「I'm the one who wants you」by Miyuki Spoiler フェチシズム ** 「One Night」の続編となっております ** これは性描写を含むMulder&Scully RomanceのFictionです。 18歳以上で、それでもいいと思う方だけ読み進んでくださいませ。 ・ XF課 オフィス 5:00p.m ミネアポリスで起こったドニー・ファスターによる殺人事件とスカリーの誘拐事件の顛末を報告し終えたふたりは、 スキナーに「今回の捜査は君達の的確な捜査の結果だと高い評価を得ている」とめずらしく誉められて、オフィスの戻った。 しかし、モルダーについて言えば実際のところ、スキナーのオフィスで彼の質問に答えているときも、 上司から体調を聞かれた彼女が“もう大丈夫です”と答えているときも、その後スキナーにお褒めの言葉を いただいているときですら、ほとんど上の空だった。 ただひたすら、自分のとなりに座った相棒から意識が離れない。 彼女のブラウスから覗く白い肌にさえ、あの夜を思い出す。 柔らかい唇、透き通るような胸元、足を絡め、腕を回し、彼を受け入れて、時には奔放に時には優しく 自分の名前をささやくスカリーを… “昨夜のことは忘れて…”と彼女は言った。ごめんなさい、と。 後悔はしていないけど忘れてほしい、と。 それからの彼女は、まったくいつも通りだった。 空港まで行く車の中でも、D.C.へ戻ってきてからも、まるであんな夜はなかったかのように… でも、僕にはやはり忘れられないんだ、スカリー。 「よかったら…」 思いきってモルダーは、医学雑誌に目を通している相棒に話し掛けた。 「今夜、食事でもどうかな? 週末だし、事件は片付いて報告書は済ませたわけだし…」 「残念だけどモルダー」 スカリーはほんの少し眉の間に皺を寄せ、落ち着いた口調で遮った。 「私、今夜は駄目なの、医学校時代の友達と食事をする約束をしてて…」 「断れない?」 ためしに言ってみても、予想通り、苦笑でかわされる。 「断れないわ、もちろん。6時からレストランを予約してるし、ずいぶん前から決めてたのよ、 それに間に合わせたくてがんばって報告書を仕上げたんだから」 「じゃ…」 モルダーはあきらめられなかった。どうしても、彼女があの夜をどう思っているのか聞いてみたかった。 あれ以来、自分を捕らえて離さない呪縛を解くには、その手しかない。 週末にかけて悶々とする夜を過ごすのはまっぴらだ。 「それじゃ終わったら、電話をもらえるかな…その、僕が部屋に行ってもいいし」 「一体何なの? いまでは駄目? あと30分ぐらいなら時間もあるわ」 「いや、後でいい。君に話しがあるんだ」 「だって、何時になるかわからないわ、それに…」 「何時でもいい、僕が夜更かしなのはよく知ってるだろ?」 殆どの場合、スカリーはモルダーの粘り強さにはかなわない。彼はいつも自分のやりたいことを達成する為には、 どんな長い説得も苦にせずにやってのけるし、それでも成功しないときは、強行手段に出てでも勝利を勝ち取る覚悟だ。 それを知っているスカリーは一度、大きくため息をついた。 「いいわ、じゃ、終わったら連絡する、それでいい?」 「いいよ、待ってる」 いつものようにスカリーが折れ、モルダーが肯いた。 ・ レストラン「ボナペティ」7:00p.m 「さぁ、ダナ、紹介するわよ」 クレア・コバートは昔と少しも変わらない笑顔でスカリーと握手した後、隣に座った男性に向き直った。 クレアはスカリーと一緒に医学学校を出た後、心臓外科の医師免許を取得し、同じ病院で働くドクターと 結婚したばかりだ。 “今度新しく来た小児科のドクターがすごくいい男なの” 自分が幸せになったとたん、そう言って電話してくるようになった。 “あなたにぴったりなのよ、紹介したいわ” それを聞いてしぶるスカリーにクレアは言い募る。 “あの相棒でしょ、原因は。わかってるのよ、ダナ、本当は彼のことが気になるんだわ” とんでもない、スカリーは言い返した。モルダーは仕事の同僚よ、それ以上でもそれ以下でもないの。 “じゃ、いいじゃない?”クレアが受話器の向こうで笑った。“会うだけよ、ダナ” 「こちらはトーマス・シモンズよ、トム、こちらがダナ・スカリー、私と医学学校で同級で… もちろん彼女のほうがずっと優秀だったんだけど、今はFBIの特別捜査官なの、私達の間でも一番の堅物だったから、 いまだに独身、仕事中毒、せっかく素敵な相…」 「よしてよ、クレア」 スカリーが笑って口を挟んだ。 「こんばんは、ダナ・スカリーです、お会いできてうれしいわ」 トム・シモンズはクレアから聞いていた通り、一般的な意味でのハンサムだった。 形よくカットされたくせの強い黒髪、仕立てのいいスーツに趣味のいいネクタイ、黒々とした眉の下にある 同じ色の瞳をすっと細め、口元をわずかにほころばせて微笑んでいる。 肩幅も広いし、背も高い、ウエストは引き締まり、指先は長くしなやかだ。 「こちらこそ…ダナと呼んでも?…すごいなFBIの特別捜査官なんて、どんな仕事をするのか聞かせてください」 いつも必ずそうだ、FBIの捜査官だと言うと決まってそう聞かれる。 まさか、地球外生命体を信じている相棒と、科学で解明できない未解決事件を掘り返しているなんてとても言えない。 説明を求められて面倒なことになるだけだ。 「他の人が想像するような華やかな仕事じゃないのよ、ほんと…みんながみんな、 ブルース・ウイルスってわけじゃないの」 スカリーはワイングラスを持ち上げて、苦笑まじりにそう答えるのが精一杯だった。 ・ アーリントン 9:30p.m モルダーはあれから2時間ほどだらだらと居残り、近所のバーに寄って、チーズのたっぷり入ったハンバーガーと オニオンフライをビールで流し込んでから、アパートへの道を歩き始めた。 外はきーんと冷えて、耳が痛い。 だが、うっかりするとすぐにもあの夜に想いをはせる今の自分には、むしろありがたい寒さだと、 モルダーはコートの襟を立てた。 こうやって寒い風の中を歩くのが彼は嫌いではなかった。 余計なことを考えなくても済む。サマンサのことも父のことも、母が頑ななほど昔を語らない理由も、 そして自分の将来も、何も考えずに暖かい部屋に帰ることだけに神経を集中できるのが好きだ。 コートのポケットに手を入れて部屋の鍵を探りながら、入り口までの階段に足をかけたときだった。 “きゃーっ、やめてよぉ” 突然の悲鳴にモルダーが反射的に振返った。 声のほうに身を乗り出して目をこらす。 数人の男に囲まれたうずくまった女性の影を認めた瞬間、モルダーは思い切り駆け出していた。 ・ Bar 「 Jack's 」10:00p.m レストランを出たところで、「もう帰るわ」というスカリーを「あと一軒だけ」と、クレアが引き止めた。 「一杯だけ飲んで帰りましょうよ、ナイトキャップがわり」 そのくせ、彼女はそのムード満点なバーで飲物を頼む寸前、“大事な約束”を思い出したのだ。 「じゃ、ダナをよろしくね、トム」 最後ににっこり笑って、彼女は小さく手を降って帰っていった。 残された二人は一瞬顔を見合わせ、あまりにもあからさまな作戦に苦笑した後、せっかく来たのだから 一杯づつ飲もうと、ウエイターを呼んだ。 「僕はバーボン、ロックで」 「私はマティーニ、うんとドライにして、オリーブを入れて」 「じゃぁ、これからはお互いの仕事の話はなし…そんなこと、勤務時間だけで十分だろう?」 グラスを持ち上げてトムが宣言した。 「そうね」 スカリーも同意する。きっと仕事の話しとなると、口の重い私を気遣ってのことだ。 「じゃぁ、これからは一問一答でいこうか、まず僕から…最近見た映画は?」 出会ってから3時間、まずまず無難な出だしだ。 「ずいぶん見てないわ、あぁ…仕事の相棒に付き合って出張先で見た“透明人間”…」 「変わった趣味だね」 「相棒の趣味よ、私じゃないの」 「どんな人?」 「そうねぇ…って、私が質問する番じゃない?」 「そう? じゃぁ、どうぞ」 そう言われても…スカリーは手元のマティーニを見詰めた。 どんな質問がいいんだろう? 真面目に考え込む。 トムが唇を少し舐めて、バーボングラスの氷をクルリと回転させた。 「…時間切れだよ、僕の番。さて、相棒はどんな人?」 ・ Mulder's Apartment 10:30p.m 「大丈夫? ごめんね、あたしの為に…」 モルダーはカウチに座って、シャツの袖を鋏で切り裂いて、彼女に腕を差し出した。 「いいんだ、僕がうっかりしてた」 女が丁寧に薬を吹きかけ、布を当てて上から包帯を器用に巻いていく。 「痛い?」 モルダーが少し顔をしかめると、彼女は小さい男の子をなだめるような顔をした。 「少し我慢して、アスピリンある?」 「大丈夫、このまま我慢できるよ、主治医がくれるもの以外、薬は飲まないんだ」 モルダーは腕時計で時間を確認した。 “そう言えば僕の主治医はどうしたんだ?” 「あたし、カレン」 唐突に彼女がそう名乗った。 安っぽいドレスに染めた金髪、多分青い瞳もカラーコンタクトだろう、きっと年齢は驚くほど若いはずだ。 「僕はモルダーだ」 カレンは大男に男に引きずられようとした。周りを2人の男がにやにや笑いながら眺めていた。 “何をしてるんだ、やめろ” あきらかにモルダーの2倍は体重があろうかと思われる男が振り向いた。 “なんだ、お前?” モルダーに見せ付けるように、男がカレンの髪を強く上にひっぱりあげる。 “俺が俺の金で好きなことをやってんだ、すっこんでろ” モルダーは黙って内ポケットからIDを取り出してみせた。 「FBIだ、お前らを逮捕してもいいんだぞ」 チッと舌打ちした男が彼女の髪の毛を離し、モルダーが助け起こそうと手を差し出した瞬間だった。 “格好つけやがってっ” 男が隠し持っていたナイフで切りつけたのだ。 いち早く気がついたヘレンに突き飛ばされなければもっとひどい怪我になっていただろう。 それでもナイフはモルダーのコートと上着を切り裂き、彼の腕にも切り傷を作った。 とっさに抜いた銃の効果で、男達が逃げ去ると、モルダーの傷に驚いた彼女が“部屋に誰もいないのなら、 一緒に行って包帯を巻いてあげる”と言い出した。 それが利き腕でなければ、モルダーも断った。 しかし、左手で右手の治療をするのはいかにも大変そうだし、カレンをしばらく保護する意味でも一旦アパートに 帰るほうが得策だと思えたのだ。 ・Bar 「 Jack's 」10:30p.m バーボングラスの中の氷がカランと音をたてた。 スカリーもそれにあわせてマティーニをゆっくりと飲み干した。 「さて…」 ジャックがグラスから手を放さずにスカリーをじっと見詰める。 「選択肢は3つある、君に選択権をあげるよ、ダナ。1つ目は二杯目を頼む、2つ目は僕のアパートでこの続きをやる、 3つ目はこのまま約束通り帰る、どう?」 みかけはともかく、トムは話していて飽きない人だった、話題は豊富だし、聞き上手だし、よく笑う、 きっとこのまま付き合えば多少飲み過ぎたとして楽しい夜を過ごせるだろう…それでも。 「ごめんなさい、トム…とても楽しかったわ、本当よ、10年ぶりにクレアに感謝してる」 「でも…?」彼が促した。 「…でも、行かなくちゃ」 「待ってる人がいるんだろ? 多分、例の相棒だ」 トムがにっこりと笑って、壁かけの時計を小さく指差した。 「君はあそこに掛かっている時計を最低3回、自分の腕時計をさりげなく2回は確認した、さっき相棒の話しを 聞いたとき、君は今夜で一番楽しそうだった。それが根拠です、捜査官」 スカリーが俯いたまま微かに微笑む。 「ごめんなさい、あの…上手く言えないわ、彼とはそういうわけでもないんだけど…」 「全てをはっきりさせられる人なんていないよ、ダナ。それに…余計なお世話だって怒られるかも知れないけど、 長く付き合える人を作っても良い頃だと思うよ、もし、その彼が気になっているんなら素直になったほうがいい」 「えぇ…でも、今の関係が気に入ってるの…だって、どんな感情だって永遠じゃないわ、 今…認める気持ちがいつか壊れれば、私は大事な友達も失ってしまうことになる」 「それが恐い? わかるけど ダナ、人生は短い。自分にぴったりの人間にはそうそう会えるものじゃない、だろう?、 それに…何かを得て、何かを失う、よくあることだよ」 それはまるで妹を諭すような優しい口調だった。 「ありがとう…」 スカリーは立ちあがった。 「まぁ、どうせ僕は未熟者でね、男の相棒とずっと一緒の女性を恋人にする勇気がないんだ、姉が警官と結婚してて、 いつも彼の相棒にやきもきしてるのを見てる」 トムは椅子に座ったまま彼女を見上げると、にっこりした。 「きみは本当に綺麗だよ、ダナ」 「ありがとう、トム」 スカリーがもう一度言って、二人は握手を交わした。 ・ Mulder's Apartment 11:00p.m 「本当にあんた、恋人いないの?」 モルダーはカレンの安全の為に少しばかりのお金を渡し、電話で呼んだタクシーを待ってカウチに座った。 「いないよ、僕は変わり者だから嫌われてるんだ」 “ふ〜ん”そう言いながらカレンは、何か思いついた様モルダーのほうにゆっくりと振返った。 「あたし、助けてもらったからさぁ、なんかお礼、しなくちゃ」 「包帯を巻いてもらったよ」 「あんたは私の為に怪我までしたんだもん、こんなもんじゃ済まないでしょう?」 カラーコンタクトが作ったブルーの瞳が問い掛ける。 「君のような弱い立場の人間を守るのが仕事なんだ、だから気にしなくていい」 「じゃぁ、あたしもここで仕事する、優しくしてくれたお礼だよ、モルダーさん」 カレンは首を横に振ると、ふいにモルダーのベルトに手を伸ばした。 「よせよ」 彼女の意図に気がついて、モルダーはあわてた。 怪我をしていない左手でカレンの手を押しもどす。 「大丈夫だって、ほんと、あたし、上手だって言われるもん、絶対、気持ちいいよ」 「待ってくれ、カレン、とにかくベルトから手を…」 こんなところを万が一、スカリーに見られたらとんでもないことになる。 「大丈夫、変な病気はないし、オーラルだから…」 「そうじゃない、そんなことじゃないんだ」 「だってあたし、これぐらいしかお礼できないんだもん」 「タクシーが来る」 「だから、急いで…」 必死に止めても、カレンは馴れた手つきでベルトのバックルをはずしにかかり、二人はもつれるように床に転がり落ちた。 「止めなさい、カレン…そんなことはいいから」 カレンの手がベルトをあきらめて、今度はファスナーにかかった。 「止めるんだ、カレン」 「モルダーさんなら唇にキスしてもいいよ、と・く・べ・つ」 モルダーは仕方なく痛む右手も総動員するしかない。 「くそっ…」 腕の痛みを我慢して、必死にモルダーは彼女の手を押え込んだ。 「僕には好きな人がいるんだ、彼女以外の誰ともそんなことはしたくない」 スカリーは一瞬、動けなかった。 ドアが少し開いていたのだ。“不用心よ、モルダー”そう声をかけるつもりだった。 それなのに… 床に広がった金色の髪、そして立ち上がる相棒の影。 「失礼…」 反射的にそう詫びて、スカリーは勢い良くドアを閉めた。 “まてよ” 追いかけてくる声も耳に入らない。 まっすぐ家に帰ることばかり考えた。 「待てって」 精一杯急いだつもりだったのに…ぐずぐずしているエレベーターせいで、すぐにモルダーに追いつかれる。 「帰るの、放して」 “ちん” 小さくベルが鳴ってエレベーターの扉が開いた… 「放して、モルダー」 モルダーが手加減せずに引き止めるのにスカリーが本気で抗う。 「違うって言ってるだろう」 「いいえ、私が悪いんだわ、連絡せずに来たりして」 「そうじゃない」 「じゃぁ、あれがあなたの“話”なの?、よくわかった」 「スカリー、いい加減にしろよ」 スカリーの抵抗を封じ込めようと、モルダーは強く両肩を掴んで、自分のほうを向かせ、廊下の壁に押しつける。 そうなってしまえば、体力的にスカリーは絶対に叶わない。 「帰るわ」 「いやだ、帰さない」 唇が触れ合うほど近くで、二人はにらみ合う。 「あなたにそんな権利があると思ってるの?」 「権利なんか、くそくらえだっ」 … ポンッ 床に広がっていた金色の髪…その持ち主。 彼女がすれ違いざまにモルダーの肩を叩いたのだ。 「その調子っ、がんばってね、モルダーさん」 明るい声でそう言ったカレンは、まっすぐエレベーターに乗り込んで、“タクシー代、サンキュウ” 扉が閉まる瞬間に 手を振っていった。 「どういうことなの?」 あっけにとられたスカリーの体から力が抜けるのを、モルダーは見逃さなかった。 両手を肩から外して、いきなり彼女の体を抱きしめる。 そして、すぐ近くにあるスカリーの耳元に、モルダーは甘えた声で囁いた。 「腕が痛いんだ、ドクター、何とかしてくれよ」 スカリーは彼の腕に、赤く血が滲んだ包帯が巻かれていることに気がついた。 ・ 11:45p.m 「化膿止めになるようなもの、ある?」 今夜のモルダーの大立ち回りを本人の口から聞きながら、スカリーはカレンが巻いた包帯をもう一度巻きなおす。 路上で素人に刺されるなんて、信じられない。 そんなことでよく30年間以上も生き延びてきたものだ。 「薬箱に何かある、と思うけど…」 カウチにだらしなく座って良い御身分だ。 何の話しかしらないが、こうやって夜中に呼び出したうえ、私を働かせる権利がこの人にあるっていうのだろうか? うっかりトムの言葉に乗せられてここまで来たが、やっぱりおやすみの電話だけにすれば良かった。 それでもスカリーは勝手知ったるバスルームで、有効期限の切れていない錠剤をようやく見つけ、少し暖めた ミネラルウォーターと一緒にモルダーに差し出す。 モルダーは彼女から目を離さなかった。 まず錠剤を口に放り込み、それからスカリーの華奢な手のひらごとグラスを包む。 「なに?」 スカリーが驚いて手を引こうとするのを許さない。 「話しがある」 そのまま水を口に含んで、錠剤と一緒に飲み下してからモルダーは言った。 「何のはなし?」 「ミネアポリスの件だ」 「それは、今日の午後…正確には昨日だけど、とにかく、スキナーに報告したでしょう」 躊躇する彼女の表情…モルダーの目が細くなった。 「報告? 僕等のことは報告しなかっただろ?」 声が変わる…茶化すのを止めて、真剣にかかるつもりだ、それがスカリーにはわかる。 あの夜…ドニー・ファスターから? いいえ、自分から逃れたくて、誰かに慰めてほしくて、ぬくもりが欲しくて、 私は孤独ではないのだと確認したくて、ただ彼を求めた夜。 「覚えてない?」 「覚えてないわ」 モルダーが一瞬目を閉じて軽く肯く、そして、そのまま強引にひっぱってスカリーを引き寄せた。 グラスがなければ、それに水が残っていなければ、カウチの背に手をついて自分を支えられたかもしれない。 でも、それは叶わない。スカリーは結局、彼の腕の中におさまった。 「僕は忘れられない…あれから眠れない」 モルダーの唇が耳元で囁く。 息が髪を揺らすほど触れて、心が騒ぐ。 殆ど唐突に、彼の匂いや、肌や唇の感触を、思い出す。 暗闇で聞いた彼のうめき声、優しい手の動き…何もかも愛しかった夜。 モルダーがようやくグラスを解放して、その両手で彼女を引き寄せた。 全身から伝わる彼の体温が、ゆっくりとスカリーの中に広がっていく。 「だめよ…モルダー」 それでもほんの少し、スカリーは自分の理性と戦った。 「お互いの気持ちはもう、わかってるはずだろう?」 「わたしは…」 「君は好きでもないオトコとは寝ない」 モルダーの瞳が彼女を止める…両手の手首をゆっくりと掴まれる。 「あの夜、僕を誘ったことが、そのまま君の告白だ」 それから彼は上体を預けて、空いたほうの手で確かめるように優しく彼女の唇に触れた。 「君だけが欲しい…今夜も、そしてこれからも。僕の人生に他の人は要らない」 あっという間に唇を塞がれた。最初は激しく、それは所有権の主張すら感じられる様に。 知らず知らずに応える女としての感覚…二人のキスが徐々に優しく、深く変わっていく。 スカリーは放された両手を彼の髪に挿しいれ、促すように引き寄せた。 モルダーの唇がまぶたから耳、さらにうなじへとゆっくり移り、その熱い痕を感じながら、胸が、形容できないほど甘美に疼く。 これまで付き合った人の、どんな人にもこんな気持ちになったためしはない… 「わたしも…」 言葉にならない。 最後を甘く吐息でごまかしながら、スカリーの唇が快感を予感してわずかに開いていく。 狭いカウチの上で、モルダーはその存在を確かめるように彼女をしっかりと包み込んだ。 細くしなやかな指がシャツのボタンを外し、ブラウスの下に滑り込む。 その後を追ってきた唇がその頂きに触れ、スカリーの体が微かに跳ねる。 「おねがい、モルダー…明かりを消して」 「“お願い”はもう少し後で言ってくれ」 モルダーは一旦、上体を起こし、肘で止まった彼女のブラウスを両手から器用に抜き去ると、自分のシャツも脱ぎ捨てた。 「モルダー…明かりを…」 「だめ、消さない」 肌と肌が直接触れ合うと、途端に感覚がとろけて交じり合う。 紅く染まる胸元、反応して堅くなったその先に少し歯をたてて愛撫しながら、モルダーの利き腕は着実に 脚のつけねの青く血管が浮き出た部分まで下りていく。 その快感に耐え兼ねて、自然に開く両足の隙間に、モルダーはそっと指先を滑り込ませた。 「君は誰のものだ?」 モルダーが先を探る。 「私は誰のものでもないの…」 まだ、そんな余裕が? いいや、そうでもない。 彼女の肌を味わうようなモルダーの指先のリズムに負けて、スカリーの体が跳ねる。 腕に残る痛みでなんとか正気を保って、モルダーは汗ばんだ彼女の首筋に強く痕を残し、もう片方の手で、 微かに抵抗するスカリーから下着を取り去った。 「でも、僕は君のものだ、君も僕のものだ…ここが、そう答えてる」 モルダーは体勢を立て直し、足で彼女の膝を割って、一気に侵入した。 「お願い…」 彼女の華奢な手がゆっくりとモルダーの官能を煽る。 もう言葉にならない、小さな喘ぎ声の間隔が短い。 「スカリー? 聞こえない」 「お願い、モルダー…」 押さえ切れず喘ぎ声がもれる。 「意地悪しないで」 「もう一度言えよ」 限界は近い…でも、もう少し、ぎりぎりの瞬間を楽しめる。 「お願い、モルダー、もっと…」 スカリーの甘い懇願、モルダーはさらにリズムをあげた。 それに合わせて、二人の息遣いだけが部屋で交差する。 「モル…もうっ…」 “まだ耐えられる”そう思ったモルダーを、彼女の最後の声が、上気した頬が、潤んだ蒼い瞳が、紅い唇から覗く なまめかしい舌が、そしてなにより、柔らかく熱い彼女自身が…一気に頂点へと追いつめていった。 * ********************************** 「腕、だいじょうぶ?」 ようやく官能の頂きから降りて、それでもまだ息をきらして、モルダーはからだの向きを変え、スカリーを 自分の半分に乗せて抱きしめた。 「あ? あぁ、かすり傷だ」 「だって、さっき、あなた痛いって…」 自分の上に広がる褐色の髪を指に巻きつけながら、モルダーは彼女の真面目さに感謝する。 「君をここにひっぱりこむための単なる口実だ」 「ひどい、結構、気を遣ってたのに…」 上目遣いで自分を見上げるスカリーにモルダーは微笑んだ。 「そんな風には見えなかったけど?」 にやにや笑う相棒の頬を手のひらで軽くペシッと叩いて、言い返さないスカリーにモルダーは思わず優越感。 僕の発言を認めてるってことだよね? 「ねぇ、ここって、本当にベッドはないの、モルダー?」 上気した肌も冷える頃、モルダーは床に手を伸ばして、上着を拾い上げスカリーの上にふわりとかけた。 「うん、最近見かけてない」 その言葉は少なくとも、彼の無実の証明。 まさか、このカウチに彼と泊まれるひとはいない、いや、可能性はあるが、とても少ない。 広い胸に頬を寄せたままスカリーが微笑む。 「じゃぁ、これから服を着て、私の部屋に行かない? シャワーとベッドと朝食付きよ」 “おや?”と、モルダーは指先で彼女の顎を軽く持ち上げた。 「シャワーとベッドとは聞き捨てならない、まだ不足だった?」 「変なこと考えないでっ、さっぱりして眠るだけでしょ」 そのまま彼は上体を少し起こして、まだ痺れている彼女の唇に軽くキスをした。 「じゃぁ、行こう、君のナイティにはそそられそうだし」 「ねぇ…モルダー?」 彼がはずしたブラウスのボタンを留めながら、スカリーが振返った。 「週末だし…シェイバーと着替えを少し、持って行かない?」 モルダーは答えない。両手をだらりと下ろして、唖然とした顔で彼女を凝視する。 「どうしたの?」 驚いてスカリーが問い掛ける。私が何か言った? 「よかった…」 今度は突然、彼が笑顔になった。 「また、忘れてくれって言われるかと思ったよ」 しょうがないひと…なんだかくったくのない顔に、こっちまでつられちゃう。 スカリーは心から溢れる想いに後押しされて、モルダーにゆっくりと近づくと、 広い背中をぎゅっと抱きしめ、まだ裸のままの胸に優しく唇を押し付けた。 The End… あぁぁぁぁ、前置が長くてすみません。 アダルトFicなんだから、すぐ、そーゆう場面に入ればいいのにって、私も思う。 それでも我慢して、ここまで読んで下さったかた、ありがとうございました。 BBSに感想をいただければ、うれしいです。