DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. Title: Wall Chapter 5 Author: Missy Spoiler: none Date: 2000.1.28 ================================================================================================ 「FBIのダナ・スカリー特別捜査官です。  トーマス・マクファーソンさんにお会いできますか?」 「お待ち下さい。」 秘書が連絡を取っている間、部屋の中を見回す。 誰の趣味かはわからないが整理整頓されたシンプルなオフィス。 「スカリー特別捜査官。  マクファーソンがお会いするそうです。  どうぞ。」 秘書に導かれて目的の人物の前に立つ。 落ち着いた雰囲気を漂わせ、 ブラウンのスーツに身を包み、 暖かな笑顔を向けて私に手を差し出す。 「トーマス・マクファーソンです。」 握手を交わすと、自分の机の前の椅子を私にすすめた。 資料によると彼は39歳。 父親が製薬会社を経営していたことから、 イェール大学で薬理学の修士過程を修了。 息子が薬学の専門知識をもった経営者 になることを父親は望んでいたようだが、 彼自身は大学在学中に友人と始めた ソフトウェア開発事業に身を投じた。 彼の会社、FSCは業界のトップグループに入る収益をあげている。 そんなことを頭の中で復習しながら彼の前に座る。 彼を正面から見据えた時、 得体の知れない感覚が私を包んだ。 その正体を見極めようと自分自身に神経を向けたとき 彼が話し出した。 「本日お見えになった用件が何かはわかりませんが  今日は午後から大切なミーティングが入っているんで、  そうですね・・・」 と彼は腕時計を見た 「あと25分しかお相手をできません。」 「わかりました。突然お伺いしてすみません。」 私は得体の知れない感覚の追究を後回しにして質問を始めた。 「お時間がないとのことなので単刀直入にお伺いします。  業界トップであるNWCSが、ある上院議員に賄賂を渡して  仕事を取っているという告発がありまして、  その件について調査しています。  現在は告発者が誰であるかを探っているところなのですが。」 そこまで言って私は彼の瞳を正面から真っ直ぐ見ながらあとを続けた。 「私たちはその告発者があなたではないかと考えています。  お心当たりはありますか。」 彼は私の瞳を見つめたまま、にっこり笑って言った。 「本当に随分単刀直入なんですね。  あなた方がその告発者を私であると考える根拠を聞かせて頂けますか。」 「指紋です。」 彼は一瞬キョトンとした顔をした。 その表情がどことなくモルダーを思い出させて つい口元がほころびそうになるのを抑えて説明を続けた。 「問題の上院議員とNWCSのある人物が一緒に写っている写真が  その告発者から送られてきたんです。  その写真に残っていた指紋があなたのものと一致しました。  写真とともに送られてきた告発文には  消費者の選択権を奪うようなシステムの上に成り立っている  現在の業界を憂いている部分があり、  これはあなたが先月株主総会でしたスピーチの一部と内容が  かぶっています。」 目を閉じたまま私の一言一言に頷いていた彼は ゆっくりと目を開くと、顔を上げた。 「ご推察の通り、あの告発者は私です。  あなたは私が何故実名で告発しなかったのかわかりますか?」 「FSCの業界での地位は、いわゆる中堅といえます。  現在の業界はトップであるNWCSが2位グループと大きく水をあけていて  その2位グループに入る企業にとっても  NWCS絡みの仕事が占める割合はかなり大きなものです。  ですから、NWCSと問題を起こすことはその企業にとって死活問題と言えます。」 「さすがにこの業界のことをよく調べていらっしゃいましたね。  おっしゃる通りで、先の株主総会でのスピーチのおかげで  我が社は既に何件かの仕事を失っています。  NWCSに目をつけられてしまいましてね。」 そう言って彼はフッと笑った。 「こうなることは覚悟していましたが、やはりショックでした。  でも同時にやはり現状に対して怒りを感じたんです。  ここはアメリカです。自由の国なんですよ。  なのに、何故我々は一企業にビクビクしなきゃならないんです。」 拳を握り締めて頬を紅潮させながら話す彼に、 大きな力に遮られていつも真実に辿り着けないモルダーの怒りと虚しさを思い出した。 自嘲的な笑みが浮かんでくるのを抑えきれず、 私は下を向いた。 今日はどうしたのだろう、仕事中にぜんぜん関係のないことばかり考えてしまう。 こんなことではいけないと、目をギュっと瞑ってゆっくり深呼吸する。 「あ、すみません。つい夢中になってしまって。」 「いえ、いいんです。  で、あなたはNWCSに復讐をする為に告発を?」 「復讐だなんて。  まあ、確かに恨みがないと言えば嘘になりますが。  私はとにかく今の状態が我慢ならないんです。  我が社の能力が劣っている為に勝てないんなら仕方ない。  でも私は、自画自賛と思われるかもしれませんが、  我が社がNWCSやその他の企業に劣っているとは思いません。  NWCSの圧力のない、公平な競争に勝てる自信があります。  だが、現状を打破するにはNWCSを業界から排除するしか方法はないんです。  業界内には以前から  NWCSが大物議員とのつながりを持っているという噂がありました。  もしそれが本当なら、その議員も許せないと思ったんです。  私は独自に調査をして、あの送った写真をとったわけです。」 「なるほど。」 「しかし驚きました。  あの写真には確かにスキリング上院議員とノーマン社長の右腕である  ロスチャイルドが写ってはいましたが、  FBIがただそれだけの写真を真剣に受け止めて  くれるとは、正直言って思っていなかったんです。  せいぜいNWCSかスキリング上院議員に恨みがあるものが  嫌がらせの為に送ったと思われるんじゃないかと。」 「確かにその可能性も考えました。」 「それでも実際には調査が進められているわけですね。」 「ええ。ただし現時点では調査とは言っても、  この疑惑そのものの真偽の調査だと考えて頂いた方がいいでしょう。」 トントン ノックの音に私たちは一瞬動きを止めた。 「どうぞ。」 「失礼します。  マクファーソンさん、そろそろミーティングの時間ですが。」 「ああ、そうか。ありがとう。」 その返事を聞くと秘書はドアを閉めた。 「すみません。大事なミーティングなもので。」 「いえ、こちらこをお忙しいところすみませんでした。」 私たちは同時に椅子から立ち上がった。 その時、彼が不安そうな瞳を隠そうともせずに 机をまわって私の横までやってくると声を落として言った。 「あの、私がこんな告発をしたってことを  内密にして頂けるんでしょうね。  NWCSの影響力が衰えないうちに  私のしたことがばれると我が社は潰されてしまう。」 「ええ、勿論です。  その点は安心して下さい。」 「ありがとうございます。  調査にはいくらでも協力しますよ。」 「はい、その時はお願いします。」 そして私たちは握手を交わし、 彼がドアをあけてくれた。 「では。」 「では。」 送り出すときに私の背中に添えられた彼の手の感触に 最初に感じた得たいの知れない感覚の正体がわかったような気がした。 それは、 私をひきつける彼の磁力と、 彼への抑えられない恐怖心だった。 End of Chapter 5 missy@mc.neweb.ne.jp