Ride on a ……
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Ride on a ……
まるきゅー/文


 木陰で餅をかじりながら休んでいたルカーは剣戟の音に耳を澄ませ、顔を上げた。

 視線の先には、オークの集団が一塊。――と、ペコペコに乗った人間の女が一人。

 ハァハァと獣じみた吐息が、女騎士を取り囲んでいた。

 斧を振り上げるハイオークを筆頭に、オークの戦士たちが彼女に群がる。

「ピアース!」

 凛とした声が響き渡ると同時に一閃、冬の大気を切り裂いて槍の穂先が唸った。

 手慣れた仕草でテンポよく刺突を繰り返し、脚でペコペコの脇腹をうまく締めながら確実に数を減らしている。

「ふぅん……」

 慌てることもなく、ルカーはブドウジュースに手を伸ばす。

 たとえどんな敵に襲われていようと、相手が助けを求めない限り無用の助太刀は不要。それが冒険者の不文律だ。眺めてみるところ、腕は悪くない。装備もそれなりのものを使っているようだ。

 殲滅が終わったら、軽くヒールしてお疲れさんとでも声をかけておくか。

 ルカーはのんびり様子を眺めながら立ち上がると、横に湧いた年若いオークの戦士を槍で殴り倒す。そしてまたどっかり座り込むと、餅にかじりついた。

「さて、と。それじゃじっくり拝ませてもらうか」

 観賞を決め込んだ彼は、果敢に槍を振るう女騎士の姿に見入っていた。

 年は二十歳前後。淡い金髪に、紫のリボンが映えている。程よく肉のついた体は無骨な鎧の中に押し込めておくには惜しく、わずかに剥き出しになった白い腿が眩しかった。

 斧が太腿をかすめ、白い肌に赤い筋がいくつも走る。ほとんどの攻撃を避けもせずに受け止め、一撃の重みに賭ける彼女の戦い方は、この世界における『槍騎士』としてはオーソドックスなものだった。

「ん、惜しい」

 槍を振るいながら、合間を見ては白ポーションをがぶ飲みして回復を行い戦い続ける女騎士の姿に、ルカーは思わず呟いた。

 腕は悪くない。装備もそれなり。

 だが、それなりのものはそれなりでしかなく、何より相手の数が多すぎる。

「ポーションの切れ目が、運の切れ目だな」

 ルカーは立ち上がると短く詠唱を終えた。

「!?」

 休みない攻撃に息を切らし、今にもペコペコから引きずり降ろされそうだった女騎士の傷が見る間に癒えていく。

 どこからともなく飛んできたヒールに辺りを見回そうとすると、木陰で佇んでいた大柄なクルセイダーに一喝された。

「よそ見をしている暇があったら、槍を振るえ!」

「は、はいっ!」

 慌ててながらも、オークの顔を強かに槍の柄で殴り倒す。その様子に満足そうに目を細めたルカーは、いつでも彼女の回復ができるよう立ったまま餅にかじりついた。

 それからはあっと言う間で、回復を気にせず戦えるようになった彼女は、あっさりオークたちを殲滅してしまった。

「ありがとう、本当に何てお礼を言ったらいいか」

 木陰からずっと観賞されていたなどとは露知らず、女騎士は潤んだ目で逞しい体つきのクルセイダーを見上げた。

 上気して頬を染めながら礼を言う彼女に、ルカーはちょっとした悪戯心を覚える。

「礼はいい。それより頼みがあるんだが、聞いてもらえるか?」

「はい。私にできることであったら、何なりと」

 きらきらした緑の目で答えてくるのに、彼は大柄な体に似合わぬ恥ずかしそうな素振りで囁いた。

「君のペコペコに、私も乗せてもらえないだろうか」









 ギルド砦がいくつも構えられた静かな森の中、カートを借り始めて間もない商人のような速度でペコペコが歩いている。その背に揺れる二つの影。

 がっしりした逞しい体つきのクルセイダーが膝の上の女騎士の腰に手を回し、彼女が首筋まで真っ赤にしながら手綱をぎゅっと握り締めている。その様は、時折プロンテラに現れるソロ軍団が見れば憤死しかねないほど、仲睦まじく見えた。

「そういえばまだ名乗ってもいなかったな。私はルカー。君と所属は違うが、同じプロンテラ騎士団の者だ。君は?」

 低い声で囁くと耳元に息がかかり、腕の中の体がびくりと震える。無論、意識してのことだ。

「――キアーラと言います。二月前に叙勲を受けたばかりで」

 彼女は彼女で極力意識すまいと、平静を装って返す。

 危ないところを助けてくれたクルセイダーの頼みとは、意外なものだった。

 ペコペコに自分と二人乗りしてみたいと、真顔で恥ずかしそうに頼んできたのだ。

 最初、彼女はためらった。騎乗用に馴らされているとはいえ、武装した人間を二人も乗せるのはペコペコに負担をかける。だが、恩人の頼みを断るのもすまない気がするし、実は彼女も昔、二人乗りというシチュエーションに憧れたことがあったのだ。

「あ、あの。ルカーさん」

 すっぽり腕の中に納まったキアーラが、うつむきながら声をかけた。

「どうした?」

 先ほどからペコペコの体が揺れるたびに、何度もルカーの唇が耳をかすめてくる。意識しているのを気取られまいとしているのが、表情が隠れていても丸分かりで、ルカーは意地悪く耳元に息を吹きかけた。

「ひゃぅ!」

 思わず手綱を手放しそうになるのを包み込むようにして止め、背後から優しく抱き締める。ペコペコにとってはいい迷惑だが、この男の悪戯心は止まることを知らなかった。

 今のでペコペコの歩みが大きく乱れたのをいいことに、滑らかな首筋に軽く唇で触れる。

「く、くすぐったいです……っ!」

 そのまま茹で上がってしまいそうな勢いで赤くなりながら、キアーラは抗議する。

 危ないところを助けてくれた同じ騎士団の聖戦士様が、自分に悪戯などするはずなどない。そう思い込んで、必要以上に彼を意識している自分をはしたないと恥じ、だが一方で受け入れつつある。

 窮地を救われたというのと、今の密着した状態とで彼女の内に現れた吊り橋効果が、会ったばかりのクルセイダーへの恋心を抱かせていた。

「ああ、すまない」

 爽やかに詫びながら、姿勢を正す。そんなルカーに腕の中のキアーラは、自分の思い違いを恥じて身を縮こませた。――その思い違いこそが、何よりの思い違いだったのだが。

 当たり障りのない話をしながら、ゆっくりペコペコを歩ませる。攻城戦のない日の森は静かで、時折クリーミーが傍らを飛んでいく以外、ここには自分たち二人しかいないのではないかという錯覚を抱かせた。

「――静かですね」

「そうだな」

 何故か小さな声で話しかけるキアーラの髪をそっと撫で、ルカーも静かに返した。話しかけられるたびに耳元で答え、そのたびに身を震わせる姿が愛しくて、何度も何度も耳元に唇を寄せた。

 細い首筋。さらりと流れる金糸の髪。膝の上の白い腿。密着した鎧越しに伝わってくる肌の温もり。

 ――まずい。

 何がどうまずいのか分からぬまま、もう悪戯ではすまないところにまできてしまったのを、ルカーは自覚した。

「ところで……あの」

 再びキアーラが声をかけてくる。今度はルカーが平静を装って返す番だった。

「……どうした?」

「姿勢を……」

 消え入りそうな声を出しながら、キアーラはぎゅっと手綱を握り締める。

 ペコペコに二人乗りをするという話がまとまった後、まずルカーがペコペコに乗りその膝の上にキアーラが座ることとなった。その時彼女は何の疑問も抱かず、普段ペコペコに乗る要領でルカーの上にまたがったのだが、見る人が見れば非常に淫猥な印象を与える姿となったのだ。

「ああ」

 知らず知らずの内に息が荒くなる。ルカーははっきりと、今度は彼女にも分かるように耳元で囁いた。

「これでは最中のように見えてしまうからな」

「……っ!」

 びくんと震える体を抱き締め、真っ赤になった耳を唇でなぞってから舌を這わせる。

「ほら、そんなに震えたらペコペコが足を痛めてしまう」

 ダシにされたペコペコは本当にいい迷惑なのだが、この男の暴走はもう止まらない。キアーラが動けなくなったのをいいことに、耳元から首筋に沿って舌を這わせ、汗と肌の味を楽しみ始めた。

「ゃ……っ、あ、だめ……」

 ペコペコに負担をかけまいと身じろぎもできぬまま、キアーラが小さく啼いた。

「何故?」

 片手は手綱を握る手を包み込み、空いた手で腰を抱き込む。わざと音を立てて耳の穴に舌をねじ入れ、小さな吐息を楽しむルカーにキアーラの恥じ入るような声が返ってくる。

「汗、かいてるから……だからっ、ぁ……」

「私とこうするのは、嫌ではないのだな?」

 耳元の声がどことなく嬉しそうだったのを、ぼうっとした頭で彼女は聞いた。そのままこくりとうなずいた時、体の奥からじわりと熱が湧いてきたのを感じる。

「それはよかった」

 腰を抱いていた手が少しずつ移動して、火照ってきた太腿を撫で回す。

「……っ」

 キアーラは小さく息を吐いて、静かにルカーの胸にもたれかかった。振り向き、潤んだ目とかすかに開かれた小さな唇が、欲情した男の視界に入る。

 ルカーは言葉もなく唇を貪り、おずおずと絡められた舌を貪欲に啜る。太腿を這う手はスカート状のチェインメイルの奥へと伸ばされ、下着越しにぷるぷるした肉芽を捕らえた。

「んっっ!」

 思わず体が動いてしまうのを懸命にこらえ、湧き上がる快感に耐える姿はさらなる劣情を煽る。ルカーはさらに肉芽を弄りながら下着をずらし、濡れそぼった秘部に太くごつごつした指を挿し入れた。

「ふあぁっ、あ……っ」

「いい子だ……そのまま、動かずに」

 必死に耐えるキアーラの耳を舐りながら、ルカーはぐちゅぐちゅと音を立て秘所を掻き回した。これ以上動くなとでも言いたいのか、それとも離したくないのか、心地よいきつさで締めつけてくる。

「ゃあ……っ、も、お願い……っ」

 半ば涙声で哀願する彼女の首筋に軽く口づけ、一度指を引き抜く。名残惜しそうに愛液が後を追うのを、彼女の目の前でぺろりと舐めると期待通り羞恥に身悶えてくれた。

「分かった。調子に乗りすぎてすまなかったな」

 とろんとした目で見上げるキアーラの表情がかすかに曇り、困ったように首を振る。その間布が擦れる音がしばらくしていたのだが、ついに彼女は気づくことがなかった。

「…………っ」

 中途半端なところで止められた熱が、行き場をなくして体中が疼いている。だがこのまま行為を続行するわけにも行かないと、最後の理性が彼女を押し止めていた。

「だが」

 目の縁に溜まった涙を吸われ、腰が浮かされる。

 ――浮かされる!?

「申し訳ないのだが、もう少しつき合ってもらえるとありがたい」

「えっ? ……あ、あの、ルカー……さ……っ!」

 事態を理解した頃には既に遅く、再び下着をずらされいきり立ったモノを押し当てられ、あっと言う間に彼女の中へと沈められていた。

「ひぁ、あんっ! ぁ……だめですって……ば、ぁ、あ……っ」

 逃げようとすればペコペコの負担になるし、いつ振り落とされるかも分からない。それ以前にがっしりとした腕の中に抱きすくめられていて、ろくに動くことすらままならない。

「んっっ、……っあ、は、……ぁああ……っ」

「可愛いな、キアーラは」

 いつ終わるとも知れぬ快楽に淡い金の髪を振り乱し、ゆっくり森を歩むペコペコの背に揺られ振動に身悶える女騎士の体を、たまらずルカーは愛しげに抱き締めた。

「こんなに乱れてくれるとは思わなかった。……ひょっとして、ご無沙汰だったのか?」

「や……ぁ、だめ……っ、許して……っ!」

 キアーラが思わず腰をくねらせた瞬間、今までおとなしく二人を乗せて歩んでいたペコペコが、やっていられないとばかりに駆け出した。

「はあぁっ! あ、いやっ、あ、ああぁっ!」

「うわ、本当に調子に乗りすぎた! すまん!」

 ぐちゅぐちゅと結合部からいやらしい音と粘液を出しながら、ルカーは片手でキアーラの腰を抱き、空いた手で彼女が手放してしまった手綱を握り締める。それから足で脇腹を締めながら落ち着かせようとするが、よほど腹に据えかねていたらしいペコペコの反逆は中々終わらない。

「やぁんっ! ああっ! だめ、そんな強く……っ! ひあぁあんっ!」

 そうしてルカーが必死にペコペコを宥めようとする傍ら、暴れられるたびに突き上げられてキアーラが悲鳴を上げ、万力のようなきつさでルカーを締めつける。

「悪かった、悪かったからそんな……締めるなあっ!」

「あ、ああっ! ひあ、あっ、あんっ! ……っは、あ、ああっ!」

 もう会話が成立する状態ではない。ルカーの腕にすがりつきながら、キアーラが腰をくねらせている。

「あぁ……っ、おく……に、奥に当たって……っ! あ、ぁああああっ!!」

「ま……ちょっと、出…………っ! …………っ、う…………」

 歯を食いしばって堪えたものの耐え切れず、キアーラの絶頂の締めつけにつられてルカーも果てた。どうにか振り落とされずにすんだものの、キアーラの方が失神寸前でぐったりしている。

「は……あ…………」

「大丈夫、か?」

「ん……」

 余韻に酔いしれているのか、キアーラが甘えるようにもたれかかる。その仕草で、彼女の中のルカーは再び硬さを取り戻す。ペコペコが諦めて大人しく歩き出したのをいいことに、今度はルカーも腰を使い出した。

「いいペコペコに、乗ってるじゃないか……」

「あ、いえ……、そん、な」

 ほとんど答えにならない答えを返しながら、ルカーの動きに合わせてキアーラの腰が揺れる。

「これなら、もっと激しくしても問題ないだろうな」

「もっと、激しくって……そんな、あの」

 答えに詰まる彼女の頬に口づけると、彼女の両脚を開くような形で一度軽く持ち上げ、打ちつけ突き上げる。

「ひゃあぅっ! や、あんっ! や、ほんとに、激しすぎて……っ!」

 手綱を放しても、ペコペコが先ほどのように暴れだすことはなかった。無駄に驚異的なあぶみ捌きで、ルカーが脇腹を締めているからだ。

「いい、な……キアーラ……、本当に可愛い……」

「ルカー……さ、ん……っ! ふあ、ああぁっ!」

 耳元で囁かれ突き上げられ、キアーラはただただ啼き続ける。それが彼の最も喜ぶ仕草なのだと無意識に悟り、淫らに望むがままの姿を見せ続けた。

 じゅぽじゅぽと、最初の行為の名残で残る白濁液と尽きもせず溢れ出てくる愛液とが一層の激しさを増し音を立てる。

「ルカーさん、ルカーさん……っ! 私、もぅ……!!」

「いいぞ……そのままイって、ほら!」

「ひあ、あ、あ、ぁ……あああぁんっ!」

 最後に子宮にまで届きそうな強い突き上げを受け、体を仰け反らせながらキアーラが二度目の絶頂を迎えた。そのままルカーを搾り取るような勢いで締めつけてきて、心地よい疲労感と共に彼も欲望を吐き出す。

 腕の中で荒く息を吐く彼女を抱き締め三度目の行為に及ぼうとした瞬間、視界ががくんと揺れた。

「ひゃああああんっ!?」

 二度の絶頂で過敏になった体が、衝撃であっけない三度目の絶頂を迎える。今度こそ意識を失ったキアーラの体を抱き留めたルカーは、力なくへたり込んだペコペコに頭を下げた。

「……………………すまん」

 この場合使うのはヒールとイグドラシルの葉どちらなのか。そういえば替えの下着なんて当然用意してなかったなとか、とりあえず水場に移動して行為の後を拭ってやらなければとか、現実に引き戻された男の仕事は、あまりにも多かったのだった。


解説

 こんにちは、まるきゅーです。

 多分この作品、「痴漢」「和姦」(?)辺りでジャンル分けされるような気がするのですが、ぜひとも「馬鹿」を閲覧された皆様方の心の内に追加していただきたく思います。

 一応今回はダークな終わりではなかったので、登場人物に名前をつけておきました。


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