DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. Title: Wall Chapter 10 Author: Missy Spoiler: none Date: 2000.4.3 ================================================================================================ またもアポなしで事務所に現われた私に マクファーソンは嫌な顔をするどころか 笑顔で握手の為に手を差し出した。 「すみません。事前にご都合を伺うべきですのに。」 「いえ、いいんですよ。 でもあいにく午後から会議が入っているんです。」 「ではまた日をあらためます。」 「よろしければご一緒にランチをいかがですか。」 「いえ、そんな。食事は大切なものですからお邪魔はしません。」 「食事は大切なものというあなたのご意見には大賛成ですよ。 でも私の食事時間なんて結局はビジネスの一環です。 昼食会と銘打ったミーティングやら取引先を接待する為のディナーやら。 今日は久し振りにビジネスランチの予定が入っていないんですよ。」 「ではなおさら申し訳ありません。やはり日をあらためます。」 マクファーソンは突然真顔になって言った。 「この件は私が始めたことですから責任を感じてますし、 ビジネスの上でも大きな関心を持っています。 正直言って、気になって眠れないんですよ。 ですから、そちらの捜査に差し障りない程度で結構ですから 少しでも状況を教えて頂けると助かります。」 そう言ったマクファーソンを見ると、確かに目の下には隈ができ、 何となく疲れている様子だった。 「株主総会での発言は結構響いていますか?」 「ええ、結構どころか・・・」 自分の状態が決して楽観できるものではないほど厳しいものであることを 私に気づかれまいと、冗談を言おうとしたが成功しなかった。 言葉が続かなくて、そのまま大きくため息をつくと俯いてしまった。 彼が社内でもかなりきつい立場に立たされてるのではないかと思う。 確かに彼の憤りは理解できてもそれと仕事は別なのだろう。 「大丈夫ですか?」 「ええ、何とかね。 とにかく食事に行きましょう。 外の空気を吸うきっかけがほしいんです。」 「分かりました、行きましょう。」 彼は安心したように微笑むと立ち上がった。 ================================================================================================ 私達は緑が見渡せるサンルームでランチを取った。 彼は食事の間中終始笑顔で私に話し掛けてきた。 学生時代の悪ふざけの話に私は吹きだしそうになった。 しかしその一方でなにか後暗いことをしているような気がしていた。 Xファイル課に配属されてから私は初めて現場で捜査をするようになった。 この数年間の記憶の中で捜査協力者と食事をしたことがあっただろうか、 しかも二人きりで。 いつもの私ならこんなことは絶対にしない。 なのに、彼の様子を見たら放っておけなかったのだ。 そして、FBIの捜査に協力している為に彼はこんな窮状に陥ったのだから、 彼の気分を軽くできるのならランチくらいいじゃないと、 自分でもまったく言い訳になっていないことが わかっている理由をつけてここに来てしまった。 どうして? どうしてって、そんなことは分かりきっている。 この男と一緒にいたかったのだ。 私が自分の行為に後ろめたさを感じるのは、 仕事に私情を挟んでいるということもあるが、それよりも このことがモルダーへの裏切りのような気がするからだろう。 この男を元気付けたいなんていう偽善的な気持ちではなくて、 単に一緒にいたいと思ってしまった自分を理解できないもどかしさと、 一緒にいられる嬉しさで、 私の心は混乱が渦を巻いていた。 「どうかしましたか、スカリー捜査官?」 「あっ、いえ別に。」 「それならいいのですが、 なんか私の気分転換に無理やりつきあわせてしまいましたね。」 「無理やりだなんて、そんなことはありませんよ。 私もいつもはまともなランチなんて取りませんから、 たまにはこういうのもいいなと思って。」 「そうですか。FBI捜査官なんて忙しそうですよね。」 「まあそうですね。」 そう言いながら、 広げた資料を検討しながらとる モルダーとのいつものランチを思い出していた。 捜査に夢中になると私がどんなに言っても食事を忘れる。 いつもなら私が何か持って行って無理にでも食べされるのだが・・・。 今日はちゃんと食べてるのかしら。 彼の今の精神状態から考えれば、 食べているはずなどないことはわかりきっているのに。 「誰のことを考えているのかな?」 マクファーソンが呟いた。 それはまるで独り言のようで、 私に向けられているものとは思わなかった。 空に向いているようで、 実は私を真正面から見つめている彼の視線を感じながら 私は無防備に答えてしまった。 「ちゃんと食べてるかと思って。」 自分の発した言葉に戸惑って俯いてしまった私に、 マクファーソンがカップの中のコーヒーを見ながら答えた。 「食べてますよ、きっと。」 「ええ。」 不思議なことに、この人にそう言われるとそんな気がしてくる。 そう思う一方で、自分の気持ちを読まれているような、 モルダーとのことに踏み込まれたような気もして。 そして、そんな弱い部分を曝け出してしまった自分を許せない気になる。 ================================================================================================ この気持ちから逃れる為に、私は本来の目的を果たすことにした。 「こんなリラックスできる素敵なランチの場で申し訳ないのですが、 NWCSのことについて知る為に 社長のノーマンのことについて少し伺っていいですか?」 「ええ、どうぞ。」 「彼のNWCSは現時点で既に業界に君臨する存在です。 NWCSが間接的に関わっているものを含めれば、 そのシェアは80%近いのではないですか?」 「詳細な数字はわかりませんが、だいたいおっしゃる通りだと思います。」 「今後の捜査の参考の為に、 ノーマンのビジネスに関する考え方などを知りたいのです。」 「彼は絶対的な支配者になりたいんですよ。 彼は人に負けることが我慢できないし、 誰かを支配せずにはいられないんです。 それは人間関係のみならず、ビジネスでも同じことです。」 「彼はNWCSの社長の座に就くにあたり、 法に触れるようなことをしたというのはもっぱらの噂ですね。」 「ええ、そうです。 ただ忘れてならないのは、NWCSの今日あるは彼の功績です。 ノーマンは我慢ならない暴君ですが、それだけじゃない。 彼には何かがあるんですよ。」 「社内での彼の地位はやはり絶対的なものなのですか?」 「楯突くものは徹底的に排除しますからね。そのぶん敵も多いですよ。」 「彼に反旗を翻した者は?」 「先代社長派のグライムズは彼が社長になってからも、 何かとぶつかっていたようです。 グライムズはノーマンと違って名門と言われる家柄の出で、 ノーマンの品のない、 力ずくの経営に不快感を持っていましたからね。 彼は人格者で業界でも広い人脈を持っていましたから、 ノーマンもそう簡単に排除できなかったのですよ。」 「グライムズは今もNWCSに?」 「いえ、死にました、休暇中に。 スイスの別荘に強盗が押し入って、夫婦ともに殺されたのです。 惨い死に方だったらしい・・・」 マクファーソンの語尾はコーヒーとともに彼の中に消えていった。 「犯人は捕まったのですか?」 彼は無言で首を横に振った。 「ノーマンが関係していると?」 「さあ、わかりません。 ただ彼の業界での地位が圧倒的になりだした頃でしたし、 グライムズの人脈ももう彼にとっては 無用の物になり始めていた頃だったのは確かです。」 「あなたは、身の危険を感じるようなことはないのですか?」 「私ですか? 幸いなことにと言っていいのかは分かりませんが、 私の両親は既に他界していますし、 私は一人っ子なので心配する身内もいません。 おかげで、父の会社は人手に渡りましたがね。」 そう言って自嘲的に笑うマクファーソンの横顔が、 とても切なかった。 「それに私は独身ですし、 今は特定のガールフレンドもいません。 自分のことだけを考えていればいいんです。 ある意味、 だからこそ株主総会での発言やFBIへの告発もできたんですよ。」 一瞬の躊躇いの後、私は彼に尋ねた。 「あなたにとって守るべきものとは何ですか?」 「守るべきものですか?」 「べきというよりは、守りたいと言った方がいいかもしれませんが。」 「そうですね・・・・・、夢です。」 彼の瞳にその時何がうつっていたのかは私にはわからなかったが、 その瞳が未来ではなくて、過去に向いているような気がした。 End of Chapter 10 missy@mc.neweb.ne.jp