本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳あ りません。 ======================================                       『fou you』 (5)                                from 涼夜 思い出す事は簡単だ。 忘れる事よりも・・・・・。 −1986年− 春 入ったばかりのFBIアカデミーで、フォックス・モルダ−は二人の女性と出会った。 流れるようなセピア色の髪に薄紫色の瞳のロクサーヌ・ジン・スフィル。 そしてもう一人、肩までの黒髪に同じヘイゼルの瞳をしたソニア・リン・シェスタ。 同期だった三人は最初顔を合わす事も無かったが、エレベータの中でモルダ−がロク サーヌの荷物を半分持った事がきっかけになった。 彼女の荷物を一緒に持って運んだ事でモルダ−は講議に遅れてしまい、それを後から 聞いたロクサーヌがせめてのお詫びにランチをと申し出てくれた。 最初断っていたモルダ−も、彼女の義理がたい熱意に負け最後にはOKし、そこでロ クサーヌからソニアを紹介されたのだった。 ロクサーヌとソニアは全く対照的な性格で、二人が友人でいる事にモルダ−は最初驚 いていた。 穏やかなロクサーヌは良く笑って話す優しい女性だったが、反対にソニアは自分に厳 しく、女だからと言う甘えを許さない強い女性だった。 「どうしてそんなに見つめるの?」 自分を真っ直ぐに見つめるモルダ−に、ロクサーヌは小さく微笑んだ。 二人は今、カフェテリアで教官に呼ばれたソニアを待っている所だった。 「えっ?」 「さっきから見てたでしょ?」 「あっ・・気になったんなら、ごめん。考え事してたんだ」 「ソニアの事?」 「ええっ!?」 予想よりも大きな声を上げた彼に、ロクサーヌは目を大きく開いた。 「当たった?」 「いや、当たっと言うか・・・どうして分かったんだ?」 「言ったでしょ、私とソニアも大学で心理学を専攻してたって」 ロクサーヌは「あっ・・」と思い出したような顔をしているモルダ−を見て楽しそう にクスクスと笑った。 「ちょっと不思議な感じがしてさ・・・」 モルダ−は降参したように微笑んでロクサーヌを見つめた。 「何が?」 「どうして、性格も考え方も全く違うのにソニアと友人でいられるのか」 「・・・・あなたこそ不思議な事を聞くのね」 モルダ−の意外な言葉にロクサーヌはきょとんとして聞き返した。 「そうかな?」 「私から見たらあなたも凄く不思議な人だけど?」 「それと、これとは話しが・・・」 モルダ−はむきになって言い返そうとしたが、すぐに彼女の楽しそうな笑みを見て言 葉を止めた。 かわかられた事で質問をはぐらかされた気がしたモルダ−は、黙ってロクサーヌを見 つめる。 彼女は言葉を探しているようだったが、やがて答えが出たようにテーブルの上のモル ダ−の手をそっと握った。 「じゃ、あなたは?」 「えっ?」 前置きも無い質問に彼は首を傾げた。 「あなたはどうして私達と一緒にいるの?」 「えっ??それは・・・」 「確かに私とソニアは性格も違うし、考え方も・・・お世辞でも良く似ているとは言 えないわね」 ロクサーヌは少し困ったように苦笑すると、言葉を続けた。 「でもモルダ−、それを言うならあなたこそ不思議の対象なんじゃない?」 「僕が?」 「そうよ。全く正反対な私達と友人でいるんですもの、違う?」 ロクサーヌの言葉にモルダ−は石で頭を殴られた気分になった。 言われてみれば確かにそうだ。 「・・・・・確かに・・・」 「ねっ?」 「・・・ああ」 「でもねモルダ−、それはきっと理屈じゃないのよ。それに・・・これから分かって 行くんじゃない?」 ロクサーヌは握っていた手を離して、モルダ−に優しく微笑んだ。 「・・・・そうだな」 モルダ−も小さく笑うと、ゆっくりと頷いた。 実際、この頃まだモルダ−とロクサーヌ達は知り合ったばかりでまだ良くお互いの事 を分かっていなかった。 答えを求めるモルダ−に、彼女は"これから"だと納得させた。それはきっと、これか らお互いを知っていけば答えが見えるだろうと。 「あ、ソニアが来たわよ」 「本当だ」 カフェテリアの入り口できょろきょろしているソニアに、モルダ−とロクサーヌは同 時に手を振った。 −1987年− 春 「モルダ−、ここスペル間違ってるわよ?」 モルダ−が書き上げたレポートを見ていたソニアは、呆れたような声で彼にレポート を向けた。 「どれ、あっ・・・」 「あと、ここも」 「・・・・」 ソニアの口から次ぎの言葉が出る前に、モルダ−はレポートを受け取って無言でデス クに戻った。 レポートに向かってしばらくは悪戦苦闘していたが、コーヒーの香ばしい香りで顔を 上げると"しょうがないわね"と言う顔をしたソニアが小さく微笑んでいた。 彼女からコーヒーを受け取るのが初めてだったモルダ−は、驚いてカップを落としか けた。 「僕に・・・?」 「・・・他に誰がいるの」 すぐに呆れ顔になったソニアは小さくため息をついてみせる。 でも、その瞳は優しさに満ちていた。 「・・・・ありがとう」 「しっかりね」 ソニアは手に持っていた書類を丸めてポンっと、モルダ−の頭を軽く叩くと横を通り 過ぎ、部屋から出て行こうとした。 「あっ・・・ソニア!」 彼女は"何?"と言う表情でモルダ−の方を振り返る。 「なんの香水?」 ニヤニヤ笑うモルダ−に、一瞬ソニアは言葉に詰まった。 「言ってなさい」 ソニアはそれだけを言うと勢いよくドアを閉めた。 彼女の頬がほんの少しだけ染まっていたのは、気のせいじゃないだろうと思いながら モルダ−は声を殺して笑った。 出会った頃、ソニアは滅多に笑わなかった。 でもつき合いが1年を過ぎた最近は、よく笑顔を見せてくれるようになってモルダ− はそれが嬉しかった。 思えばあの日からかもしれない。 今年のソニアの誕生日、ロクサーヌと二人で彼女のために三人でよく足を運んだ美術 館を貸し切った。 でも、それだけじゃ寂しいからとロクサーヌに言われ、お互い別にプレゼントを用意 する事になった。 ソニアを送った帰りに渡したプレゼント。 「これ・・・」 モルダ−はほんの少し、照れたようにコートの中から小さな箱を取り出した。 不思議そうな顔をしたソニアに、彼は優しく微笑んだ。 「これは、僕から」 「・・・・モルダ−・・・!」 ソニアは瞳を大きくひらいてモルダ−を見つめた。 「何がいいか分からなかったんだけど・・・」 「開けてもいい?」 「もちろん」 リボンを外して箱を開けると、柔らかい香りが二人の間に広がった。 「年に一度たった二週間だけ咲くブァイン・フラワーから作られるんだって」 「きれいね・・・」 ガラスのびんの中で揺れる薄いグリーンの香水が、ソニアの瞳を引き付けた。 「ENVE・・・"憧れ"?」 びんに書かれた文字をそっとなぞってみる。 「うん・・・なんか、イメージだったから」 「私の?」 「そう。つけてから消えるまでに香りが変わって行くらしいんだけど、それがソニアっ ぽい気がして・・・」 「・・・どういう意味?」 「たまに笑ってくれるその笑顔がさ、滅多に見る事が出来ないから"手の届かない憧 れ"って感じで」 モルダ−の言葉に驚いたソニアは、困ったように彼を見た。 「誉め過ぎよ」 「あっ!悪い意味じゃなくて・・・その、心を許してくれてきたんだなって思うんだ よ。それは・・・」 モルダ−は目線を下に落とすと少し照れたように言葉を続けた。 「凄く嬉しい事だから・・・」 ほんの一瞬の沈黙の後、モルダ−が顔を上げると瞳にうっすらと涙を浮かべたソニア が優しく微笑んでいた。 心を許した時にだけ見せる彼女の本当の顔。 厳しさの中にある暖かくて柔らかな優しい思い。 「ありがとう、モルダ−・・・」 涙を誤摩化すように少し距離をとると、モルダ−の肩に顔を埋めてソニアは囁いた。 あの日から、ソニアは少しずつ変わっていった。 前はどこか一歩を引いていたが、今は誠意を示せば好意で返してくれ・・・優しくなっ た。 きっと彼女は認めないだろうが、あきらかに出会った頃とは違う。 それはモルダ−にとって嬉しい変化で、彼女の友人として誇らしい物だった。 三人の絆は時間と共に深まっていった。 休日と言えば三人の内の誰かの家で過ごし、明け方まで話し込む。 映画に美術館、スポーツにクラシックコンサート、演劇鑑賞にショッピング。 夏も秋も冬も春も、三人は色んな時間を一緒に過ごして来た。 過ごす時間が増えれば増えるほど、思い出も増える。思い出が増えれば友情が深まる。 三人にとってお互いは大切な存在だった。誰か一人が欠けるなど考えられないほど。 共に過ごした時間を思い返せば優しい気持ちになれる関係。 ロクサーヌの穏やかな優しさは、もう何年も忘れていた安心感をモルダ−に与え、ソ ニアの厳しさは諦めそうになった時、言葉に出来ない強さを与えた。 二人と出会えた事で、自分が変わって行くのを彼は強く感じていた。 だからこそ、心と気持ちに無意識ブレーキをかけた。二人を特別な目で見ないよう、 女性として意識しないように。 それは彼女達も同じ気持ちだと信じ、疑う事もなかった。 だからモルダ−には疑問だった。 二人がいつまで経っても特定の人、恋人を作らない事が。 ロクサーヌとソニアの二人は知的で聡明で美しく、彼女達といると必ず人目をあびた。 アカデミーの中でも何人かが彼女達に思いを寄せているのをモルダ−も分かっていた。 何度か橋渡しを頼まれた事もあったし、紹介してくれとしつこくつきまとわれた事も あった。 でも、ロクサーヌとソニアの二人がそういう行為を嫌っているのをモルダ−は知って いたので、回りに敵を作る覚悟でいつも断っていた。 でも何より彼が一番困った質問はこれだった。 "二人の内どっちとつき合っているのか?" ほとんど毎日繰り替えされる質問。 うんざりしながらもモルダ−は毎日答えていた。 "どちらも大切な友人だ"と。 その話しをするたびにロクサーヌとソニアの二人は楽しそうに笑っていた。 しまいには「両方とつき合ってるって言ったら?」なんて提案さえ飛び出してきたの だ。 さすがに危険を感じたモルダ−は、それを頭の片隅に捨て去った。 「どうして恋人を作らない?」 ある日、モルダ−がした質問に二人はあっさりと答えた。 「誘ってくれる人がいないのよ」と、いつもと変わらない口調でロクサーヌは微笑ん だ。 「そんな時間がないの」と、ソニアは言い切った。 それは二人らしい答え方だったが、モルダ−は知っていた。 ロクサーヌは、デートに誘われてもその場で断っていること。 ソニアは空いてる予定を聞かれても、答えた後でわざわざその日に仕事を入れている こと。 でもなぜか二人はモルダ−にそれを黙っている。だから彼も知っている"と言えなかっ た。 二人は過去に辛い思いをしたのかもしれない。 他に想う相手がいるのかもしれない。 自分にはただ言いたくないだけなのかもしれない。 考え出すときりがなかったが、二人の事は大切に思っているし誰よりも尊敬している。 "親しき中にも礼儀あり"と言うように、いつか二人が話したくなったらモルダ−は聞 くつもりでいた。 それにこれ以上、二人のプライベートな部分に立ち入るべきでは無いと思ったのだ。 「モルダ−は?どうして?」 「えっ?」 ふいに投げかけられた自分への質問に、モルダ−は目を丸くした。 「だから、どうして恋人を作らないの?ね、ソニア」 「確かに興味深いわね」 「えっ・・・・あっ、それは・・・」 首を傾げたロクサーヌと深く頷いたソニアは、楽しそうにモルダ−を見つめる。 二人に見つめられて、モルダ−は降参したように両手を上げた。 「・・・僕のすぐ側には魅力的な女性が二人もいるからね、なかなか他に目がいかな いんだよ」 悪戯っぽく微笑んだモルダ−にソニアは呆れ顔を、ロクサーヌは軽くため息をついた。 「つまりあなたも誘ってくれる人がいないのね、モルダ−」 「二人がいれば十分さ、ロクサーヌ」 「誉めても何も出ないわよ、モルダ−」 「二人の笑顔で十分だよ、ソニア」 モルダ−の"いかにも"と言う感じの言葉に、三人はお互いの顔を見て声を出して笑っ た。 その後、酷く上機嫌だった二人はモルダ−に『中華以外ならと』とランチをご馳走し てくれた。 もちろん彼が断るわけもなく、素直にソニアとロクサーヌの行為に甘えた。 半分本気で半分冗談で口にした言葉。 でも『二人がいて、二人の笑顔があれば十分だ』と言ったモルダ−の気持ちに嘘はな かった。 それだけは、はっきりと言い切れる。 実際、他の女性達から何度か食事の誘いを受けた事もあったが彼は断っていた。 どうしてなのかモルダ−自身よく分からなかったが・・・。 でも正直な所、恋人を持つよりもモルダ−はソニアとロクサーヌの二人と過ごしたい 思っていた。 たとえ三人の間に何もなくても、モルダ−は今のままで十分だった。 一緒にいれば楽しいし、不思議と落ち着いて安心する事が出来る。 逆に三人の内、一人にでも"恋人"が存在すれはこの関係を続けるのは難しいだろう。 残された二人は嫌でもお互いを意識してしまうし、自分に相手がいたら二人に気をつ かわしてしまう。 それにソニアとロクサーヌの二人の内どちらかに"恋人"が出来るのは正直、おもしろ くなかった。 それは1年以上、自分が彼女達に一番近い場所にいたからと言う、子供っぽい感情か ら来る物だったが。 でもそうなったら・・・きっと嫌だと思ってしまうだろう。 それは彼女達も同じ気持ちなのだろうか? 一瞬・・・二人が恋人を作らない理由をまさか・・・と思った事もあったがそんな気 持ちはすぐに消えた。 自分が二人に友情以上のち感情を抱いていないように、彼女達もそうだと信じたから だ。 それに二人が今の三人の関係を壊すような事をするとは思えなかった。 そう、いつの間にか・・・三人で過ごす内に、決して口にしてはいけない言葉が生ま れてしまった。 "愛している" これだけは三人で過ごす上での暗黙のルール。 嬉しい時も喜んだ時も、お互いが大切な存在だと感じた瞬間でさえも、この言葉を口 に出した事はなかった。 だからモルダ−は、まだ気づいていなかった。 自分の中に芽生え始めた気持ちも、二人が自分に向けてくれている想いにも・・・。 春の終わり、今年の初めに起こった少女連続殺人事件のプロファイリングにモルダ− が抜擢された。 その半年後(正式には約2ヵ月後)上からの指示によってソニアとロクサ?の二人 も特別に捜査に加わる事になった。 夏に入りかけた頃、仕事に明け暮れていた三人は休日出勤が当たり前になっていたが、 文句一つ言わず捜査に集中していた。 犯人の手掛かりがまったく無いこの状況では、容疑者特定は三人のプロファイリング にかかっていたからだ。 「モルダ−!いい報告よ」 「どうしたんだ?ロクサーヌ、そんな勢いよく走って来て」 オフィスに入って来るなり目を輝かさせて微笑んでいる彼女に、モルダ−は驚いたよ うに訪ね返した。 「このプロファイリングを片付けたら、夏には特別休暇をくれるって!」 「本当に?」 「もちろん♪さっき教官とシャール警部からソニアとモルダ−にも伝えといてくれ、っ て言われたんだから」 「それは嬉しいかぎりだな。でも、なんで急に?」 「・・・・ソニアがね・・・」 ロクサーヌは思い出したように笑い出した。 「会議室で怒ったの、初めて」 「ソニアが!?」 「そう、あの文句ばっかりで頭でかっちの警察官達の前で」 モルダ−は一瞬、驚いて言葉がでなかった。 あの"ソニア"が人前で怒るなど信じられなかったからだ。 「また・・・なんで?」 「あなたが提出した犯人像を、トミーが会議でこけおろしたの。今日のは特に酷かっ たわよ」 目を丸くしているモルダ−に、ロクサーヌは小さく微笑んだ。 「でも、そんなのいつもの事じゃ・・・」 「だ・か・ら、我慢の限界だったんでしょ。私が席を立つ前にソニアが立ち上がって、 そりゃあ凄かったんだから」 「そんなに?」 「アカデミーでのあなたの"変人説"を一瞬でくつがえしたわ」 「・・・・」 「すかっとしたわよ。トミーったら3つも年下の、しかもアカデミーの生徒に・・・」 そう言って、ロクサーヌはまた思い出したように笑い出した。 「だから、気を使って教官とシャール警部からの申し出だと思うわ」 「なるほど・・・っで、ソニアは?」 「頭を冷やして来るって屋上に上がって行ったわよ・・・お礼を言って来たら?」 「そうするよ」 モルダ−は軽く笑うと、オフィスを飛び出して行った。 その場に残されたロクサーヌが、ほんの少しだけ寂しそうに微笑んだのを彼は知らな い。 モルダ−が走って行った廊下から視線を外した彼女の目に、オフイスに壁に張られた 写真が飛び込んできた。 無造作な張り方がモルダ−らしく、ロクサーヌは小さく微笑むと三人が写っている写 真を一枚手に取った。 そっと写真に触れて見る。 そこには、さっきとは全く違う顔のソニアが少し困ったような笑みを浮かべていた。 こんな表情は滅多に見れないだろう。 怒った風でもなく、迷惑しているわけでもない困ったような微笑み。それはソニアが 本当に照れた時にだけ見せる顔。 「・・・・あんなソニアを見たのは、初めてだったわね」 誰もいないオフィスで、ロクサーヌは小さく呟いた。 もうすぐ三人で迎える二度目の夏が来る。 でも、去年の夏と何かが違う。 夏、プロファイリング結果を提出したモルダー達は約束の特別休暇を与えられた。 しかし、勢いとは言え会議の席であんな態度とった事を後悔していたソニアと、犯人 逮捕を第一と考える三人は、休暇を断った。 「いいのかい?」 聞いて来たモルダーに、ロクサーヌは軽く微笑んだ。 「私は別に休暇が欲しかったわけじゃないのよ、ソニアの態度が嬉しかったの」 "なるほど"と、モルダ−は優しい瞳で彼女を見つめた。 ロクサーヌはソニアの武勇伝を語ってくれたが、あとから聞いた話だとソニアが会議 室を出て行ったあとのロクサーヌも凄かったと教官が言っていた。 なのにソニアの事しか話さないのがロクサーヌらしく、モルダ−はそんな気持ちが嬉 しかった。 二人の優しい気持ちが、モルダ−の心を暖かい物で満たしていく・・・。 走り始めた三人の気持ちが今、少しづつ変化を見せていた。 ソニアもロクサーヌもそんなに鈍い方で無かった。 むしろ、二人は長年連れ添った友人だったのでお互いの気持ちは手に取るように分かっ ていた。 だからこそ、どちらも共に一歩を踏み出さず、あえて言葉にはせずに、今を保ち続け 来た。 強い絆で結ばれた三人の関係。 それを誰よりも彼が望み、願っている事を二人は痛いほどに分かっていたからだ。 でも、きっかけや引き金は些細な所からやって来た。 本格的な夏が訪れた頃、モルダ−は同僚の友人、マイクから彼の妹を紹介された。 彼女の名前はフィリス。 フィリスはモルダ−がマイクの家を訪れるたびに良くしてくれ、ハニ−ブロンドにス カイブルーの瞳をした美しい女性だった。 髪の色や、瞳の色・・・そして自分とフィリスの4つの歳の差が、彼に遠い昔失って しまった愛しい妹を思い出せていた。 だからフィリスが自分に好意以上の物を寄せてくれていても、モルダ−は気づいてい なかった。 先に気がついたのはソニアで、次ぎにロクサーヌ。 二人にもそれなりの交友関係があったが、モルダ−が自分達以外の女性と親しくして いると知って驚いた。 "あの子は妹みたいなものだよ" モルダ−はそう言っていたが、ソニアとロクサーヌが外で二人を見かけた時、それは もう"恋人"ようにしか見えなかった。 自分達の中に生まれて来る複雑な気持ちを二人は誤摩化しきれなくなっていた。 もしいつか彼に特別な誰かが出来たら、それは二人の内どちらか、もしくは第三者と 信じていたからだ。 でも、それはずっと先の話しで"今"ではない。 だから、モルダーが自分達の気持ちを知らずに"恋人"を作ってしまう事は二人には耐 えられなかった。 "後悔はしたくない" 二人が下した決断は一つだった。 夏が終わり、三人で過ごすニ度目の秋が来る頃・・・。 モルダーは二人の女性から愛を告白された。 驚いて声が出なかったのを今でも覚えている。 一瞬、耳を疑ったのだから。 "Ilove you Mulder" − あなたを愛している、モルダー −           「友達としてではなく、一人の男性として」 二人は真剣だった。 決して冗談を言ってるわけでも、からかっているわけでもないだとモルダーは瞬間的 に悟った。 モルダーの左の手をソニアが、右の手をロクサーヌがそっと握り、二人は真剣な眼差 しで彼を見つめていた。 「えっ・・・・」 ただモルダーはそれ以上言葉が出なかった。 美しい二人の大切な友人から想いを告げられて、どうしたらいいのか分からなかった のだ。 二人の事はもちろん好きだった、そして特別な存在だった。 でも「愛しているのか?」と聞かれたら、モルダーには答えられなかった。 それは"YES"でもあり"NO"でもあるからだ。 ただ愛しているだけなのか聞かれたら迷いなく"YES"だ。 しかし、女性として愛しているのかと聞かれたら答えは多分・・・"NO"だろう。 けれどそれは、モルダーが無意識に心にブレーキをかけていたからだった。 でも今、二人の内"どちら"を愛しているのか聞かれたら答えられない。 それが彼の素直な気持ちだった。 押し黙ったままのモルダーに、二人は静かに話し始めた。 "今はまだ答えを出さないで欲しい"と。 「あなたがこの関係を崩したくない願っている事は知ってるし、それは私達も一緒な の」 「ロクサーヌ・・・」 「これが私達の我がままだって事も十分わかってるわ。でも、モルダー・・・あなた が・・・」 言葉を続けられないロクサーヌに代わって、ソニアが口を開いた。 「あなたが・・・私達の気持ちに気づかないまま、他の人の所に行ってしまうのが耐 えられなかったの」 「ソニア・・・」 「これがルール違反だって事は分かってる。もし、この気持ちがどちらか一人に生ま れた物だったら、私も ロクサーヌも決して口には出さなかった。でもモルダー・・・自分の中に生まれた気 持ちを否定する事は出来ない。 それに私達は答えを望んでいない。ただ、今は・・・あなたに恋人を作って欲しくな いの・・・」 そこまで言って言葉を止めた彼女の手が、小さく震えている事にモルダーは気づく。 自分を見つめるヘイゼルの瞳には、深い悲しみが満ちていた。 どれだけこの言葉と想いを言うのに勇気が言ったのだろうか? フィリアを紹介してから二人の様子が少し変ったのは感じていた。 でも彼は気づかない振りをして過ごして来た。 それはどこかで予感していた答えだったから。 それを聞く勇気が無かったから・・・。 「・・・・ごめん・・・・」 モルダーは小さく呟いた。 かすかに震える指先に、切ない瞳。 結局は・・・自分が二人に言わせてしまった。 知らない振りをする事で傷つけて・・・こんな風に、二人を追い詰めた。 「あやまらないで、モルダー。私達が悪いの・・・あなたに恋人を作って欲しくない 上にこの関係を崩したくないなんて」 辛そうなモルダーの表情に、ロクサーヌは彼に触れていた手の力を強めた。 「違う、違うんだ。ロクサーヌ、そうじゃないんだ」 モルダーは小さく首を振って、力を込めて二人の手を握り返した。 その瞳には、強い決意が芽生える。 確かに、二人の告白に驚いた。 でも、それはいつからか感じていた予感でもあった。 ただ口にしなかっただけで・・・お互いに気づかない振りを続けて来た。 そうすれば今の関係を保っていられるから・・・。 けれど今、壁は崩れて道は新しく開かれた。 二人は自分にとってどんな存在か? モルダーは自分の心に問う。 答えは一つ・・・・"大切な人" ならそれを言葉にすればいい。二人が心を開き、想いを告げてくれたように。 それだけで、全てが変わる。自分達は新しい一歩を踏み出す。 「二人の事が・・・とても大事だ。だから大切にしたいと思って来たし、今もそうだ よ。それはこれからも変らない。 伝えてくれた気持ちは、正直嬉しい・・・本当に。そして、この関係を崩したくないっ て言ってくれた事も・・・ありがとう」 モルダーが微笑んだので、ソニアとロクサーヌも小さく微笑む。 一瞬の沈黙の後、モルダーは言葉を続けた。 「応えて行きたい。大事な人だから、このまま中途半端にはしたくない」 二人の手をそっと引き寄せ、モルダーはそこに自分の大きな手をかぶせると、さっき よりも優しく微笑んで二人を見つめた。 「時間がかかると思う。長い時間が・・・でも、それでもいいのなら、その瞬間まで 二人と過ごして答えをだしたい」 「・・・・・モルダー・・・・!!」 ロクサーヌとソニアの二人は同時に、瞳の奥が熱くなって来るのを感じた。 胸が痛い。でもそれは悲しいからでなく、嬉しいから。 伝える事で関係が壊れる事を恐れていた二人に、モルダーは"三人で過ごしたい"と言っ てくれた。 今ではないいつか、答えをだすからと。 ロクサーヌとソニアはお互いを見て優しく微笑みあった。 いつか・・・モルダーの側で笑い、彼が選ぶのはどちらかもしれない。 それとも全く違う第三者か。 それでも二人に後悔は無かった。 いつかモルダーが答えを出して二人の内どちらを選んだとしても、そこに"寂しさ"は あっても"悲しみ"はないだろう。 それよりも・・・喜びの気持ちが勝つ。 ただ"好き"と言う感情だけなら、きっと誰であろうと祝福できない。 でも、大切なのだ。 ソニアはロクサーヌが、ロクサーヌはソニアが。そしてモルダーは二人が。 だからきっと、祝福できる。 彼の側で微笑む事が出来るのが、決して自分でなくても。 モルダーはふと、酷くなる雪に視線を走らせた。 目の前では、話しを真剣に聞いていた相棒が眉間にしわを寄せたままだまっている。 話し始めてからすでに二時間が過ぎていた。 事件の部分だけをかいつまんで話しても、きっとこの勘のいい相棒は誤魔化せないと モルダーは分かっていたので、最初から話していた。 ロクサーヌと出会ったきっかけ、そして過去に・・・自分達の間に何があったのか。 事件に触れる前にモルダーは隠さずスカリーに話す事を選んだ。 これが二人の間に、小さな波をたてると分かっていても。 「それから・・・・あなたはどうしたの?」 ふいに投げかけられた質問に、モルダーは目線を外の雪からスカリーに戻した。 ほんの少し見つめ合った後、彼は小さく微笑んだ。 「・・・・・愛したよ」 その言葉に、スカリーは一瞬言葉を失った。 あまりに切なく微笑んだモルダーの表情が、想いの深さを表していたからだ。 そして、自分の胸にかすかな痛みが走る事を感じながらも、スカリーは次ぎの言葉を 口にした。 「・・・・・どっちを?」 「・・・・・」 スカリーの言葉に、モルダーはそっと瞳を閉じた。 ずっと封印して来た優しい記憶。あの頃の気持ち・・・。 ソニアとロクサーヌ。 対照的な性格だった二人。 優しさを与えてくれたロクサーヌ、強さをくれたソニア。 壊せないと思った三人の関係。 でも"愛している"と気づいてしまった自分。 そして、それが・・・・悲しい悲劇を呼んだ。 一度も伝える事なく終わった恋。 でもそこに後悔が無かったのを、モルダーは今でも覚えていた。 懐かしい過去が、彼の中の封印を解いて行く・・・。                      to be continued・・・ 。                          ====================================== ぎゃゃゃゃゃーーーーーーー!!! モルダーがモテモテだぁぁぁ!!こんなも事でいいんでしょうか!? しかも、しかもモルのやつ鈍すぎる(滝汗) そしてモルはどっちを愛したのか!? スカとの間の波とは!! すいません・・・まだ過去編行きます!ちなみにスランプから脱出です!! 神よ、おろかな私をお許し下さい。                  ☆アーメン☆