DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. TITLE   『True Hearted』 AUTHOR    Ran ・FBI本部 XF's Office 9:20am 「Fox Mulder」のネームプレートの横で、電話がなっているのに気がついたScullyは、読んでいた 厚い本から顔を上げ、立ち上がって受話器を取った。 女の声がMulderの名前を呼んだ。 「Fox?」 「Mulderは今、席をはずしてますけど」と、Scullyが答える。 「あら、あなたScullyさんね、悪いけど、Foxに伝えてもらえるかしら、例の件はOKよって。それ だけでわかるわ」 「わかりました、お名前は?」 「Jodieよ、そう言って。じゃ、さよなら」 と言うと電話は切れた。 “あなたScullyさんね”ですって…どうして自分の名前を彼女が知ってるの? Scullyは、明るい彼女の声を思い出しながら、静かに受話器を下ろして、一人で肩をすくめてみせた。 「Scully」 ドアが開きMulderが顔を出す。「出かけよう、事件だ」 6:00 pm 「こんなの、わざわざ私達が出てくるほどの事件じゃないわ」 車の中でScullyが不機嫌そうに話している。 「こんな小さな町で、立て続けに3人の男が自分の妻に殺されているんだよ、おまけに彼女達は何も 覚えてないなんて、異常じゃないか?」 ハンドルを握って前を見たままMulderが答えた。 「そうかしら?ただの痴話げんかじゃないの?」 「この10年、一度も殺人事件のなかったこの町で?」 「だからって、なぜ、X-Fileなの?ま、3人の奥さんがみんなUFOに誘拐されていたっていうんな ら話しは別でしょうけど」 Mulderは無言のまま、前を見ている。 「ごめんなさい、いいすぎたわ」 車がメインストリートにさしかかった時、窓の外をぼんやりと見つめていたScullyが言った。 「Mulder、悪いけどここで降ろして」 Mulderが不思議そうにScullyを見る。 「どうした?」 「ちょっとひとりで町をぶらぶらしたいだけよ、夕食はすませてホテルへ帰るわ」 納得いかない表情のままMulderはハザードを出し、車を路肩に寄せた。 Scullyは黙って助手席から降りると、車の前を横切っていく。 「気をつけろよ、Scully」 Mulderは叫んだが、Scullyは振り返らなかった。 町のメインストリートをゆっくり歩くScullyの前に、龍を模したような看板がゆれていた。 「Dragon's House」と看板には書かれていた。 ・First In Mulder's Room 10:30pm ノックの音がした。 先にモーテルの部屋に入り、調子の悪いテレビの前でチャンネルをカチャカチャと回していたMulder は仕方がなさそうにため息をついて立ち上がると、ドアを開ける。 そこには、Scullyが立っていた。 「やあ、Scully、君の部屋、テレビはどう?、こっちは全然だよ、まったくさ」 Mulderが口を尖らせるようにして訴えたが、Scullyは返事を返さず、じっと彼を見つめている。 「ど、どうした?何か気になることでも?」 いつもとちょっと様子が違う、それぐらいは彼もわかった。 「ちょっと入っていい?」 「もちろん、どうぞ」 彼女が通れるように身体をずらしてやり、ドアを閉めたMulderが振り返ると、すぐ後ろにScullyが 立っていたので、思わずぶつかりそうになる。 「ねえ、Mulder、私、ずっとあなたと一緒にいたいの、私を置いてどこへも行かないでね」 ふいにScullyが身体を投げ出してきたので、Mulderは反射的にうけとめて、二人は抱き合うような 格好になった。 「どうしたんだい?Scully、一体何があった?」 普段のScullyには絶対に有り得ない行動…何が起こったのかわからないMulderは、とりあえず、 平静を装い彼女の顔を覗き込む。 「だって心配なの、あなたはいつも前しか見てないわ、自分の信じるものを見つけたら きっと私の方なんか振り返らずに行ってしまうでしょう。 私、あなたを失うかと思うと恐いの、あなたを失いたくない、ひとりで行かないでMulder」 今まで見たいこともないほど色っぽい目つき、うっすらと涙ぐんだような瞳で一心に自分を見上げ、 まるで子どもの様にぎゅっと自分の腕を掴んでいる彼女に、正直なところMulderはうろたえた。 「Mulder、私から離れないでね」 そう言ったScullyが今度はゆっくりと腕をはずし、それをMulderの体に回しながら、胸に顔を埋め てくる。 彼女の全身がぴったりとくっついてくると同時に、胸のふくよかな膨らみと暖かな体温がシャツ越し に伝わって、Mulderが必死に保った自制心は崩壊寸前だ。 「だいじょうぶかい? なにかあった?」 馬鹿みたいに同じ質問を繰り返すMulderにかまわず、Scullyは再び顔を上げ彼の頬に手を伸ばして 少し背伸びをすると、唐突に自分から突然唇を合わせた。 少し冷たくて、やわらかい彼女の感触と、間から漏れる小さな息遣い。 そのせいでMulderの頭の中は真っ白、思考不可能状態…思わず本能が先行して、きつく彼女を抱き しめてしまう。 そして、さらに唇を離したScullyに、おでこがくっきそうな距離で微笑みながら見詰められたところ で、彼はそれ以上の抵抗をあきらめた。 「Scully、誘惑したのは君だよ」 そう耳元でささやいてMulderはScullyに長いキスを返すと、ゆっくりと彼女を後ろのベッドへ押し 倒していった。 6:50 am モーテルの部屋のベッドの中、Scullyが初めはゆっくり目をあける。 しばらく何かを思い出す様に眉をしかめた後、Scullyは、急にガバっと起き上がった。 あわててブラケットを胸元に引き寄せると、隣で眠っているMulderを見つけた。 しばらく唖然とMulderを見つめたScullyは思い出した様にブラケットの中を覗き込み、両手で顔を おおってつぶやいた「なんてこと!」 そしてベッドの上から手を伸ばし、床に広がっているバスローブを拾い上げると、ブラケットを しっかり身体に巻きつけて、ゆっくりとバスルームまで移動した。 Scullyはとりあえずバスローブを着て、静かにバスルームから出ると、クロゼットに近づいて音を たてないようにゆっくりと開ける。 「あった!」そこには彼女がゆうべ着ていたはずの服がきちんとかけられて、シャツと下着がたた まれていた。 一瞬、ねむっているMulderに目をやると、あわてて衣類をかき集めて、すばやくバスルームに向か う。 「起きたの?」 ふいに後ろからMulderの声がして、Scullyは固まったように動けなくなった。 「あ、ゆうべは、ご迷惑をおかけしたかしら?」 Mulderはベッドからゆっくり降りてScullyの近くへ来ると、肩を抱いた。 「あんな情熱的な夜は初めてだったよ」 Scullyの耳元でMulderがささやく。 「そう、えーと、あ、シャワーを使っていい?」 うつむきがちにScullyが尋ねると「もちろん。それとも僕も一緒に行こうか」とMulderが楽しそう に応じる。 「とんでもない、一人で大丈夫よ」 とMulderを振り返らず、Scullyは自分の服をしっかり抱えてバスルームに飛び込んだ。 「じゃあ、僕がシャワーを浴びたら食事に出ようよ、おなかがすいただろう」 Mulderはうれしそうにバスルームに向かって叫んだ。 7:30 am 自分の前に置かれたコーヒーを、穴が空くほどじっくりと見つめていいるScullyの前の席でMulder は右手で頬づえをついて窓から外を眺めている。 「それで、私、何時頃部屋に行ったの?」 Scullyが不機嫌そうな声で尋ねる。 「11時頃じゃないかな、テレビの調子が悪くて良くわからないけど」 「それで」 「それでって?」 真剣なScullyの声にMulderは満面の笑顔で応じた。 「どうして、あんな事に・・私、あなたに何を言ったのかしら」 「黙秘する」 「何言ってるのよ、本当のことを言いなさい、Mulder」 「駄目だよ、あれは僕の老後の楽しみなのさ、僕が年をとって孤独になっても、昨夜の君を思い出 せば、楽しくすごせるような気がするからね」 Mulderは窓の外を見ながらゆっくりと話す。 「Mulder!からかわないで」 Scullyは怒ったように顔を上げたが、Mulderが目を合わせるとすばやくそらせた。 「お願い、真実が知りたいのよ」 「仕事の時は、真実から無理に目をそむけることがあるのに?」 「あなたこそ、嘘を無理に真実だと信じることがあるわ」 言い返したScullyの言葉の後で妙な沈黙、そこにルルルルルルル 携帯の呼び出し音がなった。 「僕だ」とMulderがすばやく電話をとる。 「わかった、すぐ行く」 「仕事だよ、Scully、もう一つ死体が見つかった」 二人は同時に立ち上がった。 8:00 am 閑静な住宅街にサイレンを回すパトカーが何台も辺りは物々しい雰囲気だった。 「立ち入り禁止」のテープをぐぐってMulderとScullyが家から出てくる。 「ひどいな」 「そうね、10個所以上は刺されているわ」とScullyがメモを確認しながら応じた。 「捜査官、あの女が妻のSuzanです、凶器の指紋を照合しますが、状況から言ってあの女が犯人で す、結構仲のいい夫婦だったそうですけどね」 地元の刑事は一台のパトカーの後部座席に乗っている女を、そう言って指差した。 「通報したのは?」 パトカーの中のおとなしそうな女性を振返りながら、Scullyが尋ねる。 人を外見で判断してはいけない、何か精神的な疾患を抱えているのかもしれない… 「隣の主婦ですよ、悲鳴を聞いて何事かと通報したそうです」 「悲鳴?じゃあ、彼女は発作的に刺したのかしら」 「話を聞いてみよう、Scully」 と、パトカーに向って歩き出したMulderが、ふと、立ち止まって、ちょっとScullyのほうへ戻った。 「Scully、あの男」 Mulderは彼女のコートの袖を自分のほうへ引き寄せ、野次馬の中に隠れるように立っている男を 視線で指して、Scullyに囁く。 彼女はMulderの息を自分の耳に感じて思わず赤くなったが「あの男が?」と出来るだけ普段の調子 を意識して言葉を返した。 「昨日の現場にもいたんだ」 「小さな町だもの、おかしくないわ」 わざと冷たくScullyが答えた瞬間、二人に気がついた男が踵を返して早足で逃げ始めた。 「Scully!」 いち早くMulderが彼女の背中を押すように走り始める。 Scullyも腰の銃に手をかけ、すばやく後に続いた。 3:00 pm 取り調べ室前、部屋の中に逃げ出した男が座っているのが見える。 「あの男はRon Smith、この町で「Dragon's House」という変な占い屋をやっている男ですが、特に 問題を起こしたことはありませんよ」 Mulderと一緒に、部屋の外で刑事に説明され、Scullyは自分の記憶の中にRonの顔が突然浮かびあが った様な気がしていた。 どこかで見覚えがある顔、初めて会う人間ではないという気がするのだ。 「Dragon's House?」つぶやくようなScullyの声に、刑事が反応して「ええ、なんていうんでしょう、 東洋のお茶のようなものを使って占いをやるそうですよ、結構当たるって評判でね」 「それは、あの、メインストリートにあるの?」 親切に教える刑事にScullyが眉をひそめたまま質問する。 「ええ、そうです、変わった看板がかかっている店ですよ」 MulderはそんなScullyの様子を何も言わずに、じっと見詰めていた。 「行ってみましょう、Mulder」 Scullyはメモを閉じると、そう言って先に歩きだした。 ・Dragon's House 4:00 pm MulderとScullyは「Dragon's House」の看板を見上げていた。 「あれ、なにかしら」 「東洋の想像上の動物だったと思う」 突然Scullyの頭の中に、ぼんやりとその看板の記憶らしきものが浮かんで、彼女はこめかみを押さ えた。 「ここ・・私、昨夜、来たかもしれないわ」 そんな彼女の様子に軽く肯いただけのMulderは、先に中に入っていく。 不思議な香のにおいが立ち込める室内には、東洋っぽい壁掛けや人形が、所狭しと置かれて一種 独特の雰囲気をだしている。 「私、昨日、ここへ来たわ」 取調室でRonの顔が、今度ははっきりとScullyの記憶の中によみがえった。 「あの男にここで会った」 お茶の葉が散らばる丸いテーブルをはさんで座っている男がゆっくりと口を動かしている。 そうだ、男は一度席をはずすとカップを持って戻ってきたのだ。 「私、ここで何か飲んだわ、お茶のようなもの、紅茶よりもずっと色が黒くて、気持ち悪い匂いが して、だから半分も駄目だったけど」 黙って彼女を見ていたMulderは、次第にScullyの瞳の焦点がぼやけてくるのに気が付く。 「Scully、大丈夫か?」 「ええ、多分。でも、少し気分が悪いわ」 Mulderは近づいて、Scullyの肩に手をかけた。 「本当に大丈夫か?ホテルに先に戻って休んでいてもいいんだぞ」 Scullyはまるでなにかを振り払うように首を振ると、 「大丈夫よ」 余計なお世話だとばかりの、多少強い口調になった。 「……」 一瞬間があってMulderはちょっと笑って言った。 「ごめん、昨夜の君はすごく素直で可愛かったのに」 「おかしなこと、言わないでよ!」 にやにや笑うMulderの顔が急に腹立たしくなり、Scullyはぷいとそっぽを向いた。 Scullyは自分をとても冷静に行動ができる人間だと自負している。 それがこんなわけのわからないところに入り、何の疑いもなくわけのわからない飲物を飲んでいる、 その事実にショックを受けていた。 (どうかしてるわ、私は) しばらく頭を冷やそうと、窓の外の木々へ目をやった後、大きく一息ついてから、 部屋に置かれているガラスの戸棚を見ているMulderに並ぶ。 「これは、一体なに?」 戸棚の中にはビンに詰められたお茶の葉や骨のようなものや、乾燥した木の実やマッシュルームの ようなものが並んでいた。 「これは何だろう」 まるで何もなかった様に、Mulderがビンを取り出してScullyの目の前に差し出してみせる。実は、Scullyは彼のこういうところが結構気に入っているのだ。 「わからないわ、ラボに送って分析してもらう必要があるわね」 彼女も同じ様に受け取って、ビンを明かりに透かしてみながら、そう答えた。 10:00 pm 「どうやら、あれは東洋の薬の一種らしいよ」 モーテルのScullyの部屋のベッドに座って、Mulderが言った。 机の前の椅子に腰掛けていたScullyはパラパラと容疑者の写真をめくっている。 「ええ、あの4人の女性のうち少なくとも2人はDragon's Houseに行ったことがある証拠も出ている そうよ、あとは分析結果を待ちましょう、Mulder」 Scullyはじっと自分を見詰めるMulderから目をそらした。 「多分、あそこで飲んだ飲物に何か含まれていたんだわ」 「ああ、昨夜の君もそれを飲んでいたってわけだ」 MulderはScullyから目を離さない。 「ええ、おそらくそうだと思うわ」 「そうか、ちょっと期待したのに、残念だな」 相変わらず伏目がちに話す彼女の態度に、Mulderは思いきって立ち上がった。 「じゃあ今日はもう寝ることにしよう」 「あ、ええ」 肯くScullyに少し微笑んでMulderはドアに向って彼女に背を向けた。 「あ、でも、あなたの部屋テレビ、駄目なんでしょう、ここで見ていってもいいわ」 自分は何を期待しているのだろう、とScullyが下を向く。 「昼間のうちに直してもらったんだ、だから大丈夫。 それにこれ以上、ここにいると自分を押さえられなくなりそうだから、部屋に戻るよ」 「そう、じゃ、おやすみなさい」 Mulderは軽く手を挙げてから、ドアのノブに手をかけ、 「ね、Scully、出来れば僕も君と離れたくないよ」 と、言い捨てて部屋を出ていった。 パタンと閉まったドアを見つめて、Scullyは大きくため息をついた。 11:00 am 取り調べ室からMulderが出てくると、ちょうどScullyが廊下を歩いてくるところだった。 「分析結果が出たわ」 Scullyは調査結果が書かれた紙をMulderに差し出す。 「やっぱり、中に一種の幻覚剤、というか理性をなくすような成分が入っているわ」 「ああ、少なくともSuzanはここ何年にもわたり夫から暴力を受けていたそうだよ、それでも彼女は 自分が選んだ結婚だからと、耐えてきたそうだ」 「それが、薬の作用で理性をなくしたってこと?他の女性についても調べてもらう必要があるわね」 なぜかMulderがちょっとにやにや笑っているのにScullyは気がついた。 「ああ、つまりあれが彼女達の正直な気持ちだったってわけだ」 「あなた、なんだか楽しそうね」 Scullyが不思議そうな顔をした。 18:00 pm 「わかった、ありがとう」 ハンドルを握ったままMulderが携帯電話のスイッチを切る。 「やっぱり、他の家でもいろいろ事情があったらしいよ、あとで詳しい報告書が来る」 「そう、人間の理性の力ってすごいのね、人を殺すほどの感情を押し込められるんだわ」 「ああ、僕も君に殺されなくて良かったけど」 それを聞いたScullyは目をみはってMulderを振返る。 「馬鹿言わないで。私があなたを憎むはずないでしょう」 MulderもScullyに一瞬目をやり 「ま、少し早いけど、次のレストランで食事にしないか?昼を食べてないから、少しおなかがすい てるんだ」 そういえばそうだった、と思い直し、Scullyは素直に肯いて同意した。 「ひとつだけ教えてあげようか、Scully」 少し長めの沈黙の後で、Scullyがこっそりあくびをした時、Mulderがそう話しかけた。 「何を?」 どうせ下らないことに違いないとばかりの気のない返事。 「あの夜、君と僕は何もなかった。キスはしたけどね。それ以上はナシ」 「え−っ、そうなの?」 驚いたScullyが思わず助手席から乗り出して、Mulderの腕をつかむ。 「そうだよ、あの夜、君は変だった。なんていうんだろう、酔ってるみたいだったよ、そんな君を どうこうするほど、僕もヒドイ人間じゃないさ」 それを聞いたScullyはバタンと体を座席に戻して、深く息を吸い込んだ。 「そうなの」 「君に本物の酒を飲ませて、眠らせちゃっただけだよ。あ、ごめん、ヌードは見たかな。でも君が 自分で脱いだんだよ、僕のせいじゃない」 「なんてこと!」 Scullyは軽く舌打ちをしながらも、 「いいわ、自分のしたことの責任は自分で取るわよ」 うれしいような、残念だった様な、複雑な感情を彼に悟られない様に窓の外に目をそらす。 Mulderがレストランの看板を見つけて、ウインカーをあげるとハンドルをきった。 駐車場で車が止まる。 Mulderが降りようとするScullyのほうへ向き直って、腕を掴んだ。 「でも、君の気持ちが本物だとわかってうれしいよ、ところで、今、素面?」 「素面に決まってるでしょう」 Scullyが言い終わらないうちに覆い被さるように近づいてきたMulderに唇を塞がれた。 「……」 Mulderがゆっくりと顔を離して、すぐ近くで彼女の顔をじっと見詰める。 見慣れたヘーゼルの瞳、唇の両端が上がって彼が微笑んでいるのがわかった。 「あ、今、思い出したわ。あなたにJodieって人から伝言があった、例の件、OKよって」 照れ隠しに何気なくそう伝えてみて、突然彼女は自分の言葉から、初めて自分の気持ちに気がつい た様な気がした。 (私の心に引っかかっていたのは彼女だったんだわ) 「そう、じゃあ、後は君の予定を聞いてみるだけだな」 Mulderが彼女の頬にかかる髪を指でもてあそびながら、やさしく笑う。 「実は僕の知り合いのJudieが週末のクラッシックコンサートのチケットを2枚とってくれたんだ。 あの…君が行きたがってたやつだよ、ドイツから来た有名な指揮者の…なんだっけ?…ともかく、 君に何の予定もなければ、一緒に出かけないか?」 Scullyはなんだか一人でバタバタしていた自分がおかしくなってきて、クスクス笑い出してしまっ た。 馬鹿みたい、彼女に嫉妬してイライラしてたなんて。 「なんで笑ってるんだ?Scully」 Mulderが不思議そうな顔をする。 「教えないわ、私の老後の楽しみよ」 「なんだよぉ」 と、不満気な彼がなんだかかわいらしく思えてくる。 Scullyは楽しそうに言うとMulderの頬を両手で包み、わざと“チュッ”と音を立ててキスをした 後で、改めて優しく長いキスをした。 The End…… 後書き:失礼しました。初めて書いたFicだったので、大筋なそのままに、表現だけ少し直しました。