copyright by Twentieth Century Fox Film Corporation The X-Files is a trademark of Twentieth Century Fox Film Corporation ***************************** この作品は、RIOSA個人の楽しみのために作ったのが始まりであり、一切の営利目的に 基づきません。 また本作の中で、globeの「wondering destiny」の歌詞を引用しております。この曲がこの 話を考えたきっかけとなったことからきているもので、他意はありません。皆さんの ご理解をお願いすると共に、感謝いたします。 ***************************** Description for Will & Dana club Serial number:001 Condition:For Adult ***************************** wondering destiny -club mix- RIOSA 4.07  AM01:30 Scullyの部屋  あなたの幸せ、見つけて欲しかった。   あんな風に心配そうな表情をさせる自分でいたくなかった。笑顔を運ぶような自分でいたかった。  唇を軽く噛みながら、彼女は思い、だんだんと絶望的な気分に浸って行く。  好きなのに。いや、違う、もっとハッキリした形の感情を持っている。 彼を愛してるのに。  どうしても言葉の最後には否定的な一言がつく。……なのに、と。  自分ではないのかもしれない。  その不安は、だんだん大きくなってくる。  いつか彼をベッドで安眠させることができる女が出てくるならば、それは自分だと、そう思っていた。 ベッドから出て、カーテンを開ける。空が暗いことを確認する。  星も出ていない夜は、なぜかとても安心だ。それは信じていないと言いながら、モルダーの言葉に 振り回されている何よりの証。 光がない夜なら私は自分でいられる。そんな気がすることに安堵を覚えて、首筋を撫でた。  とたんに彼の心配そうな顔つきを思い出して、また悲しい気持ちになる。  もしも私が彼と眠るようになったとして。  その仮定だけで、もう切なさが先走りする。  「おやすみ」と微笑み合って、でも彼は私が眠るまで決して眠らないだろう。少し苦しいくらいに 抱きしめて、彼は私を眠らせることに必死になってしまうだろう。守らなければ、という呪縛の中で。  あきらめなければいけない?  ふと思いついた考えは、まるで何年も前から彼女の頭にあったかのように、すんなりと住み着いた。  暗い空の向こうでは、星は輝いている。 4.09 PM02:00 office 「どうした?今日はぼんやりしてるな」  からかう口調に含まれる心配の声の色。ああ、とスカリーはため息を飲み込む。 「少し寝不足なのよ」 「君も見てたのか、昨日のUFO特集。あんないい番組はもう少し早い時間にやって欲しいもんだよな」  スカリーの返事が彼の心配の許容範囲だったらしい。すっかりおどける口調になった。 ------かわいい、ひと。  一瞬背筋を駆け抜けるいとしさを、視床下部で理性が迎え撃つ。  いつもそんな風に、彼女の感情は理性に戦いを挑んではたやすく負けて引き下がる。 「スカリー?」  自分を馬鹿にしてくれるはずの返答がこないことに、また心配の虫を飼い始めたモルダーが、彼女に 向かってかがむようにする。 「もしかして、生理?」 「馬鹿言ってなさい。これから解剖で、もういいってくらい血を見に行くって言うのに」  そう言い捨ててから、にこりとして見せた。モルダーのほっとした表情に、嬉しくなるより淋しくなった。 ばたんとドアを閉めてから、ため息を落として、解剖室に行く足取りは重かった。 4.09 PM06:30 SKINNERの部屋 「副長官は?」 「ああ、スカリー捜査官。今日から出張ですよ、明日の夕方帰ってきます」  知っていたことの確認。でも驚いたように少し眉を吊り上げて見せる。 「あら、今日から?うっかりしてたわね、じゃあ、この報告書を帰ったら見るように渡しておいて」 微笑んで、分厚い封筒を、渡した。 「わかりました。・・・スカリー?なんだか今日のあなた雰囲気が違うわね」 「そお?」 「化粧品変えたでしょ?綺麗だもの。」 「私からはなにも出ないわよ。でもありがとう、じゃあよろしく」  肩をすくめて、彼女は副長官室を後にした。 4.09 PM10:30 通り  事件があるときも、ないときも。悔しかった日も、認められた日にも。 喧嘩した日の彼は早足。哀しいことがあった日は彼女のテンポで。 この仕事についてから、二人でよく歩いた道を、今夜スカリーは一人で歩く。  行過ぎる親子連れを見て思い出す、たわいもない自分の夢とモルダーのこと。  子供を見て思わず笑顔になるスカリーに、彼は思いがけない一言をくれた。 「君、子供のころの夢って『やさしいおかあさん』だったろ?」  まだそんな話が二人の間でタブーでなかったころ。  モルダーは、もう忘れているかもしれない。けれどスカリーにとっては宝物のような言葉だった。  子供のころから人一倍頭がよくて、利発だった彼女はたくさんの誉め言葉に囲まれて育った。  どんなすばらしい職業につくのだろうと、みんなが期待した。そんな中、彼女は心の奥で叫んでいた。 どんなすばらしい職業につくことよりも、私には楽しみにしていることがある、と。  愛する人と出会い、家庭をもって幸せに暮らすこと。  でも誰もそんな彼女の平凡な心の声に耳を貸さなかった。「いい子」過ぎた彼女は、自分もその声に 耳を貸さなくなった。そうして忘れかけていたのだ。  モルダーだけが気づいてくれた自分の一面。あのときひそかに感じた気持ちを、いつか言えると思って いた。 「おかあさんになる夢を、かなえさせて」  もう、口にしたいと思ったところで唇が動かないに違いない。 4.09 PM11:30 Mulderの部屋  コンコン。  ゆっくりとした間合いのノックの音がして、モルダーは目を開けた。少しビールを飲んでいい気分だった。 「・・・スカリー?」  ドアを開けたとたん、微笑んでいる彼女に驚く。こんな時間に笑顔で彼女が来訪したことなどない。 「入っても、いい?」  悪いと言うわけもないのに。モルダーは小首をかしげて、やっぱりなにか心配事を彼女が隠していたに 違いないと確信する。 「どうぞ。なんにもないけど」 「大丈夫、私が持ってきたわ」  ワインのボトルをひょいと持ち上げて見せた。屈託のない笑顔の、その目の下の隈を見つけて、反射的に モルダーも微笑んだ。 「なにかあったのか?」  珍しいほどよく笑うスカリーに、底知れない不安を感じ始めて、モルダーがそう問いかけたときには、 時計の針は右側に大きく傾いていた。 「・・・なにかないと、きちゃいけなかった?」  ふうっと、消え入りそうな声と表情でスカリーが顔を上げる。自分の視界の彼女に否定できない違和感を 感じて、でもモルダーには目をそらすことができない。 その不安げな表情。自分を伺うように、尖らせた唇の震え。 「スカリー・・・」  抱き寄せたい衝動にかられて、モルダーの声がかすれる。海の雫を湛えた両の瞳が、仕事のときとは違う、 確かな体温とともにそこにあった。 「モルダー、もうどうしていいのか・・・。いろんなことが辛いの。私は既に姉をなくして、それから子供を 産む機能をなくした。次に失いたくないものをなくすとしたら、あなただわ、モルダー。そう考えると失い たくないという感情で辛くて痛くて居たたまれなくなる。」  スカリーの小さな肩が震えて、その小ささがモルダーの心を窮屈にする。だからつい、モルダーの手が 伸びた。そのとたんに、大げさなほどに飛びのく小さな体。 「スカリー…」 「分かる?モルダー、もうだめなの。あなたがどこかに行くと、もう心配でたまらない。事件が始まら なければいいと、毎日お祈りしてる。あなたを失うかもしれない要素のすべてを憎んでる。あなたには 分からないでしょ?こんな気持ち。だからもう駄目、あなたとのコンビは解消なの」 「スカリー!」  半分ヒステリーのように泣き叫ぶ激しさに堪らなくなってモルダーは半ば強引に、スカリーを腕の中に 押し込んだ。ただ抱きしめてこの底のない不安や悲しみを昇華させることはできないと、モルダーには 分かっていた。それでも、戸惑うのは彼がよく知っているから。  奪うものと引き換えに、いつだって何かを失うものなのだ。自分たちはそれが怖くて、互いを奪おうと しないでここまできた。今、ここで彼女を名実共に手に入れたら、自分は何をなくすのか? 「聞いて、モルダー。本当に私、もう強くなくなっちゃったの。あなたと真実を暴くことより、自分の中 で荒れ狂ってる真実を隠すことで精一杯。…ごめんなさい」  泣いても泣いても彼女の声は詰まることはなくて、だからぎりぎりのところで冷静を保とうとしているこ とが、モルダーの濡れ始めたシャツから伝わってくる。深く青い瞳からこぼれる海の欠片たちは、彼に とってどんなに塩辛いことだろう。好きな女の涙を、彼はまだ飲んだことがない。  どれほど苦く、そして甘いものだろう。 「もういいよ、スカリー、もういい」  「ごめんなさい」を繰り返して泣き崩れていくスカリーが、今だけはどうしようもなく頼りない生き物に 思えた。抱き締めなおして、髪に唇をつける。それが引き金のようにスカリーはいっそう強く、今度は 声をあげて泣き始めた。自分が許容されて行くのを、肌で感じたのだろう、張り詰めた響きのない泣き声 だった。小さく繰り返す「ごめんなさい」は時々嗚咽に邪魔されながらも、ずっとモルダーの耳に残る。 何に対して「ごめんなさい」?僕に?・・・自分に? その言葉の意味よりも、響きが彼には堪らなかった。 「もういいから謝るな、ス……」  愛しさが、言葉を詰まらせてしばしの沈黙を生んだ。きょとんとした表情で、スカリーがモルダーを 見上げる。その泣きはらした目が、モルダーの最後の制御を奪って行く。  愛してる女を安心させようとして、何が悪い?自分のために泣いてくれる女を抱いて何が悪い?  その考えは、恐ろしいほどの破壊力を持っていた。 「モルダー…?」 「ダナ」  その言葉はとてつもなく甘い呪文。モルダーの中で二人の間のさまざまな垣根を取っ払ってしまう。その 言葉の意味が分からないというように、スカリーは身動きもできないまま、モルダーの口接けを受けた。 「モルダー…私…」 「もう謝るな。君をもう泣かせたくないし、強がりをさせたくない。ここに、この腕の中に…」  先は言わずに、涙を湛える目許に唇をつけた。その苦さを、彼はとても甘いと感じた。 もっと甘い涙を自分は彼女から流すことができるはずだ。だから彼は迷うことなく、彼女をカウチに 柔らかく倒して、もう一度口接けた。今度は「始まり」の合図としての。 「ダナ…」 「…モルダー…」  初めて見るモルダーの瞳の中の色違いの情熱に、スカリーは戸惑う。想像すらできなかった女を抱く彼の 表情が目の前にあり、その唇からはいとおしげに自分の名前が零れ落ちてくる。  白い素肌を露わにすると、モルダーは感嘆の溜め息を漏らさずにいられなかった。滑らかで匂いたつような 体の線に唇を沿わせると、陶器のような美しい肌が染まって行く。薄い闇の中で、その経過を見詰めることが できる自分に、彼は酔いしれる。 ひとたび議論を始めると頑固で手ごわいスカリーが、今は狭いカウチの上にいて、自分のなすがままに腕の 中で蠢く。指に泣いて、口接けに声をあげる。 彼女は自分を愛しているのだ。だから彼に体を開く。自分が求めるように。 彼女を上からこういう形で眺めること。乱れた髪の付け根が、気温のせいでなく濡れていること。そう、 彼女の足の付け根だって、彼は今、濡らしているのだ。想像以上の快感が、モルダーを襲っていた。 「…ダナ、愛してる」  初めて彼女を自分に繋ぎ止めた喜びの中で、モルダーは何度もそう囁かずにいられず、彼女の泣きながらの 笑顔が「私もよ」と答えてくれることに、ただ夢中だった。だから彼女が自分の背中にきつく爪を立てた ことにだって疑問を感じなかった。むしろ、彼にとっては嬉しいことですらあったから。 …彼女が爪を伸ばす職業にないことを知らないモルダーではなかったはずだったのに。 「…ねえモルダー、『おやすみなさい』を言って」  狭いカウチで体を寄せ合って、甘い夢を見る準備はできた。薄暗い部屋とモルダーの腕の中、スカリーが 何度も切望したものが、ここにある。 「…ん?ダナ…まだ、起きてた…?」  ひどく眠そうな声で、それでもモルダーは返事をする。甘えた声のスカリーが自分の腕にいることを 再確認するのも彼の眠りにとっては悪くない。 「おやすみなさい、モルダー」  そう呟く彼女の額にキスをして、微笑んだ。 「…おやすみ」  そのまま眠りに誘われた。 ------- 一時間後。  スカリーは今、モルダーの寝顔を見つめている。少年のように、というと言い過ぎだろうか。でも彼の 寝顔はひどくあどけなく見えた。スカリーはこんなときなのに、と思いながら微笑まずにいられない。 用意した手紙を、置こうとして止めた。 こんなもので、自分の真意が彼に伝わるとは思えない。あんなに熱く抱き合ったあとで、こんな手紙を 彼は望まないだろうと、彼女は思った。 しっかりこのやわらかな寝顔を刻みつけようと思った瞬間、視界に霞みがかかる。 「…ありがとう、モルダー」  たくさんのありがとうを込めて。 もう届かない声を、彼は起きたら聞いてくれるだろうか?  机の上にこの部屋の合鍵を置いた。彼が持っている自分の部屋の鍵は、迷ったけれどそのままにすること にした。他に持って行くべきものがあるか考えたが、なかった。記憶や時間は持っていけない。代わりに 一言だけ残していくことにした。  Forget me.   4.10 PM05:30 Mulderの部屋 RRRRRRRR RRRRRRRR RRRRRRRR  鳴り止まない電話のベルでモルダーは眠りの底から引き上げられる。薄暗いのが夜明けなのか夕暮れなのか さえ、即座に判断できなかった。 「…モルダー捜査官か?」  スキナーの声が尋常でないほど震えていたので、気がはっきりしてくる。土曜日なのに、なにか事件が? 「そうですが?」 「スカリー捜査官は?そこにいるか?」  そうであって欲しいというように、その声は祈るようだった。  モルダーはその問いに昨晩の出来事を蘇らせて、視界にいるはずのスカリーを探した。…いない? 「いないのか?モルダー!いるのかいないのかはっきりしろ!」  苛々を押さえられないというように、スキナーは半ば怒鳴った。その声に思わず立ち上がって彼女の姿を 探す。彼女の代わりに見つかったのは、自分の部屋の合鍵とメモ。 「……っ…」 「モルダー捜査官?モルダー!?聞いているのか?スカリーが休職願いを出したんだぞ」  スキナーの声はただ遠くで鳴っているだけのTVのニュースのようだった。  事実を受け止められないまま、モルダーはただ立ち尽くす。  Forget me.... ******************** Chapter 2 ******************** 4.10 AM05:00   Forget me. 記した瞬間、どっと感情と涙が押し寄せてきて、慌てて部屋を後にした。もうそこまで来ている夜明けの 気配が息苦しかった。 なんて重い足取り。そして重い気持ち。 ポケットにくしゃくしゃにつめこんだ、手紙のせいに違いない。彼女はむりやりそう思うことにした。 ごみ箱にむかって、紙くずを放り投げる。狙いが外れて、ごみ箱のあしもとに転がった。 思わず口をつく独り言。 「私の気持ちって、ごみ箱にまで拒否されちゃうわけ?」 自分が可哀相になってきて、ついそれを拾い上げた。 ----------------------- おはようモルダー この手紙をあなたが見てくれているとしたら、それは何日の何時ごろかしら? どういう経緯でこんなことをしてしまったか。 それはここで話すようなことではない気がするので、省かせてね。 ただ私は、あなたに幸せになってもらいたかった。 私はあなたに妹さんのトラウマを、なぞらせるだけの存在に甘んじているわよね? そうじゃ、ないの。それじゃあ、だめなの。 私があなたの中で求めた自分のポジションは、そこじゃない。 私は完璧主義だから、望んでいないポジションはいらないわ。 あなたが私のことを大切に思ってくれている気持ち、私はよくわかっているつもり。 自惚れではないつもり。 あなたの愛情を、信頼を、この5年間甘受してきたって言っても、きっと過言じゃない。 そして私があなたに対して、抱いている感情も、私はよく分かっている。 自覚症状だってある。 私はあなたの危険に対しては、ひどい神経質になってるの。 二人とも、これじゃあ、幸せになれないわね? どうしてこんなに愛しているのに? 毎日毎晩思っていたの。 どうしてただ好きになっただけなのに? 今だって、そう思っているのよ。 でも分かってる。 あの誘拐事件があるかぎり、 妹さんが帰ってこないかぎり、 私達の関係は、この平行線を辿って行くってこと。 ここで白状しないといけないわね。 モルダー・・・私、持久戦には弱いの。 私を忘れて欲しいというと、とても横暴な表現かもしれない。 でも言わせて欲しい。 どんな方法でもいいわ。 逆催眠療法があるらしいから、それを利用してくれてもいい。 私を忘れて、モルダー せめて私があなたを苦しませている最大の要因、 あの誘拐を そして私の体のことを。 かけらさえ、あなたの中で私がなくなってしまってもいい あなたが眠れる夜が、一晩でも増えるのなら。 ねえ、分かる?こんな気持ち。 私、ずっと思っていたのよ? 愛しているの、モルダー ・・・・・・・幸せになって欲しい。 どうかあなたに温かい夜を どうかあなたに優しい夢を 苦しくないなんて、強がりは言わない。 辛くて、苦しい。 あなたがいない自分の人生を、考えるたびに呼吸が止まる。 それでも不思議と思えるの。 ありがとう、モルダー。 最後に寝顔を見せてくれたこと・・・ -------------------------------- この手紙を置いてこなかくてよかった。 そう思うと同時に、今度は正確にその重い紙たちをごみ箱に入れなおして、スカリーはすぐにキャブに 飛び乗った。 泣き顔を、隠す術さえ持っていなかった。 私を忘れて。 それでも残してきた、言葉の意味を味わいなおして愕然とする。 涙は何のためにあるのだろうか。自分の家の住所すら上手に言えないほどに、喉を詰まらせるためで なんかなかったはずだった。つい数時間前までは、彼との抱擁を彩る、綺麗な雫だったのに。  もはや涙は流さなかったが黙って外を見つめる彼女にドライバーはすっかり弱りはて、あんたみたいに いい女をふる男は馬鹿だと、何度も言っていたが、彼女の耳には届いていなかった。  家に戻ると、どの部屋にもモルダーの気配があることを、今更のように思い知った。 ソファでおなかを空かせて彼女を見上げる顔。落ち込んだ瞳で、玄関に立ち尽くす影。窓から外を眺める 背中。寝室にこっそり隠れていたあのときの、深刻な顔つきのままの冗談。 どれも、これも、全てモルダーのもの。 気がつけば、この空間はモルダーのためのもの。  一刻も早く出て行かなければ。  仮眠をとってから、という当初の予定を変更せざるを得ないほど追い立てられた気持ちになっていた。 取るも直さず洗面所で、丁寧に手を洗う。それから左手の爪を切りそろえた。三日月型に切り落とされた 爪の破片をじっと見つめる。  今ごろ彼はぐっすり眠っているだろう。起きたら、背中が痛いだろうか。少しきつく掴み過ぎたかもし れない。忘れて欲しいといいながら、あんなものを残して行くとは、なんて矛盾しているのだろう。  いろんな想いが交錯して、彼女は疲れきった自分の体を自覚した。とりあえず温まらなければ、もう動 けそうにない。這うようにしてバスルームに向かい、蛇口をひねった。  お湯につかると温まるはずだという、彼女の考えは、このときばかりは大外れだった。 服を脱ぐと、そこには胸が締め付けられそうなほど、モルダーの想いが刻み込まれた自分の体があった。 正視できずに目を背けた刹那、また涙が溢れ出る。こんな風に男が女を抱くことの意味を考えるだけで、 心が痛かった。 霞みがちの視界の中で、もう一度その朱いものを確かめる。事件を追いかけるときのように、彼は抱き合 うことにも必死だった。  モルダーとの5年間に互いを労わり合う抱擁はあったけれど、あんなに力を込めて抱きしめられた事は なかった。いつだって彼は感情の抑制を効かせて彼女に接してきたのだ。痛いほど締め付けてくる彼の腕 の中で、スカリーは彼が男で自分が女であることを、今更のように強く意識していた。  そして彼は、ただ彼女を抱いただけでなく、愛しているという最強の証拠を自分に与えてくれたのだ。  あのモルダーが、あんなに簡単に隙を見せたこと。  全身を震わせて泣きながら、彼女は初めて恋に夢中になったときのようにあどけないことを考えていた。    この痣がずっと消えなければいいのに、と。 4.10 PM06:45 FBI 副長官室  スキナーは憔悴しきっているモルダーの顔つきを見て、彼を責められないことを悟った。と、同時に絶 望的な事実に直面していた。スカリーがモルダーに行き先を告げずに消えるということは、手がかりがほ とんどないということだった。 「…最後に会ったのはいつだ?」 「…いつその休職届を見たんだ?」  力なく、でも睨みつけるようにスキナーを見てモルダーは声を絞り出す。その時間によって、スキナー の質問への回答は変わるのだ。どんなに頭が混乱していても、スカリーに不利な発言をしてはいけないこ とを、モルダーはわきまえていた。 「私の質問に答えろ」 「いつそれを見たんだ?」 「…強情なやつめ。今日出張から帰ってきたらデスクに置いてあったんだ。秘書に聞いたら金曜の夕方に 託けていったそうだ」 「……」  スカリーは最初からそのつもりで、最後に自分の所にやってきたのだ。  彼女の休職届のことと、あのメモを結びつけると始めからその事実は浮かび上がってきていたはずだった。 それでもモルダーは、できる限りそれを認めたくなかった。だから、ここに来たのだ。それなのに、結局は 自分はあの時のスカリーのおかしな様子に気がつかなかったという事実を改めて認識させられただけだった。 「モルダー捜査官。とにかく、彼女を早く探し出さねば。私はこの届をこのまま受理できない。こんな理 由の休職届は審議にかけられてしまう」  彼女の休職理由は健康不安と、X-File課に対する上層部の対応への不満になっていた。スキナーの言う 通り、こんな理由の休職届はそのまま退職届にさせられかねないものだった。  スカリーはそんなことの分からない人間ではない。つまり、彼女はここに戻ってくるつもりなどないと いうことだ。  呆然としているモルダーの姿を見て、彼が原因そのものなのだと、スキナーには分かっていた。だが、 それを口にはできない。それを自分が知ってしまえば、彼らのコンビを解消させなければならないからだ。 命をかける職場で同僚同士が恋愛を続けながら共に働くということは、大きなマイナスである。互いを庇い 合って共に殉職、などという例を、彼はいやというほど見てきている。 「なにか、こころあたりは?」  そのスキナーの言葉に首を横に二度振り、モルダーは立ち上がった。話をしているヒマがあるなら、彼女の 行方を追いかけたかった。しかし、モルダーの足元はぐらりと揺らいだ。 「モルダー捜査官?!」  スキナーが駆け寄る間もなく、そのまま倒れこんだ。 4.10 PM08:15 FBI内救護室  モルダーが目を開けると、スキナーとダイアナの姿があった。 「気がついたか?モルダー捜査官」 「…?なぜ僕は…?」  状況がよく飲みこめずに、二人の顔を見比べる。 「あなたの血液から睡眠薬が出てきたわ、フォックス」  カルテを見ながら、ダイアナは不思議そうにモルダーの顔を覗く。 「君がそんなものを服用していたとは思わなかった。よくあんなものを体内に入れて運転してきたな」  信じられないというように、スキナーが肩をすくめた。モルダーの方は寝耳に水である。  睡眠薬……?使っていない。  しかしその瞬間モルダーには、スカリーが自分に何をしていったのかはっきりと分かった。それは モルダーの心に、痛い疑問を浮かび上がらせる。 こんなことまでして、スカリーは自分から離れていきたかったのか?  しかし答えはNOのはずだった。  まだ自分の手に残る彼女の肌の感触や、耳を掠めた吐息は、モルダーにそれを「YES」とは思わせ ない。スカリーが自分に睡眠薬を何らかの形で服用させたことはほぼ間違いなく、彼女が休職届けを提 出したことは紛れもない事実である。ではその事実は、スカリーが自分やX-Filesに嫌気がさして起こ した行動なのだろうか?  違うはずだ。  どうにかして、彼女を見つけて真実を確認しなければ。彼女の、そして自分たち二人の。 起き上がり、ベッドから出ようと足を出す。 「フォックス?駄目よまだ起きあがったら」  ダイアナが彼をベッドに戻そうと立ちはだかる。 「…ダイ?どうしてここに?」  今初めて彼女を視界に入れたというように、モルダーは問い掛けた。 「仕事で来ていたらあなたがここに運ばれたって話を聞いて、飛んできたのよ」  心配そうに微笑む彼女に、どうにか笑顔を返す。 「それはありがとう。でも僕は大丈夫だよ」  今度はダイアナに邪魔を許さず立ち上がった。その後姿を見て、ダイアナが声をかける。 「フォックス?あなたシャツに血がついているわ」  それを聞いてスキナーもモルダーのシャツに目をやる。モルダーに何か言う時間も与えず、ダイアナは 手早く彼のシャツを脱がせた。 「……」  スキナーとダイアナは顔を見合わせて沈黙した。それから見るべきではないものを見たというように、 スキナーは目を背けた。彼の背中のあまりに生々しい爪の跡は、スカリーが失踪する前に二人に起こった であろう出来事を想像する手間を省くに値するものだった。 「どうしたの、フォックス?これ…ひどい傷よ」  一方のダイアナのほうは震える声でそう聞くのがやっとのことだった。その様子にも気づかずモルダー は冷静にあのときの状況を分析してみようとしていた。 「フォックス?」 「ねえダイアナ、少しパーソナルな質問になるけれど、君がSEXの時に相手に何らかの跡を残す場合、 そこに理由はあるかい?」  突然の昔の恋人の質問に、ダイアナは躊躇した。彼は何を言っているのだろう?そしてその質問が彼の 背中から来たものだと悟った瞬間、彼女の血液が逆に回りそうなほどの衝撃が走った。 スキナーは、顔をしかめていたが、何も言わなかった。この男はいつもそうなのだ。自分の中で追跡が 始まると、何も気にかけない。相手の感情を推し量った質問なんてできないのだ。 「…それは、独占欲とか…た、単純にその場の雰囲気でっていう場合もあるわよね。すべての場合に当て はまるはっきりした理由はないわ」  怒りに任せて頬を張ってもいいその場で、それでも彼女がそう答えられたのは、彼に見そこなわれたく ないためだった。 その答えでまたモルダーは考え込む。相棒の行動分析はなんと難しいのだろうか。なかなか引き離して 考えられない。 彼女を一人の女性だと、今は突き放して見詰めなければいけないのに。 「独占欲…?違うな…でも陳腐なやり方だ。…ということは…」  あんなちゃちな手でも、僕が引っかかるか試したってことか…?  彼女の痛いほどの想いを昨夜は感じたが、その想いは自分が感じた以上に深いものだったのかもしれな い。もっともっと、自分以上に内側に閉じ込めて行く種類の愛情だったのかもしれない。エミリーの時 だって彼女は何を責めるよりも自分を責めかかっていた。自分だってサマンサのことでは自分を責めてい る部分は小さくない。しかし怒りの矛先を煮え切らない父に、はっきりとしたことを答えてくれない母に、 持っていくことができていた。スカリーにはそういう自分の感情を逃がしてやるところがない。いつだって 彼女は自分の感情とすら戦おうとするのだ。昨夜彼女が発した言葉は自分の中で戦って、戦って、必死に なって、それでも自分を愛する感情を認めきれず、押さえきれないまま飛び出してきたものではないのか? あの切ない「ごめんなさい」の響きを、自分は読み取りきれていなかったのではないか?  自問はそのまま自分を責めることにつながって行く。彼女は決して自分を「フォックス」と呼びはしな かった。ただ照れくさいだけなのかと思っていた自分の勘違いに気づく。モルダー自身は自分の愛情を彼 女に示すことに必死だったのだ。今までも、そしてあの時も自分の男としての未熟さを、彼女は決して責 めず、代わりに自分を責めて去っていった。 このまま離れて行くわけにはいかない。一度繋いだ手を、離すわけにはいかない。嫌と言うほど振りほ どかれたわけじゃない。たとえ相手がスカリーでも、優しく自分を眠らせて逃げるなんて許さない。 強い、強い衝動がモルダーを動かして行く。 「Sir とにかく僕は心当たりを当たります。絶対に見つけてくるので、あの件はあなたの胸の内にしまって おいてください」  スキナーがその言葉に頷いたのを確認して、血のついたシャツを着てモルダーは走り出さん勢いで歩き 出した。 「フォックス?」  慌ててダイアナが声をかける。わずらわしげにモルダーが振り向く。 「悪いけど急いでるんだ、ダイアナ。また今度」  その返事すら待たれることはなかった。 「……」  彼の言う「絶対に見つける」ものはスカリー捜査官のことに違いない。事情は分からなかったが、女の 直感がダイアナにそれだけは教えてくれた。そしてあの急ぎよう。あの姿はまるで事件を追いかけている ようではないか?いや、どんなに事件のために急いでいても、モルダーは自分の声に耳は傾けていてくれ ていた。  絶望的な敗北感が自分の中に漂っていく感覚を、ダイアナは打ち消すことができずに立ち尽くす。  スキナーが部屋を出て行くときに声を掛けてくれても、ただお辞儀をしただけだった。 4.11 PM04:30   Skyland-mountain スカリーは、迷った挙句にここにやってくる決意をした。  自分がUFOに連れ去られたとモルダーが言っていた場所。自分の目で見るまで信じない主義のスカリーが、 この場所を自分で確かめたことはなかった。自分の人生をあんなにまで振り回した事件だったのに、彼女 はまだ、思い出すことを拒んだまま。  だから、ここにくることは、自分の信念のために必要なことなのだ。  自分にそう言い聞かせて、スカリーは山の近くのモーテルに入った。  モルダーを失った今、彼女に残されたことは自分に起きた真実の探求だけだった。これだけは、100%自 分のためにある仕事といえる。FBIも、医者であることも関係のない、自分の問題。  思えば、なぜ今まで記憶を取り戻すことにあれだけの抵抗感があったのだろう。何が起きたかはほぼ分 かっている。何らかの方法で自分を不妊に至らしめるような手術か実験が行われたのだ。  思い出すべき時がきた。そんな気がした。きっと、知ったらモルダーと一緒にいられないような記憶に 違いない。全く関係ない彼を、責めたくなってしまうような、自分の冷静さを失ってしまうような、そんな 記憶なのだろう。だから今まで思い出さなかったのだ。  スカリーはその思いつきに固執している自分を意識しないように努力していた。  山を見上げながら散歩していると、ロープウェイが夕陽に照らされてきらきらと輝いていた。モルダー は誘拐された自分とDuane Barryを追いかけてあれに乗ったと言っていた。 「危ないわ、あんな古そうなロープウェイ」  呟いて、結局モルダーのことばかり考えている自分に悲しくなる。もちろん、忘れられるなんてことは 彼女も考えてはいなかった。けれど、ただ思い出すのではなく「考えて」しまっているのだ。自分では、 一度決めたことには思いきりの良さを自認してきていた。医者からFBIに行く時だって、X-Filesに配属さ れたときだって、やると決めたらしっかり自分の責任のもとで行動してきた。癌と戦ったときも、自分な りに潔く行動していたのではないかと思う。一度は死すら覚悟できたのだから。  しかし、今回は違う。自分の行動に自信をもてない。感情に振り回されてばかりいる。認めたくなかった けれど、彼女は後悔を感じてすらいた。  あのままモルダーの腕の中で一緒に眠っていたら…?  あの温かい体に包まれて、自分もぐっすり眠ることができたのではないか。いまごろデートでもしてい たかもしれない。  それに目覚めたモルダーのことを考えると、いたたまれなかった。あんな風に愛情を示してくれるとは、 スカリーは想像していなかったから。薬の効き目は個人差があるが、10日の夜中から11日の午後くらいま でには目覚めているはずだった。  電話を掛けたい衝動にかられる。まだ間に合うのではないか?モルダーとスキナーにしかられるだけで、 元の鞘に収められるのではないか。最終的には、二人とも「スカリーも意外とそそっかしいね」などと、 苦笑いで済ませてくれるのではないだろうか。 そんな想像と衝動を必死で抑えている自分が滑稽だった。  声を聞きたい。顔を見たい。会いたい。…会いたい。彼が見せてくれたくらい激しい愛情を、自分だって 持っていることを教えたい。    ……こんなにも狂おしく激しい感情を、相棒に持ってしまっている時点で、もうアウトなのだ。    はっと我に返って、スカリーは草原の中で座り込んだ。  そうだ、だから自分は彼から離れてきたのだ。うなだれて、それから涙をもう落とさないように顔を上 げると夜が始まろうとしていた。星の煌きが不意に怖くなって、彼女はモーテルに向かって駆け出した。 4.11 PM05:00 Scullyの部屋 いないことは、彼にだって分かっている。 でも、確かめずにいられなかった。 彼女がそんなに弱い人間でないことも知っている。 それでも、ドアを開けるとき、彼は恐怖をなだめすかしていた。 だから、想像した通り、きちんと片付いた誰もいない部屋を見たときには、逆に安堵したほどだった。 生きているはずだ。その確信にほっとする自分を、モルダーは心底情けなく思う。 「スカリー」 ソファーに座って彼女を呼ぶ。静かな部屋に自分だけの声が響く。 「スカリー…『おはよう』も、言わせて欲しかったよ」 優しい空間は、彼の声を吸いこんで行く。 この居心地の良い部屋で、彼女の残り香にしばらく浸っていたい気がした。でも、彼が求めているのは 残されたものではなくて彼女そのもの。首を大きく振って、モルダーは部屋を後にした。 4.11 PM07:00 副長官室 「日曜日にも仕事かね」  どこからともなくドアが開き、煙草の煙が漂い始める。 「なんだ?君こそこんなところに何のようだ?」  不快感を露わにして、スキナーははき捨てるように言った。 「冷たい仕打ちだなMr.Skinner。今日は忠告をしに来ただけだよ」 「なんの?」  スキナーが聞く体制になったことを見て取って、大きく煙を吐き出す。じれったげなスキナーの視線の 中で煙草をもみ消した。 「私の管轄外だが、近々『召集』がかけられるようだ。君の部下のパートナーをこんなところで殺すのは 惜しいと思ってね」  ガタンと大きな音を立てて、スキナーが立ち上がる。新しい煙草に火をつける彼を殺さんばかりの敵意 が篭められた目で睨みつける。大げさに肺ガン男は後ずさりして見せる。 「怖い顔だな。今夜当たりから、せいぜい彼女の首に縄でもかけておきたまえ」  もう一度煙を吐き出して、「禁煙」のプレートを倒して去っていった。  スキナーは愕然と椅子に座り込んだ。  縄をつける首の場所すらわからない。 4.11 PM07:30 ローンガンメンの事務所  RRRRRRRRRRR RRRRRRRR  ローンガンメンたちに徹底的にスカリーの行きそうなところを洗ってもらっているモルダーの携帯が鳴る。 「はいモルダー」 「モルダー捜査官、足取りはつかめたか?」  スキナーの切羽詰った声は、今までにも聞いたことがある。昨日の電話の声だって相当なものだった。しか し、その声は今までのどんなそれよりもモルダーにただならないものを感じさせた。もはや、殺気に近いほど の、声音。 「昨日泊まったと思われるモーテルを洗っているところです」 「早く見つけろ。大変なことが起きようとしている」  一緒になって聞き耳を立てていたフロヒキーの顔色が変わった。 「大変なこととは?」  機械越しに息を吸う音がして、搾り出すような声がモルダーの耳に流された。 「またスカリーが何処かに連れ去られる危険性が出てきた。…いや、殺される可能性すらあるらしい」 「なんですって?!」  大きな声に、ローンガンメンの3人がモルダーをいっせいに見た。 「とりあえずすぐそちらに行きます」  電話を切ると、モルダーは三人三様の心配そうな表情を見て、さらに加わった最悪の状況を伝えた。  説明をする声は震えていた。恐怖がモルダーに取りついていることは明らかだった。  今彼女を失うということは、モルダーにとって恐怖以外の何物でもない。 「とにかくスキナーに会わなければ…」  正気を保つのがやっとといった表情で、モルダーはそう言ってドアに向かった。 「モルダー、何か分かったらすぐ連絡するよ」  ラングリーが励まそうと声を掛けた瞬間、ローンガンメンご自慢のネットワークシステムのアラーム が鳴った。バイヤースがコンピューターの前に駆け寄り、情報を開く。 「嘘だ!!」  同じく走ってきてコンピューター画面を覗いたフロヒキーが、絶叫した。ドアを開きかけていたモル ダーが、その叫び声に引き寄せられるように部屋に戻る。とっさにバイヤースが画面の前に立ちはだかった。 「モルダー、君はFBIに先に行った方がいい。その間に俺たちが情報を整理するよ」  フロヒキーはショックのあまり首をただ振るだけだった。スカリーに関する情報がそれほど絶望的なもの であることは確実だった。 「どけよバイヤース」 「後にしよう、モルダー」 「どけ」  もみ合った隙間から見えた画面の文字にモルダーが凍りついた。見てしまったことに気づいたバイヤースが うつむいて体をコンピューターの前から退かせた。 「…すぐ確認を取りに行くか?」  ラングリーの促すような声に、モルダーは答えることさえできずにいた。コンピューターの画面に無機質に 並んだ文字を何度も追いかける。  《 Hi, おまえらの探してる女かもしれない死体が今見つかった。小柄で赤毛、首には    十字架のペンダントらしい。場所はワシントンから南に2時間程度のところ。    まだこれだけしか分かっていないが、これはかなり近いんじゃないか?    また何か分かったら連絡するよ。                       》 -------------------------------------------------------to be concluded... ******************* 途中の一言 ******************* せっかくのRe-mix!ということで、ひとつにまとめようとしたら、えらく重くなったので 二つにわけることになりました。 個人的な趣味の問題ですが、あまり重たいテキストって嫌じゃないです?(笑:私だけかな) では、長い話は後書きで・・・・