*本文の著作権は1013、c・カーター氏及び 20thFoxに帰属します。 〜〜〜〜〜〜ATTENTION〜〜〜〜〜〜〜 ・これは、純然たるモルスカLove Storyで、決してXFの最終回 論に一石投じるものではありません。 ・これを執筆した段階において、作者はシーズン7はおろか、シーズン6も 全く観ていません。 ・作者のロングアイランドに関する知識は、『Billy Joel/シェイズ・オブ グレイ』から得たものに限られます。 ・この作品には、性行為を匂わすような描写が多少ではありますが存在します。   ・・・以上の点に留意した上で、お読みになってください。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 <こんなんあったらうれしいな・・・最終回前夜> by akko 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  「まて、クライチェック!」  モルダーは怒鳴った。  「そのカメラを持って、ロングアイランドに行け!」  クライチェックとよばれた男は、怒鳴り返す。  「それには、真実がはいっているんだ。」  「真実とは何だ!?」  あっという間の出来事だった。クライチェックは突然モルダーに抱きついたかと思うと こうささやいた。  「終末のとき・・・この世の終わりだよ。」  そして彼はモルダーを突き飛ばすと、夜の闇の中へ去っていった。  一人、アスファルトの上で、痛みにうごめくモルダーに手には、一般向きのオートフォ ーカスカメラにしか見えない小さな箱が、握られていた。    〜終末まで50時間〜    助手席で、スカリーが眠たそうに欠伸をひとつ、かみ殺した。  「よろしかったらお姫様、お休みになっていただいても結構ですよ。」  モルダーの言葉に、よくもまあいけしゃあしゃあと、といいたげな表情になった。  「眠る気になんかなれないわ。」  「どうして?僕といると胸がときめく?」  スカリーの青筋顔を承知の上で、モルダーは言った。   UFO、政府の陰謀、嘘と欺瞞にまみれた真実・・・そんなものに関わりすぎてるせい か、スカリ−とこんな会話を楽しむことすら、ここの所忘れていた。  こんなときだが、いや、こんなときだからこそ、少しは昔の二人に戻ってみたい。  「あなたから聞かなきゃならないこと、まだ何一つ聞いてないからよ。」  予想どうり、彼女は怒りをあらわにした。  「いい?あなたが私の部屋にきたのは、夜中の2時よ。ベッドでぐっすり眠っていた私   をそこから無理矢理引きずり出して車に押しこめて・・・そんな、キッドナッパ−も   同然のことしておきながら、あなた、その理由をまだ一言も話してないのよ。」  「理由?理由ね・・・」  モルダーの心がぐっと揺らいだ。 彼女を連れてこなければならない理由なんて、どこにもなかった。特にこの任務には。  彼女を死に向かわせるかもしれないこの任務に、敢えてつれてきたのは・・・。  「君が必要だからってことじゃダメ?」  「”ってことじゃ”?−−人を馬鹿にするのもいい加減にして。」  スカリーは目に見えてむくれた。  が、それには照れが入っているのが見え見えだ。  モルダーはそんな彼女に目を細めながら、内心、罪悪感に苦しんだ。    ごめんよ、ダナ・・・。  でもどうしても、君なしじゃいられないんだ。  最期の時に・・・。  話は数時間前に遡る。  クライチェックとのランデブーから、モルダーはローンガンメンらのところに直行した。  「このカメラを調べてくれ。それと、ロングアイランドでなにがあるのか知りたい。」  眠い目をこすりながら出迎える3人に、彼はカメラをつきつけた。  「うちは現像屋じゃないんだぜ・・・」  ぶつぶつ文句を言いながら、ラングリーはカメラを渡されると、奥へ引っ込んだ。  「ロングアイランドね・・・」  フロヒキーとバイアースは端末の前に肩を並べ、キーボードをはじき始めた。  「・・・”友人”の一人によるとーーー」  数分後、フロヒキーが口を開いた。  「−−−ロングアイランドにはここ数日間、国内外から何かが渡来してるようだ。」  「何か?」  「ちょっと見てくれ。」  二人の作業は、長髪の仲間にの言葉に一時中断した。  「カメラの中からこれが。」  彼の手には、一枚のFDが収まっていた。  そのFDを、小柄な仲間がうけとって端末に挿入する。  「こいつは・・・」   3人の驚愕の表情につられて、モルダ−もモニターを覗きこむと、そこには見覚えの ある、しかしどうあっても彼には読むことのできない文字列が並んでた。  「ーーーナバホ語か?」  「闇のシンジケートの連中には、オリジナリティのある奴が一人もいないようだな。」  ラングリーが軽口をたたいたが、顔は全く笑っていなかった。  「昔、あんたの友達にナバホ・インディアンがいたろ。彼の残してくれた知識を頼りに   これを解読するとーーー」  フロヒキーは指先を動かした。  「少なくともこれだけのことはわかる。」    ”925:0000  AD  BO  LW  最後抵抗”  「この数字はおそらく日付と時間だろう。」  「では、このアルファベットは?」  「これは・・・戦時中、日本軍が使っていた暗号に似てるな。」  フロヒキーの手元が再びあわただしくなった。  「それによると、LWはロングアイランド、BOはワクチン、もしくはオイルになるな。」  「ADは何だ?」  フロヒキーは他の3人と顔を見合わせた。三者とも、目元が気まずそうに曇る。  「ADは何なんだ?!」  モルダーの剣幕に、フロヒキーはボソッと言った。  「”アブダクティー”だ。」  モルダーの目の色が変わった。  「ロングアイランドの事を教えてくれた”友人”とコンタクトを取れるように手配してお   いてくれ。」  彼は早口に言うと、ラングリーからカメラを引ったくり、身支度を整え始めた。  「モルダー、いくつもりか?」  「ああ、この日付まであと60時間もない。」  そう言って出て行こうとするモルダーを小さくてごつい手が引き止めた。  ローンガンメン一小柄なフロヒキーだ。  「なあモルダー、彼女も連れて行くつもりなのか?」  「彼女は僕のパートナーだ。」  「やめてくれっ!!」  いつになく気迫に満ちた小男の言葉に、モルダーは一瞬たじろいた。  「”最後抵抗”の意味がわからないのか?!」  「判ってるつもりだ。僕なりに。」  ”終末のとき・・・この世の終わりだよ”−−−モルダーの頭の中に、クライチェックの 言葉がよみがえる。  「彼女も”アブダクティー”なんだぞ!」  彼の言葉には、懇願と絶望が入り混じっていた。  二人の男は刹那、視線を交わした。  意思と意思、正論と正論の、言葉なきぶつかり合い。  男の意地なのか、はたまた一人の女への思いがそうさせているのか・・・。  モルダーはしかし、その戦いを放棄した。  彼は視線を外すことで心を閉ざし、フロヒキーの腕を振り解いた。  そして三人組みの顔をそれぞれ一瞥すると、そのまま去っていった。  モルダーは、絶壁から海岸を双眼鏡で観察し終えると、その場を離れた。  畜生、ここでもない。彼は心の中で舌打ちした。  ローンガンメンらの情報が正しければ、どこかにアブダクティーを収容している施設があ るはずなんだ。  とりあえず、ここではないようだが・・・・。     車に戻ると、スカリーが助手席で眠っていた。  モルダーは運転席に乗り込んでドアを閉めようとしたとき、思わずそれをためらった。   彼女の寝顔・・・これを、”バタン”という無粋な音で失ってしまうのは忍びない。  彼は目を細めて、彼女を見るめた。  決して見るのは始めてじゃないが、こうして改まってみると、彼女の寝顔の、何と愛らし いことか。  その、うっとおしいまでに豊かな赤毛も、ふっくらとした唇も、全てが輝いて見える。  彼女は降りてきた天使だ。  モルダーはすっと、彼女の頬に、自分の指を滑らせた。  と同時に、スカリーが寝言のようなうめき声を発した。  「モルダー、さむいわ。」  「ああ、ごめん。」  彼が慌ててドアを閉めると、スカリーはむっくりと起き上がり、寝ぼけ眼をこすった。  「ここは?」  「ロングアイランド。君の好きなね。」  「?! こんなところまで何しに?」  「X−ファイルの調査だよ。」  言葉が足りないことは、決して嘘をつことにはならない。彼はそう、自分を説得した。  「いったい何があったの?」  「・・・」  「モルダー?」  「・・・今説明したいのは山々なんだが、それには少しばかり資料が足りないんだ。で   も、後で必ず説明する。それは信じてくれ。」  スカリーは反論したそうな表情になったが、すぐにそれを解きほぐした。  「わかった、信じてあげる。」  その時彼女がうっすらと見せた微笑みは、他ならぬ、彼への絶大なる信頼の証だった。  ダナ・・・・  僕はきっと、間違ったことをしている・・・。    ロングアイランド行きを覚悟した時点で、モルダーは自分の命はあきらめていた。”終末 のとき”に、それくらいの代償は必要だと、既に感じていたのだ。  しかし、ダナは違う。  彼女は今まで、自分の人生を全てなげうってまで、パートナーで在り続けてきてくれた。 そんな彼女を、最期の最期までつき合わせていい道理はどこにもない。  誰でも、最期の道は一人で歩まなければならない。  それが出来ないのは自分の弱さ、そして自分のエゴだ。  モルダーはまだ決め兼ねていた。  この最期の道を一人で歩むのか、それとも、愛する彼女を道ずれにするのか・・・。    「じゃあ、その資料集めのために、私は何をすればいいのか教えて頂戴。」  「なんだ、えらく積極的じゃないか。」  「そんなの当然よ。だって私たち、仕事をしにきたんでしょ?」  「じゃあ、これを。」  彼は言って、クライチェックから渡されたカメラを、彼女に差し出した。  スカリーは突然手渡されたそれに戸惑い、もて余した。  「僕たちは今、研究施設らしきものを探しているんだ。」  「らしきもの?」  「ああ。」  「一体何を研究しているというの?」  「それが判れば説明してるよ。ただ、これだけは確かなんだが、その施設は闇の政府の   管理化にある。だから、僕たちがちょっとやそっと探しただけじゃ見つからないとこ   ろにあるだろう。」  「モルダーそんな情報どこから・・・」  疑問を発しようとするスカリーを、モルダーは視線で制した。  スカリーは、後で説明するという彼の約束を思い出し、口をつぐんだ。  「当面の僕らの作業は、ロングアイランド中を駆け巡って、その目で見て、カメラに写   して、それらしいところを絞り込むことだ。」  「ロングアイランド中ですって?」  スカリーは口をあんぐりとあけた。  「悪くないだろ?国民の税金たんまり使って、ロングアイランド観光としゃれ込もうじ    ゃないか。」  モルダーは彼女の反応をみて、にやっと笑った。   最期の道をどうするか、決断はもう少し延ばしての大丈夫だろう。  どのみち今は、彼女とのひとときを、もう少し楽しんでおきたい             〜終末まで36時間〜  最初の一日目に二人が得たには、途方もない疲労と、無駄になったフィルムだけだった。  「これも、これも、これも・・・・どうやら私には、フォトグラファーとしての才能は   ないようだわ。」  スカリーはデーブルの上に、さじと一緒に写真をなげた。  「そう言うな。調査は始まったばかりだ。」  しかし、そんなモルダーもすでに、ベッドの上で死んでいた。  ここのベッドは、モーテルのそれの割には柔らかくて寝心地がいい。このまま目を瞑れば、 確実に眠ってしまうだろう。  「今日は収穫なしね。私もそろそろ寝るわ。」  ちゃんとシャワー浴びなさいよ。そう付け加え、彼女は立ち上った。  「スカリー」  「なあに?」  「もうちょっと、ここにいてよ。」  彼女の目が点になった。  「モルダー、あなたの我侭にはなれてるつもりだったけど・・・いい?私もあなたと一緒で   すごく疲れてるのよ。」  スカリーの呆れ顔での説教。彼は疲れた顔に、うっすらと笑みを浮かべた。  「いいよ、ごめん。ちょっと言ってみたかっただけなんだ。」  モルダーはそう言って、すっとまぶたを閉じた。  それを見たスカリーに、不思議な切なさがこみ上げる。  この人はいつも、真実ばかり追い求めてきた。時には他人まで傷つけ、そのことにより、自 分自身、大きな痛みを心身共に負いながら・・・。  モルダー、たまには休みなさいよ。  ”真実”から、ほんの少し目をそらしてーーー。  彼女はベッドの淵にこし掛けると、モルダーの手を取り、その髪を優しくなでた。  「モルダー、私が言って聞くようなあなたじゃないのは判ってるけどーーー」  彼女は眠ってる彼に話しかけた。  「ーーーたまには何かを楽しんで。あなたを何よりも大切に思ってる、私からのお願いよ。」  そしてスカリーは、彼の額にそっとくちずけすると、部屋から出ていった。  モルダーはドアのしまる音を聞きながら、目を開けた。  あなたを何よりも大切に思ってる・・・か。  彼は今の彼女の手のぬくもり、優しくて柔らかい唇から、その言葉の真実味を感じた。  そして刹那、その真心に、心が揺らいだ。  君ならもしかしたら、こんな僕を許してくれるのでは・・・?  モルダーはすぐに、そんな考えを頭から追い払った。  甘えるのもいい加減にしろっ!!おまえは今まで尽くしてくれた彼女の真心に、そんな報い  方しか出来ない、情けない男なのか!!    彼の自分への叱咤は、携帯の音で中断された。  『モルダー、”友人”と連絡をとったぞ。』  「バイヤースか?」  『詳しい話は、直接君に会ってしたいって言ってた。』  バイヤースは電話の向こうで、早口に時間と場所を告げた。  モルダーはそれを必死て書きとめると、Thank youとだけ言って、電話を切ろうとした。が、  『モルダー、待ってくれ。』  電話の向こうから、呼び止める声がした。  「フロヒキー・・・」  先の晩の、彼の必死の懇願の表情が、鮮やかによみがえる。  『彼女を、どうか守ってやってくれ。・・・頼む。』  モルダーは、彼の力ない言葉に絶句した。     守ってやってくれ・・・  何から?・・・真実から?死の恐怖から?それとも・・・僕の運命から・・・?  「・・・ああ、そうするよ。」  彼はつぶやくようにそう言うと、携帯の電源を切った。  ”終末のとき”が迫る中、彼は自分への失望と不信感から、眠れぬ一晩を過ごした。               〜終末まで28時間〜  日が昇り始めると同時に、二人は精力的に調査を開始した。   「ここにも、それらしいものは見当たらないわ。」  「後で写真で確認しよう。もしかしたら、何か見落としてるものがあるかもしれない。」   二人は車に乗り込んだ。  「さて、これからどうするの?」  「そうだな・・・シェルター島のほうまで足を運んでみるか。」  「シェルター島っていうと、東北のほうね。」  スカリーは地図を広げた。  「スカリー、腹の減り具合はどう?」  「え?どうして?」  「目的地まで持ちそう?」  「そうね、問題ないとは思うけど。」  「折角ロングアイランドまで来たんだ。美味しいシーフードでも食べようよ。」  モルダーのいたずらっぽい表情に、スカリーはいつもの呆れ顔を見せた。  「あなたが魚を食べるなんて、知らなかったわ。」  「死んだじいさんが言ってたんだ。土地の名物食っておかないと、死ぬ間際に後悔する   ぞって。」  まったく、仕事中に相変わらずね。彼女はそういいたげに微笑んだ。  「東北部のはまぐりは美味しいって有名だぜ。ぜひ君と食べたいんだ。」  「それじゃあ急ぎましょ。ランチまでもう時間がないわ。」      目的地までは、思いのほか時間を要した。  そこそこの規模で、ビギナーでも安心して入れるようなレストランのある漁師村に着いた時 には、既に二人の空腹感はピークに達していた。  二人は、土地のものを食べさせてくれそうな場所を探すとすかさずかけ込み、店の在庫を処 分する勢いで、シーフードを食い荒らした。  「あなたのおじいさんは正しいわ。」  腹がはまぐり等で満たされると、二人はレストランを後にした。  「あのはまぐりの、ぷりっとした食感ーーーあれを味あわずに死ぬことになったら、絶対後   悔してたわ。」  彼女は頬を微かに赤らめ、さっきまで自分の舌にあったはまぐりの味を反芻した。  モルダーは、彼女のそれを、目を細めて見守った。  食い意地がはってるというのではなく、どうせ食べるのなら美味しいものを、というこだわり を持つ彼女と食事をするのは、仕事以外の彼女を見ることの出来る、数少ないチャンスのひとつ なのだ。  困ったもんだ、こんな彼女を見た後では、仕事をする気など失せてしまう。    「でもスカリー、食べ過ぎじゃないのか?」  彼は、そんな、少女のように瞳を輝かせてる彼女をからかいたくなっていった。  「君の顔ぐらいあるでっかいやつを、一人で抱え込んで食ってたっけな。」  「やだ、私そんなことしてないわよ。」  「いいや、してたよ。全く、そのうち腹出っ張るぞ。」  「あなたにだけは言われたくない台詞ね。でもーーー」  スカリーは口に小さくてを当てた。  「−−−食べ過ぎたのは本当みたい。お腹が苦しいわ。」    その時、モルダーは思った。  ”終末”を前に、もう少し思い出が欲しい・・・。  「じゃあさ、スカリー」  モルダーは彼女に手を差し出した。  「腹ごなしに、その辺ちょっと歩かないか?」  「へ?」  彼女は彼の提案に、目をぱちくりさせた。  その瞳は、モルダーの顔と差し出された掌を交互に見つめ、ひとところにとどまらない。  「こんなステキな港町だ。のんびりと歩いたら、さぞかし気持ちいいとは思わないかい?」  「モルダー、私たち仕事に来てるのよ。」  スカリーは怪訝そうな顔で、モルダーをにらんだ。  彼女がこんな反応をするのは、モルダーも承知の上だった。  しかし、実際にこんな説教を受けてもなお、彼は笑みを絶やさずに手をさし伸ばしつづけた。    お願いだよ、ダナ・・・  僕の最期の我侭に、どうかイエスといってくれ。    「調査はどうするつもり?」  「実を言うと、あらかた終わってるんだ。」  これはあながち嘘ではなかった。  彼は、フロヒキーらの”友人”と今夜会う約束となっている。  そこで判るはずなのだ。自分の目的地が、そして真実のありかが・・・。  彼は、自分の切実な思いが表れないように、必死で微笑みながら彼女の返事を待った。  彼女は彼の答えに、疑り深そうに眉をしかめたが、やがてそれをほぐすと、彼の手を取った。  二人は互いに連れ添いながら、歩き始めた。    ここは、ロングアイランドでは規模が大きいとはいえ、ほんの小さな港町だった。  愛らしい入り江には、木製の桟橋がかけられており、大小様々のーーーそのほとんどが個人 所有のーーー漁船がつながれている。  曇った空には白いかもめ。そして海からは潮の香りのする、荒々しくも優しい風。  二人は手をつなぎながら、桟橋が自分たちによってきしむ音と、潮風が頬をなでていくその 感触を楽しんだ。  「父の影響かしら、私、海って大好きなの。」  しばらくして、スカリーが潮風に目を細めながら、口を開いた。  「父が口癖のように言ってたわ。海軍を除隊したら、漁師になるんだって。」  「君はどうなの?スカリー」  「私?私はどうかしら・・・」  彼女はしばらく考え込んだ。  「・・・判らないわ。どのみち今は、FBIの仕事でいっぱいだもの。でも・・・」  彼女はふと、遠い目をして、灰色の海を見つめた。  「こうして立っていると、遺灰を海へと望んだ父の気持ちがわかる気がする。」  「ここは、君の親父さんが眠っている場所でもあるんだね。」  「父の最期の旅の、終着点よ。」  最期の旅・・・この言葉が彼女の口から出たことによって、彼の心は再び痛み始めた。  今まで二人で、途方もなく長い旅をしてきた。そしてその中で、互いに”旅の終着点”を 感じたこともあった。  あの、銃口を自分のこめかみにつけた瞬間。  彼女のガンを知ったあのときーーーー。  ダナ、君はいつも勇敢だった。たった一人で歩むことを、ああもしっかり受け止めて、現実 と向き合って・・・  今の僕に、あのときの君の100分の一でも勇気があったら・・・    「スカリー、君に話さなくてはならないことがあるんだ。」  唐突に、彼は口を開いた。  「−−−今回の任務に君を連れてきたとき、ちゃんと説明するって言ったよな。」  「ん?」  「今回、僕たちがここまで来た理由、話すよ。」  「ああ、もういいわよ。」  彼女の軽い受け流しに、彼の肩から変な風に力が抜けた。  「へ?いいって・・・」  「なかなかエキサイティングな旅行だったわ。」  スカリーは余裕の笑みを見せつけた。  「ただ、今度誘ってくれるときは、もっと普通にしてもらえないかしら。それともあなた、   まともなデートもできないほどSpookyなの?」  モルダーの額から、冷や汗が吹き出した。  「いや、あのお・・・」      そうじゃないんだよ、スカリー。僕たちはもっと重要な真実を目の間にして・・・  モルダーは言いたくて、口をパクパクさせた。  しかし、、スカリーが言わせてくれない。  彼女の、兜を取ったようで、かつ幸せそうな笑みが、彼の言葉の全てを失わせていたのだ。  「ねえ、それよりも、あっちの海岸にいってみましょう。」  彼女は彼の手をひっぱった。  このじきのロングアイランドに、天気のいい日にこられる幸運とめぐり合えることはほと んどない。  浜辺も海も、空までもが灰色の世界。だが、風が強く吹いているおかげで、澱んだ印象は 全くなく、むしろ一種のすがしがしさが、そこにはある。  「さすがにこっちのほうが風が強いわね。」  「しゃべる度に、口ん中に砂が入ってじゃりじゃりするよ。」  二人は風に負けないようにどなりながら、子供のように笑い合った。  「あ、あれを見て。」  スカリーは突然、丘の上のほうを指差した。  そこには、このちいさな漁村には似つかわしくない、白い大きな家が立っていた。  「昔、CNNのニュ−スで見たことあるわ。ビリー・ジョエルの家よ。」  彼女の大きなブルーの瞳が、顔から落ちるのではないかと心配になるほど輝き始めた。  「君がビリー・ジョエルでそんなに喜ぶとは思わなかったよ。」  モルダーはいった。  「私も彼の音楽、知ってるわけじゃないわ。」  彼女はひたすら無邪気だった。  「でも、こんなところまで来て、有名人の家見られるなんて、ラッキーだと思わない?」  スカリー、Ice Queenがなんてはしゃぎようだ。  君がそんなにミーハ−だったなんて知らなかったぞ。  モルダーは、そんな風な台詞を言いかけて止めた。  今日の彼女はいつもの彼女じゃない。  こんなに愛らしくて、無邪気で、キュートで・・・  彼女との最期の時間に、こんなステキなプレゼントがあるなんて、まるで夢のようだ。  ダナ・・・  彼は彼女への愛おしさに、胸をつまらせた。  君を・・・愛してる。  「Sweetie」  モルダーは言った。  「カメラ貸しな。写真とってやるよ。」  モルダーは、ハイ、お嬢さん、善い顔してるね、とか、もっとセクシーに行ってみようか。 などどそれらしいことを語りかけながら、次々とシャッターを切っていった。  ええ?もういいわよ、やめてちょうだい。そういいながらも、フォトグラファーの注文に それなりに応じてみるスカリー。時にモルダーが横に入って無理矢理ツーショットを作って は、みうみるうちにフィルムを消費させていく。  「じゃあ、今度はそこでターンだ。」  「もう、いい加減にして。」  「いいや、ダメだね。フィルムが無くなるまでとり続けるぞ。少しでもたくさん、君の笑   顔が欲しいんだ。」  「嫌なものは嫌よ。」  「芸術家の言うことが聞けないなんて、スカリー、おしおきだ。」  言うとモルダーは、彼女をさっとすくい上げ、両腕に抱きかかえた。  「ちょ、ちょっとモルダー、やめてよ。恥ずかしいわ。」  スカリーは顔を真っ赤にした。  「君がモデルに戻ってくれるまで、ダメだ。」  「あー、わかった、わかったから早く下ろしてよ〜」  「いや、いっそうのこと、このままモデルになってもらおうかな。」  「もう、Spookyもいいかげんにしてっ!」  灰色の浜辺に、二人の大きな笑い声が咲いた。  まるでティーンエイジャーのようなのような二人を、潮の香りのする強い風が包んだ。  空はどんよりと重たく、今にも落ちてきそうな気配さえした。    〜終末まで7時間〜  日がどっぷりと沈むと、彼らは近くのモーテルにチェック・インした。  そうしてからモルダーは、夕食もまともに取らないまま、外に出た。  彼には”約束”があるのだ。    歩いて15分ほどで約束の場所についたとたん、彼は後ろから銃を突きつけられた。  「僕はバイアースたちの友達だ。」  「ああ、良く知ってるさ。モルダー捜査官」   その声に、彼の動悸は早くなった。  「クライチェック!!」  彼は振りかえるとクライチェックの胸倉を掴もうとした。  が、すんでのところで、眉間に銃口を合わされる。  「まさか本当に来るとは思わなかったぜ。馬鹿な奴だ。」  クライチェックはにやっと笑った。   「浜辺では楽しそうだったじゃないか。」   モルダーの顔が紅潮した。  「僕たちを見張ってたのか?」  「ああ、仲良くしているところを悪いとは思ったが、これが俺の仕事なんでね。」  「何故だ?!何故奴らの言いなりになりながらも、僕らを助けるような真似をするんだ?!」  「”終末”を望んでないのが、あんただけじゃないってことだよ。」   クライチェックは銃を下ろした。  「あのカメラ、役に立ったろ。あれで今日撮った”ビリー・ジョエルの家”をよく見てみろ。   終末へのカウントダウンは、今まさにそこで行われているーーーー明日、そこで会おう。」  そう吐き捨てるように言って去ろうとするクライチェックを、モルダーは殴りつけた。  地面に放り出されて、血の吹き出る鼻を押さえながらもだえるクライチェックに、モルダー はすかさず銃を向ける。  「僕の質問に答えろ!!”終末”に一体何が起きる!?アブダクティーを集めて、何を始め   ようっていうんだ!?」  「”全面戦争”さ、リトル・グリーン・マンとの。」  クライチェックは冷静に言い放った。  「アブダクティーは矛、もしくは盾に使われるらしい。−−−−俺が知っているのはそれだ   けだ。」  モルダーは呆然と立ち尽くした。  真実・・・今まで、全てをかなぐり捨てて追ってきた真実。  そして、その真実が迎えようとしている最期の形ーーーー全面戦争。  ”終末”が何を意味するのか、判っているつもりではいた。  しかし、実際にそれを前にした今、その意味するものの大きさに、ただただ空虚になった。  アレックス・クライチェックが、いつのまにか消えていたことに全く気がつかないほど、そ の真実は巨大だった。       モーテルのスカリーの部屋に戻ると、彼女はベッドに寝そべって、今日取った写真を眺めて いた。  「あら、早かったのね。」   スカリーはそっけなく言った。  「ああ、思いのほか寒くてね。」  そう言いながらも、彼の眼中にスカリーはない。  彼は彼女が見ている写真を取り上げると、とりつかれた様に目を通し始めた。  これも違う、これも、これも・・・・  ・・・あった。  スカリー言うところの”ビリー・ジョエルの家”。その写真の隅々までに神経を尖らせて、 見入った。    彼の神経が凍りついた。  その家の庭先に、ほんの米粒ほどの人影が・・・  小さいながらも、誰なのかはすぐにわかった。  肺ガン男、それに”殺し屋”・・・  「どうしたのモルダー、変な顔しちゃって。」  スカリーの言葉に、モルダーは我に帰った。  「いや、何でもないよ。」  「そうなの?私はてっきり、”自分の才能のなさに愕然とする芸術家”気分でいるのかと   思ったわ。」  彼女のからかい文句に、思わず神経がほぐれた。  「そういう君こそ、−−−」  モルダーはスカリーのベッドにこしかけた。  「そんなに写真眺めて、”私はもっときれいなはず”なんて思ってたんじゃないのか?」  「そんなんじゃないわ。ちょっと分類してただけよ。」  「分類?」  「ええ、こんなふうにーーー」  彼女は写真の束を奪い返すと、それをあっという間に二つの山にして見せた。  「こっちの束の共通点は?」  スカリーは小さいほうの山を、モルダーに差し出した。  彼は一通り目を通すが、彼女の言う共通点が、全く浮かんでこない。  するとスカリーは、満足そうににんまりと笑った。  「−−−私たちのツーショットなのよ、こっちは。」  二人は、少しばかり疲れた笑いを見せ合った。    今日は笑顔の多い日だ。今まで君は僕と一緒にいて、こんなにたくさん笑ってくれたこと なんかなかったね。結局僕は、君に勘違いさせたままだ。でも、こうして最期に君の笑顔を 見られたと思うと、自分を責めながらも、このままにしておきたいと考えてしまう。  死地に向かう前に、君の笑顔を見られたと思うと・・・・  「モルダー、疲れてるの?」  スカリーが心配そうに声をかけてきた。  「ああ、今日もハードだったしな。」  モルダーは言いながら、スカリーの隣に身を横たえた。  「ええ、ほんとね。」  彼女は彼のために、身体を少し脇に寄せた。  二人は自然に、同じベッドに横たわっていた。  仰向けになり、モルダーは頭の下で、スカリーは腰の上で手を組んでいる。  目に映るのは同じ模様の天井。身を任せているのは同じ硬さのマットレス。そうして同じ 同じ部屋の空気を吸い、同じ時間を過ごしている。  それは二人にとって、今まで経験したことのない、新しい体験だった。  「スカリー」  「なあに?」  「今日は楽しかった。」  「私もよ。」  スカリーは横を向くと、モルダーの髪をなでた。  「ただ、昼も言ったけど、今度は普通に誘ってよね。」  その彼女の言葉は、彼の心を激しく締め上げた。  今度?そんなものあるのか、本当に?もうすぐ、”終末”へのカウントが切れるというの に?彼女はそれに利用されるかもしれないってのに?!  彼は彼女を見やった。  そんなことを全く知らずに、こうしてそばにいてくれるダナ。  彼女の大きな瞳に、彼の感情が高ぶった。    ダナ・・・ダナ・・・  君を、失いたくないーーーー。      モルダーは突然、両の腕で彼女を包んだ。  あまりにも衝動的に、そしてあまりにも自然に。  「モルダー?」  スカリーは全く抵抗しなかった。そしてその代わりに、彼を抱き返していた。  「・・・帰りたい。」  彼は彼女をきつく抱きしめると、その首筋でささやいた。  「え?」  スカリーもささやき返す。  「もう一度昨日に、・・・初めて会った頃に、帰りたい。」  「ええ、私もよ?」  彼女は訳もわからず、同意した。  「帰りたい・・・」  彼は何度も何度も、つぶやきかえした。  そしてつぶやきながら、彼女の首筋に、耳朶に、唇を這わせた。  スカリーは彼に身を任せ、したいようにさせていた。  彼が愛撫する度、彼女から熱く切ない吐息がもれ、彼が与える感覚に耐えきれな くなった白い腕が、必死で彼にしがみついてくる。  そんな彼女への愛おしさが、彼の中で頂点に達した。  彼は自分の身を少しだけ引き離すと、自分の唇を彼女の唇につけた。  激しく、切ないキス。彼は彼女に息をつぐひまさえ与えなかった。  彼女の、苦しそうなうめき声が聞こえる。彼は少しだけ唇を離した。  「ずっと、愛してた。」  モルダーは彼女の反応を待った。  ところが彼女は何も言わない。  何もいわずに、彼の手を取る。  そしてその手を、自分のブラウスの内側へ、豊かなふくらみのある場所へといざなった。  彼女が誘ってる。  そのふっくらとした幸せな感触が、モルダーを狂わせた。  「いいのかい?」  「ん・・・・」  スカリーは、問いに対する答えなのか、それとも彼の愛撫への反応なのか判らない声を 発した。  「いいのかい?」  しかし、激しくなる彼の愛撫に、彼女はもう、何も言うことが出来なくなっていた。  彼女の頬が、唇が、艶めかしい光を放ち始める。  モルダーはそんな彼女に絶えられなくなって上になると、震える手でブラウスを脱がした。  彼女の白い肌が、炎のようにあつい。  彼がそのすべやかな肌に噛みつくと、彼女も、彼の愛撫に溺れながら同じことをしてきた。  そこにあるのは、互いに求め合う二つの身体と二対の腕...。    ロングアイランドの夜の闇と静寂が、次第に深くなっていった。    「ダナ、愛してるよ。」  「あら偶然、私もよ。」  二人はベッドの上で抱き合い、軽口をたたいては微笑みあった。  彼は彼女の黄金の髪をまさぐり、彼女は彼の胸板を愛おしそうになでまわす。  互いの汗の匂いですら香しく感じるほどの幸福感を、二人は持て余した。  「ねえ、モルダー。」  しかしスカリーはそれを破るように、突然真面目な口調で言った。  「ひとつだけ答えて。」  「ん?なんだい?」  「私と・・・・こういうことになって、後悔してる?」  あまりにも唐突な質問に、モルダーは答えを見つけられなかった。  「そう言う君はどうなんだ?」  「少しだけ・・・」  彼女の肩が、切なく震えた。  「これで、今まで以上にあなたを失うのが怖くなった。」  「君は僕を失ったりしないよ。」  彼は彼女をぎゅっと抱きしめ、頬ずりした。  「僕は永遠に君のものだ。」  しかし、彼女は自嘲のような笑みを浮かべた。  「嘘つきね。」  「嘘なんかつくもんか。」  彼は意外な彼女の言葉に、内心腹を立てた。  「いいえ、あなたは嘘つきだわ。」  「スカリー、なんでそんなことをーーー」  「嘘つき・・・」  彼は自分の胸のあたりが濡れはじめるのを感じた。  驚いて彼女を引き離すと、彼女は泣いていた。  大きな瞳をしっとりとぬらして。その黄金の髪を額や頬にくっつけながら。  彼はその髪の毛を払いながら、彼女をのぞきこんだ。  「ごめんなさい・・・ちょっと、感情が高ぶっただけよ。」  モルダーは彼女の涙のわけが全くわからないまま、彼女の頬に流れるそれを、唇で 拭ってやった。  「頼むよダナ、泣かないで。僕はこうしてここにいるじゃないか。」  「・・・ええ、そうね。」  「さ、お願いだから笑って。」  言うと彼女は笑ってくれた。  彼はそんな彼女に接吻すると、再び彼女を求めた。  モルダーは彼女が寝入るのを待って、ベッドを出た。  そして早々と身支度を整えると、メモ帳にペンを走らせた。  ”ダナ、アナポリスへ戻って、僕を待っててくれ。”  その下に何か書き足そうとしたが、すんでのところでそれをやめた。  何を書いても、言い訳にしかならないだろう。  ダナ、やっと決心がついたよ。  君を失いたくないーーーーーだから、君を巻き込むわけにはいかない。  彼は部屋を出る前、そっとスカリーの寝顔を見やった。  ダナ、君のおかげで、僕は道を誤らずにすんだよ。  君を愛しているという確証が、僕に勇気をくれたから。  君が一人で歩んだ道なら、−−−−僕も一人で歩んでみせる。    彼は一瞬、彼女の寝顔に後ろ髪を引かれたが、それを断腸の思いで振りきると、部屋 を後にした。  車の前まで来て、モルダーはポケットをまさぐったが、その表情に戸惑いの色が表れ た。  車のキーがあるべきところにないーーーーなくしたのか?  彼は慌てて他のポケットや地面までも探し始めた。すると・・・・  「だから嘘つきだって言ったのよ。」  背後からの声に、彼の血管が凍りついた。  振り返るとそこには、エージェント・ダナ・スカリーがーーーーほんの一時間前まで、 彼の腕の中で愛らしく喘いでいたのとは全く別の女がーーーー腕を組んで立っていた。  乱れた髪にかろうじて、さっきまで愛し合っていた名残を残して。  彼女はその掌に、車のキーをしっかり握っていた。  「スカリー、まさか知ってたんじゃーーーー」  彼女は彼に、自分の携帯をつきつけた。  見ると、最期の通話の相手が表示されている。  「フロヒキー・・・奴が君に電話をしてきたのか?」  スカリーは首を横に振った。  「私が彼に電話したのよ。」  彼女の表情は、ひたすら険しかった。  「・・・いつ頃?」  「昨夜の晩、あなたがバイヤースとの電話を切る直前よ。」  彼の頭から血の気がザッと引いた。  それじゃ彼女は、全てを知った上で今日・・・    「あなたをうらぎって、影でこそこそフロヒキーに詰め寄ったことは謝るわ。」  彼女は言葉を続けた。  「でも、あなたに、そんな私を責める権利があるかしら?」  「ごめん・・・」  彼はうなだれた。  「今回のこと、君にちゃんと話さなかったのはーーー」  「私がそんなことで怒ってるとでも思ってるの? 見損なわないで!!」  モルダーはそう怒鳴る彼女に、たじろいた。  スカリーの表情は、闘志のそれだったのだ。  「私の人生は私のものよ。私がいつ戦うか、いつそれを放棄するか、決めるのは私、あなた   じゃないわ!」  そこまで怒鳴ると、彼女は一息ついた。  二人の間に沈黙が流れる。  モルダーは気まずさと罪悪感に溺れそうになった。  スカリーはしばらくそんな彼を見つめていたが、再び口を開いた。  「私もアブダクティーよ。これは私の問題でもあるわ。それにーーー」  ・・・と、彼女は彼を、まっすぐ見据えた。  清く、潔いまなざしで。  「−−−私はあなたの、パートナーのはずよ。」    モルダーは彼女と視線を合わせた。  どんな窮地からでも、必ず自分を助け出してくれた彼女、意見の相違から、何時間でも議論 し合った彼女、自分が傷ついたとき、いつもそばにいてくれた彼女。  −−−−そんな、この数年間に見てきた彼女の全てが、その瞳の中にはあった。  彼は彼女の手を握り、はっきりと言った。  「ああ、君は僕の、唯一無二のパートナーだ。」  スカリーが彼の手を握り返す。  「感謝しなさい。このまま出かけていたら、あなたは私をーー別な形でーー失うところだった   のよ。」  「そして僕は、嘘つきになるとこだった・・・・そういいたいんだろ?」  彼は、彼女の自信に満ちた表情と、今までの自分の思いあがりに、内心顔を赤くした。  僕は何を思い違いしていたんだろう。  戦うか否か、逃げるのか突き進むのか、それを決めるのは彼女自身でなくてはならないはず。   そして彼女は、たとえ死地に赴くことになるとしても、自分のパートナーであることを選ん でくれたのだ。  ダナ、  もう僕は、君しか愛せないーーーー。  「それじゃあ、5分待ってちょうだい。支度をしてくるわ。」  「いいや3分だ。もう時間がない。」  スカリーは目でOKを出すと、部屋の中に入っていった。    これから、汚された真実との、最期の戦いが始まる。  僕と彼女の、長かった旅の終着点が、すぐそこに見えている。  共に歩もう、最期まで。  たとえどんな結末が、そこに待っていようともーーー。    〜終末まで、あと2時間〜                                                      END 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ・・・ここからは、「コメディFic界のアミダラ女王」ことAmanda嬢による、 『メイキング・オブ・予告編』をお楽しみ下さい。     ==巻末スペシャルドキュメンタリー in Long Island, NY==  バタバタバタ...  「あっこさん! 例の物、できましたよ!!」  私は、生き咳ききって、この「最終回前夜」の監督を務めるあっこさんの  元へ駆けつけた。彼女は、私が立てる足音に慌てて反応し、ギロッとこちらに  目を向けた。  「おバカ! 今本番中でしょーに!! そんな事もわかんないの!?」  「あっ、す、スミマセン...」  今日の監督は機嫌が最高に悪い。  朝から何度怒鳴られただろう?  私は、まだ駆け出しのフィルム編集係。  あっこ監督が、主演のDDとGAをサイテーの労働条件で散々こき使って  作り上げたエピソードのフィルムを、私が切って貼ってつなげて回して、  次週予告のテレビCMを作成するのだ。  あっこ監督は厳しい。裏方だけにでなく、主役の二人にも。アクションシーン  では「オラオラ、もっと早く走って〜!! デビッド、トロいよあんた!!」  と激を飛ばし、ラブシーンでは「あんた達さあ、もっと激しくキスできないかなあ〜。  歯がガチーンと音立ててぶつかるぐらいさあ。それぐらいできるでしょ?」  と突っ込む。とにかく、作品に対する監督の情熱は並のものではない。  「で、どんな感じよ?」  本番の1シーンを撮り終え、私に向かって尋ねる。  「これ、もうバッチリっすよ」  「ホントね?」  「ハイ」  その言葉を聞くが早いか、監督は私の手からテープをひったくり、デッキに  セットする。テープが回り出すと、お馴染みの渋い男性の声でナレーションが  始まった。  The Last Episode of "The X-Files"...  続いてフラッシュバック形式で、ハイライトシーンが次々と映し出される。  殴られたクラチのアップ。  PCのスクリーンをのぞき込むモルダーとローンガンメン。  そして、そのスクリーンに映し出されたナバホ語。  手をつなぐモルスカ。  クラチに詰め寄るモルダー。  そして、抜群のタイミングで挿入されるセリフとナレーション。  "Answer me, Krycheck!! What's gonna happen!?"  "The War.....with Little Green Men"  バックでは、緊迫感を高めるストリングスとドラムの効いた音楽が流れる。  モルダーに携帯電話を突き出すスカリー。  ビリー・ジョエルの家が写った写真のアップ。  そこに小さく見える肺ガン男とバウンティハンター。  助手席で眠り込むスカリーと、それを見つめるモルダー。  The time is ticking.  Countdown to the final moment in Long Island....  モルダーを引きとめるフロヒキー。  "Save her, Mulder...Just save her...."  写真撮影をしながら微笑むモルダー。  スカリーに宛てたメモのアップ。それと同時に流れるモルダーの声。  "I don't wanna lose you, Dana."  モルダーの手を取り、彼を誘うスカリー。  そして、ベッドでシーツにくるまったスカリーのアップ。  モルダーに向かって放たれるひとこと "You're lier..."  一瞬にして画面がブラックアウトし、いつものロゴが画面に載って、  ナレーションでフィニッシュ。  "The X-Files" − Sunday, 8 Central on FOX  私は感動のあまり、涙にむせびそうになった。  なんてカッコイイ予告なんだろう!!  これこそ、最終回にふさわしい映像じゃないの。  「...ダメだこりゃ」  え?  もしかして、あっこ監督はお気に召さなかったのかしらん?  「ちょっとお〜、あんた真面目に働く気あんの!?  ダメダメ、もっかいやり直し!!」  うっちょ〜!!  こんなに頑張ったのに!?  二晩ずっと眠らないで、食事もカップラーメンで済ましたのに!?  「これで完成なんて、ジョークよね?」  「えっ...は...ハイ」  「当然よね、これで完成だなんて言われたら、あんた、ハドソン川に   死体が浮かぶよ!!」  「うっ、わかりました...」  「わかったら、ホレ、さっさと作業しといで!!」  あーん、アタシはどうしたらいいの!?  もう、あっこ監督って「いぢわる女」の何者でもないぢゃん!!  見てさらせ〜、そんないぢわるしてたら、いつか異星人にアブダクト  されるじょ〜っ!!  ...あっこ監督の悪口を面と向かって言えない臆病者の私は、  こうしてまた、暗い編集室にこもり続けるのである。皆様、こんな私に、  どうか鮭のおにぎりを差し入れてやって下さい。  完(あっこちゃん、長くてごめん・苦笑) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   =あっこ’S Word=  い、いや〜ん!!かっちょよすぎーーー!!  Amandaちゃん、ありがとうございました!!  もうもう、私のほうこそカッコよすぎで涙が出そうになってしまった。   それになにが感動的かって言うと、あっこの書いた台詞が  英語になってるところ!!  はう〜〜!  みなさん、あっこFicなんてどーでもいいんで、  Amanda嬢のドキュメンタリー、楽しんでくださったのなら  幸いです。   感想、ご意見、ご批判(共に好意的なもの)をお待ちしています。 atreyu@jupiter.interq.or.jp