DDDRひぐらしのなく頃に――艶事(つやごと)編(上)
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ひぐらしのなく頃に――艶事(つやごと)編(上)
六藍/文








 ――クールだ! クールになるんだ!! 前原圭一!!

 俺は自分にそう言い聞かせていた。だが、俺の目の前にしている事態に、俺の思考はクールとはほど遠い地平に飛び去っている。言葉はただ、俺の脳内で意味なくリフレインされているだけ。

「圭ちゃん……」

 魅音が小さな声で呟き、脱いだ服を足下に落とす。

 魅音の肌と豊かな胸を覆う白いブラが目に入り、あわてて俺は目をそらす。

「だめだよ、圭ちゃん。しっかりオジサンを見てくれなくちゃ。これは圭ちゃんの罰ゲームなんだから」

 言葉自体は、普段の魅音が言いそうなことだ。しかし、その口調は恥じらいと不安を多分に含んだ弱々しいものだった。

 ――あの魅音が、俺の部屋の俺の目の前で、服を脱いでいる。

 夢でも、青少年のオナニーの妄想に浸っているわけでもない。現実なのだ。この事態に、いくらクール、クールと念仏のように心の中で唱えていようと、今の俺は混乱しきっていた。

「いったいどうしたっていうんだよ、魅音。そんなのお前らしくないだろ。なぁ……」

 俺は魅音を見て、視界に入った男の本能を刺激する姿に慌てて目を反らすという行動を何度も取りながら、魅音に話しかける。

 こんな事態になったそもそもの始まりは――



「ま、負けたぁー! 前原圭一、一生の不覚ー!!」

「あーっはっはっはっ! 惜しかったんだけどねー! 圭ちゃんは、まだまだオジサンには及ばないってことだね!!」

「圭一、かわいそかわいそなのです。なでなで」

「おーっほっほっほ! 圭一さん、覚悟なさいませー! きっと魅音さんは凄い罰ゲームをさせるおつもりなのですわー!!」

「だ、大丈夫だよ、圭一君。そんな酷いことにはならない……かな、かな?」

 俺の慟哭と魅音の哄笑が交錯し、梨花ちゃんの慰めと沙都子の意地の悪い追い打ちにレナのおろおろとした言葉が飛び交う、放課後の教室。

 いつもの放課後の部活で、俺は一発逆転を狙った魅音との一騎打ちで見事な玉砕を遂げていた。

(よかった。魅音の奴、元に戻ったな)

 俺は頭を掻きむしり敗残の悲痛を見せながら、魅音の様子に内心で呟く。

 二日前、魅音の提案でレナのお気に入りの粗大ゴミの不法投棄場所で宝探しをした。

 その時、何かの拍子にバランスが崩れたのか、粗大ゴミの山の一つが崩れ落ちて、魅音が下敷きになったのだ。

「うっわ〜。服が台無しだわ……」

 愕然となる俺たちだったが、魅音は自分から粗大ゴミをかき分けて何でもない顔をして這い出てきた。

 幸い、頭にコブを作ったくらいでほとんどケガはなかったわけだが、その次の日、つまり昨日から様子がおかしくなっていた。

「あれは、夢……」「そんな訳、あるはずが……」

 独り言を呟き、いきなり俺を見て涙ぐんだり――普段の魅音では考えられない情緒不安定さだった。

「……やっぱり変なとこに当たっていたのではないですの?」

「魅音が何ともない、大丈夫、大丈夫だと言ってたから安心してたけど、やっぱ監督のとこに無理に引っ張っていって検査してもらうべきだったぜ」

「みー……」

「うん。明日になっても変だったら、魅いちゃんが何と言っても監督のとこにいけないよね、よね」

 昨日の放課後、気分が悪いと言って部活を休みにした魅音が返った後、俺たちは深刻な表情を突き合わせて相談した。

 だが、今日の魅音は普段通りだった。いつも通りの魅音の振る舞いに、俺も含めて皆は胸を撫で下ろした。

 で、いつも通りの放課後の部活のゲームとなったわけだが……

「罰ゲームの内容が、何でもいいから勝者の言うことを一つ聞く……魅音、お前、何を俺にさせる気だ?」

「くくく、さて、どうしようかねぇ」

 ニヤリ、と意地の悪そうな笑みを俺に向ける魅音。

「き、きっと……ゴニョゴニョ、なのですわ〜」「え、え……はふ〜、お持ち帰り〜」「圭一、大変なのです。にぱ〜」

「ん〜。レナ達が期待してくれてるのは嬉しいんだけど。オジサン、今は思いつかないや。何か思いついたら、抜き打ちでやってもらうよ」

「生殺しかよ。さっさと決めてくれた方が、かえって覚悟が決まるってもんだけどな」

「あはは。圭ちゃん、ごめんね」

 そう言って笑う魅音は、まったく普段通りの魅音だったんだ。



 その後、俺は家へと帰った。父さんと母さんは、絵の買い手との値段交渉が難航してるってことで、話を詰めに二人そろって昨日から東京に出ていた。

 雛見沢村の人たちからは、前原屋敷といわれるほどの広い家に俺一人。でも、俺は両親がいない開放感に羽を伸ばしきっていた。

 そんな気分で自分の部屋に寝転がってマンガ雑誌を広げて読んでいると、魅音が尋ねてきた「罰ゲームの内容が決まったよ。で、まずは圭ちゃんの部屋を見せて!」

 魅音がどんなことを思いついたのか、戦々恐々としながら俺は自分の部屋へと魅音を上げた。「で、思いついた罰ゲームって何だよ」

「それはね……」

 うつむいて弱々しい声で呟いた魅音は、上着の裾に手をかけると、それを上げ始めたのだ。「圭ちゃん、見てほしいんだ。本当の私を」

「魅音、おい、何を――」

 俺は、魅音の行動に絶句して固まった。



                                        続く
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