DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. TITLE   『Vacation』 AUTHOR    Ran 11:00 PM 駅構内 暗い駅の構内、FBIのマークのついてジャンパーを着た男達が静かに進んでいく。 ふいに階段の下で影が動いた。 「FBIよ、止まりなさい」Scullyの声が響く。 階段の下から男の影が大きく飛び出した。「撃つな」と叫んでMulderが飛び出す。 パーン、パーンと2発、軽い音がした。「Mulder!」Mulderが倒れた。 すかさず、別の男達が男の影に向かって拳銃を発射した。男の影が倒れる。 「くそっ」床に倒れたまま、舌打ちをするMulderにScullyが駆け寄った。 Mulderが胸と足を撃たれている。 「誰か救急車を呼んで!」という彼女の声を聞いた後、Mulderは気を失った。 05:30 AM 救急病院 ベッドの上で何本ものチューブにつながれ、呼吸マスクをつけられたMulderを疲れきっ た顔のScullyがじっと見詰めていた。 Mulderはあの男が、軍で地球外生命体の解剖に携わったと疑って、この半年マークして きたのである。 だから、殺したくない、と必死だったのだろう。その気持ちはScullyにもわかる。 しかし、自分の命も省みないとは。 「しょうがない人ねえ」つぶやいてScullyがそっとMulderの前髪をかきあげた。 “トントン” ノックの音にScullyが振り返った。 まだ若い医師が入ってくる。「担当のDr. Carterです」 Scullyが立ち上がって握手する。「FBIのScullyよ、どうかしら?彼」 「ええ、明日の昼頃には意識が戻ると思います、胸のほうはたいしたことありませんでし たが、しばらくは松葉杖を使ってもらうことになります。大変な仕事ですね」 人懐っこい笑顔のCarterにつられるようにScullyも微笑んだ。 「彼は特別かもしれないわ、無茶ばかりするの」 「仕事熱心な人なんですね」 「仕事熱心というか…なんていうのかしら、中毒ね。自分の求める答えを探すためには、 人に何と思われようと、自分の命を危険にさらそうと、とにかく突き進んでいく人なの」 ベッドで眠るMulderを振り返り、そこで、(あら)という表情で、Scullyは自分の口を 自分の手で覆った。 「私ったら、何を言ってるのかしら、ごめんなさい」 「いいえ」Carterが優しく首を振る。 「とんでもない、お二人がとてもいいパートナーだとわかりました。でも、もう大丈夫。 僕らがついてますから、あなたも一度家へ戻って休まれたほうがいいですよ」 「そうね」とScullyは立ち上がった。 「あ、Scullyさん、何か少し、食べません?表に小さな店があるんです」 Scullyは育ちの良さそうな若い医師の笑顔にうなずきそうになったが、 「いいえ、今日は帰るわ」と答えて、廊下へ出た。 「今度、誘っても?」そのScullyの背中にCarterが声をかけた。 Scullyは振り向かずに手を挙げた。 02:00 PM 救急病院 病室 「気分はどう?Mulder」 Scullyはドアを開けて病室に入ってくると、ベッドの上のMulderに声をかけた。 「くやしいよ、奴を殺された」 ScullyはMulderのベッドの端に座った。 「わかってる、でも、こっちが発砲していなければ、あなたが殺されていたわ」 Scullyの強い口調に「ああ」とMulderはしぶしぶうなずいた。 「しばらくは松葉杖が必要だそうよ。あなたもついてないわね、来週から休暇なのに」 Mulderが壁にたてかけられた松葉杖を見て、ため息をつく。 「それでしばらく、あなたがおとなしくしてくれるといいけど」 「どうかな」 Mulderが苦笑した。 「君はなにかいいことがあったのかい?Scully。なんだか楽しそうだけど」 急にMulderに見つめられてScullyがひるんだ。 「べ、別になんでもないわよ・…さあ、私、もう帰るわ。今日中に、副長官に報告書を出 さなくちゃ」 とあわてて立ち上がる。そんなScullyをMulderはちょっと不思議そうな顔で見ていた。 「また来るわ、何か必要なもの、ある?」 「いや、金魚にエサをやってもらえると助かるよ」 Scullyは“もちろんよ”という顔でうなずくと、あわてて部屋を出ていった。 03:00 PM 病院の食堂 Carterが二つコーヒーのカップの乗ったトレイを持って、Scullyの前に座る。 「松葉杖のこと、けっこうショックだったみたい」 笑いながらScullyが言った。 「じゃ、退院される時、みんなでサインでもしましょうか」 トレイから一つのカップをScullyの前に置く。 「ありがとう」とScullyはそれを受け取って、 「来週から、休暇なのよ、それでがっかりしてるんだと思うけど。でも、彼にはいい薬、 少しおとなしくしているといいわ」 コーヒーを飲むScullyをCarterがじっと見詰める。 「好きなんですか?Mulderさんのこと」 まっすぐで正直なCarterの質問に、Scullyはなつかしい気持ちさえ感じて、微笑んだ。 「とても信頼しているわ。私達は始終一緒にいるし、危険なことも多いの。だから、誰よ りもお互いを信頼することが必要なのよ。私は彼を信じているし、彼も私を信じてくれて いると思うわ」 病室にいたMulderが一瞬、Scullyの心の中をよぎった。 「そうか、良かった。じゃ、Scullyさんのこと、食事に誘ってもいいんですね」 その時、Carterのポケットベルが鳴り出した。 Carterがあわててベルを見て、小さく舌打ちして立ち上がる。 「すみません、行かなきゃ」 「じゃあ、今度、ここに連絡して」 Scullyが名刺を差し出すとCarterは名刺を一瞥し、小さくガッツポーズをしてそれを受 け取った。 「Danaって呼んでも?」 「あなたは?」Scullyが尋ねる。 「Johnです。John Carter、じゃ、また、Dana」 Carterが踵を返して部屋を出ていく。 ドアのところでScullyを振り返り、ニッコリ笑うCarterに、Scullyは思わず小さく手を 振った。 1週間後 11:00 AM Mulderのアパート 「Hi」 松葉杖のMulderがドアを開けると、バスケットを持ったScullyが立っていた。 「お昼、まだでしょ。怪我人のための特別サービスよ」 Mulderが身体を引いたので、Scullyは部屋の中へ入った。 「あ、でも、これから出かけるんだ」 「出かけるって、どこへ?その足なのに」 「湖だよ、キャンピングカーも予約してあるんだ」 ソファのうえに置かれた見慣れたボストンバックのとなりにScullyは腰をおろした。 「こいつにも慣れたよ、それに休暇はあと3日間しか残ってないし」 Mulderが松葉杖をあげてみせる。「幸い撃たれたのは左足だからね、運転にも支障ない」 「馬鹿なこと言わないで、昨日退院したばかりでしょう、自分の体のことも考えなさいよ、 第一、あなた、胸も撃たれていたのよ」 「かすり傷だよ」 Mulderが肩をすくめる。 Scullyが大きくため息をついた。 「じゃ、こういうのはどうだい?、これから君の部屋へよって、荷物をとる。それから二 人で出かけるっていうのは?君は医者だし、医者が一緒なら怪我人の外出も大目にみても らえるだろう」 「駄目よ、私、今晩予定があるもの」 「デート?」 笑って尋ねるMulderに「そうよ」とムッとしたようにScullyが答えた。 Mulderがちょっと驚いたように「誰と?僕が知っている人?」と思わず尋ねた。 「ええ」Scullyが肯いた。 MulderがScullyをじっと見詰める。 「Johnよ、John Carter、あなたの主治医だったでしょ」 「ああ」と思い出すような顔になって「彼はいいね、家はすごい資産家らしいよ、育ちが 良くて性格もやさしい。ハンサムだし、医者としての腕もいいからね」 Mulderが自分のバッグを取り上げた。 「わかったわよ」Scullyがソファから立ち上がる。 「行くわ、私の荷物を取りにいきましょう」 Scullyは立ち上がって、Mulderの背中を押すようにドアへ向かう。 「いいのかい?」 「いいわよ! Johnには電話するわ。あなたを一人で行かせるわけには行かないでしょ。」 二人はMulderの部屋を出ていった。 湖 07:00 PM あたりは既に日が落ち、空には満点の星が光っていた。 大きな湖から小さなボートが戻ってくる。 ボートから双眼鏡を首に下げたMulderが降りてきた。 「これは、どういうこと?Mulder、休暇じゃなかったの?」 キヤンピングカーから出てきたScullyが不機嫌そうに声をかける。 「もちろん、休暇だよ、Scully。僕はここに釣りを楽しみにきたんだ」 「釣りね、なるほど」 Mulderが持っている形ばかりの釣竿を一瞥する。 「とても釣れそうにないわね、今夜は」 「でも、星がきれいだろ」 上を見上げるMulderにつられてScullyも空を見上げた。 暗い空には一面に星が見える。 都会で暮らしているとなかなか見ることのできない風景だった。 「きれいね」 「だろ?来てよかったかい?」Mulderが双眼鏡を湖に向けながら尋ねる。 「ええ、でもデートを断って来たんだから、本当の目的ぐらい教えてくれてもいいんじゃ ないの?Mulder」 キャンピングカー内 09:00 PM 「君は多分信じてくれないと思うけど、この湖ではこの1年間で5回、大きな生き物らし いものを見たという人が出ているんだ」 Mulderが自分のバッグから、数枚の写真を取り出してScullyに手渡した。 写真をパラパラとめくるScully。湖の湖面にぼんやりとした影が見えている写真である。 「これが、生き物の影だという証拠は?」 Scullyはテーブルに置かれた皿からピザを一切れ、手にとった。 「ない、その写真自体もぼんやりとしか写ってないしね、でも、たとえばネス湖のネッシ ーや、ニュージランド沖で漁船に釣り上げられた死骸のことは知ってるだろう?、生き物 を見たと言っている人達がお互いに関連性がない以上、何かがここにいる可能性があると 考えられないか?」 Mulderがコーヒーをひとくち飲む。 「それで、今回の休暇を利用して調べてみようと思ってたんだ。いくらX-FILESでも、 この写真だけでは、出張費がでないだろ」 とMulderが自嘲気味に笑う。 「そうね」Scullyがうなずいて、写真をMulderに返す。 MulderはScullyの口元にピザソースがついているのを見つけると、人差し指ですくって その指をなめた。「あ、冷凍にしては結構うまいな」 そう言うと、自分も皿からピザを一切れ取り上げると、口のほうり込んだ。 「ねえ、Scully、Johnとはどれぐらい?何度かデートしたのか?」 写真を再びめくりながらMulderが尋ねた。 突然話題が変わったので、Scullyは驚いたようにMulderを見る。 「いいえ、食堂でお茶を飲んだだけ。彼はポケットベルに呼ばれたわ」 「何て言って断ったの?」 「急な仕事で、出張だと言ったわよ、あながち間違いではないでしょう」 小さくうなずいてMulderが立ち上がる。 「じゃ、僕はもう少し湖を見てる、ベッドは君が使ってくれていいよ、僕はこのソファで 十分だから」 と言って、部屋を出ていった。 ******************************************************************************** 強い光の中、Samanthaが空中に浮かんでいる。 助けに行こうとするが、動けないMulder。「Samantha」と大声を出す。 Samanthaのからだがゆっくりと窓から外に出ていく。 「Samantha」と何度も叫ぶMulder。 ******************************************************************************** キャンピングカー内 02:00 AM はっとソファの上にMulderが起き上がる。 全身、汗びっしょりで、肩で息をしている。 「Mulder?」 パジャマ姿のScullyが入ってくる。 「大丈夫?うなされてたみたい」 Scullyはソファの側に近づいて、Mulderの顔をのぞき込んだ。 「ああ、大丈夫だ、あの日の夢を見たんだ、Samanthaの」 Mulderの額に手を当てるScully。 「少し熱っぽいわ、向うのベッドで休んで。私と交代しましょう」 「なぜ、あの時、妹を助けられなかったんだろう」 Mulderが苦しそうな表情になる。 「あの時、僕がもっとしっかりしていれば。でも、身体が動かなかったんだ、恐かったの かもしれない、もっとがんばればよかったのかも…」 ScullyがMulderを抱きしめた。 「Mulder、自分を責めないで。あなただって子供だったじゃない、恐くて当然よ、そうで しょう、Samanthaがいなくなったのは、あなたのせいじゃない、誰のせいでもないのよ、 あなたは彼女を探し出そうとがんばってる、それはそれでいいわ、でも自分を責めないで ちょうだい、Mulder」 Scullyはやさしく言い聞かせるように話す。 MulderはScullyの体温から、ここ何年も知らなかったやすらぎを感じていた。 彼女の言葉のリズムも心地よかった。 「ありがとう、Dana。しばらくこうしていても、いいかな」 ScullyはMulderを小さな男の子のように感じていた。 「ええ」 ScullyはMulderの背中に手をあてて、しばらくじっとしていた。 * *************************************** 朝になった。 明るい日差しがクルーザーを包み、遠くから鳥達の泣き声が聞こえてくる。 ソファの上で、ゆっくりとMulderが目を覚ます。 そのソファによりかかるように、Scullyが眠っていた。 「僕には君だけだ、Scully」 Mulderがつぶやいたその時、外で大きな水音が聞こえた。 Mulderは反射的に立ち上がるって、大きくよろけた。「くそっ」 「Scully、来てくれ」大声で叫ぶと、近くにあった松葉杖とカメラをつかみ、キャンピン グカーを飛び出した。 湖 06:30 AM カシャカシャとMulderがシャッターを切る。 Scullyが続いて、車から出てきた。 「何かいたの?」 松葉杖によりかかるように、肩で息をしていたMulderが振り返る。 「大きな水音がしたんだ、魚じゃない、大きな影を見たよ」 Mulderはカメラを大きく振ってみせた。「何か撮れてるかもしれない」 Scullyは黙って手にした双眼鏡に目を当てる。 「もう、行っちゃったみたいね」 「ああ、でも、また来るぞ」 Mulderが嬉しそうに答えた。 湖 08:00 PM 防寒着に身体をつつんだ二人はテーブルと椅子を外に持ち出し、湖を見つめていた。 「ごめんよ、Scully、デートを断らせてしまって」 「こんなきれいな星空を見たのは久しぶりだし、自然の中でとても気分がいいし、ついて きてきて良かったと思ってるわ」 首を大きくそらせて星を眺めていたScullyは、そのままの姿勢で答えた。 その時、湖のほうで大きな水音がした。 Mulderは松葉杖とカメラをつかみ、走り出そうとする。 「Mulder、気をつけて」Scullyが後へ続く。 二人は岸辺に繋いであったボートへ乗り込むと、湖に向かって勢いよく漕ぎ出した。 湖面 08:30 PM Scullyが大きな懐中電灯で照らす湖面を、Mulderが双眼鏡で見渡している。 「何も見えない」 その時、ボートに大きな衝撃が走った。何か大きなものがぶつかったのだ。 「あぶない、Mulder!」 よろけるMulderを支えようとScullyが足を踏み出した時、また、衝撃を受け、ボートが 大きくゆれた。 「あっ!」と、不安定な姿勢だったScullyは自分の体を支えられず、ボートから冷たい湖 に転落した。 「Scully!」Mulderが叫ぶ。 Scullyが水面に浮かびあがる。また、ボートが大きくゆれた。 Mulderは姿勢を低くし、ボートの底に座ると、Scullyの方へ手を差し出す。「Scully!」 「Scully!こっちだ!」Mulderがボートから手を精一杯手を伸ばす。 Scullyの細い指が、Mulderの指に触れそうになった瞬間、もう一度、ボートが衝撃を受 けた。 ボートがこれまでになく大きくゆれ、カメラや双眼鏡が湖に滑り落ちていく。 Mulderはとりあえず、オールだけを捕まえ、なんとか体重移動で、ボートを立て直すと、 再び、Scullyの方へ大きく手を伸ばした。「Scully、こっちだ!、つかまれ」 Mulderは船に向かって泳いでくるScullyのか細い手首を掴まえ、ボートの上に引き上げ た。 「大丈夫か?」 Scullyは小さく震えている。「寒いわ、Mulder」 MulderはScullyの身体を抱きしめる。Scullyの歯がカチカチと音を立てていた。 Mulderは自分の上着をとりあえず、彼女に着せ、ボートを漕ぎ出した。 キャンピングカー内 09:30 PM 足をひきずったまま、Scullyを抱きかかえたMulderがキャンピングカーの中に飛び込ん できた。 とりあえず、熱いシャワーを思い切り出し、彼女をシャワー室に入れると、シャワーの下 でまず、彼女の上着を脱がせた。 Scullyの唇は真っ青で、顔も白くなっている。「大丈夫か、Scully!」 Mulderに頬を叩かれ、Scullyが薄く目を開けた。 * ************************************** 11:00 PM 「何かいたわね、Mulder、写真とった?」 ふいに話し掛けられて、コーヒーを煎れていたMulderはあわてて振り返った。 Scullyが毛布にくるまったまま、ベッドの上に上半身を起こしている。 「気分はどう?…」 Mulderが困ったような顔で、Scullyを見つめる。 「いつも、君を危険な目に合わせて、すまない」 Scullyは大きく首を横に振って、 「大丈夫よ、心配しないで。コーヒーがいいにおい、私の分もある?」 と、やさしい口調で答える。 「もちろん」Mulderは二つのマグにコーヒーを注ぎ、Scullyのところへ持って来た。 「ありがとう」 それをScullyが受け取ると、Mulderは彼女と並んで、ベッドに腰掛ける。 「あなたこそ、足、大丈夫?」 「松葉杖は湖の中だよ、さっき、カメラや双眼鏡と一緒に落ちた。君のCarter先生に頼 んで、新しい奴をもらわなくちゃ」 “もう!”と、Scullyがため息をついて、 「病院の食堂でお茶を飲んだだけだって言ったでしょう、何、気にしてるのよ」と言い返 した。 「でも、デートの約束をするぐらいには、気に入ったんだろ」 「だって、感じがいいんだもの、なんていうの、子供の頃、好きだった男の子に似てるの」 「へえ、君でも好きな男の子なんていたんだ?」 おどけた調子で言うMulderにScullyは苦笑して、 「それに彼、礼儀正しく、私の都合を聞いてくれたりして。いつも強引でわがままな人と 仕事してるから、ちょっと新鮮な感じだったの」 「ごめん、時々は反省するんだけどね」 Scullyはちょっと言い過ぎたかな、とMulderがかわいそうになってきた。 「あなたのこと、好きかって、彼に聞かれたの」 MulderがScullyのほうを向く。 「で、なんて答えたんだ?」 「とても信頼しているって」ScullyはじっとMulderを見詰めた。 「それは、どうも」MulderがScullyから目を話さずに答える。 「本当の気持ちよ、あなたは特別なの、誰とも比較できない人」 「僕には君だけだ、Scully」 Mulderの真剣な声にScullyは目をみはり、コーヒーを一口飲んで、 「それって、愛の告白?」 「どうかな」Mulderが微笑んだ。 「キスしてみる?」 Mulderはマグを近くのテーブルに置くと、俯いたScullyの頬に触れる。 ゆっくり引き寄せて、Scullyの額、頬、唇とキスをした。 「デート、断って良かった?」 唇を離した後、Scullyの顔をのぞき込んで、Mulderが尋ねる。 Scullyがそれに答えようと、口をあけた瞬間、 「答えなくていいよ」 そう言うと、Mulderはもう一度、彼女の唇を塞いだ。 キャンピングカー内 08:00 AM 携帯電話の呼び出し音が続いている。 「君のだよ、Scully」 先に気がついたMulderが自分のとなりで、気持ちよさそうに眠っているScullyをゆすっ て起こした。 Scullyはブランケットから、腕を伸ばして、サイドテーブルの上の携帯電話をつかむ。 「はい、Scully」 (あ、Dana、すみません、まだ寝てました?) Carterの声を聞いて、Scullyの眠気がふっとんだ。 「いいえ、ごめんなさい、もう起きてるわ、あなたは夜勤明けなの?John」 チラッとMulderを見ると、ベッドに肩肘をつき、おもしろそうな顔でScullyを見ている。 (ええ、そうなんです。君はどうしてるかと思って) 「そう、元気よ、仕事も順調だし、今夜は…」とそこまで、Scullyが話した時、 「Scully、こっちだ!」とMulderが大声を出し、携帯電話のスイッチをパチッと切った。 「何するのよ、彼、心配するわ」 唖然とした顔で、抗議するScullyの手から電話を取り上げ、 「休暇中だよ、誰にも邪魔させない」 と、微笑んで電話を遠くに放り投げると、MulderはScullyを強く抱き寄せた。 The End