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望郷 1
井川 正寿/文


 (1)

 桜と知世が意識を取り戻した時、目を疑った。

 辺りは赤茶けた大地と鼠色の空が広がっていた。草一本生えてない途方も無い光景が二人の目に飛びこんできた。

 乾いた大気に不釣合いなムッとした湿気が肌に纏わりついて不快感が増す。

 さくら「ほえ〜っ!?」

 知世「・・・・・・!?」

   二人は戸惑いを隠すことが出来ないまま、何処までも続いている赤茶色の大地と鼠色の空が交わる地平線を360度回転して見て回った。何処を見ても怖いぐらい何も無い。

 さくら「そうだ。利佳ちゃん達はどうしたのかな?」

  心配したのは利香、千春、それに奈緒子達の事だ。記憶が五人で学校の帰りに公園を通り抜けようとおしゃべりしていた所までしかない。気がつけばここに倒れていた。

 知世「そういえば公園で奈緒子ちゃんから神隠しのお話を聞いていたら急に眩暈がしたのですわ」

 さくら「わたしも・・・・・」

  二人の胸の内に一つの言葉が浮かぶ。

  クロウカード!!

 さくら「ごめんね知世ちゃん。また迷惑かけちゃって」

 知世「気になさらないでさくらちゃん。カードキャプターの活躍をビデオに収めるのはわたくしの義務ですから。うふふ」

 さくら「利佳ちゃん達大丈夫だよね」

 知世「奈緒子ちゃんは喜んでいると思いますよ。宇宙人よーって」

  二人は悪戯っぽく笑いあった。

 

 (2)

  魔法は使えなかった。何度やっても封印解除にはならない。※(すいません理由は考えていません。携帯電話も持っていない上に、さくらと知世は助けを呼べません)

  そうなれば、結局歩く以外にできることは無い。

  二人は適当に方角を決めてあてもなく歩き出した。

  真っ直ぐ歩いているのかも解からない。目印になるよな丘も木もないのだ。何処を見ても地平線が果てしなく広がっている。『迷路』のカードに似ているが変化が無い分、この世界の方が辛かった。

  しばらく歩くと汗が肌と制服にべっとりとついて気持ち悪くなってくる。太陽の照りつけはないのだが湿度が異常に高いのだ。

 それでも風も音もない静寂が支配する荒野を制服姿の二人は当ても無く汗まみれになって歩き続ける。口数がどんどん減って最後にはどちらともなく無言になる。

 途中、何度も休憩を挟みながらも6時間近く歩き続けた。日は傾いた兆しすら見せない、空は鼠色のまま何の変化も無い。当然、見える景色に変わりはなかった。

 結局、疲労には勝てずに二人は赤茶色の大地に鞄を枕にして直接横になって眠りについた。疲労もあったのだろう硬い地面の上に並んで眠りについた。

 いつもとはまるで違った。

 お互いにその話題に触れるのは怖くなってやめた。もしかしたらクロウカードは関係無いのではないかと・・。

 

 (3)

 翌朝、先に目覚めたのは知世だった。傍らにはさくらが鞄を抱きしめて幸せそうに眠っている。知世はさくらの頭をそっと撫でた。

 知世「ぜったい大丈夫ですわよね」

 さくら「むにゃむにゃ・・はにゃ〜ん。ともよちゃん・・んん、ぜったい大丈夫・むむん」

 知世「さくらちゃんたら、うふふ」

  しばらくしてさくらが背中にあたる硬い地面の感触で慌てて目覚める。

 さくら「あ・・・知世ちゃん!!」

  飛び起きた鼻先に知世がいた。

  真顔のさくらと笑顔の知世。

 知世「何ですかさくらちゃん?」

 さくら「今日こそ帰ろうね!!」

 知世「はい、さくらちゃん」

  二人は気合をいれて立ち上がって前方の何も無い地平線を見て固まった。

  そして途方に暮れる。

 さくら「どっちから来たんだっけ?」

  考え込む。

  見れば友枝小学校指定の黒い制服と短いスカート、それに胸元のリボンは汗を吸ったまま横になったので土がついて赤茶色に汚れていた。

 さくら「汚れちゃったね」

 知世「はい」

 さくら「お腹すいたね・・」

 知世「はい・・・」

  気持ちがどんどんしぼんでいく。

 知世「さくらちゃん。いつものやつやりましょう」

  沈んで俯いたさくらに知世がかろやかに話しかける。

 さくら「ぜったい、ぜったい、ぜぇ〜たい大丈夫!!」

  服が汚れていても、お腹がすいていても、何とかなる。そう思っていなきゃ耐えられなかった。

  とにかく歩き出した。ここが何処か解からないが助けは来なさそうだ。だから歩く。

  数時間も歩くと、いよいよ制服が汗を吸ってベットリと肌に貼り付いてきた。

  脱ぎたい!!

  女の子として口にしてはいけない言葉。さくらは肌に纏わりつく布の感触に気色悪さに我慢できないでいた。

 知世「・・・さくらちゃん・・・わたし上脱いじゃいますね・・・」

  しばらくぶりに知世が口を開くと制服の裾に手をかけて脱いでしまった。

  さくらの眼には知世の脂肪のまったく無いスレンダーな身体。長い髪の間から覗く、透き通るような白い肌。汗が玉のようにはじく。

  だが、さくらが注目したのは胸の辺りを包むブラジャーの存在である。

 さくら「知世ちゃん・・・もう、しているんだ・・・」

  何だか裏切られた気分。

  知世はさくらの雰囲気を悟って優しく声をかける。

 知世「帰ったら一緒に買いにいきましょうねさくらちゃん。ああ、さくらちゃんの初めてのブラジャーを選べるなんて幸せですわ〜」

  さくらはブラジャーという単語に赤くなって手を振って照れ隠しをする。

 さくら「ま、まだ、わたしには早いよ・・・」

 知世「そんなことはありませんわ」

  知世の眼がさくらの胸を凝視する。

 さくら「うー」

  かわいい抗議の声をあげて少し膨らんだ胸を隠す。

 さくら「・・・わたしも脱ぐね・・・撮っちゃだめだよ・・・」

  知世がブラジャーをしていたのは軽いショックを受けた。でも、泥と汗で汚れた服をこれ以上耐え切れなかった。服の下はキャミソールだから直接、胸を見られることは無い。

  そう決めたら楽になる。さくらも制服の裾に手をかけて上着を脱ぎ去る。薄いピンクのキャミソールが露になった。胸元はスカスカでやはりブラジャーはまだ早いだろう。

  肌に直接あたる大気が心地よい。知世の視線が多少は痛いがしかたがない。これ位の格好は体育でも見せているし、いっしょにお風呂だって入ったことがある。

  でも、今は外で歩きながらだ。

  知世のうっとりとした視線を受けるたびにさくらは羞恥に震えるのだった。

 さくら「あんまり見ないでぇー」

  知世のブラジャーを見たからだろう。意識してしまうのだ。

 

 (4)

  恥かしがっている場合では無かった。

  知世が前を歩く条件でさくらは思い切ってキャミソールも脱いで、丸めて胸を隠しながら歩いている。それも長くは続かなかった。

  今、二人は並んで歩いている。

  景色は相変わらず何の変化も無い。

  笑顔は絶やさないでいるが、ほぼ丸一日飲まず食わずで、歩き続けてきた。本格的に疲れが見え始めてきた。

  足が棒のように張ってきているし、空腹がつらい。ノドも渇いてきた。

  ダァーーーーーーーーーーーーーン!!

  大気を割るような大音響。銃声!?

 知世「さくらちゃん!!」

  知世がさくらの手をとって走り出す。

  何処へ逃げようというのだろうか?周囲は草一本生えていない不毛の大地。隠れる場所すらないのだ。

  逃げるしかなかった。銃声は二人の不安感に拍車をかけパニックに陥れた。原始的な恐怖を揺さぶり起こす。相手は敵か味方か解からないが一秒でも早くそこから逃げ出したかった。

  再び銃声がして、目の前の地面が小さく跳ね土煙が舞う。

  ふりかえれば遥か地平線の彼方から土煙を巻き上げてこちらに何かが向かってきている。相当な距離からの狙撃は逃げる意思を奪った。

  目を凝らせば10以上のエイのような乗り物の上に人が乗っていた。それらは地面から数十センチは浮いている。

  何人かは銃のような筒をさくらと知世に狙いを定めており、恐怖で身が竦んだ。

  高速で近づくエイに乗った男達は二人を取り囲むように円を描いて陣取ります。

  男達の格好は全員が上半身裸で、髪の毛はおろか眉毛すらなく全身が無毛で灰色の肌はツルツルと滑らかな光沢が鮮やかに見える

  体格の差はあるが、顔つきは同じでまるで区別がつかない。表情がまるでない。

  とくに奇妙に見えたのは瞳孔が縦になって金色に輝いているのだ。

  トカゲ人間・・・。

  シッポが生えていたらまさにそう見えただろう。

 さくら「こ、こんにちは・・・」

  怯えながら一番近くの男に声をかけた。

 男「お前等は何処の者だ。手の甲を見せて見ろ」

  高圧的な声。

  躊躇いがちに手の甲を見せる二人。

 男「ふ〜ん。やっぱ鑑札も刻印もねえな。珍しい子供の野良だぜ」

 男「野良だったら服は着てないだろ」

 男「毛並みは良さそう出し服も着ている。どっかから逃げたのじゃないか?」

 男「子供だけで?」

 男「はぐれたり迷子とか」

 男「じゃあ。飼い主に届けたら礼金をふんだくれるじゃん」

 男「おしいなあ。こんな毛並みのいい野良だったら高く売れるのに」

  人に良く似ている。人ではない男達は無表情でさくら達を値踏みし始める。声だけを聞けば残念そうに聞こえるが、やはり無表情で気味が悪い。男達は顔面の筋肉が発達していないからだろう。

 男「お前ら!! 飼い主は近くにいるのか?」

  リーダーらしい男が怯えて萎縮するさくら達を頭ごなしに怒鳴る。

 さくら「・・・・・・・」

  答えられない。それもそのはず飼い主?まるで迷子の子犬に怒鳴りつけるような口調。

  知世がオズオズと口を開ける。

 知世「飼い主ってどういう意味でしょうか?」

 男「はぁ?」

  男達は知世の丁寧な返答に困惑し合う。

 男「あのなぁ」

  横柄な言葉と裏腹に呆れて頭を掻く男。どう説明しようか迷っている。男達から見れば首輪も鑑札もしていない。服を着て、抜群の毛並み。見れば見るほど飼い主が上流階級だと知れる。貴族どころか王族の所有物かもしれないのだ。下手を打ったらどんなトラブルに巻き込まれるかわかったものではない。

  だが、男達にとってさくらと知世は『人間』ではないのだ。

 男「首輪とか鑑札は持っているか?」

  男達の口調が柔らかくなってくる。それでも何を聞いているのか二人には解かっていない。根本的な意思疎通を誤っているのだ。男達は二人を『人間』としては見ていないのだ。

  さくらが首を振って持っていないことを伝える。

  正面の男達の一人が肌を真っ赤にして手を振り上げる。

 さくら・知世「きゃあ」

  手でぶたれると思った二人は慌てて両手を交差して防ごうとする。

  周りの男達が真っ赤になった男を取り押さえる。

 男「やめろ。下手したら俺達の首なんてあっという間にサヨナラだぞ!!」

 男「今度、結婚するって言ってじゃないか。落ち着けよ!!」

 男「ガキがやった事だ。怒るなよ」

  何人かの男達が宥め落ち着かせる。それらの顔に表情はない。

  興奮しているのか男達の肌が白からピンクへと変化している。感情を皮膚の色で表しているらしい。

  男にとっては自分の質問に口も出さないで答えた態度は上位者ならともかく、さくらにやられたのは顔に小便を引っ掛けられたのに等しかった。

 男「お前も早く謝れ!!」

  さくらに向かって叱責する。

  何を怒っているのかさくらにはさっぱりだ。とりあえず軽くお辞儀をしてごめんなさいと誤る。

 男達「・・・・・・・」

  全員の息が止まった。

  犬が、犬の分際で・・・・・・。 

  犬ごときが、人間様が謝るような態度で詫びたのだ。男達に見れば権力をカサにきた思い上がり以外の何事でもなかった。

  もちろんさくらにそんなつもりは毛頭ない。そもそも男が何を怒っているのかも理解してないのだからオロオロするばかりだ。

  そういったとぼけた態度が怒りに拍車をかける。

 男「どこの貴族様の飼い犬だかしらねえが首輪も鑑札もしてねえんだ。野良と同じ何だぞ」

  血管が浮き上がるぐらいに興奮して叫ぶ。

  飼い犬?野良?

  混乱する。そして最悪の考えが浮かぶ。

  もしかしたらここでは私たちは人間じゃないかもしれない・・・。

 さくら「犬・・・さくら犬さんじゃないよ。人間だもん」

  認めたくない事実。だが、認めたくないからこそ解かっているのだ。だからこそ真っ赤になって否定する以外にない。

 男「仔犬、調子こくなよ。人間は小汚い毛なんか生えないし、肌だってもっと光沢がある。お前はどう見たって犬だ」

 さくら「違うもん!! 犬さんじゃないよ!!」

 男「じゃあ聞くけどエサをやっていた人間に毛は生えていたか?」

 さくら「エサって・・・・・・エサじゃないもん。ご飯だもん。お父さんとお兄ちゃんと一緒に作ってるんだよ。まだお手伝いしか出来ないけど・・・。包丁だって使えるし・・・毛だって生えているし、さくらと同じでヌメヌメ光ってなんかいなかったもん」

  今にも泣きそうな声で男に飛び掛らん勢いで捲くし立てる。

 男「はぁ?」

  どうにも話が噛み合わない。信じれば家族で『生活』している話だ。

  ありえない。

  男達の世界で犬が家族で裕福に生活するのはありえない話だ。

  犬は生まれたら飼い主(代理人でも可)が役所に登録しなければならない。そして貴族なら愛玩犬として自分の施設で訓練する。あくまでも訓練だ。教育ではない。そうではない犬は労役用途で職種別訓練を受ける。犬は呼吸する労働財産でモノでしかない。

  人気ぶりは現在でも供給に追いつかず、高額で取引されている。犬は貴族階級以上で『飼育』が許されている『物』でしかない。飼い犬は主人の命令に絶対服従するように訓練されている。そこで登録番号、家名、飼い主、名前がわかる物を身につけてなくてはいけない。ようは首輪や鑑札だ。

  登録が確認できない犬は野良か捨て犬という事になる。基本的にそれらの犬は服など着ていない。大抵は野犬狩りなので捕まる。まれに捨て犬同士で交尾して生まれるの野良だ。野犬狩りでもっとも美味しいのは野良の仔犬である。本来は上流階級の間でしか遣り取りされていない犬を売れるのだ庶民では考えられないぐらいの大金が手に入る。

  もう一つ野犬狩りで美味しいのは迷い犬を返して礼金を貰うことだ。

  男は野犬狩りをしていたのだ。経験から言って服を着ているのは迷い犬だが、他人の物なら登録が確認できるはずだし、ましてや躾はしっかり行われ無礼な態度は取らないはずだ。

  さくらと知世は男の経験からでは考えられない犬なのだ。

  野良だとしたら服を着ている訳がない。迷い犬なら必ず登録されている。そうしなければ他人に登録されても口を挟めないからだ。

  いや、王族なら登録などしないかもしれない。誰も逆らえないからだ。

  そう考えれば納得がいく。王族の犬なら外の世界を知らないかもしれないからだ。もしも、王家の恩寵の厚い犬だったら貴族に取り立てられるかもしれない。

  打算が男達の脳裏をかすめる。

  ちなみに、野犬狩りで捕らえられた捨て犬や野良の運命は二つしかない。処分か再訓練。処分とは殺されるのだ。再訓練された犬は、競売にかけられて買い取られることになる。

 知世「私たちは・・・その・・・この世界の住人ではありませんわ。違う世界から迷子になってしまったのですわ」

  言いたい事を喋って大人しくなったさくらの後に知世が口を開いた。

 男「はいはい」

  男達は知世の言葉に取り付く暇もなく二人を同じエイの上に乗せ彼らのキャンプ地へと運び去った。

  砂塵を巻き上げ十枚のエイが地平線を目指して疾走するのであった。

 


解説

 ども、ひさしぶりです。

 忘れられていないでしょうか?井川 正寿です。

 今回はCCさくら。別にCCさくらである必要もない駄文ですね。削ったエピソードが随分あります。一応追記してあるので要望が多かったら付け足します。できれば追記する理由も書いてくれると嬉しい。

 例(ケロが好きだから出しなさい)でも可。別にリクエストのような形でも可。守れる自信はまったくありません。世論が知りたいだけです。

 

 1 : 下校途中に奈緒子が失踪事件の話をしてさくらを脅かす。

 長い話になりそうなので引っ張りすぎは良くないと思って削除。

 

 2 : 目覚めた後にケロちゃんの話題。(空腹にちなんだ話)

 ベタな話でキャラクターを掴めてないと判断して削除。

 

 3 : ケロ、ユエ、李のさくらが帰ってこないエライこっちゃ。

 話に絡ませると収拾がつかなくなり、エロから遠くなるので削除。李とさくらのラブラブって読みたいですか?私にそういう展開を期待されても困ります。

 

 4 : 携帯電話、魔法等を使うエピソード。

 長くなるから一行で済ませました。

 

 5 : さくらと知世の話をもう少し増やす。

 知世ちゃんのセリフ回しは難しいです。語尾に「ですわ」って表記すれば何とかなると思っていたのが間違いでした。まったく、知世らしさが出ません。もう一人は「はにゃ〜ん」と「ほえ〜」の多用でごまかし。

 

 監禁も醜作もちゃんと書いています。期待していたらメールが欲しいな。

 


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