「ね、ね、優良さん、散歩行こうよ、散歩!」
日曜日、真はいつもの調子で優良に言った。
「え...う...うん!」
優良は一瞬戸惑ったが、すぐににっこりと笑って答えた。
「(普段だったら...すぐにHしようって言うのに...どうしたのかしら真さん)」
優良は散歩が大好きだった。
真と散歩することが。
公園で季節の流れを真と共に感じ、そしていっぱいおしゃべりする。
たかが散歩なのに、優良は期待に胸をふくらませ、用意をはじめた。
「着替えてくるね」
そう言って隣の部屋に行こうとした優良を、真は制止した。
「ちょっと待って、これ...つけてもらえないかな」
真はポケットから3個のピンクローターを取り出した。
「??...なあに? これ」
優良はそのピンクローターを手に取り、不思議そうに眺めた。
どうやら優良はピンクローターなど見るのは初めてのようだ。
少し照れながら、真は優良に説明した。
真の説明の途中で、
「い...嫌ですっ! これをつけてお散歩なんて...そんな変態さんみたいなことできません!!」
予想通りの優良の答えがかえってきた。
優良はいつも真のHな要求をはねのける。
真は急にげっそりとした顔つきになり、
「ああ...せっかく優良さんと散歩したかったのに...」
がっくりと肩を落とし、優良に背を向ける。
「これをつけなくても散歩はできます!」
「楽しいのに...それをつけると...もっと楽しいのに...」
まるで病人のように消え入るような声で、真は言った。
優良は少し考えた。
「(いつもHばっかりの真さんがお散歩に行く気になったのはうれしいけど...)」
しかし、こんなものをつけて散歩をするとどうなるのか、優良には想像もつかなかった。
「ああ...散歩しながら優良さんといっぱいおしゃべりしたかったなぁ...」
すがるような目つきで優良を見る。
優良はこの視線に弱かった。
「わ...わかりました。今度だけですよっ」
パッと真の顔が明るくなる。
「ほ、ホントに!? じゃあ早速つけて行こう!」
急に元気になった真は優良の背中を押して準備をせかす。
真はこのパターンになると優良は断れないことを十分に知っていた。
優良はいつも真のHな要求をはねのける。
しかし最後にはいつも真の要求に負けて、承諾してしまう。
恥ずかしがり屋の優良にピンクローターをつけるのは至難の技だった。
しかし、いつものパターンで真は優良に3個のピンクローターをつけさせることに成功した。
ピンクローターをつけた箇所は両乳首、そしてクリトリス。
本来であればふたつの穴に入れたい真であったが、
真のモノ以外の異物を入れることを嫌う優良はそれを断固として拒否した。
すでに、1時間が経過していた。
外見からではまったくわからないが、清楚なブラウスに着替えた優良は、少し恥ずかしそうにしながら言う。
「ね...ねえ、本当にわからない?」
「うんうん、全然わからないよ、全然!」
もじもじとする優良を見て興奮気味の真は、
思わずピンクローターのスイッチを入れて優良の痴態を見てみたい衝動にかられたが、
ここでそんなことをすれば優良はきっと散歩を中止するに違いない。
スイッチを入れるのは家に戻れないくらいのところまで行ってからだ。
真は自分にそう言いきかせ、必死に我慢した。
「さっ...行こう、行こう!」
「う...うん」
優良の気が変わらないうちに、散歩に出発しようとする真。
いつもは楽しいはずの散歩も、不安のせいで足どりが少し重くなる優良であった。
真の提案でいつもの公園には行かず、少し遠くの公園までやってきたふたり。
家を出た段階ではピンクローターのことを気にしていた優良だったが、
歩くうちにピンクローターのことは気にならなくなったようだ。
「(そろそろかな...)」
真はピンクローターのスイッチに手をかけ、優良の様子を伺う。
「あ、かわいい〜、真さん、ほら見て」
優良の元に子犬がすり寄ってきた。
「(今だ!)」
真は乳首につけたピンクローターのスイッチを入れた。
「きゃあっ!」
突然の不意打ちをくらった優良は、思わず悲鳴をあげ、胸を押さえてかがみこんだ。
優良の悲鳴に、何事かと周囲の視線が集まる。
予想以上の反応に、真は踊りだしたくなった。
スイッチを止め、優良のところに向かう。
「ほんとだ、かわいいな〜」
優良の隣にかがみこみ、子犬を撫でる真。
「ボクたちも、犬飼おっか?」
優良の顔を見る。
真の問いには答えず、恥ずかしそうに目を伏せている。
やがて、顔をあげ、真の目を見つめる優良。
「ま...真さん、こんな人のいるところで...」
困った顔で真を見る優良。
「まだまだだよ、優良さん。さ、行こ」
真は優良の手をとって立ちあがった。
ピンクローターの存在をはっきりと意識した優良の足どりはぎこちなく、視線は泳いでいた。
真が時折スイッチを入れると優良は歩くのをやめ、手をくちもとにあてて震えていた。
「優良さん、そんなふうにしてるとまわりの人にわかっちゃうよ」
スイッチは入れたまま、優良に言う真。
「ね...真さん、もうやめましょ...」
泣きそうな顔で真に訴えかける優良。
「だ〜め。今日一日はつけてくれるって約束したでしょ」
優良の泣きそうな顔は、真の背筋をゾクゾクと震えさせた。
二人はベンチに座った。
「おなかすいたね、優良さん、あそこのホットドッグ買ってきてよ」
「は...はい」
優良はベンチから立ちあがり、ホットドッグの屋台まで向かう。
やはりまだピンクローターのことが気になっているようだ。
「あの...すみませんホットドッグとオレンジ...あっ!」
注文の途中で、優良はビクンと背筋を反らした。真がスイッチを入れたのだ。
不思議そうな顔で優良を見る店員。
「あっ...す、すみません...ホットドッグ...と...オレンジジュースを...二つづつ...ください...」
消え入るような声で続けた。
注文が出来あがるまでの間、優良は落ちつきなくもじもじとしていた。
時折、訴えかけるような視線を真に向ける。
その無言の訴えも空しく、優良がベンチに戻ってくるまでピンクローターのスイッチは入りっぱなしだった。
「いただきま〜す」
真はうれしそうにホットドッグにかぶりつく。
そして、スイッチを入れる。
ビクンと、優良は少し震えるが、悟られないようにホットドッグを口に運ぶ。
顔を真っ赤にし、もじもじと身体をくねらせながらホットドックを食べる優良は、なんとも言えない嫌らしさがあり、
ただでさえ美人で視線を集める優良は、よりいっそう男の目をひいていた。
「あれ? 食べないの優良さん」
わざとらしく聞く真。
またしてもその問いの答えはかえってこず、そのかわり優良は真の腕をぎゅっとつかんだ。
「ま...真さん...」
潤んだ瞳で真を見上げる優良。
本人は無意識でやっているのだろうが、優良のこの仕草を見て興奮しない男はいないだろう。
真も例にもれず、心臓が高鳴るのを感じた。
さらに優良は真にしなだれかかる。優良の大きな胸が真の腕にあたる。
優良の鼓動が真の腕を通して伝わってくる。
真の嗜虐の炎は頂点まで燃えあがった。
「(そろそろ...とどめをさしてやるか)」
真はもう少しこのままでいたかったが、スイッチを切り、優良の肩を抱き、立ちあがる。
「ほら、優良さん、ピエロがいるよ」
真の指さす先には、広場でピエロがなにやら観客相手に手品などをやっていた。
「行ってみようよ」
真は優良の返事を待たずに優良の肩を抱いて歩きだした。
ピエロは手品から曲芸まで、いろいろなことをやって観客を楽しませた。
先ほどのことも忘れ、すっかりピエロの曲芸に夢中になる優良。
こんな無邪気さも、魅力のひとつだった。
やがて、ピエロは手品を手伝ってくれる人を観客から募った。
ピエロは優良を指さし、手招きする。
「(チャンスだ.....)」
真は心の中でほくそ笑んだ。
「ほら、いっておいでよ優良さん」
真はにこにことしながら優良の背中を押す。
「で...でも...あっ」
真に背中を押され、優良はしぶしぶピエロの元へ行く。優良は、観客から拍手で迎えられる。
大勢の人間に囲まれ、緊張する優良にピエロは手から小さな花を出して見せる。
クスクスと優良は笑う。緊張が少しはほぐれたようだ。
「(いいぞ...そうやってローターのことを少しでも忘れてくれ)」
真は心の中でピエロに感謝した。
やがて手品が再開され、ピエロは冷蔵庫のような大きな箱を持ってきた。
優良はその箱の中に入るようにすすめられる。こわごわと箱の中に入る優良。
ピエロはその箱の扉を閉め、外から鋭利な刃物を突き刺していく。
息を呑む観客。やがて数本の刃物が箱の突き刺さった。
ピエロは箱を開くと、そこには無傷の優良が立っていた。
観客からおこる拍手。
ピエロは優良の手をとり、高く挙げ、観客から拍手を乞った。
わきおこる、ひときわ大きな拍手。
そのタイミングを見計らって、スイッチを最大出力で3つともオンにした。
拍手はまだ鳴りやまない。優良の身体がビクンとなる。
ピンクローターの振動音がまわりに響くかと思われるほどの大きな振動が、優良を襲う。
やがて優良の様子がおかしくなり、挙げられていない方の手で、口元をおさえる。顔はみるみる赤くなってくる。
困ったような、戸惑ったような仕草であたりを見まわす。真を探しているようだ。
やがて優良の身体が震えだし、気分が悪そうにうつむいた。
「やっ...やっ...いやっ!」
ひときわ大きく体を震わした後、悲鳴をあげて優良は倒れた。
ピタリと止まる拍手。ピエロが心配そうに様子を見る。
「(イッたな...)」
優良が倒れたというのに、真はそれが予想していた出来事のようであった。
しばらくして、優良は気がついた。
ベッドの上に寝かせられており、なぜか全裸である。
「あ、気がついたね。優良さん」
「真さん.....」
真はやさしそうな瞳を優良に向ける。
優良は倒れる直前の出来事を思い出し、まるで火がついたように顔を赤くする。
「あの...真さん...私...」
視線をあわせず、おずおずと真に聞く。
その問いには答えず、真はベッドの中に入り、優良の上に覆いかぶさる。
優良は背を向けようとするが、肩をしっかり押さえつけられ、ままならなかった。
「あんなに大勢の見てる前でイッちゃったんでしょ? みんなの見てる前でイクなんてHだなぁ優良さんは」
優良の肩をしっかりと押さえ、はねのけられないようにしながら、真はわざと意地悪く言う。
「い...言わないでください!」
優良は恥ずかしそうに目をつぶる。押さえつけられている優良に出来る最大の抵抗であった。
「みんなあれで優良さんがイッちゃったってわかってさ、口々に変態女だって言ってたよ」
「いや...言わないで...」
いやいやをする優良。
「優良さんのパンツ見たけど、愛液でおもらししたみたいになってたよ」
「いや...いやあ!」
恥ずかしさに身体をこわばらせる優良。
真は恥ずかしさに震える優良の頭をそっと撫でながら、キスをした。
「あ...」
「でも...かわいかったよ、優良さん」
真はひときわやさしく優良に言う。
「真さん.....」
「また、やろうね」
真はやさしく微笑みかける。この微笑で、優良の中の蟠りは全て帳消しになるのだ。
「は...はい」
この人のためなら、どんなことでも我慢できる。優良はそうまで思っていた。
しかし、それが真の計算であることに、気づいてはいなかった。
「いくよ...優良さん」
「はい...真さん」
真は肩を押さえつけたまま、優良に挿入した。
個人的にこの作者の昔の漫画「まぼろし夢幻」とかが好きで、
「星くずパラダイス」以降の軟派路線はあんまり好きじゃないんです(「はっぴい直前」はギリギリのとこ)。
その軟派路線の真骨頂でもある「ふたりエッチ」。
既にコミックスは10巻以上刊行されている人気作品ですが、
読者なら誰もが思うこと、「このままステップアップしつづけるとSMとかアナルセックスとかするのか?」。
私もその余計な心配をしてしまい、それがこの小説を書くきっかけとなりました。