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春風の 吹き付ける 砂の丘で。



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人のいない世界。
ヒトの望んだ新たな世界。

どんな変化があるにせよ、
乗り遅れるヤツは必ずいる。

砂の大地をそぞろに歩く、彼の名は「セロ」という。
他の記憶はなかった。
元々以前の記憶がある者はほとんどなかったが―

そうしてセロが倒れた場所のすぐそばには集落があった。
『スナヒト』の集落…そこにいるヒト達の体は砂でできている。


その集落は洞窟の中にあって、
スナヒト達は外への関心を持たぬようひっそりと生活しているのだった。


世界は謎に満ちている。
しかしその謎を解き明かすことは禁忌とされた。
衝撃ですぐに砕けてしまい、
砕けただけで死ぬわけではないが核となる星砂が壊れればやはり死に至る。
そんな脆いスナヒトにとって外界の探索は危険すぎたのだ。

という訳でスナヒト達はこの[テフラ洞穴]にこもり
外に興味など持たぬように過ごしてきた。

「イフリ」という名の、彼女を除いて。

怖いとは聞かされていたし実際怖い目にもあったので遠出することはしなかったが、
それでもイフリの核は燃えていたのだ。
眠れない夜は星のちりばめられた夜空を見上げ、
暇ができれば砂嵐の向こうに思いをはせた。

イフリの一番の興味は遠く遠くに浮かぶように建つ塔。
一番上が見えないほどに高いその塔は見るものの冒険心を奮い立たせる。
それでなくとも年端もいかない娘に穴倉暮らしは退屈にすぎたのだろうが…

―そして、セロが洞穴に運び込まれた。
砂ではない体のセロにみな戸惑ってはいたが、
ひどく疲れた様子で敵意も見えなかったので滞在を許可することにした。

セロはタビビト。

「―よね?」と、イフリはセロに会うなり塔の事を聞き
セロは見たことはある、けど入ったことはないと答えた。

「あたし、行きたいのあの塔に。だからどうか連れて行って」
イフリは頭を下げるが、元々行くあてのないセロだ。断る理由もない。


そうして二人は旅をする―



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春風の 吹き付ける だけの丘で。



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