『天使の反逆』



 週末の居酒屋はいつものごとく混んでいる。
 店員の兄ちゃんが威勢の良い声でオーダーを飛ばしている。

「僕なんか一緒に来て大丈夫なのかい?」
 烏龍茶を啜りながら伊集院さんはボクを見る。
「えっ?……だって伊集院さんだって誘われているんでしょ?」
 後ろめたい気持ちを押し殺して笑顔を作る。
「僕はあんまりこのチャットに入らないから……」
 小部屋風に造られた入り口には『チャットルーム3・OFF会』と掲げられている。

「おっ!アトムッ早いな。」
 川本さん達がやって来た。ミカンさんも一緒だ。
「松田さん少し遅くなるってよ♪」
 ミカンさんの言葉にボクは少し息を抜く。
「そうですか……じゃあ始めておきましょうか?」
 石清水さんがそう云ってオーダーを取り始める。
 他愛ないおしゃべりが気持ちいい。
 あんなコトがなければ会うことのない人達だ。
 みなはもっぱら伊集院さんに話しの矛を向けている。
 この会に伊集院さんを連れてきたのは……理由があったのだ。

 このオフ会は本当ならボクが松田さんに呼び出されるといういつもの(苦笑)デートになるはずだった。
 これからはちょっと気の重い説明になる。
 初めて松田さんに誘われた時(もちろん彼からのメールだ)彼に興味があって会ったことは否定しない。
 あの事件で、ボクは彼がどういう人物なのかをある程度判っていた……つもりだった。
 実際に会って、自分の認識の甘さに……泣いた。
 彼、松田の本能に直結しているスケベさと、11キロのウェイト差にボクの躰は越えてはならない一線を……越えさせられてしまったのだ。
 更にショックだったのは、自分の躰がその行為を拒みきれず受け入れてしまったことだ。
し向けたのは松田さんなのだが、なにより拒みきれなかった自分へのショックが大きくて、しかもそれが一回で終わらず二ヶ月経った今に至っている。


「気分悪いのかい稔くん?」
 一人で酎ハイを煽っているボクに心配したのか声がかかる。
「最近沈んでいるみたいだし……もしかして恋人と上手くいっていないのかい?」
 飲みかけの酎レモンが鼻から噴きだした。
「なっ、何ですか!こっ恋……びとってそんなのいませんよ!!!」
 綿シャツの袖で口を拭う、あんなのが恋人であるはずがない。
 あってほしくもない!!
「この間、事務所に泊まりに来たとき、見えたんだ、ここに……」
 そう云って伊集院さんが指を置いたのは、ボクの肩口だった。
 あの時ジーパンにランニングで……あからさまに付けられたのに頭にきてシャツぶんどって……家に帰る気にもなれなくて伊集院さんのトコに泊まって……見られた?
「いっ……嫌だなぁ打撲ですよ『愛しい魔性の箱』をバージョンアップしたいがためのバイトでドカチンをしているんですよ。」
 必死についた嘘が苦しい。
「そうか大変だったね。あの日……僕のトコに松田くんからメールが来てひどく心配していたから……」
 鼻の痛みが吹っ飛んだ。
     『メールが届いていた?』
     『伊集院さんのトコに?』
 きっ……聞いてないぞ!
「体調を心配してね……彼。」
「そっそうですか……ネコ押しているのを見られちゃって。」
 ……その云い方は、まるで……ボクの恋人が、松田さんみたいじゃないですかっ!

 伊集院さんにつく嘘はとても辛い、でも……ボクとしては自分のプライドにかけて つかずにいられず……
 そんなバレバレの嘘に伊集院さんが騙されるはずがなく。
 彼の何気ない言葉がボクの心に野茂ばりのフォークを叩き込んだ。
「なにか自分が無理させたから何かあったら連絡してくれって……みっ、稔くん?」
     『………!』
―――――――心の中のボクが真っ白になっていた。
「彼も僕がそう云うことに偏見が無いから云ってくれたんだって、自分も男を相手にするのは初めてで、勝手が分からなかったって云っていたよ。」
 いつものような穏和な物言いが今日は堪らなく突き刺さる。
「……そう……ですか……」
 確かに初めてだとは云ってはいたが、その十分すぎる手管はボクを翻弄してくれて、GFはまだしも風俗すら行ったことのない『童貞アトム君』はすっかり骨を抜かれてしまったんです。(涙)

 酎ハイを口に流しこもうとしているンだが、レモン混じりの液体がまるで鉛のようで飲み込めず溢れていく。
 口元を拭われていることに気付くと同時に、驚いた顔でボクを見つめている伊集院さんの顔がアップになっていた。
 口を拭っていたハンカチが頬に移る。
 ボクは涙を流していた。
「すいません、情けないトコ見せちゃって……」
 手渡されたハンカチでボクは顔を拭いた。
「稔くんゴメンね、最近君の様子が可笑しかったから……」
「ちょっと顔洗ってきます、ハンカチ洗ってきますね……」
 逃げ出すように手洗いに駆け込み、水を叩き付けるように顔を洗った。

 涙を流したことが悔しいんじゃない。
 伊集院さんに知られて仕舞ったことが、彼に慰められたことが悲しかった。


 あの日、大学に合格した翌日に松田さんからお祝いメールが送られた。
 礼を云うようにチャットに行くとソコで食事を奢って貰うとなったのだ。
 結局、横浜くんだりまで出かけていったボクを一目で見付けてくれた男は、自分で云うだけあって十二分にいい男の部類に入る奴だった。
「アトムだろう?」
 声もよく響くテノールで、女の子が惹き寄せられると云ったのは満更嘘でないことは判った。
 車で連れて行かれた場所は……なんと彼の家だった。
「奢ると云っても給料前なんでね……」
 それでもきちんとクロスの張られたテーブルの上に並べられた料理は趣味の良いイタリアンで味もボクの好みに合っていた。
 乾杯で空けたシャンパンがワインにかわり、それほど酒に強くないボクが二本のワインを空けていたのには驚いた。

 ワインの酔いと眠気に絡め捕られて、食後の珈琲も受け取ることが出来ず、ソファに倒れ込んでいた。
「生井女史から可愛いって聞いていたけど……」
「可愛いって云わないでくださいよ〜結構気にして入るんですから……」
 松田さんのグラスには氷が浮かんでいる。
「へー電車で痴漢に会うクチか?」
「ぶっ!そーです!今日だって……京浜線で……」
「で?」
 ニヤ付いた顔の急接近に驚いて、立ち上がろうとした……
「面白がっていますね……松田さん。」
「悠二でいいぜ稔君♪……で、どこ触られた?」
 起きあがりかけた躰も肩に手を置かれて封じられる。
「おっ……お尻です……」
「ふーん、コレは結構触り心地がいいな。」
 肩の手が一気に降下してジーンズの上から尻を揉み上げる。
「ちょっ、ちょっと!!なにするんですか!!!」
 揉み続ける手を外そうとしたが、まったくびくともしなかった。
「男の尻と云えば、固い毛深い汚いの3Kだったが、この尻は柔らかくて気持ちいいなぁ〜♪」
「松田さんっ!!」
 怒鳴り声にビクともせずに彼はボクの躰を検分している。
「顔は好みの部類にはいるからOKだし、毛も薄いし肉付きOK許容範囲っと……」
 いきなり抱きついて来てボクは手足を必死になってバタつかせる。
「冗談、ジョーダンだよ、そんなに本気で嫌がるトコみると……襲われたことでもあったのか?」
 必死の抵抗にパッと躰を離した松田さん意味ありげに口を歪める。
「あっ、あるわけないでしょ!!」
 口ではそう云ったが、実は結構……あるのだ。
 男が男に襲われるなんて全く世も末になったモノだと嘆いても仕方ない。
 何度伊集院さんに相談しても『稔君が可愛いからだよ。』と結局ははぐらかされて逃げられてしまう。
 三つや四つのガキじゃないんだから、二十歳も過ぎた男にカワイイはないだろう。
 それでなくても子供の頃のトラウマで「可愛い」って云う言葉に過敏に反応しているんですよ。
「ふーん……その分じゃガキの頃女の子に苛められたろ、稔ちゃんは可愛いから一緒にいたくないとかさ?」
 何気なしに云われた言葉がボクの心を撃ち抜いた。
「――――――――!!」
「あれっ?当たったか?」
 言葉に詰まったボクは松田さんのグラスをぶんどって一気に飲み干した。
 中身が……バーボンに替わっていたコトは飲み干してから気が付いて……ボクは再びソファに沈み込んだ。


 ソファの上で規則正しい呼吸が繰り返されている。
「全くそうやって、無防備だから襲われるんだよ!」
 どちらかというと細い部類に入る躰を抱えようと手を入れる。
「ふぅ……?」
 顔を近づけると、上気した顔に見事なほど色付いた唇が薄く開いて俺を誘った。
「まあ……ちょっとだけなら酔った上でのおふざけで……(笑)」
 と、自分に言い訳をして舌を差し入れた。
 その感触がついよかったモノだから、深く重ね、沈んでいた舌を吸い上げる。
「うっ、ぐっ……ぐぅ―――――!!!」
 途端に意識を戻しやがった。
 アルコールで漬かっていた頭でも自分の置かれている状況が尋常ではないコトに気が付いたんだろう。
 激しい息づかいと怯えの瞳が俺を射る。
 暴れることすら忘れて固まりきっている躰を押し倒すのは容易いとだった。
「いっ……嫌だぁぁぁ!!」
 思い出したように暴れる躰を押さえ込み、服を剥いだ。
「やだっ!離せっ……あぐ!」
 細い顎を掴んでは、奴の上に跨って動きを押さえ、改めて唇を吸う。
「ンぐっ!」
 躰の自由を奪われたアトムが拳で俺の胸を叩く。
 アルコールで半分以上持って行かれているアトムの手足は子供のような抵抗しかできない。
 ニットのセーターを剥ぎ、シャツのボタンを全部飛ばした。
 まだ引っかかっている肩を掴み、はだけた薄い胸に顔を埋めると他より少しだけ色の濃い部分を舌でなぞらえた。
「んうっ!」
 肌にさざ波のように震えが走る。
「離っ――――――せっ!!」
 俺の髪を掴む手は握力が感じられないほど震えていた。
 肩から腕に手をずらせばシャツも一緒に移動する、剥き出しになった腕の付け根から脇にかけて舌を滑らせた。
「やだぁ……よ、やめ……まつださっ……ん」
 波のような肋骨を舐めてから再び胸の部分に舌を戻す。
「ひっ!」
 突起の麓を舐めただけでアトムが声を上げ、脚を跳ねさせた。
「やだぁぁぁぁ―――――っ!」
 肘まで降ろしたシャツが両腕を封じてくれたので、舌に指をたそうとしたら絶叫とも云える悲鳴に会ってしまった。
 指の腹で硬くなり始めた突起を潰すように押し込む。
 しこっていた突起を、俺は力を抜き触れるように擦り始めた。
「うぅっいっ、いやだぁ!!」
 腕を封じられてしまって手が使えなくなると躰をばたつかせ俺の神懸かりな愛撫から逃れようとする。
 下半身は乗っていたからよかったが、上半身、中でも奴の肩が俺様の形のいい顎に何度もヒットして少しばかりムキになってしまった。
 摘み上げた突起を口に含むときつめに歯を立てる。
「ぐっ!」
 きつく歯を立てた後は舌でねぶる。
 そっと愛おしむように転がしながらその胸に小さな赤い実を実らせた。

「ふっ、くぅ……」
 跳ね上がるアトムの腰と脚を力ずくで押さえ、舐めていく。
 舌は下って一番柔らかそうな脇腹にたどり着いた。
 なだらかなカーブを描くように行き来する。
「……あっ……やっ?……」
 擽りに弱いのか舌が移動するたびに躰を丸め震えている。
 殆ど抵抗が無くなったのを見計らって俺はジーンズの中へ指を入れ、平均より薄目の茂みの中で半勃ちになっているはず?のアトム君へと指を進めた。
「……ゃ……だぁ……」
 途端に顔色を変えて泣きそうな顔で俺を見上げる。
―――――――来た!!
 物凄い衝撃だった。
 手間暇かけて落とした女とベッドに入ったってこんな気分にはならなかった!
 今、同性(男の子)を組み敷いているというのに俺の本能はすっかり『犯るモード400%』になっていて、こいつの中に入れたい、出したい、啼かしたい……とケダモノになっていた。
「やだぁ……男とするなんて絶対やだ!!」
 声変わりしきっていない涙声を聞き流し、俺は下着ごとジーンズを抜き取った。
 部屋の薄暗い明かりの中でしっかり影を落としているアトム君に指を巻き付ける。
「――――――――――んっ!」
 指から伝わってくる熱さに俺は満足する。
 同時にたっぷりの潤みにわざと指を滑らせた。
「……や……だぁ……こんな……の……」
 しきりに頭を振って泣き声を上げるのが可愛くて、俺はわざと音を立てるように指で擦った。
「やだっ!」
 激しく暴れ出した拍子に腕が抜け、アトム君を弄んで俺の手に掴みかかりひとしきり格闘したが腕を剥がすことは出来ず、逆に腕を敷いて躰を返されてしまった。
「あっ……」
 俺の目の前に置かれた触り心地のよい尻を両手で押さえ込むように寄せる。
「やだやだっ!そんなこと見るなぁ〜!!」
 振り回される脚を割り開いて躰を入れ、寄せ上げた尻のエクボを舌先でつついた。
「ひあっ!」
 身を捩ろうとした細腰はそのまま震えに捕まった。
 ひとしきり舐めると、固まりかけた脚を開き嫌でも見える窄まりに舌をねじ込んだ。
 きつく閉ざされた入り口にたっぷりと唾液を落とし舌先で擦り付けては解していく。
「ん―――――んっ―――――んんっ――――」
 仕置きをされている子供のように首を振りながらアトムが身じろいだ。
 体中がそれに習い震え、俺は顔を奴の尻に埋めていた。
 小さな窄まりを舌先でなぞる。
 そのままぐるりと一周するように舐め上げる。
「やだ……やだよぅ……うっ、うっ……」
 背筋にゾクゾクと来る奴の泣き声に、俺のケダモノはパオーン状態で、すぐにも突っ込みたいのを押さえるのに額の血管が切れそうだった。
 あまりにも泣きじゃくっている姿に、チョットだけ罪の意識と後ろめたさを感じてナリを潜めたケダモノ松田に替わって現れたダンディ松田がアトムをあやすように腕枕をしながら抱きしめる。

 腕の中で少しずつ落ち着きだして躰を預けてくるアトムの肌の熱さと汗の匂いに、俺のケダ モノはまた……暴走してしまった。
 テーブルに手を伸ばしてサラダボウルの底からドレッシングをすくいアトムの奥に差し入れる。
「んっ、やぁっ!」
 俺の手を押さえ、躰も感情からも逃れようと顔を背ける。
「逃げるな!」
 顎を掴んで口の中に舌を入れ、指を増やす。
「うっ!」
 そして入れた指不規則に蠢かせる。
「―――――――!」
 悲鳴を吸い上げ、暴れる躰を押さえつけ中をかき回す。
 意味不明な喘ぎが俺の喉に伝わってくる。
 オリーブオイルにまみれた指は、何の抵抗もなく奥へと入り込んでは心地よい締め付けと熱を伝えてくれる。
 たっぷりと中を味わい指を引き抜いた。
 アトムは体中で安堵の声を上げる。
 その声音が変わる、俺がアトムの腰を持ち上げたからだ。
「ひいっ―――――!」
 十分とは云えないにしろ何とか(?)熟した尻に俺のケダモノを当て俺の感情を示した。
「そっ、それだけはやっ、やだぁっ!!!」
 オイルで濡れたそこは、持ち主の意志に反してゆっくりと俺を飲み込んでいく。
「あぐぅ………」
 喘ぐアトムは俺を中で締め付ける。
「くっ―――――――」
(俺の意識のあるうちにこいつをイかせないと……ヤバイ!)
 追われだした俺はアトムの躰を返し尻にしっかりと手を固定するとその中で暴れるように動いた。
「うあぁぁぁ……!」
 アトムが叫ぶ、中がきつく俺を締め上げた。
 しばらくすると、アトムの腰も俺の動きに会わせて揺れ始める。
 その度に中に当たる部分がずれて声に艶が混じり始める。
 痛みが薄れてきたことは俺の指に反応し始めたアトム君が教えてくれる。
「いいトコに当たっているのか?」
 背中の汗を味わいながら質問したが、汗と涙で汚れた頬をカバーで拭うのに一生懸命になって聞いていない。
 ゆっくりと中を刺激するようにかき回す。
「んんぁ!」
 高い声が上がる度にオイルが溢れ、俺のケダモノを濡らしてカバーに滴る。
 中途半端に引き抜いた俺との境目指先で触れる。
 さっきは舌ですら入れるのがやっとだったトコにケダモノ松田君が刺さっている。
「まだ残っているからな、全部入れちまうぞ?」
 『随分とここって伸びるんだな』と感心しながら……そうでもしていないと暴発しそうで……
「もっ……やだよぉ!!」
 アトムの悲鳴を合図に俺はゆっくりと残りを沈める。
「あぁ――――――――――!!!」
 ケダモノを根本まで飲み込んだアトムが高い声を上げる。
「きっ、嫌い……だ、松田……さんなんかっ、大嫌いだぁ……」
 すっかり幼児化したアトムは泣きじゃくっている。
 ゆっくりと動き中のいいトコを探る。
 少し抜いてはゆっくりと深く中に入り込んで……
「うぁうっ!」
 アトムの腰が跳ね、俺を締め上げる。
 どうやらいいトコに当たっているらしい、項垂れていたアトム君が見る見る漲ってくる。
     『よっしゃー!!』
「やっ、やっぁ……」
 俺の腕から逃れようとする腰を引き込んで、ソコを重点的に攻めだした。
「うっあ―――――あぅっ!」
 アトムの躰が派手に跳ね、声に艶が混じりだした。
 そろそろ――――俺も本格的にヤバくなってきた。
 次第に激しくなっている。
 湿った音とぶつかり合う音のリズムが上がってきているのだ。
「やっ、やぁぁ―――――――」
 長い声を上げ、大きくひと震いすると糸が切れたように沈み込んだ。
 どうやらイったらしい、俺の動きにも先ほどの反応を見せなくなった。
 カバー散らされた匂いに俺のケダモノ君が触発され更にスピードが上がる。
「ひっ、ひゃう――――――」
 更なる責めにアトムが苦しそうに喘ぐ。
 極めを迎えながらもアトムは俺に絡みつくように絞めてくる。
「くっ―――――!!」
 俺の中にも云いようのない快感が脊髄を走っていく。
「っ……いっ、伊集院さっ!」
 アトムが伊集院の名を呼んでいる。
 カリカリと必死にソファカバーに立てた爪が乾いた音を立てた。
「いっじゅ……いんさっ!伊集院さんっ……助けてっ!」
 アトムの声が涙声に変わる。
 汗が飛びアトムの動きが、俺の動きが激しくなっているからだ。
 そして俺の意識も遠くなる。
「つっ―――――はぁ――――!!」
 アトムの躰が更に跳ね、ギリリと俺を刺激した。
「また……また、いっちゃうよぅ……」
 手の中で尻と脚が暴れ出した。
 俺もスピードを上げる、散った汗が俺の目に入り視界が揺らぐ。
「くっはっ!」
 唐突に走る開放感、俺の全神経はアトムの中に集中した。
「ああ―――――――っ!!」
 熱いモノが表現できない程の快感を伴って突然噴きだした。
 内壁を叩き付けるように奥へと流れていく。
 それにアトムが反応する。
 二度目の放出はさすがに勢いが無く内股を伝って床に滴る。
「いっ、いんさ……」
 縋るような悲鳴を上げてアトムはソファに沈んだ。



 何度も何度も顔を洗っても涙は止まらなかった。
 この顔で戻るわけにもいかず、店員のお兄ちゃんから氷を貰うと、責めて瞼の腫れが引くまではとハンカチに氷を挟んで当てていた。
 壁にもたれていると店のざわめきがひどく遠くに聞こえる。
 すっきりしたら挨拶して、家に帰ろう。
 彼の顔を見る前に……
 今のボクには伊集院さんの顔すら満足にみることは出来ないから……

 あの後『力ずく』をひたすら謝った松田さんは、ナニをトチ狂ったのか交際を申し込んできた。
 あまりにも鬼気迫る真剣な姿勢に、半分脅された形で頷いてしまったボクはあくまでも『清い男友達』の範囲で止めておきたかったが、大人の世界でそんなモノが通じるはずもなく………物凄く強制的な『合意(ギリギリまで焦らしてYESと云わせるのだ)』の下で泣こうが叫ぼうが暴れようがベッドに連れて行かれてしまう。
 こんな関係がいつまで続くのかと枕を濡らす日々が続いていた。

 しばらく続いた寝不足の祟りか、ボクはうと付いていたらしい。
 冷たく感じていた部分に暖かいモノが押し当てられ、それが自称恋人の彼の手だと云うことに気付くまで随分と間があったのは仕方ないことだった。
「どうした?具合でも悪いのか、顔色わりーぞ?」
「―――――――――――――!!!」
 歪んだ輪郭がはっきりした途端、ボクの躰は自分でも判るほどびくんと震えた。
「おっ……おい?」
 頬に伸びていた指先を払い落とし、手洗いを出ようとした。
「待てよっ、アトム!!」
 鼻先を松田さんの腕が掠めボクは壁に縫いつけられた。
「なにをするんです?」
「ナニって……云いたいのは俺の方なんだけどね。」
 松田さんを睨み付けているつもりでも、彼にはそう見えなかったらしい逆に凄まれると脚の方から震えがやってくる。
「今日はお前とデートのはずだったのに、このドンチャン騒ぎになってる訳を話してくれるかな?」
 彼の凄みに俯いた顔が指一本で上げられた。
「もっ、もうあんなコトしたくなかったから……みんなにメールを出したんです。」
真っ直ぐに彼の顔が見れなかった。
「あんなコト?」
「まっ、松田さんが……ボクにしたことですっ!」
 『へっ?』という顔で松田さんは
「もしかして下手だった?」
「ちがう!!」
 あまりにも冗談な物言いに切れた。
「もうっ!セッ、セックスなんてしたくないって云っているんだっ!」
 あまりにも露骨な表現に自分で云って自爆しそうだ。
「どうして?」
「いっ、イヤだから……」
「ヤッパリ痛いのが?」
 バチン―――右手が見事に松田さんの頬にヒットした。
「ほう……?」
 表情のない声に躰が固まる。
「すっ、すいませんっ!」
 謝って駆け抜けようとした途端、躰ごと壁に叩き付けられた。
「俺は本気で申し込んで付き合っていたつもりだったが……」
「――――!」
 真剣な口調より、息がかかる距離に耐えきれず松田さんを押しのけた。
 腕を後ろにまわされて、脚で脚を絡め動きを封じられ力ずくで個室の方に引きすり込まれた。
 突然奪われた自由を取り戻すべく、ボクは更に抗った。
「じっと――――していろ。」
 耳に直接吹き込まれる声にビクリと躰を震わせてながらも必死になって暴れるが、器用としか云いようのない指先がボタンを一つ二つ外し胸元を割り侵入してくる。
 人の気配に固執のドアは鍵を下ろし小さな密室を作った。
「ぅぁっ!」
 外のざわめきにボクは咄嗟に声を殺し……馬鹿をみてしまった。
     『助けを求めれば……よかった。』
 地肌に触れる指の感触に肌が泡立って、どんどんボクを追い詰めていく。
「こんなに躰の相性がいいのに、まだ納得しないのか?」
 再び吹き込まれる低音に、この二ヶ月で慣らされて躰は持ち主の意志を裏切って彼の手に下っていく。
「するわけないでしょうっ!!男なんですよ!!」
 必死の抵抗が次々と封じられてしまっても、もう妥協だけはしたくないっ!
 そのための覚悟の上での飲み会作戦だったのだ。
「確かに初めは力ずくだったが、その後は……合意じゃなかったのか?そうだと思っていたが違うのか?」
 ジーンズの中に侵入してきた指が肌着をくぐりボク自身を捕らえ握る。
「くんっ!」
 思わず衝撃に息が詰まる。
 手洗いに入ってきた人はすぐに出るだろうと思っていたのに、なかなか出ていってくれない。
「そんなっ……の松田さんの勝手な解釈でしょう?」
 確実にツボを押さえてくる彼の指によって 、言葉に息が混じってしまう。
「本気で抵抗しないって云うことは『合意』だと男は思うぜ?」
「本気で抵抗してもねじ伏せられたら『合意』だと?YESしか云えなくなる程追い詰めるのが?男なんですよボクはっ!」
 ビクリと背中が撓る。
 潤みだした先端にゆっくりと爪がかけられると甘酸っぱい痺れが、ボクの決意を崩し始める。
「声押さえろ……聞こえるぜ周りにサービスするな、俺にしろ。」
「誰のせいですかっ!!」
 小声で吠えた口がキスで塞がれる。
「ん?んんんっ!!」
 同時に指はボクを急き立て、極みの声は舌ごと松田さんに吸われてしまった。

 ひどく遠くで声が聞こえる。
「ゆっくりと……話せるトコいこうか……」
 ボクので汚れてハンカチを汚物入れに捨て、ペーパーで指の滴を拭って便器の中に捨てると、あたかも使ったように水を流した。
「あの人が間に立ってくれるンならアトムも納得するんだろう?」
 途端に視界が高くなる。
 それが彼の肩に抱えられたのだと……靄のかかりかけていた頭で状況を理解したのは、三人で伊集院さんの事務所に向かっている車の中だった。

 この後のコトはボクの人生の中で最大のターニングポイントなるのだが……気持ちが落ち着くまで記すことは出来ないだろう。
――――――――――多分……きっと……



                                END




酸っぱい人様うちよりも鬼畜な松田さんを有り難う♪
いかがですか?もっと書いてみては…
って、この続き2人はらぶらぶになるの??ねえねえねえ


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