ハウステンボス内にある、ホテルヨーロッパ。そこが晶が予約を入れたホテルだった。
オランダにある同名ホテルをグレードアップして再現したホテルである。
晶と青年は、あちこちに生花が飾られた広いロビーに入る。
ロビーに入ると、外国人の初老の夫婦や、日本人の親子、恋人同士らしい大学生などがいた。ただ、世界レベルで一流と認められているホテルの客らしく、外国人の夫婦連れはいかにも裕福で余裕のある雰囲気をまとっており、小学生の男の子を連れた父親は企業の役員か重役といった感じである。大学生の男女も、どこか良いところの令息やお嬢様という印象である。
こちらの目をまっすぐ見つめて爽やかな対応をしてくれたフロントでチェックインをすませ、晶と青年は予約していた部屋に向かう。エレベーターで三階に上がり、ポプリの飾れた廊下を、部屋の番号を確かめながら歩く。
「ここね」
フロントで受け取ったキーでドアを開いて中に入る。
晶は荷物を置くと、部屋にあるテラスへと向かう。来て、と青年を呼んだ。
「ここから運河が見えるのよ」
「綺麗な眺めだね」
晶は横に来た青年に軽く身を任せ、夕方の茜色をうっすらと映す運河の水面を眺める。それから視線を青年の横顔に向ける。視線に気づいて、青年が晶に顔を向ける。
「晶、疲れた?」
「大丈夫。あなたに寄りかかってみたかっただけ」
「そう」
穏やかに微笑む青年。
晶は、やはり私は彼が好きなんだ、とあらためて自覚する。
そんな晶の内心を見抜いたかのように、青年は晶に顔を近づけてくる。晶はそれに逆らわず、唇を重ねる。青年の舌が晶の口腔内へと侵入し、舌先が晶の口の中の各所を愛撫する。晶の舌を探り当て、絡め取る。
「ん……」
流し込まれた青年の唾液を、晶は躊躇なく飲み込んでいく。青年が口を離れさせると、晶の紅唇との間に銀糸が架かる。
「晶、しようか」
「ええ……」
二人はベッドの置かれた場所にいく。整えられたベッドの近くで、晶は自分の服を脱ぎ始める。
自分を見つめる青年の眼差しに、羞恥と喜びを感じながら、ブラウスのボタンを上からゆっくりと外していく。ブラウスを脱ぎ終えた晶。ブラの色は黒。ふんだんにレースが使われた、一目で高級品と分かるインナー。
晶が今日のために、輸入物の下着を扱う高級店で購入した品だ。長々と迷って決めた、勝負下着。後一歩で下品になるというギリギリの線で踏みとどまったデザインの品。
さらに晶はロングスカートのホックを外し、足下に落とす。下もブラとおそろいの黒のシルクショーツだった。
「どうかしら?」
わずかな恥じらいも含んではいるが、顎をわずかに上げて挑発的な口調で青年に尋ねる晶。自分の釘付けになってる男の様子に、晶の中で満足感が湧く。
「う、うん。すごいよ。何ていうか……すごく色っぽいよ」
「興奮しちゃった?」
「今すぐ押し倒したくなってたまらないよ」
「嬉しいわ」
きゃ、と声を上げて晶はいきなり抱きついた。自分から青年にキスをする。青年は晶の腰に手を回すと、ゆっくりとシーツの上に晶と一緒に倒れていった。
*
晶が青年と初めてセックスしたのは、全国コンクールの三週間前のことだった。勇気が欲しい。そう言って交わりを求めた晶を、青年は受け入れた。
異性との交わり。晶は幻想を抱いてはいなかった。女性向け雑誌の初体験特集などのセックス知識の記事も読んでいた晶は、お互いの初めてのセックスは、ぎこちないものだろうと思っていた。それで十分だった。晶が求めていたのは、好きな男性と交わることで、自分を変えること。精神的なものだったから。
だが、その予想は良い意味でも悪い意味でも外れた。青年は晶をリードし、翻弄した。 初めての痛みはあったが、晶への愛撫は繊細で自信に満ちており、晶は心地よい快楽を味わい、セックスの後の不思議な気だるさを経験した。
その時に晶は気づいた。この人は何人もの女を知っている、と。
そして、3度目のセックスの時、もう一つのことにも晶は気づいた。その時、晶は自分から青年の男根をしゃぶり、口腔内に放たれた欲望の液体を嚥下した。水気の少ないヨーグルトのような感触を喉に感じたとき、はっきりと自覚した。
自分がセックスが好きだということを。
*
「あ、ん……」
晶はルージュを引いた唇から、甘い喘ぎを漏らす。青年は黒のブラを上にづらされ、まろび出た双乳を、青年は両手で鷲掴みにして揉みたてる。
張りと弾力のある乳房を下から上に、外側からから中央へと、左右別々のリズムで大きな掌が弄ぶ。汗ばんだ硬く突き出た大きめの乳首を青年は口に含み、吸い、舌先で嬲る。 イヤイヤをする幼女のように、悩ましげに頭を振る晶。が、その表情はイヤどころか、与えられる快楽を完全に受け入れ、男に自分のすべてを委ねきった女のものだった。
晶のまろやかな胸を揉み込んでいた右手が、腹を撫で下に滑っていく。レースのついた黒いショーツの中に入り込み、黒いシルクの下で指が蠢いた。
「晶、もうこんなに濡らしてたんだ」
「そんな……」
「少し指を動かしただけで、音がする」
青年が指を動かすと、粘度のある水が立てる音が、晶の耳にも届く。
「いやっ!」
さすがに羞恥の情が湧き起こり、晶は真っ赤な顔を右に背けてしまう。青年は晶の首筋に触れるか触れないかの微妙な感触を与えながら、ゆっくりと唇を這わせる。
「あっ」
性的な心地よさに、また甘い声が自然に漏れてしまう。
私、楽器のよう。この人の手が私の体を撫でるごとに、名手の手が自在に音を操るように、私はこんな淫らな声をあげる。私の中にある快楽の弦が、指、唇、舌、彼の躰のすべてによってかき鳴らされる。今の私は、この人によって演奏される楽器。そんな取り留めのない考えが、狂おしい官能に浸る晶の脳内によぎる。
蜜で湿った黒のシルクショーツを、青年は下ろし始める。晶は腰を浮かして、青年がショーツを脱がしやすいようにした。長い綺麗なラインを描く脚に沿って下りていくシルクの感触に、晶はもどかしさを感じる。
早くショーツを取って、あなたのモノを私の中に入れて欲しい。
「晶、すぐに入れてあげるよ」
晶の淫らな思いを読みとったように、青年は耳元で囁き、右のつま先から濡れた黒のショーツを抜き取り、ベッドの脇に落とす。
青年は身を起こすと、晶の脚に両手をかけて、大きく開く。晶は顔を下に向け、青年の股間に屹立する剛棒を見て、物欲しそうな表情を浮かべる。
「晶、欲しい?」
「ほ、欲しいわ」
晶の両足を肩に持ち上げながら青年は尋ね、何度もうなずいて晶は返事をする。
蜜に溢れた入り口を剛棒で上下になぞって、自らの先走りの液と晶の蜜を混ぜるようにしたあと、青年はゆっくりと晶の内部に剛直を埋め込んでいく。
「あふぅ、ああっ、ん! ひあっ」
晶の内部の感触をじっくりと味わうように段々と入り込んでいく青年の欲望の器官。それが与える充実感と、内部を擦っていく刺激に、晶は頭を振り、背を反らせ、光る汗を周囲に散らした。
「ん、んん、うっ」
青年が腰を前後に動かし始めると、晶はそれに合わせて自分から腰を振り始める。青年の剛直は、晶の奥深くまで突き込まれ、抜け落ちる寸前まで引かれる。
青年が動くごとに、晶は快楽の絶頂への階段を一段一段と追い上げられていく。
「晶!」
「あ、いく、いくわ!」
声とともに、一気に根本まで怒張は押し込まれる。欲望の白液が自分の中へと放たれたのを感じた瞬間、晶は絶頂に頭が真っ白になった。
青年は晶から抜くと、肩に担ぎ上げていた長い両足を静かにベッドの上に置く。絶頂の後の脱力感と気怠さに浸る晶に、覆い被さり前にかかった髪をかき上げて、青年はキスをする。
「ん……」
自分の口腔内へ入る青年の舌を受け入れ、舌を絡ませる。しばらくディープキスを楽しみ、どちらからともなく唇を離した。
「ね、まだ満足してないでしょ。私もなの」
「もちろん。だけど、今度は晶がしてくれよ」
青年は晶の腰を抱くと、ゆっくりと体勢を入れ替える。青年が下になり、晶が上になる。
「いいわ」
青年の望む行為はすぐにわかった。晶は青年の躰をまたいで膝立ちになると、自分の秘所に右手を当てる。
「ああ……」
何ていやらしいことをしているんだろうという思いが、逆に晶の興奮を高める。青年に見せつけるように、晶は右手の指で肉の花弁を開く。
左手は青年の放ったばかりというのに、まったく強度を失っていない男根を取る。その先端を自分の入り口に当てて、晶はゆっくりと腰を落とした。
「はあっ!」
自分の体重で、より深くまで好きな男を受け入れた衝撃に、晶は嬌声を上げる。そして、自分から腰を振り始める。
「晶、自分で自分の胸を揉んで」
青年の指示に素直に従い、形の良い両のふくらみを揉みたてる晶。人差し指で硬く勃起した乳首をいじり、より激しく腰を振った。
「はん、ふうぅ、ひゃん!」
「晶、本当にHが好きなんだね」
からかうような調子で青年は声をかける。晶の快楽の恥態を、両手を頭の下で組んで青年は楽しそうに見ている。
「私を、こんなに、し、したのは――あなたよ」
軽く睨む晶。そんな彼女に笑ってみせると、青年は頭の下で組んでいた両手を解き、晶の腰をつかむ。
「じゃあ、俺からもいくよ」
「あ、んんう、ひあ、はあっ!」
青年も猛然と腰を突き上げ、晶は急速に頂点へと押し上げられていく。
「好き、好きなの、あなたが……大好きなのぉ!」
「晶、俺も! 俺も好きだよ!」
「は、ひあ、ああっ、あああああああっ!」
自分の内に放たれたのを感じた瞬間、晶は2度目の頂点へと達する。股間から頭頂へと何かが突き抜けていく感覚に頭が真っ白になり躰は硬直する。そして、晶は青年の上にゆっくりと崩れ落ちた。
*
「ふふっ」
次の日の朝、青年の幸せそうな寝顔を上から見つめ、晶は楽しげな笑みを見せる。
青年よりも早く目を覚ました晶は身支度を整え、ベッド脇に立っていた。両手にはモーニングサービスのコーヒーと軽食の置かれた銀色の長方形のトレーを持っている。
夜の行為の後、冷水と熱湯の交互のシャワーを声を上げながら二人一緒に浴び、一緒のベッドで眠った。好きな男性のぬくもりに包まれた、深く心地よい眠りだった。
「さ、起きて!」
明るい晶の声に、鈍い声を上げた青年に、晶は微笑みを向ける。
大好きな人の今日一日の始まりに、自分の笑顔を見てもらいたかったから。
了
(後書き)
どうも遅れて申し訳ありませんでした。後編をお届けいたします。
読んだ皆さんが、少しでも面白いと思っていただけると幸いです。
では、また別の作品で。
六藍
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