本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 ======================================                       『fou you』 (4)                                from 涼夜 「疲れたかい?」 空港からすぐにFBIに戻ったモルダーはスキナーに全てを説明して、ロクサーヌをホテルに送ろうとタクシーに乗り込んだ所だった。 タクシーの中で小さくため息をついたロクサーヌの頬に、暖かい手が触れる。 「・・・・大丈夫よ、あなたこそ・・・・」 「僕なら大丈夫だよ」 そう言って微笑んで見せたモルダ−の手に、ロクサーヌは自分の手をそっと重ねた。 「それは?」 「ん?」 「それ」 ロクサーヌが指差したのはモルダ−が抱えていた青いファイルだった。 「ああ・・・・」 彼は小さくため息をつくと"それ"をロクサーヌに手渡した。 彼女は一瞬不思議そうな顔をしたが、黙ってファイルをめくると驚いた表情でモルダ−を見つめ返した。 「これ・・・・!」 「当時の物を残して置きたくて・・・」 「・・・・あなたが?」 「ソニアはFBIに入るのが夢だったから」 「そう・・・そうね、ずっと持ってたの?」 「いや・・・しまってあったんだけど、僕がいない間に相棒に見つけられてね。さっき受け取ってきたんだ」 「相棒って・・・あの赤毛で小柄な女性?さっき一緒にオフィスにいた」 「えっ?ああっ・・・」 "相棒"に触れられた瞬間、目をそらしたモルダ−の顔をロクサーヌが悪戯っぽい表情で覗き込んだ。 「もしかして、ケンカしたの?」 「えっ、べ、別にケンカなんてしてないさ」 慌てたモルダ−の言葉に、彼女は小さく吹き出した。 「何?」 ふてくされたようなモルダ−の顔を、ロクサーヌは両手で包み込んで引き寄せた。 「あいかわらず嘘が下手ね、あなたの嘘なんてお見通し。一体何年あなたとつきあってると思ってるの?」 その自信たっぷりな笑みに、モルダ−は諦めたように小さくため息をついて彼女を見た。 「相棒は大切にしなさい」 厳しさを込めたその言葉に、彼は強い思いを感じた。 そこにはさっきのようなおどけた微笑みは無く、ロクサーヌは真っ直ぐにモルダ−を見つめていた。 「・・・OK,jin」 頬に触れた彼女の手を自分の手のひらで包み込んで、モルダ−は深く頷いた。 「懐かしい呼び方をするのね・・・」 ロクサーヌは柔らかな微笑みを浮かべたが、すぐに真顔になった。 「モルダ−・・・気のせいかも知れないけど・・・手、熱くない?」 「えっ?」 「熱いわよ。もしかてあなた、熱があるんじゃ・・・・」 ロクサーヌはモルダ−に握られていた手を解くと、彼の額に触れた。 モルダ−の体温は異常に熱い。 「やっぱり!!いつから?まさか・・・ずっと?」 「大丈夫だよ」 「そんなわけないでしょ!」 「だいじょう・・・ぶ・・・」 慌てるロクサーヌの表情を見て安心したモルダ−は、張り詰めいた緊張が溶けて目の前が急に暗くなるのを感じた。 離れて行く意識の中で、さっきスキナーのオフィスで交わした会話が脳裏に蘇る。 「モルダ−??ちょっ・・・モルダ−!!」 体を預けるように倒れこんで来たモルダ−の肩を、ロクサーヌは強く揺すりながら名前を呼び続けた。 「説明してもらおうか、モルダ−」 「・・・・ええ・・・」 ロクサーヌを連れてFBIのスキナーのオフィスに戻ったモルダ−は、ゆっくりと話し始めた。 モルダ−の隣には顔を伏せたロクサーヌが、入り口のドアには腕を組んだままのスカリーがモルダ−を見つめていた。 「・・・12年前、僕と彼女は事件のプロファイリングを依頼され、もう一人の同僚の捜査官と三人で捜査していました。 事件はねんみつに練られた計画で行われ、現場に一切の証拠を残さない事から犯人はかなりのIQ指数の持ち主であり、殺された少女の遺体から見て男性である事。 殺人をゲームのように楽しみ、普段は普通の人達と変わらない生活を送っている人間だと、僕らは予想したんです」 モルダ−は小さく息を吐くと、隣に座るロクサーヌの手をそっと握った。 彼女の瞳は言い様の無い悲しさに満ちていたが、強くモルダ−の手を握り返した。 「僕らのプロファイリングと捜査の結果、半年後一人の容疑者が浮かびました。それがブライアン・ジャクソン・・・事件の犯人です。 ある時、彼は僕らの存在に気がついて一通の手紙を送って来たんです」 「手紙?」 「手紙と言うより、それは・・・」 「予告上です」 言いよどんだモルダ−の変わりに、ロクサーヌが答えた。 「彼は私達が捜査している事も、自分が容疑者に上げられ事も全て知っていてわざと事件が起こる前に予告上を送って来たです」 「まるで頭脳比べと言わんばかりに・・・でも結果はいつも最悪な形で結末を向えて警察の面目は丸つぶれ、僕らには捜査から外れるように上からの指事が来ました」 「奴を逮捕出来なかったのはなぜだ?」 スキナーの言葉に、モルダ−は唇を軽く噛んだ。 「物的証拠が何も・・・」 小さく首を振って答えたのはロクサーヌだった。 「そして、あのバレリ−シティでの人質立てこもり事件が起こり、彼を捕まえました。彼は・・・・・」 「法廷で僕らに向かって、自分をこんな鳥かごに閉じ込める事は許されない、僕らは深き罪人だと」 「そういう訳か・・・しかし他の文章はどう意味なんだ?」 「多分、赤と白が交わる時は・・・」 モルダ−はそう言うとスキナーを通りこして、視線を合わせないまま窓を指差した。 外は風と雪が一緒になって吹雪いて、スキナーは訝しげな表情をしてモルダ−を振り返る。 「白は、雪です・・・そして赤は・・・」 言いかけたモルダ−の言葉が一瞬止まった。 彼の脳裏を"あの日"の光景が蘇る。 苦痛に顔を歪めて横たわる彼女、冷たくなっていく指先、そしてどこまでも広がる赤い染み・・・・。 「モルダ−?」 「えっ?ああ・・・・」 現実に引き戻されるように、スキナーの一言でモルダ−は我に返った。 「赤は、血です。あの時、一人捜査官が撃たれて犠牲になり・・・それは僕らと組んでたもう一人の同僚で、奴はそれを知っていました。 つまり白い雪が積もる時、また昔のように赤い染み、血で染めて見せると・・・奴は言いたいんですよ」 「それが、どうして彼女なんだ?」 「それは・・・・」 スキナーがロクサーヌを見た瞬間、彼女は顔を上げた。 「あの時、銃で狙われていたのは私です。同僚の捜査官は私をかばって・・・」 「違う!!」 ロクサーヌが最後まで言う前に、それはモルダ−の怒鳴り声によってかき消された。 「違う、ロクサーヌ・・・・君の責いじゃない」 「モルダ−・・・・」 真っ直ぐなモルダ−の視線に耐え切れず、ロクサーヌは顔をそむけた。 「大体事情は分かった。捜査官達には私から話しておこう。彼女には明日から24時間体制で警備をつける」 「お願いします・・・行こうロクサーヌ、ホテルまで送るよ」 「・・・・ええ」 ロクサーヌは椅子から立ち上がるってスキナーに頭をさげると、モルダ−に肩を抱かれて部屋を出て行った。 「・・・・どう思う?」 その場に残されたスカリーに、スキナーが声をかけて来た。 「あんなモルダ−を見るのは初めてです」 「私もだ・・・まだ何か隠してるのか?」 「多分・・・事件の事では無いと思いますが・・・」 スカリーは心の中に何か波打つ物を感じながらも、つとめて冷静に答えてスキナーの部屋を後にし、モルダ−を追いかけた。 「モルダ−!!」 エレベータに乗り込もうとして、モルダ−は振り向いた。 「先に行っててくれ」 「・・・ええ」 モルダ−はロクサーヌをエレベーターに乗せて小さく微笑むと、自分の名を呼んだスカリーの方へ向き直った。 「・・・どうした?」 「誤摩化すのは止めて」 彼女の真っ直ぐな言葉に、モルダ−は心の中で小さくため息をついた。 「あなたに聞きたい事があるのよ」 「・・・・何んだい?」 「来て」 スカリーはモルダ−の手を取ると彼をエレベータに乗せて地下のオフィスに向かった。 「スカリー話しなら明日・・・ロクサーヌを待たせてるんだよ」 彼女がオフィスのドアを開けて中に入るのに続きながら、モルダ−が少し困った口調で話しかけた。 でもすぐに、モルダ−はスカリーがデスクの引き出しから出した物を見て真顔になった。 「あなたが休暇中に偶然見つけたのよ・・・」 「・・・・・!!」 スカリーが手に持っていたのは一つの青いファイルだった。 それはもう何十年も前にモルダ−が隣の資料室にカギをかけてキャビネットの中に閉まった物。 辛く楽しかった思い出と共に封印した悲しい過去。 あの時の思いが、だんだんとモルダ−の中でクリアになっていく。 「・・・・見たのかい?」 真っ直ぐに、モルダ−はスカリーを見つめた。 いつも答えを求めて真実を追求して来た瞳、スカリーはその瞳から目をそらす事が出来ず、ただ小さく頷いた。 その瞬間、モルダ−の瞳から彼がたえず自分に向けていた信頼の色が消えたのを、スカリーは痛いくらいに感じた。 モルダ−は彼女に近付くと、その腕から青いファイルをゆっくりと引き抜いた。 「事件の事なら何でも答えるよ、スカリー。でも、誰にもでも・・・・知られたくない事の一つや二つはあるんだ」 「モル・・・・」 「悪いけど、今日はよしてくれ」 モルダ−の口調は怒った話し方でも、決して彼女を責める言い方でも無かった。 でもそれはどこか冷たく、初めてモルダ−がスカリーに見せた"拒絶"だった。 モルダ−は振り向く事もなく、スカリーは呼び止める事も出来なかった。 そう・・・スカリーの言葉を振り払って・・・・そのまま・・・・。 ・・・・スカリーは・・・どうしただろうか?・・・・。 まどろんだ意識の中で、モルダ−は優しく頬に触れ、そっと髪をかきあげてくれる暖かい感触に気づいた。 それは本当に辛い時、側にいて・・・いつも自分を守ってくれる手。 汚す事の出来ない尊い存在で、触れる事すら許されない相手・・・・。 「ん・・・・・スカリー・・・・・?」 ぼやけた意識の中でモルダ−は、自分に触れているその手を確認するように掴んだ。 「気がついた?」 「えっ・・・?」 モルダ−の視界に写ったのは、心配そうな瞳を向けているロクサーヌの姿だった。 「ロクサーヌ・・・?えっ?・・・・あっ!」 「まだ、起きちゃだめよ!」 思い出したように飛び起きようとしたモルダ−の腕を、ロクサーヌが慌てて押さえ込んだ。 「じっとしてて。今、お水持って来るから」 立ち上がったロクサーヌを見て、モルダ−はすぐにここが自分の部屋だと分かる。 そして意識を完全に失うまでの自分の行動が少しずつ蘇って来た。 彼女をタクシーに乗せて話しをしていたら急に、目の前が暗くなって倒れ込むように身を預けた事。 病院に行こうとしたロクサーヌに、嫌だと言って無理矢理説き伏せた事。 その後、家まで送ってもらって部屋につくなりカウチにもたれてそのまま今まで眠ってしまった事・・・。 モルダ−はあまりの自分の失態の情けなさに両手で顔を覆う。 「はい」 声をかけられて顔を上げると、コップを持ったロクサーヌ表情は優しく微笑んでいた。 その微笑みは、彼の心にあの頃感じていた懐かしい気持ちを沸き上がらせていく。 コップを受け取っても自分をじっと見つめるモルダ−の視線に、ロクサーヌは首を傾げた。 「何?」 「いつも、タイミングよく笑ってくれるな・・・って」 「えっ?」 「例えば今とか、情けなくて顔を見れなかったのにそんな事、関係ないって感じで・・・」 「・・・なに言ってるの」 ロクサーヌは小さく微笑むとモルダ−の手からコップを取って彼の体をゆっくりと横に戻した。 「顔色はだいぶましになったけどまだ熱があるんだから眠って」 「でも、君を送らないと・・・」 「いいから、眠って。それとも眠れないなら昔話しでもしてほしい?」 悪戯っぽく笑ったロクサーヌを見て、モルダ−も小さく微笑んだ。 「遠虜しておくよ、過去の汚点を上げられて逆にますます具合が悪くなりそうだ」 「良く分かってるじゃない」 楽しそうに笑いながらロクサーヌはモルダ−に暖かいブランケットをかけてやる。 それが肩にかかった瞬間、モルダ−はそっと彼女の手を握った。 「・・・・ありがとう、ロクサーヌ」 照れたように微笑んでから彼女の手を離すと、モルダ−は目を閉じて小さな寝息をたて始めた。 翌日、警備の整ったホテルにロクサーヌを送ると、モルダ−は通い慣れた道に向かって車を走らせた。 降り続ける白い雪が視界を曇らせたが、道を間違える事はまず考えられなかった。 車を降りて目的の場所についた彼は目の前の白いドアを見つめる。 何度このドアを叩いただろう? そのたびに自分とドアの向こうの相手には強い絆が生まれて来た。 『大切か?』と聞かれれば『何よりも』と答えるだろう。 モルダ−は小さく息をはくと、いつもよりも時間をかけて静かにドアをノックした。 ほんの少ししてからロックを外す音が聞こえ、ドアがゆっくりと開いて無言で彼を招き入れる。 モルダ−はそっと一歩を踏み込んだが、自分に背を向けているスカリーを酷く遠くに感じた。 "相棒を大切にしなさい" ロクサーヌの言葉がふっと頭に浮かぶ。 彼女は相棒を守れきれなかった・・・・永遠に自分を責め続けるだろう。 そして離れて行った・・・お互いのために。 「話すよ・・・12年前、何があったのか・・・・」 その言葉にスカリーはゆっくりと振り返り、黙ってモルダ−を見つめた。 モルダ−はソファーに腰かけると、スーツの上着の中から一枚の紙を取り出してスカリーに渡した。 「これは・・・?」 スカリーもモルダ−の向かいに座り、差し出された紙を広げて目を通す。 「12年前の事件の報告書だよ」 それはスカリーの知る事のないモルダ−の過去だった。 『1987年1月25日 サナ−セット州オリビア郊外フランクリン通り6−34五番外で11歳の少女が残殺される事件が起こった。 静かな街を襲ったこの事件は全国に大々的に放送され、これが後に続く少女連続殺人事件の始まりだった。 当時、事件の指揮をとっていたシャール・モノラロス警部は、高いプロファイリング能力を評価されていた クゥアンティコFBIアカデミーの訓練生フォックス・ウィリアム・モルダー捜査官(27)に捜査の協力を要請する。 その半年後、特別要請として同じくクゥアンティコFBIアカデミーの訓練生ソニア・リン・シェスタ捜査官(27)と ロクサーヌ・ジン・スフィル捜査官(27)の二人が捜査に加わった。 三人のFBIアカデミー訓練生のプロファイリングにより犯人の行動、知識、性格が割り出され、容疑者が絞り込まれた。 そして捜査線上に一人の男性容疑者が浮かぶ。男の名はブライアン・ジャクソン(38) しかし物的証拠が上がらないまま捜査は困難を極め、被害者の少女達の数は87〜88の一年間で8人にも及んだ』 「モルダ−、事件の報告書はこれだけなの?」 「いや・・・」 「残りは?」 「残りは・・・・」 少し考えこんでから、モルダ−は口を開いた。 「処分した」 「・・・!!」 驚いて瞳を開くスカリーに、彼は何も答えずソファーから立ち上がった。 「君はこの事件の事を?」 「えっ?ええ・・・当時ニュースでやっていたから覚えているわ」 背中を向けているモルダ−の表情はスカリーには分からない。 でもなぜか、彼の瞳が悲しさに満ちている事を感じた。 「あの青いファイル、全部読んだのかい・・・?」 「・・・いいえ」 「そうか・・・」 モルダ−は窓の外に降り続ける白い雪を見つめた。 二人と別れた日も、こんな風に雪が降っていた。 あれから、雪を好きでは無くなったんだな・・・。 モルダ−はほんの少しだけ微笑むと、目を閉じて懐かしい昔へと思いをはべらせた。 「初めて彼女達と出会ったのは・・・・」 彼は静かに、誰にも話さずにいた遠い過去をスカリーに語り始めた・・・。                           to be continued・・・ ==================================== や、やっと終わった・・・。 でも、なんかな〜。自分言うのも悲しいけど、文章能力ゼロかも・・・(へこみ) なんか・・・自信無くしかけです、ひよ様(涙)