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あやかりたいね 番外編1(前編)
コギト=エラムス/文


 俺が船長をしてる航宙貨客船、エルザ。

 これは俺のじいさんが遺してくれたただひとつの遺産で、

 元は完全な旅客用だったのを改造して、貨客船として使っている。

 まぁ、今は借金のせいでコイツも担保に入ってるんだが…、

 

 このエルザのおかげで、いろいろ危ない目にもあってきたが、

 たまにオイシイ目も見させてもらっている。

 

 そう………きっかけは、エルザの中に残されていたデータを参照している時だった。

 じいさんは身内の人間しか見れないようにしたセキュリティレベルの高いデータをエルザの中に残していた。

 そんな死んじまったような奴の残したデータなんて見る気はなかったんだが、

 ふとしたことからそのデータにアクセスする機会があった。

 

 その膨大な量のデータを見て………驚いた。

 

 どうやら、俺のじいさんは女と犯ってる最中のところを写真に撮って、保存しておく趣味があったらしい。

 いや、何千年も前のデータも残っていたから、

 じいさんだけでなく、先祖代々が受け継いで残してきたデータなんだろう。

 

 しかし…そのデータはどれも奇妙な共通点があった。

 それは…犯られている女の誰もが、眼鏡をかけているということだった。

 最初は単なる偶然かとも思ったが、データを見ていくうちにその全てが

 眼鏡をかけた女との性交を記録したものだとわかった。

 

 俺の先祖はどいつもこいつもおかしな性癖をもってる奴等ばっかりだったのか…

 なんて思っていたが、

 この時はまだ、俺は自分の奥底に隠された血脈に気づかないでいた。

 

 . . . . .

 

 「助けてくださってありがとうございます、シオン・ウヅキです」

 そう言って、女は頭を下げた。

 

 その時だった…。

 身体中の血液が逆流するほどの昂奮をおぼえたのは。

 

 いつものように、グノーシスにやられちまった船の物資をさらって小遣い稼ぎをしようとしていたときに、

 変なアンドロイドのねーちゃんと救護船にのった人間を保護した。

 

 その人間の女………シオン・ウヅキは、ヴェクター第一開発局で、KOS−MOSとかいうアンドロイドの…

 

 …いや、そんなことはどうでもいい。

 

 普段だったらこんな頭のカタそうなねーちゃんは何とも思わねぇのだが、

 その…何というか、あの、丸いレンズごしに見える大きな瞳が俺を見るたび、

 なんだか…いてもたってもいられねぇ気持ちにさせられた。

 

 あるく度にプリプリと揺れる尻、振り向く度に揺れる髪…

 シオンのひとつひとつの仕草が、俺の脈を乱れさせた。

 

 眼鏡をかけた女のことを、「眼鏡っ子」というらしい。

 じいさんのデータベースにそう書いてあった。

 

 そして…その湧き上がってくる特異な感情が、

 身体の奥底に眠っていた「血」が俺をおしのけ…

 この「眼鏡っ子」にもっと近づきたいというはっきりとした情熱へと変わっていった。

 

 俺は、シオンのキャビンを男達とは別の部屋にあてがった。

 女だから、男とザコ寝じゃ嫌だろう、なんてもっともらしい理由をつけて。

 

 . . . . .

 

 そして今…俺は何も知らずに眠るシオンの枕元に立っている。

 

 上着がないと、レオタードみてぇなヴェクターの制服。

 かがむだけでパンツが見えちまうほどの短いスカート。

 普段はシオンは黒いストッキングを履いているが、今は寝ているので脱いでいる。

 

 「ううん…」

 寝返りをうつたび、白くすべすべした生足が艶かしく動く。

 寝返りをうったせいで、栗色の髪が乱れ、白いシーツに広がる。

 

 普段は融通のきかなさそうなねーちゃんだが、寝顔はまだまだガキだ。

 その寝顔には眼鏡をつけていない。

 

 俺はあたりを見回して、シオンの眼鏡を探す。

 

 見慣れた丸眼鏡は、ベッドの枕もとの棚に置かれていた。

 ピカピカに磨かれたレンズは、まるで入っていないかのように透明度が高い。

 それを手にとり、しげしげと眺める。

 

 ………こいつが、………こいつのせいで…俺は、変わっちまった。

 この…昔からある何の変哲もない視力矯正のための道具…

 

 それが…この…頭のカタそうなねーちゃんが…かける…と…

 

 俺は、手にしたメガネを寝ているシオンの顔に近づけていく。

 その眼鏡をかけたシオンの顔を想像するだけで、自然と手が震えだす。

 

 かちゃ…

 

 その眼鏡は、僅かな金属音をたてて、持ち主であるシオンの顔につく。

 

 ドクンッ!!

 瞬間、自分でもわかるほど、鼓動が高鳴る。

 

 こ…これが…「眼鏡っ子」!!!

 

 まだションベン臭いようなその寝顔が、次の瞬間、俺を誘うメスの顔へと変わる。

 そのフェロモンを受け、股間のモノが無意識に起立する。

 

 女 + 眼鏡 = 眼鏡っ子

 

 この…単純な等式が、俺の正気を失わせる。

 

 …………………そうか!

 俺のかあちゃんも、ばあさんも、ひいばあさんも………

 全員「眼鏡っ子」だった!!

 

 今、やっとわかった。

 これは俺にとってのノスタルジーであり、刷り込みであり、必然だったのだ!!

 

 今まではなぜこんな女に魅力を感じていたのかが自分でも理解できなかったが、

 もう、俺には迷いはなかった。

 

 などと一人で盛り上がっていると、

 「う…ううん…」

 また寝返りをうつシオン。

 

 その勢いで、眼鏡がずれる。

 ずれて鼻先にかかっただけの眼鏡もまた………いい!

 

 無防備な寝顔と、理知的な眼鏡の組み合わせ…

 自然と呼吸が荒くなってくるのがわかる。

 

 ハァ、ハァ、ハァ、と荒い呼吸が静まり返った部屋に響く。

 「ん…?」

 それが聞こえたのか、シオンがついに目を覚ました。

 

 目をしばたかせながら、俺の姿を確認するシオン。

 「え…? せ、船長? どうしてここに…?」

 現状が理解できずに、あたりをのろのろと見回している。

 

 ごくり…

 唾を飲み込むと、しんとした室内に響くほどに喉が鳴った。

 

 そして、夜這いだと気づかれる前にシオンめがけて飛びかかった!

 どさっ!

 「きゃあっ!? …んむぅっ!?」

 シオンの腰に馬乗りになり、事態を理解するより早く、

 片手でシオンの両手首をまとめて押さえつけ、もう片方の手で口を塞ぐ。

 シオンの顔は小さく、俺の手で口を覆うと半分くらい顔が隠れてしまう。

 

 「むぐっ…んぐっ…んむぅーっ!!」

 瞬時にして自由を奪われたシオンは、何がおこったかまだ理解できずにいた。

 ただただ目を白黒させながら、くぐもった悲鳴をあげ、腰をよじって暴れている。

 しかし…俺にとってはなんの効果もない抵抗だ。

 

 「じっとしてろ…なあに…ちょっと身体をねぶらせてくれるだけでいいんだよ…」

 シオンを組み敷いたまま、小声で囁きかける。

 

 「んっ! んっ! んんんっ!」

 これから何をされるのかわかったのか、シオンは更に暴れだす。

 

 必死の抵抗に、古いベッドがギシギシと軋む。

 

 「こちとら窮屈な船の中で溜まってんだ…

  そんな所で短けぇスカートでケツ振って歩くほうが悪いんだよ…」

 自分でも信じられないほどのガラの悪さだが、コイツの顔を見ていると

 どす黒い感情が止めどなくあふれ、そんな言葉がすんなりと出てくる。

 

 「んーっ! んうっ! んんーっ!」

 そんなこと言われてもーっ! といった表情のシオン。言葉にならない言葉で俺に訴えかける。

 首をイヤイヤと振ろうとしているのだろうが、俺に押さえつけられているのでそれもままならない。

 

 「…イヤだっていうんなら…」

 俺が視線を移しながら言うと、シオンも一緒にその視線を追う。

 

 ふたりの視線の先には、安らかな寝息をたてるレアリエンがいた。

 ”モモ”と呼ばれるガキの姿のレアリエンだ。

 

 コイツもちょっとしたイザコザに巻き込まれてこの船に乗り込んできたクチだ。

 シオンはやけにコイツのことを気に入ってるみたいで、まるで姉妹みたいに接しているようだ。

 

 何も知らずに安らかに眠るモモの姿を確認し、急に大人しくなるシオン。

 騒ぐとモモが起きてしまうと思ったからだろう。

 …まあ、こっちとしても、そのほうが好都合だがな。

 

 大人しくなったところで、塞いでいた口を自由にしてやり、俺は話を続ける。

 「…あのガキにお前のかわりをしてもらうまでだ」

 ………もちろん、あんなガキには興味はない。

 

 「なっ!? …なんてことを!?」

 狼狽するシオン。

 

 「あんな歩くたびにパンツ見せてるようなガキ…

  ”犯ってください”って言ってるようなモンだよなぁ…へへへ…」

 俺は調子に乗って、わざと嫌らしい風に舌なめずりをする。

 

 「モ、モモちゃんには、モモちゃんには手を出さないでっ!」

 予想通りの反応をするシオン。

 俺の演技がよほどおぞましかったのか、顔が青くなっている。

 

 「でかい声を出すな…あのガキに見られたいのか!?」

 俺が制止すると、あわてて口をつぐむシオン。

 

 組み敷かれる眼鏡っ子の一挙一動、仕草のひとつひとつに、

 背筋をくすぐられるような心地よい快感が走る。

 この眼鏡っ子の戸惑うような表情は、俺が…この俺が作りだしているんだ。

 

 この「眼鏡っ子」を手に入れるべく、俺は最後の仕上げに入った。

 「お前さえ言うことを聞いてりゃ、あのガキには手を出さねぇ…」

 

 「!……………」

 ハッと息を呑んで、うつむくシオン。

 

 しばらくの沈黙。

 

 視線をそらしたまま…シオンのピンクの唇は、

 「ど…どうすれば…いいんですか?」

 俺の望んでいた答えを紡ぎだした。

 

 「よし…そうやって素直にしてな…悪いようにはしねぇぜ」

 口の端が、自然と歪むのを禁じえなかった。

 

 続

 


解説

 「あやかりたいね」シリーズの番外編です。

 アメリカ出張中に空いている時間で書きました。

 


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