本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 なので、一切の責任は負いません(笑) ======================================      『 bond − 嘘の真実 − 』(11)                             from 涼夜 いつだったか、もうはっきりとは思い出せないけれど・・・。 二階から見下ろしたに先に、ファイルをもったスカリーがラボの人間と話している のを見かけて、モルダーは懐かしい過去を振り返った。 今を思い出した彼にとって、それはもう何年も前のこと。 遠すぎる昔の記憶は薄れてしまい、鮮明には思い出す事は出来ないが・・・。 君は知らないだろう。 7年前、君があのオフィスに配属される前に、僕が君を見かけた事を・・・。 そして話す気も伝える気もない。 そう・・・あれは7年以上前、1人でXファイル課を任されて時の些細な偶然。 用があって行ったアカデミーで・・・僕は偶然に君を見かけた。 終業のベルが鳴り響き、アカデミーを後にしようとした瞬間 溢れ返る廊下の雑踏のホールで、君は友達らしき女性と話し楽しそうに微笑んでいた。 僕の視線は君へと注がれた。 君が漏らす横顔の笑顔が、僕は決して自分が見せる事が出来ないと分かっていたからだ。 あんな風に笑えたらと・・・僕は微笑む君の姿に、あの一瞬心を奪われた。 そして、そこにいる君との歩む道の交わるはずのない未来に、僕はその場を後にした。 今でも思わずにはいられない。 あんなにも大勢の人間の中で、なぜ君に気付いたのか・・・・。 なぜすれ違う人よりも、導かれるように君のその姿を目で追ったのか・・・。 だから一年後、君とあの地下のXファイル課で再会を果たした時、僕には最初分からなかった。 でも思い出すのに時間は必要なかった。 分かっていたから・・・覚えていたから・・・・。 記憶よりも、心が・・・。 そこから僕らは始まっていたんだろうか? 心が君を感じた日から、あの初めて君を見かけた日から・・・。 モルダーはそれ以上の考えを、ホールで話し込むスカリーの姿に思考を止めた。 「モルダーおまた・・・」 約束の待ち合わせの場所に彼の姿を見かけ、声をかけようとしたジルの手が止まった。 自分の見つめる先にいる、待ち合わせの相手は全く違う方向を見ていたからだ。 愛しむような、大切な宝物を見つめている彼の瞳、彼女はその視線の先を目で追った。 そして自分の瞳に飛び込んで来た光景に、ジルは言葉を失う。 そこにはラボの相手と話し込んでいる彼の相棒ダナ・スカリーの姿があった。 それはジルが一番知りたくない事実だった。 モルダーがただスカリーを見ているだけなら彼女は何も感じなかっただろう。 こんな深いショックを受ける事も、悲しい事実に気付く事も・・・。 でもモルダーがスカリーを見つめる瞳には、深く果てしない優しさをジルは感じた。 そんな彼の目を、ジルは今まで見た事が一度もなかったのだ。 そして自分に向けられた事も。 問題は、瞳の中の優しさが意味する物。 ヘイゼルの瞳の中に写る、彼女への想い。 優しさ、刹那さ、悲しみ、後悔・・・・そして・・・。 押さえられないほどの、深い愛しさ。 離れた場所から彼女を見つめるモルダーの瞳には、スカリーへの純粋な愛情だけが存在していた。 ジルは自分の胸が激しく痛むのを実感する。 分かっていた事だった、最初から。 彼が彼女を愛している事は、友人のトレイシーから聞いて覚悟していたはずだった。 なのに・・・・・。 そしてジルは理解した。 最初から分かっていてどうして今、自分の胸が痛んだのか。 スカリーを見つめるモルダーの瞳の中の感情に、心の奥の気持ちをはっきりと知ってしまったからだ。 今まで知る事はできなかった彼の想いを・・・。 あんな瞳を自分は知らない。あんな優しそうな瞳を。 彼女を愛しそうに見つめて佇むモルダーの姿は、ジルの"知らない"彼だった。 悲しい事に答えは一つ。 「モルダー!」 ジルは努めて明るい声を出すと、モルダーへと手を軽く振る。 呼ばれた事に振り向いたモルダーがジルの姿を確認すると、彼は小さく微笑んだ。 「おまたせ」 笑顔を向けながらもジルの声は少しだけ震えていた。 スカリーから目を放し視線をこっちに向けた彼の瞳はもう いつもと同じ自分が一番良く知っている穏やかなヘイゼルの瞳だった。 何の感情も持たない・・・ヘイゼルに包まれた気持ちのない瞳。 それはジルに確信を持たせるには十分だった。 モルダーの記憶がもう戻っている事を・・・・・・・。 「ジル?」 俯いたままの彼女を心配してモルダーが進む足を止めた。 でもジルは顔を上げられず、彼女は一瞬の選択を迫られていた。 "大丈夫"と言って顔を上げ笑顔を見せる事はできる。 けれど彼の瞳を見る事は出来るだろうか? 自分の写っていないその瞳を・・・・。 「大丈夫か?ジル??」 モルダーの大きな手が彼女の肩に触れ、その場所からジルは自分の心が温かくなるを感じた。 この手を放したくない。失いたくない。 記憶が戻っていると分かっていて、嘘だと分かっていてだまされる事は罪だろうか? 気付かない振りさえ続ければ、この人を失う事も自分の元を去って行く姿を見なくてすむ。 醜い気持ちが一瞬彼女の中に生まれた。 自分も知らぬ内に、ジルはこんなにも彼を愛しまっていたのだ。 ここで嘘をついても、モルダーの嘘に気付いていて騙されても、誰も自分を責めないだろう。 モルダーも嘘をついているのだから。 ジルは覚悟を決めると、顔を上げた。 ジルの瞳から流れる涙に、モルダーは目を大きく開いた。 自分を見つめる彼の瞳に、ジルの心は辛い覚悟を受け止めた。 感情の浮かばないモルダーのその瞳は、それは彼がずっと今まで型作って来た物で それを崩す事も、色を蘇らせる事も出来るのは、たった1人の女性なのだ。 そして、それは自分ではない。 きっとこれからも・・・。 向き合う事は難く、現実は厳しいだろう。 だから騙されたいと思った。嘘だと分かっていて気付かない振りを続けたいと。 でも・・・・。 彼女にも一つだけ譲れない想いがあった。 "憧れ"から始まったその恋は、自分が想う相手モルダーの瞳はいつも前を見ていたのだ。 だから想いが募り始まった。 でもそれは前を向いている彼だったから・・・。 彼の姿勢に憧れたから、自分が逃げる事は出来ない。 たとえそれが自分にとって一番辛くとも・・・。 「モルダー・・・・・」 ジルは瞳から流れる涙を手で拭うと真っ直ぐに彼を見つめた。 本気で愛さなければ、モルダーが記憶を取り戻した事も、スカリーを見つめる瞳の奥の想いにも気付かなかっただろう。 本気で想わなければ、このまま流されて騙される道を選んだだろう。 でも違う道を選んだ。 ならたとえ辛くても全てを聞かなくてはいけない。 傷付くだろう、でもきっと強くなれる。 離れて行くと分かっているから悲しいだろう、でもきっと乗り越えられる。 今ならまだ、大丈夫。 ジルはほんの少しの悲しみをたたえた表情で、優しく微笑んだ。 「話してくれる?」 その言葉にモルダーの表情が驚きに変わったのは、言うまでもなかった・・・。 PM 6:00 「・・・・・」 陽の落ちた夕暮れ、仕事は終わった瞬間に急に飲みに行こうと誘われた トレイシーは隣に座る、誘って来た張本人、友人のジルを見た。 彼女の目はうつろで、その落胆してる姿は端から見ても落ち込んでいるのだとはっきりと分かる。 トレイシーはジルの前にグラスをそっと置くと、彼女の肩に優しく触れた。 「大体想像がつくから何があったか詳しくは聞かないけど・・・大丈夫?」 それでもジルは黙ったまま、唇を引き締めた。 トレイシーは小さくため息をつき、一瞬考えたものの、ゆっくりと口を開いた。 「私もね・・・昔はあの人の事が好きだったの・・・」 数秒の沈黙が流れた後、思いもよらなかった友人の一言に、ジルは顔を上げた。 トレイシーは困ったように、少し照れたように微笑んで見せる。 「今は全然違うのよ。好きだったって言っても気持ちを伝える前に玉砕したわけだから」 「玉砕・・・・どうして?」 「・・・・・多分・・・あなたが落ち込んでるのと同じ理由よ」 「・・・・・」 「でも、私はあなたが羨ましい。だってきちんと想いを伝えたんだもの。 私はダメ。友人でいられなくなるのが怖くて自分で勝手に気持ち整理をつけたから」 「トレイシー・・・・・」 トレイシーの寂しそうな笑みに、ジルはどれだけ彼女が彼の事を想っていたのか知るには十分だった。 でもそれでも、想いを伝えなかった彼女の選択の方が きっと正しかったと、ジルはさっき交わしたモルダーとの会話を思い返し、心の中で思った。 「記憶が戻ったのね」 人気のない公園についた開口一番、ジルは確信をもって自分の前を歩くモルダーに問いかけた。 その言葉にモルダーの足は止まり、彼女へと向き直る。 見つめる先のジルの瞳に「本当に事を話して欲しい」いう思いが 込められていて、モルダーはそれに答える事ができず、視線を彼女から地面へと向けた。 でもそれでも自分を責める事もせず、話すのを辛抱強く待っている彼女にモルダーは話さなければいけないと決意する。 「・・・・・どうして分かったんだい?」 近くのベンチに腰を落としたモルダーは口元で手を組み、彼女を見ずに小さく囁いた。 モルダーの言葉にジルは苦笑すると、彼の横に静かに腰かけた。 「きっと・・・・誰でも分かると思うわ」 笑い声がまじった精一杯の彼女の皮肉に、モルダーも小さく笑いを漏らす。 でも彼女の次ぎの一言で、モルダーの顔からは笑いが消え、気を引き締めた真顔に変わった。 「きっと・・・彼女・・スカリー捜査官以外はね」 「・・・・!」 隣に座る先のジルの横顔は、寂しさに満ちていた。 「・・・・・すまない・・・君を傷つけた・・・」 真っ直ぐ自分を見つめ、迷いのない謝罪を口にするモルダーに、彼女は首を振った。 そして他人を傷つけても嘘を通そうしたモルダーの強いスカリーへの想いを同時に感じとった。 それはきっともう誰も変える事が出来ないのだろう。 「謝らないで・・・私もあなたに黙っていた事があるのから・・・」 「・・・?」 「トレイシーから聞いてたの・・・あなたの記憶が戻る前に・・・」 「えっ・・・・」 「あなたが、彼女を想ってるって・・・・」 「ジル・・・!」 「ごめんなさい。トレイシーには私からあなたに言うからって口止めしたの。 ・・・・だけど結局・・・言い出せなかったわ。黙ってて・・・ごめんなさい」 ジルはモルダーを見る事が出来ず、言葉を続けた。 「あなたの嘘に騙されたいと思った。このまま側にいて・・・ いつかあなたが彼女を忘れてくれるなら・・・それでもいいって・・・でも・・・」 自分を見つめるモルダーの頬に、ジルはそっと触れた。 「記憶が戻ったあなたは・・・あなたの瞳には彼女しか写っていない。他の人間も女性も、あなたは色を持って見ていないわ」 「・・・・色?」 ジルは小さく頷き、その細い指でモルダーの輪郭にすっと指を通す。 愛しいものに触れるように優しく・・・・。 「彼女を見つめるあなたの瞳には優しさ、愛しさ、大切さに溢れてる。それが私には痛いぐらいに分かるわ。 だけど、あなたが私を見つめる瞳には色がない。それは私があなたの心の中にいないから・・・そうでしょ?」 モルダーは答えられず、黙って彼女を見つめ返した。 ジルの言葉を否定する事が彼にはできなかったからだ。 彼女を傷つけても、スカリーに対して抱いている想いを誤摩化す事は出来ない。 自分を真剣に想ってくれている目の前の女性に嘘をつく事は・・・。 「すまない・・・何度謝っても足りない事は分かってる。僕は君に過去を思い出せな いなら、すべて割り切って前を見て歩いて行くと約束したのに。君の気持ちに答えて行くと・・・」 そう、答えられば良かった。 あのままスカリーを忘れたままで、ジルの事を愛せていれば・・・・。 でも・・・・。 「でも、僕はこの間の停電の時に全て思い出した。 彼女と過ごした時間を、忘れていた様々な想いを・・・・・・。 本当にすまない、ジル・・・でも僕は君が言った通り・・・・・。 彼女を愛してる。彼女でないとダメなんだ。誰も代わりには決してなれない」 「・・・・モルダー・・・・」 「だけど君には後からきちんと気持ちを話すつもりだった。 彼女を思い出した僕は、君の気持ちに答えられない。他の相手を見る事など・・・」 ジルは溢れそうになる涙を押え、モルダーの手をとった。 優しく触れるジルの手の温もりにモルダーが顔を上げると、彼女は微笑んでいた。 「ずっと・・・側にいてもあなたが遠かった。いつもどこかを見つめていて・・・・ だから、こんな日が来るかもしれない事は分かってたから、気にしないで・・・私は大丈夫」 「ジル・・・・」 「大丈夫だから・・・・」 俯いた彼女を、瞬間的にモルダーは抱き寄せた。 涙を見せないように顔を上げないジルに、抱き締める事しかしてやれない自分をモルダーは殴りたい衝動に駆られる。 心と体を切り離す事が出来るなら、全てを割り切れるのに。 「すまない・・・・」 耳もとで囁かれた言葉にジルは涙を止めて、モルダーの顔を覗き込んだ。 自分を見つめるモルダーの瞳には心からの謝罪の深い想いを感じ、ジルはそっと体を離した。 「ごめんなさい。もう大丈夫・・・・」 「ジル・・・・」 「モルダー もし迷惑じゃなかったら話してくれない? どうしてそんなに彼女を想ってるのに、記憶が戻ってない振りをするのか・・・」 モルダーは真っ直ぐなジルの表情に、少し考えて頷いた。 「君には聞く権利がある・・・いい話じゃないし、理解出来ないかもしれないけど・・・」 「話して、モルダー」 小さな沈黙が流れ、モルダーは自分の目の前を母親に手を引かれ歩いて行く子供の後ろ姿を見送ってから、ゆっくりと口を開いた。 「彼女と出会ったのはもう今から7年も前の事で・・・今でもはっきり覚えてるよ」 モルダーは懐かしい過去に、二人が出会った日を思い返して優しい微笑みを浮かべた。 そう・・・忘れる事など出来ない。 第一印象はお互いお世辞でも良かったとは言えなかっただろう。 意見も考え方も視点も何もかもが違い、自分とは全く正反対の彼女はできたら一番知り合いたくない相手だった。 だから最初、苛つきと怒りにまかせて彼女に辛くあった。 あの頃の自分には彼女は"敵"としか写らなかったのだ。 だから不思議だった、なぜ彼女がない物を追いかけまわしている自分の元を離れないのか・・・。 でも彼女の仕事にかける真剣さと人間性が自分を変えて行った。 心に根付き、一番深い所に浸透し・・・誰にも触れられる事のなかった部分が開いた・・・。 一体いつから・・・側にいられればそれだけで満足だと思えるようになったのか。 「彼女と共に進んで来た7年には色んな事があって・・・彼女は僕に人を信じること 想うこと、どんな時も迷いなく進んで行く事を教えてもらったんだ・・・・。 それは決して、言葉では言い表す事なんて出来なくて・・・・簡単には言えないけれど・・・」 モルダーは自分と共に歩んで来たスカリーの姿を想った。 心が優しくなれる。気持ちが温かくなるのを感じる。 誰にも感じた事のない穏やかで愛しい想いが溢れる。 「彼女にはたくさんの物をもらい、多くを教えてもらった。だけど・・・ 一緒に過ごしてきた時間は決して幸せな物じゃなかった。辛い事ばかりだった。 多くの物を失い、多くの物を傷つけて、僕も彼女もお互いに消えない傷を負い大切な人を失った」 言葉を止めたモルダーは目を強く瞑り、今の自分の言葉を噛み締めた。 そう、決して忘れてはいけない事・・・・。 どれだけの物を自分が彼女から奪ってしまったか・・・。 そして何度思っただろうか? 彼女を巻き込まなければ良かったと・・・。 仕事をしている間は全てを忘れられた。 自分には打ち込む物があったから、まだ割り切る事も負けそうになる事もなかった。 だけど彼女は違う。 もっと色々な可能性があった。 それを自分と関わったせいで、奪ってしまった・・・・。 だから覚悟していた。 いつか自分の過去にケリがついたら・・・その時は、その時こそ・・・彼女を解放しようと・・・。 「愛してるのに・・・そんなに想ってるのに、離れるの・・・?」 「愛してるから辛いんだ。愛してるから側にいると辛い。何も出来ないから・・・」 「モルダー・・・あなた・・・・彼女の気持ちを知っているんでしょう?お互い・・・想いあっているのに・・・?」 「・・・・・」 「手を伸ばせばそこにあるのよ、なのにどうして離れようとするの?嘘をついてまで・・・」 モルダーはジルの言葉を黙って聞いていた。 彼女の言う事は正論で、自分がしようとしている事は片寄った愛した方だと分かっている。 彼女の言う通り、手を伸ばせばすぐそこにある。 たった一言、気持ちを言葉にして想いを伝えれば、その距離は消えてスカリーを手に入れる事ができる。 でも・・・・。 触れ合って汚す事よりも、その姿をずっと見つめていたい。 たとえ心が永遠に満たされなくても、微笑むその横顔を、幸せにそうな彼女を見つめていたい。 責任も苦しみもない、自分以外の誰かの隣で心から笑う彼女の笑顔を、ずっと見つめていたい。 素直な彼女を、肩の力を抜いて、振り返って満面の優しい笑みを浮かべた彼女の姿を・・・。 自分といる時は違う、たった1人の女性として、ありのままのスカリーを・・・・。 そうすれば触れ合えなくても、永遠に綺麗な形のまま心の中に・・・ずっと残していける。 「手を伸ばせばそこにあるから・・・見ていたいんだよ。 いつまでもずっと、彼女の一番近くで、そして一番遠い場所で彼女を見つめていたい」 「それで・・・・幸せなの?」 ジルは理解出来ないように首を振った。 でもモルダーの表情は穏やかに微笑んでいた。 「幸せとは違うのかもしれない。ただ彼女にはずっと生きていて欲しい。 でも側にいたいとか、全てが欲しいとか、そんなんじゃないんだ。 幸せになって欲しい・・・愛してるから、彼女には幸せになって欲しいんだ」 「・・・手に入れれば、傷つける事しか出来ないからそういうのね・・・・」 「僕が彼女の元を離れ、たとえ二度と会えなくても、彼女を忘れるけじゃない。 ずっと胸の奥にしまいこんで愛していくんだ。そうすればいつも思い出す事が出来る」 「モルダー・・・・それは違うわ。あなたの愛しかたは、逃げてる」 「・・・・逃げてる?」 「そうよ、あなたは逃げてるわ」 ジルはモルダーから目をそらさず、胸が張り裂けそうな想いで言葉を続けた。 「あなたと、彼女の間に何があったのか私には分からない。 でも、あなたは逃げてるのよ。彼女と向かい合う事から。 守れないから、傷つけてしまうかもしれない事に怯えてるんじゃなくて、あなたは・・・・自分が傷付く事に怖がっている・・・・」 「・・・・・・!」 「彼女を失って自分が傷付くのが怖いから・・・彼女を遠ざけるの」 「ジル・・・・君に分かるのか?」 反論しようと口を開いたモルダーが言葉を続けるよりも早く、ジルがベンチから立ち上がった。 「分かるわ!・・・・分かるわよ、モルダー・・・・」 ジルの瞳から流れる涙に、モルダーは動けずに黙って彼女を見つめた。 「私だって、あなたが好きだから間違った方向に進んで欲しくない。 あなたが好きだから、そこまで想っている人がいるなら幸せになってほしい」 「ジル・・・・・」 「だけど、傷付く事が怖いからって・・・そんなの、ただ逃げてるだけよ!」 叫ぶように言い放ったジルは、決してモルダーを振り返らず、走ってその場を去っていった。 なぜあんな事を言ってしまったのか? ジルは数時間前のモルダーとの会話を思い出し、苦笑した。 自分は何も知りはしないのに、酷い言葉を彼に浴びせたと分かっている。 でも口から出たあの言葉は自分の本当の想いで、それを撤回する事は出来ない。 今頃怒ってるだろうか? それとも深く傷付いただろうか? ジルはグラスを軽くはじくと、小さなため息をついた。 隣に座るトレイシーは、何も聞かずに付き合ってくれる。 「聞いてもいい?」 ジルはグラスを自分の手元から遠ざけ、トレイシーへと向いた。 「ん?」 ジルの真剣な眼差しにトレイシーは首を傾げ聞き返す。 「・・・どうやって、気持ちにケリをつけたの?」 そういって自分から瞳を外したジルにトレイシーは驚いたように目を開いたが 次にジルが顔を上げた時、彼女は小さく微笑んでいた。 「二人でいる所を見て・・・かな」 「えっ?」 ジルはトレイシーの言葉の意味を掴めず、今度は自分が首を傾げた。 「うん、だからね・・・モルダーと彼女が一緒にいる所を見て、気持ちが楽になったの」 「二人が一緒にいる所を見て・・・?」 「ええ、凄いなんていうか・・・お互いの強い信頼を感じたわ。 誰にも汚す事のできない、お互いだけを信じて信用している、確かな想いをね」 トレイシーはグラスの中の残り少ないカクテルを飲み干すと、自分が見たその時の光景を思い出すように、目を細めた。 「それでね、感じたの・・・ああ、モルダーには彼女じゃなくちゃダメなんだって」 「それ、いつ・・・?」 「知り合って2年ぐらいの時だから3年前かしら?古い話よ」 「じゃあモルダーはその時からずっと・・・?」 ジルの言葉に、トレイシーは少し考えてから首を横に振った。 「たぶん、もっと前からだと思うわ。自分が自覚してなかっただけでね。 私にはすぐに分かったけど、あの人ってそういう所鈍いから・・・・」 最後のトレイシーの口調は、昔を懐かしむような、楽しんでいるような感じだった。 「そう・・・・」 ジルは呟くとカウンターに顔を伏せて、トレイシーを見つめた。 トレイシーもジルが投げかける視線の意味に気付き「何?」と返す。 囁くような声で、ジルは小さく一言だけ言葉にした。 「私も忘れられるかしら?」 その瞳から一筋の涙が流れ、トレイシーは少しだけ寂しそうな目をして伏せるジルの 背中をぽんぽんっと軽く叩き、優しく微笑んだ。 完全に顔を隠したジルの耳には「きっと大丈夫」と言うトレイシーの優しい声だけが、響いていた・・・。                                                    to becontiuned・・・。 ====================================== すいません(死んで詫びる勢いです) 今月に入ってからかなり忙しくて、投稿が二週間を超えてしまいました(言い訳) しかも中途半端な所でくぎって本当すいません(土下座) ひよ様も、本当に申し訳わりませんでした(ひたすら土下座) あと少しでラストのこのficですが、スカちゃんは幸せになれるのだろうか? なれたらいいですねー(笑顔) もう書いてる本人も実は一杯一杯なのであった。                        チャン♪チャン♪ よければ感想を→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne