しい嘘 − 』(9)                             from  涼夜 「話しがあるんだ」 そう彼が切り出して来たのは、仕事が終わった時間だった。 真剣なその瞳にスカリーは覚悟を決めると、一度だけ小さく頷いて 落ち着いて話せる場所がいいと言う彼を、家へと招いた。 「どうしたのモルダー?」 玄関の白いドアから立ち尽くしたまま中に入ってこないモルダーに、スカリーが心配にそうに訪ねた。 「いや・・・なんでもないんだ」 「じゃ、入って。紅茶でも入れるわ」 そう言って奥のキッチンに入って行った彼女に続き、部屋の中に入ると、彼の心に何か暖かい物が広がった。 なんだか酷く懐かしく感じる。 この部屋の空気、スーツ姿じゃないスカリー、部屋を包む紅茶の香り。 ここいる事が・・・まるで当たり前のような、自然の事のような気がして来る。 モルダーは部屋の中をぐるりと見渡すと、本棚に飾られた写真に気付いた。 腰かけていたソファーから立ち上がり、何個か並べられた写真立ての前に立ってそれを手に取る。 家族の写真だろうか? 母親と、父親と・・・彼女の兄妹らしい人物も写っている。 「?」 並べられた写真の奥に、隠すようにもう一つ写真立てがあった。 軽い興味にひかれたモルダーが写真に手を伸ばすと、そこに写っていた物に息をのんだ。 最近とは思えないその写真は、数年前の物だろう。 そこには金髪の愛らしい少女を抱いて愛しそうに見つめるスカリーと、二人を大切そうに見守る自分の姿があった。 まるで家族のように・・・・・。 モルダーは氷りついたように動けず、ただその写真を見つめていた。 「モルダー?」 「えっ?」 「どうし・・・・!!」 自分が手にしている写真を見た彼女の表情が一変したのは明らかだった。 「スカリー・・・・これ」 スカリーはモルダーから瞬間的に目をそらし、二人の間には小さな沈黙が流れた。 やがてスカリーが小さなため息をついて、モルダーの手から写真立てをそっと抜き取った。 「昔、事件で知り合った子よ」 そう言って写真を見る彼女の瞳は深い悲しみと刹那さに支配されていた。 モルダーにも分かっていた。この話題に触れるべきではないのだと。 でも彼には、その写真の中に自分達の真実が隠されている気がして、どうしても訪ねなければならなかった。 「その子は・・・・君の子じゃないのか?」 「!!」 スカリーの体はびくりと震え、その反応にモルダーは自分がまだ思い出せない7年間の全てを知らないだと確信した。 「君はまだ・・・僕に話してない事があるんじゃないのか?」 「・・・・・・・」 「どんな些細な事でも話してくれ。たとえそれが君自身の事でも僕に関係ないはずなんてない、スカリー」 モルダーはスカリーの肩を掴むと、その瞳を真っ直ぐに見つめた。 真っ直ぐなモルダーの瞳、それはたとえ記憶を失っても、自分を思い出せなくても・・・真実を求める情熱は変わらない。 その熱い思いにスカリーは自分の瞳が潤んで行くが分かったが、どうしようも出来なかった。 「何か隠してるなら、話してない事があるなら、今言ってくれ」 「モルダー・・・・・・」 「頼む、スカリー」 話してしまいたい。自分に何があったのか、写真の中のこの少女が誰なのか、思い出して欲しい。 けれど話してしまえば、モルダーが苦しむ事が彼女には分かった。 そして思い出せない上に責任と苦しみを与えてしまう。 それが本当に正しい事なのか・・・・・。 その問題にぶつかると、彼女が出す結論はいつもと同じだった。 「何も・・・ないわ」 見つめあったままで、スカリーは小さく呟いた。 瞳から涙が流れ出そうになるのを最後の理性で必死で押し止めて、モルダーに背を向ける。 「スカリー・・・・」 「紅茶がさめるわ、飲みましょう」 写真を手にもってリビングへ戻ろうとした彼女の腕を、モルダーが引き寄せた。 「モル・・・!」 「どうして嘘をつくんだ?話してくれ、スカリー」 「嘘なんて・・・・」 「いや、君は僕に何か隠してる。君の嘘は下手だ。どうして・・・・!!」 責めるようなモルダーの口調に、スカリーの中の我慢していた、もう一つの感情が弾けた。 決して表に出してはいけない、見せてはいけない感情が・・・・。 刹那さよりも、愛しさよりも・・・・悲しいほどの" 怒り " 「どうして・・・?」 スカリーは唇を噛み締めると、モルダーの腕を振りほどき距離をとって彼へと向きなおった。 「どうしてなんて、私があなたにいいたいわ!どうして、・・・どうして・・・記憶を失ったのよ・・・・!」 本当に言いたい事はこんな事じゃない。 こんな事を言ってもどうしようもない事、何も始まらない事もスカリーには痛いくらい分かっていた。 モルダーを責めても何も始まらない。 それでも、押さえて耐えていた物が彼女の理性を奪ってしまった。 「どうして忘れてしまったの?なぜ?・・・・どうして・・!!」 「・・・・スカリー・・・・」 呟くようなモルダーの囁きにスカリーは、自分が口走った事に我に戻った。 傷付いたような、驚いたようなモルダーの表情。 決して言ってはいけなかった言葉の数々・・・・。 スカリーは走って寝室のドアを閉めると、両手を手で覆い声を殺して涙を流した。 そして初めて見せたスカリーの涙、自分を忘れてしまった彼女の責めの言葉に、モルダーはただ驚いて立ち尽くした。 それでも、それがずっと耐えていた彼女の本当の気持ちなのだと受け止めると、思い出せない自分を彼は酷く呪った。 二人の間に何があったのか、それは彼が失ってしまった7年に存在していて、手で拾らう事も感じる事も出来ない。 歩んで来た確かな過去だけにしまわれた歴史。 モルダーはスカリーの寝室の部屋の前に立つと、そのドアにそっと触れた。 「スカリー・・・そのままでいいから聞いてくれ。君との事を、一緒に過ごして来た時間を思い出せなくてごめん」 たった一枚のドアを挟んだ向こうの彼女に、この言葉は届いているだろうか? 「もし僕が君なら、きっと君と同じ気持ちになると思う。だけどこれだけは信じてくれ・・・・」 モルダーはドアに両手をつくと、それがスカリーのように語りだした。 「君を信じてる。記憶が無くても思い出せなくても・・・心が感じるんだ。君だけなんだと・・・7年間、君だけだったんだと・・・・・」 どんな時も、真実の言葉しかスカリーには届かない。 だから彼は、思い出せない記憶の中でも嘘偽りない自分の言葉を彼女へと捧げた。 信じている。それは初めて会った時から記憶を失っても今も変わらない。 始まりから、出会った日から彼女だけを信じて来た。 だから過去にあったどんな話しも受け入れてこれた。 「君を信じてるんだ、スカリー」 扉の向こう側の彼女からの反応はなかった。 でも聞こえてはいる、届いてはいる、言葉が真実なら、彼女は答えてくれる。 「だから君がまだ僕に話してない事があるのだとしたら、話して欲しい。 それでも君がその写真も、何も隠していないと言うなら・・・僕はその言葉を信じるよ・・・もう二度と聞かない」 モルダーは両手をドアから放した。 「今日はゆっくり考えてくれ・・・僕の話しは明日するよ。じゃあ・・・お休み」 モルダーは扉の向こうのスカリーに話すように優しく言うと、ドアを閉めて部屋を出て行った。 ドアが閉まる音と同時に、そっと寝室の扉が開かれた。 さっきまでそこにいて、確かに自分を信じていると言った彼がいた気配がスカリーの胸を締め付けた。 こんな時にまで優しく人を思えるモルダー自身に、涙が溢れて来る。 なのに責めてしまった。しょうがない事だと分かっている。 これが彼の責ではない事も、不慮の事故だった事も・・・・でも頭が理解していても心がついていけない。 なぜ忘れてしまったのか、どうして思い出せないのか。 二人で過ごした7年も、辛い時に側で支えあった記憶さえも今の彼は持たない。 でも信じていると言ってくれた彼に、口から伝えるより自分自身で思い出して欲しいと願うのは、無理なのだろうか・・・。 永遠とも一瞬とも言える夜が明けて、スカリーは心が決まらないままオフィスへと向った。 モルダーはまだ休職扱いされおり、オフィスで顔を合わす事は昨日の事から考えられなかったが、彼女の気持ちは重いままだった。 モルダーは決して答えを急がせたりしないだろう。 気持ちが決まるまで、きっと待ってくれる。 モルダーのその優しさが、よけいに彼女の心を追い詰めていた。 そして彼を責めてしまった罪悪感、モルダーには何一つ責任はないのに・・・・。 「・・・・スカリー捜査官」 同じ事を繰り返し考えていたスカリーは、自分の名を呼んだ女性を驚いて見つめた。 「・・・・あなた・・・」 「ジルで結構です、少しお時間頂けますか?」 「えっ」 「モルダーの事です・・・彼の体の事です」 「・・・・・!!」 PM 8:00 これからそっちに行くと言うスカリーの電話を切って、モルダーはカウチに深く座り込んでいた。 電話の向こうのスカリーの声は、酷く静かで今にも消えそうなぐらい小さかった。 スカリーは結論を出したのだろうか? モルダーは自分の手の中にあるちぎれたクロスを見つめた。 確信ではないが、それでも彼はやっと記憶を無くしてから遠く求めていた答えに漠然と辿り着いた。 いつも求めていた記憶の中の、触れられない優しい気持ちにしてくれる心の" 影 " 届かない存在の、いつもその姿を垣間みる事できなかった相手・・・・。 それが、彼女・・・スカリーなのだろうと、彼は想った。 足りない心のピースにその一文字を入れるだけで、固い壁が崩れて行く。 謎が解けるように、自然のままでいられる。 彼女に恋人がいる事は分かっている。今もまだ付き合っているのだろうと。 でも彼はきちんと確かめなければならなかった。自分が彼女を愛していたのか・・。 今の彼はスカリーを愛してるとは言えなかった、けれどその気持ちをジルに問われた時、完璧に否定出来なかった。 友人とはして大切で、親友で・・・心から信じている。 その気持ちに嘘はない。 けれど1人の女性として愛してるのか聞かれたら、今の自分の答えはNOだろう。 でも7年後の自分の気持ちを訪ねられたら、はっきりとNOと言えない。 愛していたのかもしれない。否定できない自分に夕べ彼女と会って気付いてしまった。 そう、その気持ちを違うと否定出来ぬほど、彼女の名前、存在だけで気持ちが優しくなれるのが分かる。 それはきっと、心が覚えている彼女と過ごした日々の時間。 記憶じゃなく、理屈じゃなく・・・心が感じる響いてくる確かなもの。 暖かい気持ち、穏やかな優しさ・・・ たとえその答えが自分にとって酷な事でも、モルダーははっきりさせなければいけなかった。 誰でもない、前を進む為に・・・・。 彼が決意して顔を上げるとのほぼ同時に部屋の扉がノックされた。 ノックしていた相手は、中に彼が入る事を確信しているように、そっとドアを開く。 カウチに座っていたモルダーは、ドアを閉めて自分へとゆっくりと歩いてくる彼女を黙って見つめていた。 小さな沈黙の中でモルダーは彼女の手を取ると、自分の横へと座らせて目をそらさず口を開いた。 「答えは出たのかい・・・・スカリー」 スカリーは何も答えなかったが、それでも目をそらさずに小さく頷いてモルダーの手に自分の手を重ねた。 そして強く握ると、真っ直ぐに彼を見つめた。 「・・・・あなたに一つだけ聞きたい事あるの」 モルダーは小さく首を傾げて、スカリーの次の言葉を黙って待った。 スカリーはさらに強い力でモルダーの手を握っていた自分の手に力を込めると、震え声を押さえて息を飲んだ。 「モルダー・・・あなたにもし、まだ隠してある事があると言ったら・・・あなたはどうするつもりなの?」 「えっ・・・・」 「答えて、とても大切な事なのよ」 モルダーは一瞬スカリーの言葉に困惑に表情を浮かべたが、すぐに真剣な瞳に変わり自分の手を握っていた彼女の手を両手で包み込んだ。 「もしそうなら・・・思い出すよ。時間がかかるかもしれない、だけど絶対に思い出す」 「モルダー・・・・」 「苦しいかもしれない、辛いかもしれない。だけど・・・君の事だ、思い出したい」 「・・・・心からそう言ってるの?」 「それが君にできるたった一つの事で、7年を思い出せるなら・・・・スカリー・・・僕の中の一番は今、君なんだ・・・」 モルダーは自分の未来への道を今、一番信じる彼女に託した。 彼はもう決意していた。 スカリーが隠してる7年の中の彼女自身にあった出来事、それを思い出してほしいと、思い出すべきだと彼女が願うなら どんなに辛くてもモルダーは失った7年を切り捨てず、探し続けようと・・・。 でも彼女がそれを望まないなら、失ってしまった7年を切り捨てて・・・今の状況の中で新しく生きようと・・・。 「・・・・・答えてくれ、スカリー」 この真っ直ぐな瞳も、真実を求める情熱も、今すべてが自分に向けられていると、スカリーは強く感じる。 永遠に追いつけないと思っていた物・・・。けれどその熱い熱情は変わらない。 何も変わっていないだと、スカリーは納得した。 自分が愛していた彼が、記憶を失っていても、何一つ変わっていないと・・・。 たとえ何も覚えていなくとも、目の前にいるモルダーは、自分が愛した彼その人だと・・・。 「モルダー・・・・」 スカリーは涙が頬を流れる前にモルダーを引き寄せて抱き締めた。 この腕に、その安心できる温もりに全てを任せていたい。 このまま、時間が止まってしまえばいい。 スカリーはモルダーの首筋にその身を任せ、目を閉じた。 なぜこんなにも想っているのに・・・・この想いが、二人を離してしまうのだろう・・・・。 なぜ・・・・・。 彼の腕の中で、彼女は数時間前にジルの口から聞いた真実を思い返していた。 話しがあると言ったジルがスカリーを連れ行ったのは、モルダーの入院していた病院だった。 そこで彼女は、モルダーが隠していた事実を知らされた。 たった一枚のカルテ、でも医学を心得ているスカリーにとって、それは気付きたくない真実の証拠だった。 そして記憶喪失の専門科と脳外科の専門医から聞かされた痛い現実の言葉。 記憶を取り戻そうとするたびにモルダーを襲う激しい頭痛が彼の細胞を破壊してる事。 その激痛に脳が耐えられず、命にも危険が繋がっている事。 一つ間違えれば、精神の崩壊を招いてしまうかもしれない事。 全てがスカリーとっては激しく悲しい事実だった。 「モルダーは全てを知っていて、あなたには黙っています」 ジルの瞳には薄らと涙が溢れていた。 「きっとあなたには、道を決めるまで言わないはずです。 モルダーはたとえ自分の命の関わっても、あなたが思い出して欲しいと言えば・・・黙って、思い出そうとするでしょう」 「ジル・・・・」 「でもそれは、彼の命の危険に繋がる・・・!!スカリー捜査官!!」 ジルが言いたかった事、それは一つ。 これ以上、モルダーに記憶を取り戻させるために彼を過去に戻したら、変わりに命を奪ってしまうかもしれない。 だからモルダーから離れるべきだと、決して過去に触れさてはいけないと・・・。 痛いぐらいに悲しかった。 こんなにも思い出して欲しいのに、この想いが彼を追い詰める。 側にいる事さえも叶わなくなる。 それでも、思い出して欲しいと願うのは・・・エゴだろうか? 「スカリー・・・・?」 自分を抱き締めたまま動かなくなった彼女に、モルダーはそっと触れた。 その瞬間、小さく彼女の肩が震えている事に気付く。 泣いている・・・? 「スカリー・・・・」 涙を見られないようスカリーはさらに強くモルダーを抱き締めた。 自分の名前を優しく呼ぶモルダー。 暖かい眼差しでいつも見つめてくれていた人。 そして誰よりも愛してる相手・・・・。 ジルの言う通り、モルダーはスカリーの問いに思い出すと答えた。 命の危険に繋がる事だと分かっているのに、それを自分には言わず、それでも思い出すと・・・・。 自分を選んでくれた・・・・。 スカリーはモルダーの深く、自分に対して抱いてくれている想いに心が動かされた。 そしてやっと記憶を失う前の彼の深い愛を理解した。 側にいる事だけが、触れ合う事だけが愛ではないのだと。 共に過ごすよりも、もっと深い愛。 ただ相手の鼓動を望み、存在を求め、生きてるだけで満たされる、見返りのない純粋な愛情。 ただそれだけ・・・その相手がいるだけ自分の行き場のない想いさえ満たされ幸せだと思える愛情の型。 自分の手を離したモルダーの想いを理解できなかった。 でも今なら悲しいくらいに、痛いほどに分かる。 彼がどれだけ自分を愛してくれていたのか・・・・・。 言葉ではなく、触れ合う事ではなく、ただ自分の命ほどに魂まで愛してくれていたのだと。 それだけで、彼は満足だったのだと・・・それほどに・・・。 今は全てを理解できる。 相手の幸せに、鼓動に触れた今なら・・・その選択を選んだモルダーの気持ちが・・・。 モルダーは知ってしまったのだ。 友情を超えた愛情を一歩踏み込んだら、その先にあるのが永遠じゃないと。 自分の側にいれば命の危険にさらされ、彼女を失ったらもう生きていけない事も。 だから彼女の存在を望んだ。触れ合う事よりも、彼女の命を。 たとえ側にいられなくとも、ただ生きて今を過ごしてくれるだけでいいと・・・・。 それが美しい程に悲しいモルダーの本気の愛しかた・・・。 「モルダー・・・・・」 スカリーは肩ごしに、耳もとで囁いた。 その響きには長年言えずに隠して来た、伝えられなかった彼への想いを込めた。 ただ名前を囁くだけにも、こんなにも深い愛情を込めて・・・。 " いつか全てを思い出したら、あなたは・・・怒るだろうか? " " いや、理解してくれるだろう。あなたの愛しかたをやっと理解した今の私のように・・・ " スカリーは強い決意を胸の中に込めると、モルダーの頬を両手で包んで真っ直ぐに彼を見つめた。 出会わなければ、こんな別れは訪れなかった。 でも、出会わなければ・・・・こんなにも深い愛さえしらずに生きていた。 どれだけ感謝しても言葉で言い表せない。 どれだけこの愛を知って、そこまで愛されて、どんなに嬉しいか・・・・。 「モルダー・・・・・」 だから、返さなければならない。 この喜びをくれたあなたに、同じ事を・・・・。 いつか、あなたに同じ事をした私の気持ちが届くよう・・・。 あなたと同じほどに私もあなたと愛していると・・・・。 「モルダー・・・・」 スカリーはその美しいグリーンの瞳に涙を溜めたまま優しく微笑んだ。 それはモルダーのが今まで見た事のないほど美しく、心惹かれるほどに暖かい笑顔だった。 「あなたに・・・隠してること・・・・」 何かを決意した、覚悟を決めた瞳。 そしてモルダーも、スカリーのその瞳に、彼女がこれから言う言葉に心に覚悟を決めた。 「隠してることなんて・・・・・何もないわ」 「・・・・・・・・!!」 「何一つ隠していない、あなたに話した事は、この間の事で全てよ」 「スカリー・・・・」 「何も隠してなどいないわ・・・私には何も無かった」 モルダーは頬を伝うスカリーの涙をそっとすくうと、真っ直ぐに彼女を見つめた。 言葉とは逆に、彼女の涙は正直だった。 それがスカリーに許されたただ一つの自由だった。 「・・・・・・本当だね?」 モルダーは確かめるように、もう一度だけ彼女へと問いかけた。 見つめあったまま、スカリーは小さく・・・それでも確かに頷いた。 「なら、君を信じるよ」 " タトエ ソレガ ウソ デモ " モルダーの優しい微笑みにスカリーも笑顔を返すと、彼女はそのまま彼の頬を引き寄せた。 二度とは触れ合えない、愛しい人との最初でそして最後の抱擁。 スカリーの肌の温もりを感じて、モルダーも身を任すようにそっと目を閉じた。 重なる二人の影が、カウチの影に伸び、それは触れ合うだけの、ただ一瞬だった。 でもお互いにとって永遠で、この時たしかに手に触れ合えなくとも、二人の心は重なった。 肉体でもなく、言葉でもなく、二人の想いは一瞬の永遠になった。 スカリーはそっとモルダーから体を離し手をほどくと、来た道をへときびすを返して静かにドアの向こうへ消えた。 そしてモルダーも、自分に背を向けて去って行く彼女を引き止めはしなかった。 明らかなスカリーの嘘。 きっと彼女が自分に嘘をついたのが、これが最初で最後なのだろうと思った。 でもスカリーを信じると言った。 たとえ彼女が嘘をついたとしても、それを信じる。 なぜ彼女が嘘をついたのかモルダーには分からなかったが、その嘘に触れてしまえばスカリーを傷つけてしまう事だけは分かった。 真剣な彼女の瞳の中にあった自分を想う深い思いやり。心にちゃんと伝わって来た。 だからたとえ嘘でも、それが真実だと言うなら彼女のその言葉を信じる。 彼女の気配と足音が完璧にこの場所から消えた瞬間、モルダーはずっと握っていた手の中のクロスを見つめた。 そして静かに立ち上がると、何も言わず、そっとデスクの引き出しに閉まった。                          to be contiuned・・・。 ====================================== 永遠と書き続け、早や最初から合計するともう21作目・・・(*゜▽゜)ノノ♪ なのにまだくっつかないモル&スカ・・・ってかむしろ離れた?(´Д⊂ どどどどどうよう(((゜Д゜三゜Д゜)))キョロキョロ。 幸せになって欲しいと願いつつ、スカちゃんをいじめる悪魔な私(;´Д`)ぉぉ。 よければ感想をwあなたの一言がスカちゃんの幸せに繋がりますww でなければ、このままモルとスカは...・゜・(ノД`)・゜・。(笑) 苦情以外受け付けております☆→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp