| 車の中はなんとも云えない「沈黙」が漂って……いたたまれない空間だった。 松田さんもタバコに火を付けたきり外を見て動かないし、伊集院さんも行き先を告げたきりナニも云わない。 ナニも話さない男3人に、運転手のおじさんも不穏な空気を感じ取ったのか、目的地を了解した後は無言で運転に励んでいる。 ボクはアトム。 ちなみにこれはパソ通のハンドルネームであって本名ではない。 本名は滝沢稔。 この間、大学生になった浪人上がりの19歳。 さっきからボクの隣でしきりにタバコをくわえたまま外を見つめている、ちょっとマッチョな兄貴は松田さん。 ………で、彼の言い分によると身分は「ボクの恋人」らしい。 確かに友人以上のつきあいは認めるが、ノーマルでノンケなボクにその言葉は重すぎる。 助手席に座って道案内をしているのは、ボクの保護者であり、尊敬している伊集院さん。 「そこのコンビニで停めてください。」 深夜とは云えない迄も十分に遅い時間なのに住宅街が近いせいだろうか、人が多い。 「誘った上でなんだが、ナニもないからね………リクエストがあるなら聞くよ?」 ちゃっちゃと会計をすませて歩いていく伊集院さんの後を、よろけていたボクを「お姫様抱っこ」で抱える松田さんが付いていく。 「あ〜俺なんでもいいです、なんでも飲みますから♪」 「稔くんは……水かお茶がいいね、スポーツドリンクの方がいいかな?」 「あ……お願いします。」 店に入りそびれた僕たちは入り口の自販機の前でポチになっていた。 「降ろして……立てるから……」 「まだ気持ち悪そーな顔しているから大人しくしていろ、お前くらい後しばらくは抱えていられる。」 店に来た客があからさまな目で見ていく。 「いいからっ!!降ろしてっ!!」 「へーへー……御姫様はワガママだね〜」 よろめく躰を自販機で支えて腰を下ろす。 立っていたいけど、膝や腰が云うことを聞いてくれないのだ。 「どうして……こーなったんだよっ!!」 このままでは松田さんとの関係を伊集院さんに総て話さなくてはならない。 それだけは絶対に避けたい!! ある程度(ほんとにさわりであってほしい)彼にバレているとはいえ、なけなしのボクのプライドがそれだけはパスしたいと喚いているのだ。 「お前がセックスしたくないって云うからだ……」 全く瞳を会わせず、そっぽを向いたままで松田さんはぼやく。 「当たり前だよ、ボクは……そっちの趣味はないんだから……」 今更ながらに回ってきたアルコールが思考を濁らせる。 『なのに、ボクの躰は何度も松田さんに抱かれた……』 「ナニ云っている、俺相手に何度も啼いてイってるクセにっ!」 「あんなのっ!!……男の生理じゃないか……」 顔が熱くなる、どーしてもこーゆー会話は恥ずかしい。 「躰の相性はいい、その上この俺が惚れているんだ……」 フィルターギリギリまで吸ったタバコを携帯の灰皿に入れると、ボクの顔をのぞき込む。 「あのなぁ、云っとくけど女相手にここまでやったことないんだぜ?一体ナニが不満なんだ?」 脅しモードの顔で低音使うのは反則だよっ!! ズクン――――と腰に甘い痺れが走る。 松田さんの声はすごくいいから、低音でささやかれると妙に響いて……人をHな気分にさせてしまうのを判っているからたちが悪い。 じたばたして、なんども抱きしめられてこの声で落とされたのだ。 どーして……この人はこーゆー関係を嫌がっていると云うことを判ってくれないんだ。 「そっ、そんな台詞云ったって無駄ですからねっ!!」 じんじんし始めた下半身を振り切るように立ち上がると、まだ膝と腰が素直に命令を聞いてくれず地面がものすごい勢いで近づいてくる。 「おっと……」 すっぽりと馴染みきった腕に収まったボクをにこやかな微笑みで見下ろしているのは、伊集院さん。 「じゃ、行こうか……歩いて5.6分だから。」 室内が狭く感じるのは、モノが溢れているからだろうか。 「随分とすごい部屋ですね……」 再びボクは松田さんに抱き上げられて、伊集院さんの部屋に入った瞬間に松田さんが漏らした一言だ。 「ああ、稔クンはそこに横にしてあげて……」 カウチに横にしてもらって、スポーツドリンクを渡される。 「で、松田クンはここのに………で、話を聞こうかな?ん?」 ニコニコと仏様のような微笑みを浮かべて伊集院さんもデスク用の椅子に腰を降ろす。 みんなひとしきり喉を潤してところで、松田さんが口火を切った。 「アトムがオレとのセックス……嫌がるんです。」 「ほう……大変な相談だね。」 真っ白になりかけているボクの目の前で、松田さんと伊集院さんはトクトクと話を進めている。 「でも、それは仕方ないと思うよ……最初で『力ずく』をやったのは君だからね、稔くんがセックスに恐怖感を抱いてしまってもしょうがないだろう?」 「だから……しばらくは触れるだけで慣らして恐怖を取り除こうとしたんですが、アトム目の前にしてしまうと……その……オレの方が暴走しちまって………」 松田さんが気まずい照れた顔で伊集院さんに向かっている。 あの自信の固まりの彼からは信じられない姿だった。 「抑えが効かなくなると云うことかい?まあ……その気持ちは判るけどね、稔くんは君が初めてなんだ、なにより付き合うこと自体が苦手なんだけどね、そんな相手にいきなり襲いかかられて躰を自由にされて愛しているだなんて云われて君はその相手を信じられるかい?」 微笑みを浮かべたままで、伊集院さんはバッサリとボクの云いたいことを代弁してくれた。 ―――だけど、全部ナニもかもバレていたというショックはでかい、でかすぎる!! 「でもオレもその場の勢いで抱いた訳じゃないんです、オレだって男相手にするのにアトムが初めてだったし……勉強したんです、その上手くいくように……傷つけたくないから、でも結局は傷つけてしまったようだけど………」 「そうだね、まあ……出会いが出会いだからしょうがないとは云いきれないけど、稔くんは本当に松田くんが嫌いかい?」 いきなり話を振られても………どう答えていいか判らない。 「ん〜抱かれて、気持ち悪かったかい?」 それはない、あの腕は行為の時は容赦なく捕らえ押さえつけるが、暖かくて………目が覚めるとやさしく躰を包んでくれていた。 ボクの首は横に振られる。 「戸惑って居るんだね……『好き』という気持ちを家族以外の人間に向けることに……自分は判っていないのに躰だけが松田くんの行為を受け入れるのことに驚いているんだろう?」 ―――そう…… 縦にこくりと首が動いた。 「どうだい?ボクに対する好きと、松田くんに対する好きの違いが判るかな?」 ―――難しい質問だ。 伊集院さんは、まるで家族のように父親のようにどんなに周りから非難されてもボクを……そんなことを考えていると、 「ボクにキスされたいと思う?」 思わず首は横に振られる。 「じゃ、松田くんはどう?」 あの唇で舌で触れられるたびに、自分が自分でなくなりそうで……でも決してイヤじゃなかった…… 「イヤじゃない……けど……」 「けどなんだい?」 「あの、同性同士って云うのか……ボク、その……まだ……」 「抵抗があるのかい?でも嫌悪感はないだろう?」 「ないけど、いつもなし崩しに流されるのがボクはイヤなんです……」 「なし崩しなのかい?」 微笑みが消え、ちらりと松田さんを伊集院さんが睨み付ける。 「オレは、好きなんですよ!!好きな相手目の前にして、自分抑えられるほど年喰ってないんですっ!腕の中に収めたらアトムは抵抗しないから……つい、それにしている最中に背中に腕回されたらそう思うでしょっ……」 バリバリと頭をかきむしって伊集院さんを睨み返す。 その言葉に裏も表もない、それは判っているんだ。 「ま、松田くんはこうだって判っていたけど、稔くんがちゃんと自分の気持ちをちゃんと云わない悪い癖が出たね。」 小さく溜息を付いて暖かい手が、ぽふっと頭に降ろされる。 「今夜はここを貸してあげるから、とことん話し合うといい。さすがの松田くんも人様の家でコトに及ぶようなコトはないはずだとボクは信じているからね……」 「そこまで非常識じゃありませんよ……酔っぱらったアトムはとても魅力的ですけどね。」 うんうんと頷いて、伊集院さんは戸締まりだけを注意して出ていった。 「隣座っていいか?」 松田さんの手の缶はいつの間に無糖ブラックに替わっていた。 「あ……うん……」 カウチから躰を起こしてもまだ酔いは離れてくれない、くらくらする頭をクッションに乗せていると、大きな手が置き心地のいい肩へと誘ってくれる。 「変なコトするなよ……」 「しない、したらあのおじさんに何されるか……」 服に染みたタバコの匂いと松田さんの体臭が鼻を擽る。 「あのね、キライじゃないんだ。好きなんだと思う……でも、こんな気持ちになったの、ホントに初めてだから……わかんないんだよ……」 今まで云えなかったことを一気に吐き出すと、僅かばかりに躰が軽くなる。 「こんなに他人と深く、その……自分が付き合えるんだって判って戸惑っているんだ……だからなし崩しに……その、寝ちゃったけど……」 「寝るたびに気を失っていたモンな……」 「それはっ、その……松田さんすごいんだもん……」 「なんだ?失神するほど感じた?」 タバコをくわえたままの頬にグーパンチを当てる。 「いいって云ったって、離してくれなかったのどっちだよっ!!」 大声を出すとクラリと視界が揺れる。 「バカっ、でかい声出すから……」 「ふぁ……」 目の前に迫った床がニットのシャツにすり替わり、自分が松田さんに抱きしめられていると気づくまでしばらく時間がかかった。 「そんなに……寝るのがイヤなら回数減らすぞ……慣れるまで気長に待つから……」 「でも……溜まったら他の人でするでしょう?」 抱きしめている腕が明らかに動揺している。 「ううっ、まぁな……」 苦笑いした顔が正直だ、そして確かに松田さんはそーゆー相手に不自由はしていない。 なけなしのプライドに火が点る。 「なら……慣らしてよ……」 「はぁっ!!ってアトム、お前……オレにあのおじさんに睨まれろって云ってるモンだぞ!!」 「ダメ?」 まだ重い指をタバコ噛みつぶしている唇に伸ばすと……いきなり躰が宙に浮いた。 「え?」 「場所替えるぞ!!こんな監視のある場所で出来るかっ!!」 監視って……? 抱かれたまま部屋を出るとそこには伊集院さんがシュラフにくるまって笑っていた。 「和解できたかね?」 いつもの口調でシュラフ芋虫が起きあがる。 「これから和解の宴ですんで場所替えさせていただきます。」 「はいはい……ああ、稔くんこれ……」 とボクの手のひらに置かれた水引とビッグボーイと書かれた小さい箱は……(震え) 「伊集院さん……これ……」 「ん?お餞別……と親心だけど松田くん遊んでいるって云っていたから……ね。」 ニコニコと微笑むその笑顔を、ボクは初めて痛いと知りました。 |
酸っぱい人様お約束の物を有り難う♪
ああ、期待通りのらぶらぶ〜〜(鼻血)
伊集院さんが憎いです!!松田さんデカいんですね(涙)
美味しいです。美味しすぎます。
続き希望です!