本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 なので、一切の責任は負いません(笑) ======================================      『 bond − 決意 − 』(12)                             from 涼夜 「傷付く事に怯えてるっか・・・・」 モルダーはデスクの上に置かれた自分のネームプレートを手にとって小さく呟いた。 体の向きを変えなくても部屋中を見渡せるこのオフィスには今、自分1人しかいない。 極力スカリーとは会わない方がいいと思い、事前に彼女のいない日を狙って来たのだった。 スカリーのデスクはあいからず綺麗に片付いており、モルダーは彼女がよく、ひまわりの種で床を汚す自分を怒っていたのを思い出す。 それは7年たっても変わらなかった。でも少しだけ変わった事もあった。 ただ呆れるような表情だけだったスカリーから、少しだけ困ったような微笑み浮かぶようになったのだ。 そして文句や小言を言いながらも最後は、モルダーのデスクも綺麗にしてくれる。 彼の密かな、この区切られた空間の中の楽しみだった。 それはもう・・・見る事は出来ないが・・・・。 モルダーは軽く息をつき、手元のネームプレートを元の場所に置いた。 この場所に未練がないと言えば嘘になる。 でも妹を探し出し、答えは残酷にも見つけてしまった。 自分自身に対する執着がなかったので、失う物は何もないとモルダー思っていたのだ・・・。 そう、彼女に会うまでは・・・。 たった一つ見つけてしまった、命に代えても決して壊す事の出来ない物。 その想いは日に日に強くなり、どこかで線を引かないと彼女の手放す事さえ考えられなかっただろう。 その線をモルダーはサマンサが見つかるまでと自分自身に定めた。 Xファイル課を離れてもFBIを続けるかぎり、捜査はできる。 かなり厳しくなるだろうが、少なからず協力者もいる。 これ以上スカリーを巻き込み、いつか彼女を失うかもしれないリスクを考えたら、多少苦しくてもその方が絶対にいい。 椅子から立ち上がり、壁に張られたポスターに手を伸ばしてゆっくりと剥がしはじめた瞬間、勢いよくオフィスのドアが開いた。 「!?」 驚いて振り向いたモルダーの目線の先には、さらに自分より驚いた表情のスカリーが立っていた。 「スカリー・・・・どう・・」 どうしてここに?と言う言葉をモルダーは直前で飲み込む。 「今日は、来ないのかと思ったわ・・・あなたはまだ休職扱いになってたから」 言葉を止めた彼に変わり、スカリーが一歩足をオフィスに踏み入れながら口を開いた。 「ああ、実はさっきスキナーに連絡して職場復帰になるように頼んだよ」 「・・・そうなの」 スカリーはそれ以上言葉を続けられず、視線をモルダーから外した。 モルダーが口にした"職場復帰"の言葉に、胸が激しく痛んだからだ。 どこで、仕事をするのか?彼女の脳裏に悲しい事実だけが残った。 彼がこの場所を去ってしまう事実だけが・・・・。 「・・・カリー・・?・・・スカリー?」 「えっ・・・」 遠くの方で自分の名前を呼ぶ声に彼女が我に返ると、モルダーが首を傾げてこっちを見ていた。 「大丈夫かい?」 「え、ええ。それよりどうかした?」 「何かあったのか?事件?」 モルダーが真剣な表情で聞いてきたので、スカリーは今の自分の状況を思い出した。 「ええ」 スカリーは雑念を振り払うようにモルダーの前を通り過ぎると、キャビネットをガタガタを開き始めた。 「何があったんだ?」 背中越しのモルダーの声にスカリーは少し考えたが、キャビネットを開く手を止めず質問に答える。 「リスナー通りのビルで銀行強盗があって、人質をとって立てこもってるのよ」 「立てこもり!?」 モルダーは声を上げたが、スカリーは振り向かず頷いた。 「FBIを出る前に私も呼び出されて、アカデミーの抗議どころじゃなくなったのよ。応援にいかなくちゃいけないの」 「・・・・ならどうしてこんな所で、キャビネットをあさってるんだ?」 モルダーは思った通りの質問をストレートに彼女へと投げかけた。 現場にいかず、オフィスに戻ってくるなんて、スカリーらしくもない。 「・・・探し物をしてるのよ」 「何を?」 「・・・・・2年前、同じような事件があってその時、プロファイリングで犯人の行動、考え方を適格に言い合てた過去の資料を探してるの」 彼女はそこで一旦言葉を止めたが、振り向かず言葉を続けた。 「覚えてないかもしれないけど、それはあなたなのよ・・・・」 「・・・・・・!」 記憶を取り戻したモルダーに分からないはずはなかった。 2年前の銀行強盗の事件。この時も犯人は人質を数人とって立てこもった。 プロファイリングを頼みたいと、自分に連絡が入って来たのは事件が起こってから数時間後。 過去のプロファイリングに関する資料を見たとかで現場指揮官担当からじきじきに電話があって協力したのだ。 それから察するに今回のこの事件も本来はプロファイリングは自分に回ってきたのだろう。 でも休職中と記憶喪失の面からスカリーが自分の介入を現場指揮官に諦めさせ、変わりに資料だけでも持って行こうと思っただろう。 できるかぎりの最善を尽くす。 変わらないスカリーの姿勢にモルダーは小さく微笑んだ。 「状況は?」 「良くないわ」 モルダーは椅子から立ち上がると、コートを手にとった。 「行こう」 「えっ?」 「こんな所にいないで現場に行こう、スカリー」 「モルダー何を・・・・」 出かける準備をするモルダーを。とまどいぎみにスカリーは見つめる。 モルダーは準備をすませ、オフィスの入り口に向って行く。 「モルダー!?」 「僕が行く」 「・・・・・!」 「現場に僕が直接行って犯人と交渉するのが一番だろ?」 「でも、モルダーあなた・・・・!」 スカリーはこんな急に現場に行く事など記憶の錯乱を呼び起こす可能性を思い、反対の意を唱えようとした。 でもモルダーの決意の瞳は変わらず、彼女に深く頷いてみせる。 「大丈夫だ。迷惑をかける事にも、倒れたりするような事にもならない」 「モルダー・・・・」 「人の命がかかってるんだ。人命が第一だろ?」 それを言われては捜査官として、スカリーは反論できなかった。 「それに・・・・・」 モルダーが視線を床に落として、彼女から目をそらすと、小さく呟いた。 「僕らの最後の事件になるんだから・・・・」 その言葉に、スカリーはビクリと体を震わせる。 いや、正確には彼女の心が震えた。 言葉が伝える本来の意味が、離れて行く二人の道の未来が、彼女の心を締め付ける。 込み上げる物が瞬間的に溢れそうになり、スカリーは手のひらを強く握りしめるとモルダーに頷いた。 「いきましょう」 「立てこもってからの時間は?」 モルダーは現場につくなり指揮官との打ち合わせに入り、てきぱきと指示を始めた。 でもスカリーから聞いた通り、現状は思わしくなく犯人が人質を解放するそぶりさえも見られなかった。 こんな状態が後数時間、数日続けば人質の精神状態に影響が出て来る。 「ハリー捜査官」 モルダーは銀行の見取り図片手に、現場指揮官のハリーの元へ今の状態を説明し始めた。 「このまま両者の攻防が長引けば、人質や犯人の精神面に影響が出る」 「じゃあどうしろうと言うんだ?」 がっしりとした体格で50代後半のハリーは、切迫したこの状況に対する的確な答えをモルダーに求めて来た。 「人質解放の為にも、一番早い方法がある」 「なんだ?」 「犯人との直接交渉」 「な・・・・!」 「危険だがこれしかない。人質を犠牲には出来ない」 「だが・・・・」 苦渋の表情を浮かべるハリーに、モルダーは強く頷いてみせた。 「僕が行く」 一瞬、モルダーを囲う周りの捜査官達が息を飲んだ。 「僕なら経験者だし、プロファイラーとして人の心理も理解できる。この中では一番適任だ」 離れた場所から銀行のモニターを他の捜査官とチェックしていたスカリーに モルダーが直接交渉に行くと連絡を受けたのは、すべての準備が整った後だった。 「モルダー!」 勢いよくワゴンの扉を開いたスカリーの目の前には、防弾チョッキを身にまとい連絡用の無線を取り付けているモルダーの姿があった。 「本当にあなたが銀行の中に入って犯人達と直接交渉をするの?」 その姿を肉眼で確認しても納得しきれないスカリーは、反対だと言う意を込めてモルダーを見つめた。 真っ直ぐなスカリーの瞳に彼女の言いたい事を理解して モルダーは無線の取り付け作業の捜査官達に「後は1人で大丈夫だ」と言って彼等を外に出し、扉を閉めた。 「私は反対よ、モルダー」 スカリーはモルダーが扉を閉めるなり、彼を見つめて言い切った。 「あなたの体はまだ完全じゃないわ。もし現場で記憶の混濁が起こったら・・・リスクが高いわ」 「大丈夫だ、そんな事にはならない」 はっきりと言い切ると、無線の取り付け作業を続ける。 「だめよ。医者としては、賛成できないわ」 「じゃあ捜査官としては?」 モルダーはスカリーの言葉に彼女の真意を知るべく"捜査官"の言葉を持ち出し、手を止めてスカリーを見つめた。 「・・・・・」 「君の捜査官としての意見は?スカリー」 「それは・・・・・」 言い淀むスカリーの表情に、モルダーは懐かしさを感じた。 本気で困っている顔。スカリーは普段滅多にこんな顔をしない。 自分が捜査中に突拍子もない事や、理屈では考えられない持論を解く以外ではそんな顔は見せない。 どれも彼女がこんな表情をするのは、自分の信念にぶつかる時だけだ。 だから彼女との捜査中は、いつも見ていた。 お互いの意見が合わないから・・・・。 モルダーは小さく笑ったが、この事件が終わればそれすら見れないだと思い、心の中を寂しさが走った。 「本当に大丈夫だスカリー。君にもらった薬は毎日飲んでるから体調は万全だし・・・ それにこれは事件なんだ・・・・。君ならどうする?僕と逆の立場なら行かないかい?」 「・・・・・・いいえ」 モルダーの問いかけにスカリーは少し考えて小さく首を振った。 たとえ自分が逆の立場だとしても、あの場所に医者が必要だと言われれば、誰が止めても行くだろう。 捜査官として、1人の医師として、他の人間に任せて見ている事など出来ない。 必要なら危険でも自分が行く。それが事件なら・・・・。 人の命がかかってるのだから・・・。 スカリーの瞳に納得したような思いを感じ、モルダーは彼女を肩を叩いて大丈夫だと微笑んでみせた。 数十分後「気おつけて」とスカリーの言葉に、モルダーはニ,三度頷き、銀行の入り口へと向って行った。 スカリーは心の中に生まれた不安を無理矢理打ち消し、歩いて行くモルダーの後ろ姿に、自分を納得させた。 広い銀行の中に入ったモルダーは内心驚いていた。 外から中の様子を知る事は出来なかったから、複数と思われていた犯人はたった1人で、人質の女性と小さな子供だけ。 人質の数が少なくて良かったのか・・・モルダーは心の中で舌打ちをし、椅子に座る犯人へと歩み寄った。 両手を広げて逆らう気がないモルダーの姿に安心したのか、犯人は警戒を少し解くと、深くかぶっている帽子をとってデスクの上に置いた。 帽子をとって顔をさらした犯人の姿にさらにモルダーは目を丸くする。 それはおおよそ銀行強盗が似合わないといった容姿の、まだ二十代前半の若者だったからだ。 モルダーの表情から考えを読み取ったように、目の前の青年は苦笑した。 「若くて驚いてる?」 モルダーはすぐに答えられず、黙って青年を見つめた。 「本当はこんな大事になるなんて・・・思ってなかったんだけどね」 青年は両手を広げておどけたように微笑むと、モルダーにカウンターの側の椅子を指差した。 モルダーは逆らう事なく、青年の指示通り椅子に腰かけた。 「僕はFBI捜査官のモルダーだ。君の説得に来た。銃を下ろして人質を解放してくれないか?」 単刀直入のモルダーの言葉に今度は犯人の青年が目を丸くする。 そして銃を目の前に突き付けられても人質達と違って、顔色一つ変えないモルダーに小さな興味を覚える。 「とりあえず・・・それ外してくれない?外さないと・・・」 青年は軽く笑うと銃先を人質に向ける。 モルダーはため息をつくと、彼の言う物を理解し、背中から首元までかかっていた無線機を外してカウンターの上に置いた。 「これって向こう側に聞こえてるの?」 「・・・ああ」 「ふうん・・・ああ、切らなくていいよ。そのままで」 電源を切ろうと手を伸ばしかけたモルダーの手を、青年は笑顔で制す。 その笑顔だけを見ていると、優しい好印象を感じる。 大抵の強盗は精神的に追い詰められ怒りの感情に支配されて、こんな風に微笑む事はない。 その視点から考えると、目の前の青年の落ち着きぶりは犯罪者には見えなかった。 「どうしてこんな事を?」 説得を始めるのと同時に純粋な興味からモルダーは青年に質問したが、彼からは違う答えが返って来た。 「あんた結婚してるの?」 青年はカウンターに座り長い足をぶらつかせながら、目の前のモルダーを見つめる。 「いや、してない」 「だろうね、指輪してないし・・・じゃあ恋人は?」 「・・・世間一般で言う特別な人は、いない」 「結婚もしてなくて恋人もいない?そんな容姿なのに・・・もったいないね」 モルダーは苦笑して、肩をすくめると青年を見上げた。 「寂しくない?」 「いや・・・仕事があったからね」 「じゃあ、ここの傷も仕事で?」 青年は頭元を指差した。 モルダーは彼が示す場所に手を当てると、そにあるもう塞がった傷口に触れる。 そう、ジルは庇って階段から落ちた時に手すりに打ち付けた・・・。 「いや・・・階段から落ちたんだよ」 「その傷じゃ最近だね。後遺症は?」 「記憶をなくした」 モルダーの言葉に青年は驚いて目を見開く。 でも真剣なモルダーの顔に嘘や冗談ではないのだと感じ、話しを続ける。 「もう記憶を?」 「無事取り戻したよ・・・」 「左後頭部の挫傷・・・位置からして誰かを庇って階段からの転落?」 モルダーは答えない変わり小さく頷いてみせた。 「誰を庇ったのさ?」 「答える変わりに・・・人質を解放してもらえないかな?」 「人質?ああ・・・」 青年はまるで忘れていたかのように、床に座り込んで今にも泣きそうな顔をしている女性二人を振り返った。 「別にいいよ」 あまりにあっさりと同意した彼に対して、モルダーは面喰らったような表情を浮かべる。 「あんたは残ってくれるんだろ?」 「ああ、でも・・・・」 モルダーは言いかけて、カウンターにあった紙に走り書きをすると、それを青年に見せた。 " 人質が解放された事が向こうに伝われば捜査官達が突入して来る " 走り書きされたメモを見て、青年は微笑んだ。 そして彼も小さく何かを書き上げると、それをモルダーに向ける。 " あんたいい人だね、本当に捜査官? " モルダーは彼が書いたもっともな文章に苦笑する。 そう捜査官としての今の自分の行動は一番してはいけない事なのだ。 " 自分でも分からない " と書いた返事を見せると、青年は女性に「出て行ってかまわない」と両手を広げた。 涙を浮かべて走り去って行く女性達の姿を見送ってから、カウンターにある無線機を手にとった。 「今、人質を1人解放した。でも突入してきたら、子供を殺す」 口調と声に意減が含まれていたが、彼の口元は緩んでいた。 モルダーは無線機を受け取ると、青年に続いた。 「彼の言う通りして下さい」 それだけを短く言い切ると、無線機の電源を切る。 「今ので大丈夫なのか?」 青年は驚いたようだったが、モルダーは安心させるように微笑んだ。 「FBIだってバカじゃない。中の様子が分からないのに突入してはこない。最低3時間ぐらいはもつよ、それに・・・僕のパートナーがそんな事はさせない」 「仕事の相棒?」 「・・・ああ、もう組んで7年になる」 「信頼してるんだね」 「もちろんだ」 「どのくらい?」 「えっ?」 聞き返したモルダーに、青年は楽しそうに首を傾げた。 「どのくらい信頼してるのさ?」 「・・・・命をかけれるぐらい」 「・・・・そんなに?」 「ああ」 モルダーは迷いなく答えた。自分の存在より大切な相手なのだ・・・。 「あんたの大事な人なんだ・・・・」 青年は深く頷くと、銀行内の広い天井を見つめた。 「銀行強盗なんかするつもりじゃなかった。そんな気もなかったんた・・・」 理由を話し始めた青年の瞳はどこか遠く、寂しさに満ちていた。 「僕の恋人は病気なんだ。手術しても助かる見込みは5%しかない。だけど5%もある」 「・・・・彼女は手術を?」 「助かるなら、生きる希望があるなら、受けるって・・・でも・・・」 「問題が?」 モルダーの問いかけに青年は苦笑する。 「おおありだよ。手術を受けるにもかんじの手術代がない」 「保健は?」 「国籍が違うから大きな治療には適用されない。だから・・・・」 「だから、銀行強盗を?」 彼が最後まで言う前に、その言葉をモルダーが続けた。 「このままだと彼女は死ぬ。そう思うといてもたってもいられなくて・・・・」 青年は手のひらを強く握ると震えを隠すように目を瞑った。 「あんたには分からないかもしれないけど・・・自分の無力がこんなにも情けなくて・・・。 悔しくて、彼女を失う恐怖が怖くて・・・何かをしないと許されない気がしたんだ・・・・・」 一言一言言葉を噛み締めて話す青年の言葉は、モルダーの中の"あの恐怖"に触れた。 スカリーを失いかけた・・・彼女が死に迫る癌におかされていた時の気持ちに。 「・・・・・分かるよ」 モルダーは小さく呟いた。 そう彼の気持ちは痛いほどに理解できる。 失うかもしれないその恐怖、死ぬと分かっていて自分が何も出来ない無力さ、何かせずにはいられない自分への苛立ち。 全てが手にとるように分かる。 「分かる・・・・分かるよ」 「・・・あんたも同じような事が?」 「・・・・僕にも大切な人を亡くしかけた事がある。だから君の気持ちは痛いほどに分かる」 そう、スカリーを失いかけたあの時、自分の体も命も関係なく彼女を救うために走り続けた。 だから何かせずいられない彼の気持ちも、追い込まれてしまったゆえの突発的行動も理解できる。 「だけど・・・これは、あまりいい方法だと思えない」 モルダーの言葉に青年は顔を上げた。 「今、君にできる事は彼女の側に居てやる事じゃないのか?」 「・・・・・」 「どんな時も、たとえ生きられないとしても、彼女はずっと側にいて欲しいんじゃないのか?」 モルダーは椅子から立ち上がって青年の肩を強く握った。 「助けたいのは君の意志だろう?そして彼女も助かりたいと思ってるだろう。 でも彼女は今助けて欲しいと思ってるのか?そうじゃない。それは彼女にしかわからない。どう思ってるかなんて・・・」 言葉を続けようとした瞬間、モルダーは自分の言動に、はっとした。 彼に言った言葉が、自分に重なったからだ。 そう、誰も自分以外の気持ちを、その心を知る事など出来ない。 いくら信頼しあっていても、愛しあっていても本人以外は絶対に無理な事なのだ・・・・。 誰も・・・誰にも・・・・。 他人はこんなに簡単にいえるのに、自分では気付く事が出来ない。 モルダーの中にはジルやロクサーヌの言葉が心に繰り返されていた。 " 愛さなければ、ずっと側にいられる " " 自分が傷付く事に怖がっている " モルダーは自分の手を強く握りしめると、今まで避けていた答えに辿り着いた。 そう、自分はずっと恐れていたのだ。彼女を失ってしまったらと・・・・・。 癌で彼女を失いかけた喪失感の恐怖は果てしなく心に浸透し、今もあの絶望感がときどき胸をよぎる。 だから捕われていた支配の後、彼女の姿を見ると心底安心していた。 生きて確かにここにるのだと。 あの恐怖が怖くて、もう一度そんな事になったら自分が耐えれないから、だから・・・言い訳できる理由で気持ちを制御して来た。 本心を隠し、言い訳で自分を保ってきた。自分はスカリーに奪うだけで何もしてやれないと。 そう、ただの一度も、彼女と向かい合って話す事なく。 自分の考え、想い、意志だけで、これが一番いいのだと判断して二人の関係に決着をつけた。 スカリーと話し合う事などなく、傷付く前に自分から離れた。 でもそれは全て自分だけで進めて来た事。 彼女の考えも想いも一度も聞いていない。 たとえそれが二人にとって一番いい事だと進めて来た事だったとしても、彼女には違ったのかもしれない。 離れる事ではなくて、スカリーは共に過ごす事を望んでいたのかもしれない。 傷つけあっても、それが辛い結末しか生まなくても、今は側にいて欲しいと・・・・。 彼女の気持ちは彼女にしか分からない。 それでもスカリーが一度も自分の想いを口に出さなかったのは、傷つけられなかったからだ。 僕を・・・・。 彼女に対して色んな責任を感じている僕に本心を言えば傷つけてしまうと思って・・・だまって受けいれてくれたのだ。 そこまで彼女は・・・・。 モルダーは唇を噛み締めた。 単純すぎて、気づけなかった。自分の視点でしか考えていなかったから。 自分がスカリーを想う以上に、彼女は自分を想ってくれている。 自分の望みを犠牲にできるくらい、深く深く深くスカリーは・・・・。 「彼女の気持ちは、彼女にしか分からない」 モルダーは止めていた言葉を続け出した。 「だから恐怖と混乱で自分を見失う前に、彼女と話し合うべきだ。今ならまだ間に合う」 強い言葉だったが、青年は首を振った。 「こんな事をおかす前に、それに気付きたかったよ。もう無理だ・・・彼女の元にはいけない」 青年は瞳をふせると、拳銃をモルダーに差し出した。 「いや、まだ間に合う」 モルダーは拳銃を受け取ったが、青年から瞳を放さなかった。 「えっ」 青年の聞き返す言葉を無視して、モルダーはさっきの紙に殴り書きをする。 「ここは僕の知り合いの病院だ。僕の名前を言えばたいていの無理は聞いてもらえる。 そこに彼女をつれていけばいい。お金はゆっくり返済してくれればそれでいいさ」 「・・・・・!!でも・・・」 「さいわい君は誰も傷つけいないし、顔も見られていないんだろ?ここにいるのはこの小さなお嬢さんと僕だけだ」 「どうして・・・・」 「君のおかげで、一番大切な事に気づかされた」 「えっ・・・・」 「だけど助ける変わりに、君には一つだけ頼みを聞いてほしい」 モルダーは意を決したように頷くと、受け取った拳銃をとまどった表情の青年に手渡した。 そして数分後、静かな銀行内の中に銃声が響き渡った。 「モルダー!!!」 右肩を押さえ少女を庇うように倒れ込んでいるモルダーの姿を見て、銃声と共に踏み込んだスカリーは大声を上げた。 「モルダー!しっかりして!!」 床を濡らす出血は思いの他多く、止血をしながらスカリーは意識のないモルダーに声をかけ続ける。 「モルダーーー・・・!!!!」                           to be continued・・・。 ====================================== はいはいはい☆ 今年も後少しになってしまいましたねー。 そう思うと月日と時間がたつのはめちゃくちゃ早い気がします(笑) 今まで多くの方に読んで頂き、感想を送られ、本当に感謝の感謝の私のfic。 次か、その次ぐらいで、bondを終了させて頂きます☆ そして最後の完結編を一つ書かさせて頂いたら、私の連載は終わりです(涙) かなち長期連載でしたが・・・皆様本当にありがとうございました。 あいさつしてるけどまだ終わってませんので(笑) でわでわw 良ければ感想をww→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp