DISCLAIMER: The characters and situations of the television program "The X-Files"are the creations and property of Chris Carter, Fox Broadcasting, and Ten-Thirteen Productions. No copyright infringement is intended. Title: Wall Chapter 11 Author: Missy Spoiler: none Date: 2000.11.13 ================================================================================================ 「モルダー」 全く抑揚のない調子であなたがセルに答える。 「私。  今日はミーティングする?」 「僕はまだ調べたいことがあって、それに時間を取りそうだ。かなり遅くなると思う。」 「そう。じゃあ、私は今日の報告書をまとめるわ。」 「わかった。じゃあ月曜の朝にお互いの結果について話し合おう。」 「ええ。じゃあ。」 「ああ。」 帰宅して軽い夕食を取る。本当は食欲なんて全然ない。でも無理矢理食べる。気力に不安を感じ る今なんとか体力だけでも万全にしておかないと。 いつもならバスオイルを入れたお風呂に入れば少しは気分が晴れるのに、今日はそう簡単にはい かない。それでも報告書をまとめる為にPCの前に座る。 キーボードを叩く音を部屋に響かせながら報告書に集中できた時間はほんの僅か。 気がつくと、静まりかえった薄暗い空間の中で今日のことに思いを馳せていた。 ================================================================================================ 過去に向いているマクファーソンの思いが気にかかる。 これは一体何だろう。その瞳の中に映っているものは何? いいえ違う。 誰? マクファーソンの中に今も息づいている過去であり、夢。 その中できっと彼の心を占めている人。 それが女性であろうと思った途端、私は気づきたくない感情に支配された。 今はそんなことに構っている時ではない。私はここにマクファーソンと談笑しに来たわけではな い。事件の発端を作った情報提供者から話を聞きに来たはず。 本来の目的に戻るべく、私は話を戻した。 「ノーマンが社内で絶対的な支配者であることはわかりました。 ではその彼の右腕と呼ばれるロスチャイルドはどうなんでしょか?  彼も社内ではかなりの力を持っているのですか?」 マクファーソンは唐突な私の話題転換を訝しがることなく、穏やかに話し始めた。 「そうではないですね。  ロスチャイルドはもともと先代社長の頃からの社員なんです。  それがノーマンが社長になった途端にあっという間に右腕になっていて、  噂ではもともとノーマンに雇われたスパイだったのでは、と言われています。  ただ右腕とは言っても、ノーマン個人の右腕という感じですね。  社内で特に要職に就いているわけではありませんし、  一応単なる秘書ですからね。」 「でも個人的な秘書ではなくて、NWCSの秘書室勤務ですよね?」 「ええ、そうです。  しかしNWCSの公の部分というよりは、  影の部分での仕事の方が多いみたいですよ。」 「影の部分ですか。なるほど。  社内での彼の評判はどんなものなんでしょうか?」 「当たり前ですが、良く言う者はいませんね。  先代社長の頃からの社員からすれば裏切り者ですし、  彼からノーマンに告げ口されることをみんな恐れてます。  秘書という職業柄、人付き合いは決して悪くはないのですが、  なんというか人を寄せ付けない雰囲気のようなものがあるんですね。  社内に彼と親しい者はいないのではないかと思いますよ。」 「彼は秘書室に所属しているわけですが、その中で彼と一緒に仕事をしている  人はいないのですか?」 「いないようですね。彼はノーマンとだけ仕事をしているようですよ。」 「そうですか。先代社長の頃の彼をご存知ですか?」 「その頃から秘書室勤務らしいですが、どういう立場だったかは知りません。  ただ、彼がすぐにノーマンの右腕となったことについては周囲は意外と感じたようです。」 「個人的にお付き合いはありますか?」 「いいえ。  業界の集まりなどあれば彼もノーマンのお供をして来ていますので  言葉を交わすこともありますが、至ってビジネスライクなものですよ。」 「あなたから見て、ロスチャイルドはノーマンのためなら何でもする人物に見えますか?」 「うーん、そうですね・・・  ノーマンは確かに人を惹きつける何かがあります。そしてそれと同時に絶対的な支配者  でもあるんです。  ロスチャイルドがノーマンの何かに惹かれた、あるいは支配を受けやすい人物であると  いうことなら、彼は確かにノーマンの為に何でもするかもしれませんね。」 「あなたから見て、ロスチャイルドはそのどちらかに当てはまりますか?」 「正直なところわかりません。」 「ノーマンが社長になる以前のNWCSとのつきあいは如何でしたか?」 「前の社長であるミラー氏とは個人的にも交流がありました。  若造のベンチャー企業であった我が社を早い時期から支援してくれた方ですから。  彼はこの業界での私の親代わりのようなものです。」 「では、前代社長からの交代劇については不満をお持ちではないんですか?」 それまで穏やかに笑みを浮かべながら話していたマクファーソンの表情が険しくなった。 「ええ、持っています。  ノーマンは密かに株を買い占め株主総会で正式に社長に就任したわけですから、誰も口を  挟むことはできませんでした。  私が怒りを感じたのは、むしろそれまでさんざんミラー氏に面倒を見て貰ったくせにノー  マンに株を売り渡した連中に対してですね。」 「ミラー氏は今はどうしていらっしゃるのですか?」 「彼は亡くなりました。やはり社員に裏切られたことがショックだったようで、社長を退い  てから一ヶ月後のことでしたね。」 「ノーマンが社長になってからはグライムズ氏とは交流はありましたか?」 「ええ、彼とは以前から懇意にして頂いていました。それに彼の奥さんは大学の同期だった  もので。」 「えっ、そうなんですか。  私は勝手にグライムズ氏を年輩の方と思ってました。」 「ええ、その通りですよ。  グライムズ夫妻は歳が離れていたんです。  親子に間違われることもあるくらいでしたよ。」 「そうなんですか。」 「まあ、とにかくミラー氏に恩がありながら株を売った連中も弱みを握られて仕方なかった  のではないかと、後から思いましたがね。」 「その可能性は高いと思いますか?」 「まったくないとは言えないのではないでしょうか。」 「それはそうですね。」 ふと気づくと私たちの周りのテーブルはほとんど空席になっていた。 「すみません、お引き留めして。  お時間は大丈夫ですか。」 「ええ、たまには息抜きも必要ですから。」 「でもこれじゃあ、全然息抜きにはなりませんでしたね。」 「そんなことありませんよ。」 私たちは立ち上がりながら挨拶を交わした。 「では、私はここで失礼します。  今日はありがとうございました。」 「少しはお役に立てたかな。  また何かあったらいつでもいらして下さい。」 「はい、ありがとうございます。」 ================================================================================================ PCのモニターに映る文字を見ながら、私は何かがひっかかっているように感じた。 あの時、彼は何かから私の注意を逸らそうとしたような気がする。 あれは一体・・・ End of Chapter 11 missy@mc.neweb.ne.jp