本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。 この小説は私の片寄った趣味により書かれたものなので、気を悪くさせたら申し訳ありません。 ======================================                       『fou you』 (8)                                 from 涼夜 「意識混濁!脈が弱い!!!」 「先生!心停止です!!」 「早く・・・・!!!」 どこか遠くで医師達の声を聞きながらも、彼の意識は別にあった。 何も考えられず、体に力が入らない。 誰かが自分の名前を呼んでいるは理解できたが、反応できず暗闇の中を手探り状態で首だけを動かす。 その瞬間、不意に体が軽くなった。 さっきまで酷い痛みも鈍い感覚も無くなり、指先に力がこもるのを感じて彼はゆっくりと目を開いた・・・。 そこは彼が想像していた物とは180度違った。 開いた目に飛び込んで来たのは青い空に白い雲、そして・・・風になびいてる桜の花。 その時、彼の耳に聞き慣れた声が飛び込んで来た。 振り返ると、そこにはまだ若い自分と二人の女性が楽しそうに笑っていた。 本当に楽しそうに・・・・。 その光景に彼は小さく微笑むと目を閉じて、懐かしい過去に思いを巡らせた。 幸せだったあの時間、こんな日がずっと続けばいいといつも願っていた。 些細な事が嬉しくて、ふとした瞬間に笑顔になれた毎日。 それは彼の辛さも孤独も、少しづつ溶かして行った。 笑う事を忘れかけていた自分に、楽しい時間を分け与えてくれた二人の友人。 振り返ればいつも、優しく名前を呼んでくれた二人の女性。    "モルダー・・・" 彼は自分の名を呼ばれ瞳を開いた。 するとそこには、2度と見る事の出来ない微笑みが彼の前で優しく揺れていた。 「・・・・ソニア・・・」 モルダーはその名を囁くと彼女の頬にそっと触れ、両手でソニアの顔を優しく包み込んだ。 「疲れた・・・?」 「ああ」 「休みたい・・・?」 「ああ」 首を傾げて心配そうに訪ねてくる彼女に、モルダーは深く頷いた。 嘘ではない。もう、心も体をボロボロに近い。 ずっと平気な振りを続けてきたけれど・・・でも、心はいつも疲れていた。 「・・・・後悔しない・・・?」 その言葉にモルダーが頷こうとした瞬間、ふと彼女の胸元に光る金色のクロスが目に飛び込んで来た。 「・・・・!!」 モルダーの脳裏に1人の女性の影がよぎる。 それは誰よりも信じている相手。 負けそうな時は強さを与えてくれ、諦めそうな時は側で支えてくれる存在。 いつも自分を一番近くで見守ってくれている人 言葉に出来ないくらい大切で、触れる事すら出来ない大事な女性。 そう・・・彼女がいたから今までやってこれた。 疲れた心でも、彼女がいたから・・・・。 モルダーは小さく息を吸い込むと、首を横に振った。 そして真っ直ぐにソニアを見つめた。 「今はまだ・・・・逃げるわけには行かない・・・」 彼女は何も言わなかった。でも全てを分かっているように優しく微笑んだ。 その微笑みは昔、モルダーが彼女に言った"手の届かない憧れ"と称した物と同じ笑顔だった。 その微笑みを、彼はずっと側で見ていたいと思った。 いつまでもずっと、この先も・・・・。 でも、彼女の瞳の中に写る自分を見た瞬間、彼の心を痛い切なさが胸を走った。 確かに目の前にいるソニアは微笑んでいる。 花のように優しく穏やかに・・・。 でも、それは"今"の彼女ではない。 どんなに望んでも、それは"今"の彼女ではないのだ。 ソニアの時間はあの日で止まってしまった。 モルダーの瞼の裏の彼女の姿があの頃のままのように、彼女の瞳の中の彼の姿もまた、あの頃のままなのだ。 それは彼にとって残酷な現実だった。二人の間に流れてしまった12年を痛く感じたから。 生きていれば今の自分と同じ歳になっていたはず。けれど、彼にはそれを想像する事すら出来なかった。 彼女は変わらない。28歳の姿のまま永遠に・・・。 モルダーはそっと彼女を抱き寄せた。 ただ一度しか抱きしめられなかった相手。 「・・・・ありがとう・・・・」 彼の頬を、暖かい物が伝って行く。 もっとたくさんの言葉を伝えたかった。でも何一つ伝えられなかった。 感謝の言葉も、別れの言葉も・・・何一つ。 「ありがとう・・・」 モルダーはそう言うとソニアを抱き締めていた手に力を強めた。 後悔ばかりだった人生。でも、その中でも確かに掴めた物もある。 それはきっと今の自分にとってかけがえない物。 モルダーは彼女の髪のかきあげると、小さく囁いた。 「 I love you Sonia 」 それは一度も、彼女に伝えれなかった想い。 友人として、1人の人間として、ずっと想っていたのに今日まで口にする事ができなかった。 その言葉に彼女は顔上げると微笑み、潤んだ瞳で小さく彼に囁き返した。 「 Me too ・・・ 」 モルダーも微笑んだ。 そしてそっと彼女の頬に最後の口付けを送ると、その目を閉じた。 目を覚ませば、2度と彼女を腕に抱けない事を覚悟して・・・。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−      次にモルダ−が目を覚ましたのは、見なれた白い天井の病院のベットの上だった。 さっきまでは違い起き上がろうとした瞬間、体中を激痛が走った。 でも、自分の手に暖かい物が触れていると気付くと彼はなかば無理矢理顔を上げた。 撃たれる前にも感じたその温もり。 「・・・・スカリー・・・?」 モルダ−が小さくその名を呟くと、二つの影が一斉に顔を向けた。 「モルダー・・・!!」 そこには自分を心配そうに覗き込むスカリーと、涙を溜めて見つめているロクサーヌの姿があった。 「やぁ・・・・おはよう」 おどけて言ったモルダーに、二人は安堵のため息を漏らした。 そしてすぐに、ロクサーヌの泣き声が部屋の中に響いた。 「良かった・・・・!!モルダー・・・あなたが死ぬんじゃないかと思って・・・本当に・・・」 「ロクサーヌ・・・・」 「ごめんなさい、私のために・・・本当にごめんなさい」 「ロクサーヌ、大丈夫だから・・・大丈夫。僕は生きてる・・・」 泣きじゃくる彼女の頭をモルダーは優しく何度もさすった。小さな子供をあやすように。 やがて落ち着きを取り戻して来た彼女に、モルダーはゆっくりと口を開いた。 「・・・・夢を見たよ・・・・」 「・・・・夢?」 「ああ、とても優しい夢だった・・・・」 モルダーは思い出すように一度、瞳を瞑った。 過ごした時間は2年と短かったけれど、初めて心から伝える事のできた言葉。 そして、彼女が見せてくれた優しい微笑み・・・。 その温もりも、その笑顔も、2度と見ることが出来ないけれど・・・・。 「ロクサーヌ・・・12年もかかったけど、やっと歩きだせるよ・・・ありがとう」 モルダーは彼女の手を強く握りしめると、優しく微笑んだ。 ロクサーヌの瞳からはまた涙が溢れたが、彼女も微笑み返した。 見つめあったままの二人を見て、スカリーの心を激しい痛みが襲った。 けれど彼が見せるあまりに穏やかな表情に、何も言えず静かに部屋を後にした。 その行動にロクサーヌがモルダーを見たが、彼は小さく首を横に振った。 「いいんだ・・・・」 「でも彼女、あなたの事死ぬほど心配してたわよ?」 「だからだよ。僕は彼女にそれしか出来ない・・・心配をかけさせる事しか・・・・」 「・・・・・モルダー・・・・」 ロクサーヌはモルダーを見つめたが、彼は自嘲気味に微笑んだ。 「そんな事よりブライアンは?」 「・・・・・死んだわ・・・あの後、他の捜査官に撃たれて」 「・・・・そうか、じゃ・・・これで本当に終わったんだな」 「・・・・ええ、そうね・・・・」 「ロクサーヌ・・・・あの時、君が止めてくれた事に感謝してる」 モルダーの瞳は真剣だった。 結果的にブライアンは死んでしまったが、もしあの時感情に流されて彼を撃っていたら一生後悔しただろう。 ロクサーヌは小さく微笑むとモルダーの頬にそっと触れた。 「覚えてる?私はソニアとの思い出を、そしてあなたは彼女の志を・・・それぞれ持って行こうって言ったのを」 「覚えてるよ」 モルダーは深く頷いた。 「あなたはソニアの捜査官としても志しを継いで私を命がけで守ってくれた。私の方こそ・・・感謝してる」 その言葉にモルダーは微笑んだ。 「君は言ってくれた・・・たとえ側に入られなくても、いつも一緒だって・・・」 「私達はいつも一緒よ、モルダー・・・これからも、この先も」 「・・・・ああ」 モルダーは頬に触れていた彼女の手に自分の手を重ねて包み込んだ。 ロクサーヌは暖かい。この温もりも優しさもあの頃と何一つ変わらない。 この手が好きだった。その笑顔をずっと側で見て行きたいと思った。 でも、欲しいのは"今"ではない。 望んだのは"あの頃"の彼女の気持ち。 それは決して・・・今、手に入れる事は出来ない。 「・・・・ありがとう・・・・」 ソニアに伝えたように、モルダーは感謝の言葉を口に伝えてロクサーヌの額にそっとキスをした。 「私こそ・・・」 言葉を続けようとした彼女の唇に、モルダーが指を当ててそれを止めた。 「いや、君はすぐにそんな気持ちが消し飛ぶと思うから言わない方がいいよ?」 楽しそうに笑う彼に、ロクサーヌは首を傾げた。 「どういう意味?」 「僕が意識を取り戻すのに、だいたい丸一日かかった思うんだけど・・・違うかい?」 「いいえ、そうよ。だいたい一日くらいたってるわ」 「じゃ、そろそろだ」 にっこりと笑うモルダーに、更に彼女は首を傾げた。 「だから、何が・・・・」 「聞こえないか?」 「えっ?」 モルダーに指差されロクサーヌが耳をすました瞬間、勢いよく病室のドアが開いた。 「ロクサーヌ!!!!」 「・・・・ロージー!?」 振り返ったロクサーヌは驚いた表情で目の前に立っている自分の夫を見つめた。 そしてすぐにモルダーを睨み付ける。 「モルダー!あなたが連絡したの!?」 頷くモルダーに講議の声を上げようとしたが、それは入って来た人物によって塞がれる。 「ロクサーヌ!!モルダーから連絡を受けて一体どれだけ心配したと思ってるんだ!!分かってるのか!?」 「ご、ごめんなさい。」 あまりの勢いに弁解のチャンスとモルダーを責める手を失ったロクサーヌは素直にあやまった。 「本当にどれだけ心配したか・・・・!!どうして話してくれなかったんだ!?」 「そ、それは・・・・」 「君は俺にとってどれだけ大切な人か、君は分かってるのか?」 不意に抱き寄せられて、ロクサーヌは夫が震えているのに気付いた。 そして自分の心の中が暖かくなっていくのを感じた。 「・・・・ごめんなさい、あなた・・・・」 「君を失うのかと思ったよ・・・・」 ロージーに抱き締められた肩ごしにモルダーと目が合ったロクサーヌは照れたように微笑んだ。 その微笑みにモルダーも微笑みかえしたが、この後彼女に責められるのを想像して悪寒が走った。 − 1ヶ月後 − 無事退院したモルダーは自分の帰るべき場所、地下のXファイル課でキャビネットの整理に追われていた。 いつもなら手を入れずそのままにしているその作業も、今の彼には楽しい物でしかなかった。 1ヶ月なかばで無理矢理退院した彼に、彼の相棒であり主治医でもあるスカリーは反対したが 結局はモルダーの熱意に負け、彼に守れるとも思えない三つの事を約束させるとOKを出した。 『傷が完璧に完治するまでデスクワークだけをする事』 『何があっても現場には行かない事』 そして・・・モルダーは最後の一つを思い出して小さく苦笑した。 『黙って消えない事』 "君はやっぱり良く分かってる" モルダー心の中で相棒を誉めた瞬間、オフィスのドアがノックされた。 「はい?」 扉が開いて目の前の人物を見た彼は、思わず微笑んだ。 「いらっしゃい」 そう言うと手を開いて相手を歓迎した。 この部屋の様子と、あまりの光景に一瞬彼女は目を丸くしたが、両手を上げて小さく微笑んだ。 「ここがあなたの職場なの?」 悪戯っぽい微笑みを浮かべる彼女に、モルダ−も思わず微笑んだ。 「そう、我が家どうぜんの職場にようこそ、ロクサ−ヌ」 「素敵な職場だけど、地震が起こったらどうするの?」 「昔は上にも住んでたんだ。だけど何も起こらなかった、だからこれからも大丈夫さ」 「だけど窓が無いのは痛いわね」 「気持ちはいつも晴れだよ」 クスクスと笑う彼女を椅子に促したが、ロクサ−ヌは小さく首を振った。 「あいさつに来たの」 「・・・だと思った」 モルダーは彼女がこの部屋に表れた瞬間からそれは分かっていた。 来た時と同じ、彼女はスーツに身を包み手に小さなバックを持ち、そして決意を秘めた瞳が全てを物語っていた。 「今まで引き止めてしまって悪かった。ありがとう、ロクサーヌ」 「・・・何を言ってるのよ、あたりまえでしょ?あなたは命がけで助けてくれたのよ」 少し怒ったような彼女口調に、モルダーはこの1ヶ月を思い出した。 致命傷に近い傷を負わせておいて、自分だけ家に帰る事なのど出来ないと責任感の強いロクサーヌは言い この1ヶ月モルダーの看病とリハビリを手伝っていた。 モルダーはもちろん遠虜したが、事情を知ったロージーまでもがロクサーヌに同意してしまい、結局は彼女に頼る事となった。 これに関しては、スカリーは何も言わなかったが、モルダーはそれもあって退院を早めたのだった。 「本当はもっとゆっくり話したいと思ってたんだけど、あなたは仕事中毒だと聞いたから」 「そんな、根も歯もない噂を信じたのかい?ダメだよロクサーヌ、噂に流されたら」 「それにはもちろん"変人説"も入ってるんでしょ?」 図星をつかれたモルダーは、バツが悪そうに視線をそらした。 「今さら何気にしてるの、あなたの" 変人ぶり"なんか出会った頃から知ってるわよ」 「確かに・・・・」 そう、アカデミーにいた頃からモルダーには変人説がついてまわっていた。 しかし彼本人の実力を分かっていたロクサーヌとソニアはそんな事をみじんも気にしてはなかった。 だから回りから見たらいつも一緒にいる三人は不思議な光景だっただろう。 納得したように頷くモルダーを見ていたロクサーヌの目に一つのポスターが飛び込んで来た。 「I want to believe?」 ロクサーヌが呟いた言葉に、モルダーは彼女が自分の後ろに張ってあるポスターを見たのだときづいた。 彼女は暫く目を細めてポスターを見つめていたが、やがて小さく微笑んだ。 「いい言葉ね」 その言葉にモルダーは"だろ?"と言う得意顔を見せる。 すると今度は、モルダーが彼女の薬指の指輪に気付いてそれを指差した。 「いい指輪だな」 感心するような彼の口調にロクサーヌは思わず笑いだした。 「でしょ?」 「よく似合ってる」 モルダーは微笑むと彼女の手をとってそれを見つめた。 「どうして最初はしなかったんだ?」 「・・・・どうしてかしら・・・あの頃の気持ちを味わいたかったのかもしれないわね」 彼女の返答に驚いたモルダーが顔を上げると、ロクサーヌが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。 昔、彼女がよくしたようにからかわれたのだと気付いたモルダーは、眉を寄せて笑った。 「冗談は置いといて・・・・たぶん、私も今に逃げずにきちんと向い合いたかったんだと思うわ」 ロクサーヌは微笑むと、その指輪を大事そうに見つめた。 「これが私の今なのよ」 「そしてここが今の僕なんだ」 二人は見つめあうと、小さく笑いだした。 「そうね、ここはあなたの場所で、私がこれから帰る所が私の場所」 「ああ、そうだよ。それはこれからも変わらない」 「私は家族の待つ場所で、あなたは自分の信じる物のためにこれからも生きて行くのよね」 「ああ」 モルダーは深く頷くと彼女の手を優しく握りしめた。 「そしてここから、また新しい一歩が始まる」 「・・・・そうね」 ロクサーヌも深く頷くとモルダーの手を強く握り返した。 「そうだ、モルダー・・・これをあなたに」 「何?」 ロクサーヌはスーツのポケットから1枚の封筒を取り出すと、少し照れたように手渡した。 モルダーが不思議に思いながら封筒を裏返すと、それは結婚式の招待状だった。 「ロクサーヌ・・・!」 モルダーは嬉しそうな顔を彼女に向ける。 「やっと・・・決心がついたの。今まで式は挙げるつもりは無かったんだけどロージーと話し合って、新しい一歩を踏み出そうと決めたの」 「ああ、もう十分だよ。新しい道を進むべきだ」 「・・・ソニアは喜んでくれるかしら?」 不安そうな瞳をした彼女の頬を、モルダーは両手で包み込んだ。 「誰よりもね」 「あなたは・・・・来てくれる?」 「もちろんだ・・・嬉しいよ」 モルダーは深く頷くと彼女を抱き締めた。 「じゃあ、これ」 ロクサーヌは微笑むと、モルダーにもう一枚の招待状を突き付けた。 「あなたの一番大切な人と来てね」 「・・・・ロクサーヌ?」 「誰かは言わなくても分かってるでしょ?」 モルダーは何も答えずに、視線を床に落とした。 「いい事を教えてあげましょうか?」 彼女は一歩を踏み込むと、秘密を話すようにモルダーの耳もとで囁いた。 「最初に倒れた晩も、病院のベットの上でも、あなたはずっと彼女の名前を呼んでいたわよ」 思ってもいなかったロクサーヌの告白にモルダーは凍り付いた。 「行かないでくれ、スカリーって・・・・」 「!!!」 「心配しなくても、彼女には言ってないわ」 にっこりと微笑むロクサーヌの顔は、完璧にモルダーの態度を楽しんでいた。 「ロクサーヌ・・・それは・・・」 必死になって言い訳をしようとするが、気を失っている間の自分の言動に責任が持てるわけもなく 彼は言い淀む事しか出来ない。 そんなモルダーの様子に、ロクサーヌは吹き出すように笑い出した。 「大丈夫よモルダー、本当に言ってないから」 「だから違うんだって、彼女の事は本当に・・・」 「続きは結婚式で聞くわ。絶対に一緒に来てね。式はこっちで挙げるから、また一週間後に」 「ロクサーヌ!!」 モルダーの講議ももろともせずに、彼女は「電話する」と言い笑ってオフィスを出て行った。 三日後、気まずさを感じながらもロクサーヌに半分脅迫されたモルダーは、招待状をスカリーに手渡した。 以外な事にスカリーはすんなりとOKし、逆に彼女に夫がいた事に驚いていた。 「彼女、結婚してたの?」 「言ってなかったっけ?」 「聞いてないわよ、モルダー・・・私はてっきり・・・」 「えっ?」 「・・・だから、あなたが・・・彼女と・・・」 そこまで言って言葉を飲み込んだスカリーに、モルダーはようやく彼女の言いたい事を理解した。 そしてこの三日間、なぜスカリーが自分を心配そうに見つめていたのかも。 「彼女とは友人だよ。今もこれからも、それは変わらない。きっと一生ね」 「・・・そう」 小さく安心したような微笑みを浮かべたスカリーに、モルダーは軽く微笑んだ。 目の前のこの相棒はきっと誤解したのだろう。自分がロクサーヌに振られたと。 だからこの三日間、心配そうな顔をして適度に自分の様子を伺ってくれていたのだ。 モルダーは感謝をする共に、自分を見つめるその瞳から反射的に目をそらした。 「式の詳細はそこに書いてあるから、じゃ僕はスキナーに事件の報告書を出してくる」 モルダーはスカリーの返事を待たずに地下のオフィスを飛び出した。 そしてエレベータに乗り込むと小さくため息をついた。 スカリーの美しいグリーンの瞳・・・。 時々それを真っ直ぐに見れない自分がいる。 なぜだか理由は分かっている。でも、そこに触れない事で今日までやってこれた。 モルダーはもう一度小さくため息をつくと目をつぶってロクサ−ヌの言葉の数々を思い出していた。 『相棒を大切にしなさい』と『愛しているの?』と聞かれた言葉。 どちらもはっきりと答えられなかった。 大切にしたいがいつも傷つける。 愛してるいるが、どこまでがその気持ちなのか分らない。 モルダーは三度目のため息をつくと、以前から想っていても行動に移せなかった辛い決断を決意した。 − 1週間後 − この日ばかりは遅れる事の許されない彼は、時間どうり白いドアをノックした。 でもドアを開いた彼女が不機嫌だったのは言うまでもない。 「じゃ、行こうか」 いつもと変わらず彼は歩きだすが、後ろの彼女は車に乗り込んでも口を開かなかった。 「聞いてもいい?」 彼女が口を開いたのは目的の場所まで半分の距離を過ぎた所だった。 「どうぞ?」 「どうして結婚式に到底似つかわしく無いこのスーツ姿で行くの?」 「それも一発でFBI捜査官と分るような?」 「分かってるならモルダー・・・・」 スカリーは呆れたような顔をしながらもモルダーを見た。 でも、隣に座ってハンドルを握っている本人は平然と言ってのけた。 「簡単だよスカリー、結婚式には出席しないんだから」 「はっ?」 「だから、結婚式には出ないって言ったんだよ。聞こえた?」 「モルダー、あなた何を・・・」 スカリーが最後の言葉を言う前に、モルダーが車を止めた。 「ちょっ・・・!」 彼女の言葉を聞かずにモルダーは車を降りると歩き出す。 「モルダー・・・ちょっと!!」 訳がが分らないスカリーは急いでモルダーの後を追ったが、追い付いた瞬間モルダーに言葉を塞がれた。 「黙って、スカリー」 指を口に当てられスカリーが動けないでいると、すぐ側から何度か聞いた事のある音が辺りに響いた。 それが教会の鐘の音だと気付いたスカリーはモルダーに顔を上げたが、彼は違う方を見て優しく微笑んでいた。 そこには白い純白のウェディング・ドレスに身を包んだ1人の女性が、隣で優しく笑いかける男性に肩を抱かれて幸せそうに微笑んでいた。 回りには二人を祝福する歓声に、涙ぐんでいる数人の友人達。 散らばる花吹雪きにどこまでも鳴り響いてる鐘の音が、二人の幸せを象徴しているようで スカリーは離れた場所からでも胸に込み上げる熱い物を感じた。 そんな二人の幸せそうな笑顔に、モルダーも満足そうに微笑んでいる。 「・・・・行かなくていいの?」 小さい声で囁いたスカリーに、モルダーも小さく頷いた。 「・・・いいんだよ」 そう言うとモルダーはまた視線を幸せそうに微笑んでいるロクサーヌに向けた。 彼女は小さな子供のように、そして柔らかい花のように無邪気に笑っている。 その微笑みが、モルダーの中を暖かい気持ちで満たして行く。 「そういえば、君に言ってなかったな。どうして報告書を持ち出して捨てたのか」 「・・・・どうして?」 「あの事件の後、FBIは事実を書き換えた。君があのファイルを見たんなら分ると思うけど 新聞の内容と僕が話した事はえらく違っただろ?だからだよ。あの事件の真相を知るのは今は 数人しかいない」 「はっきりさせようとはしなかったの?」 「しようと思ったよ・・・でも、出来なかった」 「彼女達が傷付くと思ったのね・・・・」 モルダーは頷くと、優しく微笑んだ、 「気付いたんだよ。大切な事は、この目で見た物を信じること、そして忘れない事だって・・・・」 そう言ってもう一度、花のように微笑むロクサーヌに視線を戻した。 「だから・・・あそこには過去を知る人間は行く事は出来ないんだ・・・」 スカリーは何も言わなかった。でも、彼の瞳が優しさに包まれているのを深く感じた。 『幸せに・・・・』 誰に言うのでも無く、彼は心の中で小さく呟いた。 その瞬間、リムジンに乗り込んだロクサーヌと視線がぶつかった。 彼女は車から降りようとしたがそれをロージーに制されて、車の中から顔だけをモルダーに向ける。 モルダーは微笑むと、あの時も、そして今も口には出せない言葉を彼女に向けた。 一瞬、ロクサーヌはモルダーが何を言っているのかが分らず、窓に張り付いた。 「何?何か言ってる・・・あい・・・し・・しあわ・・・!!」 − 愛してる 幸せに・・・ − 何度も繰り返す彼の口の動きに、何を言っているのか理解するとロクサーヌは、涙を浮かべて何度も頷いた。 そして彼女は、自分の耳の辺りを必死でモルダーに指さした。 ロクサーヌの耳に光る深紅と翡翠のピアスに、モルダーは言葉を失う。 それは三人で過ごした最後のクリスマス。 捜査に打ち込んでいたモルダーが、買っておいて渡せなかったクリスマス・プレゼント。 その後ソニアが死んでしまい、でも捨てる事もできずにずっと置いておいた物。 それを先日、入院している時に彼女に送ったのだった。 ソニアの分の翡翠のピアスは二人で一つづ持って・・・。 モルダーは優しく微笑むと、走り去って行くリムジンを黙って見送った。 「本当にいいの?」 肩に置かれた手に、モルダーは自分を心配そうに見つめるスカリーに微笑んだ。 「いいんだよ、これで。それに・・・約束したからね」 「約束?」 「そう・・・それを果たす為にもこれが一番いいんだ」 モルダーはもう一度スカリーに微笑むと「車に戻ろうと」と促した。 運転を変わると申し出てくれたスカリーの横で、モルダーは窓の外を見つめていた。 彼の脳裏に、あの時過ごした三人の思い出がよぎって行く。 優しく、穏やかな日々・・・今とは全然違う生活。 そして彼は最後の瞬間に彼女と約束した。 そう『ロクサーヌを幸せにする』と・・・・。 彼女との約束を果たす為に、あえて式には出なかった。 手を離す事でモルダーはロクサーヌを幸せにした。 ならその幸せを、今度は遠くで見守っていかなければいけない。 そうすれば、ソニアとの約束を永遠に守れる。 その年最後の雪が降った日、モルダーは地下のオフィスで鞄の中につっこんできた郵便物をチェックしていた。 相棒が来る前に済ませなければ、何を言われるか分らない。 たいした物が無い事を確認すると、一気にゴミ箱に捨てようとした彼の手から、一枚の絵はがきが滑り落ちた。 「?」 挟まっていた事に気付いてなかったモルダーは不思議そうにひらうと、それを見て小さく微笑んだ。 そこには"あの時"とそして"あの頃"と同じ微笑みを浮かべた女性からが幸せそうに笑っていた。 そして裏に書かれた自分宛のメッセージに、彼は優しく微笑む。 「今、幸せに暮らしています。 この生活に何も不満や不安はないわ。だから、心配しないでね。 あなたはあなたの道を進んで欲しい。自分を信じる物の為に・・・。 でもね、モルダー・・・時々は後ろを振り返らないと、本当に大切な物を無くしてしまうわよ。 入院生活の1ヶ月、色んな事を話したわね。そして初めてだったわね、あんなに側にいたのは・・・。 だから分るのよ、あなたに本当に必要な人が誰なのか・・・。 本当に大切な事は今伝えないといつかきっと後悔するわ。 だって伝えたい人は今、生きているんでしょ? 大切なのは、少しの勇気と一歩を踏み出す心よ。 あなたは私の幸せを望んでくれた。だから、私もあなたの幸せを祈ってる。 でも、あなたのその幸せは彼女がいないと始まらない、そうでしょ? 失う事を恐れないで・・・彼女は私達とは違う。あなたには分かっているはずよ。 確かな温もりを、その手に掴みなさい!」 それはいかにも彼女らしい書き方だった。でも、続きの言葉は暖かった。 「でも私達はいつも一緒よ、モルダー・・・あなたは決して1人じゃない。 あなたが式の日に言ってくれた言葉を、私も今ここで伝えるわ。 モルダー・・・愛してる。初めて会った日から、今日までずっと。 友人として、仲間として、家族のように・・・。 これからもずっと・・・・。               変わらぬ愛を込めて、ロクサーヌ 」 モルダーは微笑むと、デスクの下からフォト・スタンドに飾られた一枚の写真を取り出した。 それを見つめるその気持ちは、この間の物とは違った。 確実に時間は流れているのだ。 "この頃"ロクサーヌに対して抱いていた気持ちも今は思い出と笑える。 セピア色の写真の中で微笑む三人。 その姿は揺るぎない絆を表している。 モルダーはそっと、写真の中の自分達に触れた。 時間は2度と戻せないが、この時は確かに存在した。 それは今も心に残っている。 遠い昔、三人で過ごした日々・・・それは優しい思い出になって胸に満ちる。 あの頃の想いは今も輝き、永遠に消える事はないだろう・・・・。 永遠に・・・・。 ソニアの微笑みはもうニ度々見る事は出来ないが、写真の中で笑うロクサーヌと絵はがきの中を彼女を見て、モルダーは優しく微笑んだ。 12年をかけて、ロクサーヌの笑顔もやっと昔と同じ物に変わったのだ。 そう思ったモルダーはふと、鏡に写った自分に気付いた。 それは写真の中の彼と同じ笑顔だった。 夢と教会で口にしたあの言葉を、写真の中の二人に伝えようとした瞬間、写真をなぞっていたモルダーの手が止まった。 よく見てみると、写真の裏に何か黒い文字が書かれているの気付く。 急いでフォト・スタンドから取り出して裏返すと、そこには彼の知らない"あの頃"の二人からのメッセージが残っていた。 モルダーは目に溢れて来る物を感じながら、それをそっと指でなぞった。 モルダーの頬を優しい涙が伝う。 それは"あの頃"の想い。 そして彼は春が来た事を知った。思い出の中の、溶けない雪が溶ける時が来た事を・・・。 「愛してるよ、ソニア、ロクサーヌ」 モルダーは囁くように写真の中の二人に告げると、彼女達の最後のメッセージを読み上げた。 「他の誰でもないあなたへ、この愛をこめて ロクサーヌ&ソニア」 その瞬間、彼の脳裏に聞き慣れた声と、そして2度と聞く事の出来ない声が優しく響いた・・・。 『 Fou you Mulder・・・・fou you・・・・』    一 モルダー・・あなたへ・・・・あなたへ・・・・ 一                           fou  you                                                                                         END                              ====================================== お、終わりました・・・。(でも続きます) なんとか、最後がありきたりですいません(><) ひよ様におっしゃって頂いてように、モルとスカの間にが二人の間にあったさまざまな試練を 超えても他にも(モルの過去に何かあったから、スカに一歩踏み込めないんじゃ〜!!)と 私が思ってこれ書きました(笑)←そうする事で奥手(?)なモルを許そうとする私。 それと、これはある意味一つのハッピーエンドだと思っております。 モルとロクはくっつかなかったけど、でもロクはやっと幸せにな気持ちで式を上げれたんだと。 二人の間にはソニと過ごした時間、そしてその絆を捨てれなかったんですね。 だから綺麗なままで、思いでは美しいままで別れたわけです。 結局はソニを裏切れなかったって事です。それほどに三人の絆は強かったと。 まったく、才能が無いくせにやる気だけは一人前以上で(滝汗) アップして頂けるだけで十分です(涙) 「後悔するなら書かなきゃいいのに」(ぼそっ)身内からの声。 どかっ!ばきっ!おりゃ!!! − 暫くお待ち下さい − ・・・チーン♪ そんな感じでお待たせしました(^^;) やっと・・・スカ&モル編行きます!!!↑だいぶ二人の微妙さをかけたと思うですが。 さて×さて「モルの決意」とはいかに!? ぶっちゃけスカちゃんは綺麗なので、最初虐めるかも・・・(でも必ずHAPYYに) でわ×でわ(^^)続きます☆まだ暫くはロクも出て来ます(笑) 良ければ感想をvvv→ rilyouya.ouri@k6.dion.ne.jp