DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. Title: Wall Chapter 1 Author: Missy Spoiler: none Date: 1999.11.25 ================================================================================================ ラップトップのキーボードを叩く音が聞こえる。 事件が幕を閉じると、君は必ずすぐに報告書を書く。 その生真面目さに、僕は敬意を感じずにはいられないと同時に、 苛立ちを感じる。 僕がどんなに頑張ってもつき崩すことのできない、高くて厚い壁を 見せ付けられているような気がして。 私は決して誰のものにもならない、って言われてるような気がして。 暫くするとキーボードを叩く音がシャワーに変わっていた。 報告書ができあがったんだね。お疲れ様。 僕はといえば、相変わらずアダルト・チャンネルを見ながら モーテルの居心地の悪いカウチに横になってぼーっとしてるだけ。 この繰り返しなんだ、いつも。 僕が突拍子も無い根拠で君を現場に引っ張り出し、 君は文句を言いながらもついて来てくれて、 事件は解決したような、しないような終わり方をする。 君の唯一の拠り所である科学は何の謎も解いてはくれず、 僕が欲する真実はそのかけらすらも掴むことはできない。 この繰り返しなんだ、いつも。 君はこんな毎日に虚しくなることはないかい? 正直言って、僕はある。 君をここまで巻き込んでおいて こんなこと言うのは卑怯かもしれないけど、 もし、あのときX-Filesを見つけなかったら、 って思うことがあるよ。 もしあの時、催眠療法を受けずに、サマンサがいなくなった理由 を思い出すことがなかったら、って。 そしたら、僕は今ごろきっと管理職になってたな。 一応は、FBIの歴史に残る逸材の一人だからね。 そして愛する人と家庭を持って、子供もいるだろうな。 なんたって、僕ももう40に手が届こうって歳だし。 でも、ここまで考えていつも同じことに行き着くんだ。 僕が生涯を共に過ごそうと思える人ってどんな人だろう、って。 僕が自分の子供を産んで欲しいって思う人ってどんな人だろう、って。 そしてその時、僕の”もし”は音をたてて崩れていく。 もし、あのときX-Filesを見つけなかったら、 もしあの時、催眠療法を受けずに、サマンサがいなくなった理由 を思い出すことがなかったら、 僕は君に出会うことはなかったってことに気づくんだ。 この繰り返しなんだ、いつも。 テレビから聞こえる耳障りな女の喘ぎ声に僕の思考は中断された。 FBIの経費で泊まるモーテルの壁じゃ、テレビの音なんて隣に筒抜けだ。 それでも君は一度も文句を言ったことがないね。 こんなのセクハラで訴えられても仕方ないようなことなのに。 テレビのスイッチを切ると、シャワーの音がやんでいることに気づいた。 僕はカウチから起き上がると、君と僕とを隔てるドアに向かった。 =============================================================================================== ラップトップを開いて、鞄から資料を取り出す。 事件が幕を閉じると、私は必ずすぐに報告書を書く。 自分でも嫌になるくらいの生真面目さを、誇りに思うと同時に、 苛立ちを感じる。 自分が作り上げてしまったあるべき自分の姿に支配されいているような、 操られているような気がして。 お前の本当の姿を決して誰にも見せてはいけない、って言われているような気がして。 報告書を仕上げると、バスルームに向かう。 自分に”お疲れ様”って言いながら。 あなたはと言えば、相変わらずアダルト・チャンネルをつけてはいるのに それを見ることもなくカウチでぼーっとしてるだけなんでしょ。 この繰り返しなのね、いつも。 あなたは直感で私を現場に引っ張り出し、 私は文句を言いながらもあなたを信じてついて行き、 事件は解決したような、しないような終わり方をする。 あたなは真実のかけらも手にすることはできず、 私の唯一の拠り所である科学は何の謎も解いてはくれない。 この繰り返しなのね、いつも。 あなたはこんな毎日に虚しくなることない? 正直言って、私はある。 父が望むとおり医者になっていたら、 って思うことがあるわ。 もしあの時、X-Files課への転属を断っていたら、って。 そしたら、私は今ごろもっと違う私になっていたわね。 自分の周りに壁を築くこともなく、何にも縛られず操られない、 何の抑えもなく、何からも自由な私にきっとなってたわ。 もっと沢山笑って、もっと自分の気持ちに素直になって、 甘えたいときには甘え、泣きたいときには泣いて。 今ごろは結婚して、子供もいるわね。 高齢出産は身体に負担になるし。 でも、ここまで考えていつも同じことに行き着くの。 私が本当の自分を見せたい人ってどんな人だろう、って。 私が素直になりたい人ってどんな人だろう、って。 そしてその時、私の”もし”は音をたてて崩れていく。 もし、あのとき医者になっていたら、 もしあの時X-Files課への転属を断っていたら、 私はあなたに出会うことはなかったってことに気づくの。 この繰り返しなのね、いつも。 シャワーを終えてバスルームから出ると あなたの部屋からの喘ぎ声で私の思考は中断された。 今じゃもう聞き慣れた音になってしまったわね。 これもあなたにとっては睡眠薬の一つだと思うと文句も言えない。 灯りを消してベットに潜り込むと、テレビの音が消えた。 あなたの足音が、あなたと私を隔てるドアに向かってくる。 =============================================================================================== ノックもせずにドアを開ける。 気配でまだ君が眠っていないことを感じる。 僕は何も言葉を発しないまま、ベットまで歩いていく。 あなたがベットの横に立ったまま、私を見ているのを感じる。 二人の呼吸の音だけが部屋に響き渡る。 私は何も言葉を発しないまま、ただベットに横たわる。 屈みこんで髪に触れると、君がゆっくりと瞳を開く。 手をあげて頬に触れると、あなたはゆっくりと瞳を閉じる。 そして、ゆっくり口づけを交わす。 この繰り返し、いつも。 End of Chapter 1 missy@mc.neweb.ne.jp