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監禁 来栖川シスターズ 長岡志保編5
井川 正寿/文


  志保の傍に一万円が数枚、そっと置かれる。おそらく20万円はあるかと思えた。

  両穴を挿しぬかれた痛みがジンジンとして志保の疲労に拍車をかけた。とにかく、今度こそ終わったようだ。今は、何も考えないで横になっていたかった。

  ふと扉のほうを見た。

  浩之が飛び込んできて少年達をやっつけてくれるような気がした。そんな夢想をしながら志保の意識は闇に溶けていった。

  目をつぶっているのに蛍光灯の光が痛かった。志保はゴロンと横になった。

  少年達は、熱いシャワーを浴びに部屋の外に出て行った。

 

 「おきろ。おきろよ」

  ペチペチと頬をはたかれて志保の目が開いた。どうやら寝てしまったらしい。

 「いや!」

  まぶしさで半開きの視界に少年達がいた。胸を隠して、頭を抱えるに丸まった。

 「お願い・・・もう・・・やめてぇ・・・・」

  普段とは考えられない弱々しい哀願。志保に備わっていた無意味な自信は消え、臆病な小動物のように小刻みに震えていた。

 「何もしねぇよ。そこを出て突き当たりでシャワーを浴びて帰れよ。俺達はもう帰るから後は好きにしな。変えの服と下着は置いてあるから使え、それと、今度からは、この携帯で連絡するからすぐにこいよ」

  少年達は一方的に言い渡して外に出て行った。帰り際に紙を何枚かチラつかせていた。はたして写っているのは志保の陵辱されている絵だった。おそらく、手の空いていた少年の一人がデジカメで撮影したのだろう。それを出力して印刷した物だった。

  無言で悟られずにいられなかった。誰かに喋れば、ばら撒くと脅したのだろう。もっとも、志保は警察に連絡する気は無かった。とにかく、自分のベットで眠りたかった。後のことはそれから考えよう。

  だが、志保がこの夜、自分のベットで眠ることは無かった。

  のろのろと起き上がってシャワー室を目指した。貫かれた痛みで、がに股になる。ひょこひょこと歩いて、まるでカンオケのようなシャワー室に入った。ドアノブに趣味の悪い服がハンガーに掛かっていた。俗に言うボディコンスーツだ。

 「サイテーの趣味ね」

  ようやく、いつもの志保の口調に戻った。

  滝のような水音の中、不幸な少女の嗚咽を聞いたものはいなかった・・・・。

 

 「うわぁ・・・何これ、スカートみじかーい。それに胸元が開きすぎ」

  シャワーを浴びた志保は空元気を振り絞って、一人ファションショーを虚しく演じていた。

  どうやって志保のサイズを知ったか解からなかったがあつらえたようにぴったりだった。実は制服のサイズを見て買って来ただけなのだが、志保は気絶中に少年達にサイズを測られたと思って照れていた。

 「ちょっとこれは・・」

  クルっと回って背中を鏡で見れば大きく開いて背骨のラインが丸見えになっていた。あと数センチ下がればお尻が見えてしまうだろう。

  スカートもピチピチにフトモモに張りついて、少しかがんで覗かれれば丸見えになる。膝上何センチの世界では無く、股下三センチの超ミニだった。スカート言うより腰巻だった。

  胸元は大きく開いて、胸の谷間がしっかりと現れていた。自慢でもある胸がこぼれそうになっている。ブラなんて着けられなかった。志保も少年達も知らないが、こういう胸元が開いた服にはハーフカップブラジャーというのを着るのだ。

  そんなことを知らない志保は下着を取ってしまった。

 「なんかすごいエッチ・・・」

  肌に張りつくような上質な繊維は志保の凹凸をハッキリ表し、ボディラインを滑らかに見せていた。

  鏡にグラビアモデルのように悩殺ポーズをぎこちなく取って見た。

  胸を強調して見せたり、お尻を突き出して見せたりした。

  志保は少年達に乱暴されて汚された女というイメージが先行して自信を無くしていた。鏡の前で女を演じることで自信を取り戻そうとしようとしているのだ。

 「ヒロ・・・・」

  思わず口した名前は藤田 浩之の愛称だった。

 「アタシ・・・まだカワイイかな・・・やっぱ・・・あかりみたいな娘が好きなの・・・」

  鏡に向かって話しかける。当然ながら沈黙しか帰ってこない。

  志保は、やっと自分の気持ちに素直になれた。あかりの気持ちと自分の気持ち。志保は友達が多い、その中で、何でも話せるのは中学から一緒の神岸あかり一人だけだった。

  こんな目にあって自分が臆病な弱虫だったのが解かった。

  臆病だから何でも知ったフリをして注目を浴びようとしていた。自分を支えていた自信がすごく空虚なものに感じていた。

 「あかり・・・アタシ・・ヒロのこと大好きみたい・・・」

  こんなことを言えばあかりはどんな顔をするだろうか。怒るだろうか。泣くだろうか。きっと笑うに違いなかった。

  一緒にがんばろ。

  そうやって飛び切りの笑顔を見せるだろう。志保は知っていた。あかりはそんなヤツだ。優しすぎるのだ。

  その優しさが時には残酷だった。浩之は『あかり』のことが好きなのだ。ただ、自分の気持ちをはっきりしていないだけで、最後にはあかりを選ぶだろう。

  その時、一番辛いのは志保だろう。だが、志保にとって一番辛いのはあかりと浩之が自分の為に苦しむことだった。

  自分の恋心を抱きしめるように、自らを抱きしめた。

  愛しい・・・・。

  その気持ちだけで胸が一杯になった。

  ピンポーン。

  エレベーターの発着音の後にガチャガチャと装備品の音を鳴らしながら警察官が部屋に入って来た。

 「きゃあ」

  志保は思わず悲鳴を上げて、生地の薄い服を隠すように壁に後ずさった。それが、警察官に逃げるように見えたのは、勘違いと後ろめたさかもしれない。

 「ちょっと署まで来てもらいますよ」

  警察官の一人が志保を回りこむように展開する。

 「・・・・・・」

  志保は状況が把握できなかった。少なくとも自分は被害者として見てもらってはいない。鼓動が早くなる。

 「アタシ何もしていません」

  口にしてマズイと思った。まるで何かしてしまった言葉だ。

 「話は署でゆっくり聞くから」

  口ぶりこそ優しいが、身体中から発散される警官とくゆうの圧迫感は志保の抵抗の意思を挫けさせる。警察にいけば今日の事を話さなければならない。そうすれば、学校にも知れてしまうし、最悪、あのカラープリントがばら撒かれてしまう可能性だってあるのだ。

 「・・・・・・・」

  言葉が見つからない。本当のことは喋れない・・・。かといって警察官にその場しのぎのウソもつけない・・。

 「黙ってちゃ解からんだろ。さぁ、一緒に来るんだ」

  警官の一人が志保の背中を叩いて前に歩くように促す。

 「・・・・・・・」

  二、三歩、歩いただけで志保の足が止まる。やはり一緒に行くわけにはいかなかった。

  志保の様子を見て、困り顔で警官はお互いの顔を見回す。

 「ふぅー。それじゃ名前を教えてくれるかな」

  気を取り直して警官は質問した。

 「・・・・・ながおか・・・しほ・・・」

 「どういう字?」

 「・・長いに・・・岡・・・それに、志しに保つで志保・・・」

 「いくつ?」

 「・・・16」

 「じゅうろく!! 高校生でしょ。その服は派手じゃない?」

 「・・・・・・・」

  警官の驚きに志保は答えない。

 「それじゃ今、1年生?」

  志保は首を振って指を二本立てる。

 「2年生か・・。長岡さん質問にはきちんと声を出して答えて」

  少しキツイ口調で警官が言った。

 「・・・・・・・・」

  黙って首を立てに振る。

 「大事な質問だからウソをついちゃ駄目だよ。何でここにいるの?」

 「・・・・・・・・」

  答えるわけにはいかない。黙って下を向いた。

  五分、十分と淡々と時間だけが過ぎていく。

 「喋りたくないのかい?」

  散々迷って、志保は頷いた。

 「喋りにくいなら、一緒に来なさい。署まで行けば女性のお巡りさんもいるから」

  また、エレベーターの発着音。

  新たに警官が一人、背広の男が一人部屋に入って来た。背広の男は女子用の学生鞄を持っていた。

 「この鞄は誰のか解かる?」

  抱え上げた鞄は志保のヤツだった。

 「アタシのです・・・」

 「何故、自分のだと解かった。誰かを庇っているんじゃないか?」

 「・・・・・それ・・・」

  志保が指さしたのは鞄の傷だった。浩之とふざけてつけてしまった傷。

 「なるほど・・・」

  背広の男はどうやら私服の刑事のようだ。

 「鞄の中から覚醒剤が200r見つかった。署まで同行してもらう」

 「アタシ知らない・・・そんなの間違いよ・・・」

  両サイドから腕を絡み取られて志保は暴れた。

 「こら、暴れるな!!」

  怒鳴りつけられても暴れつづけた。警官にしてみれば、今まで黙っていたのも納得した。覚醒剤をばれるのを恐れて沈黙していたのだ。激しく暴れる行為は罪の告白にしか写らなかった。

  自分の立場が悪くなっていく。まるで、底なし沼にはまったように・・・。

  ガチャ。

  志保の両手首に手錠が掛けられた。

 「違う!! アタシじゃない!!信じてよ!」

  喚く志保をエレベータに乗せ、鉄の扉が閉じた。それは志保の人生を閉じてしまうように重く静かに閉まっていった。

 

  通報は信憑性のかけるイタズラだと思われていた。

 「助けてください・・・」

  若い男性の声でそれだけだった。受けた係官は理由を問いただしても助けてくれの一点張り、やもえず現場近くの交番から警官を向かわせるのに妥協した。

  着信記録から、その住所で働くカラオケボックスの店長の携帯電話から出されたものだと知れてから警察は本格的に動いた。

  最初の警官は受付けで事情を聞いてイタズラだと判断。その後の着信記録の件で、とりあえず店長の安全を確認する方針に切り替わった。警察官二人が六階の店長室に入った時には、長岡志保が真っ赤なボディコンスーツを来ていたのだ。

  とにかく、署に同行をお願いしても志保はその場を離れようとしない。職務質問しても肝心な部分を喋ろうとしない。警官は志保が事件に何らかの形で関わっていると断定した。

  この時、警官が六階の店長室に向かうのを少年の一人が目撃していた。通報した裏切り者は一人しか考えられなかった。とにかく、志保が捕まれば芋づる式で自分達も捕まってしまう。そう考えた少年達は、あの店員を拉致して、志保の鞄に覚醒剤の袋を潜りこませたのだ。

  こうしておけば志保の証言に信憑性が薄れると思ったからだ。その後、大物政治家の父親に泣きついて子飼いの刑事をカラオケボックスに送ったのだ。

  志保を犯罪者に仕立て上げるために罠を幾重にも張り巡らそうと言うのだ。

 

  あれから三日たった。

  志保は留置所の壁によりかかって呆然としていた。何を喋ったか覚えていない。親からの差し入れで着替えて、トレーナーとジーパンという姿だった。

  何を言ってもウソをつくなと怒鳴られて、何度も同じ質問を繰り返し聞かれた。朝から晩まで同じ事を繰り返し・・。

  あの店員は行方不明になっていた。それも、もはやどうでもいいらしい。家族から見放された店員の行方を気に掛ける人間は誰もいなかった。一部の人間が日本海の荒波の下で魚のエサになったことを知っていた。それで終わり。この続きは永遠に訪れないだろう。

  既に学校は退学になっていた。未成年ゆえに報道が規制され、早朝のニュースで少女Aさんとして二十秒だけ放映されて事件は世間から忘れ去られた。

  志保の罪状は十に届こうかとしていた。売春斡旋。麻薬取締り。暴行教唆・・・。これからまだまだ増えるだろう。

  現行の少年法が甘いという指摘がある。そこが勘違いであることを殆ど人は知らない。本当に罪を犯した少年にとっては確かに甘い制度に違いない。だが、無実の人間が少年法の定規で測られた時、ほぼ100%有罪になる。

  最初、犯罪の有無が行われたという調査をする検察が法廷に立てない。だから、警察の上げた調書が素通りで裁判所に行ってしまう。つまり、警察が犯人と決めたら、そいつが犯人になってしまうのである。

  その後の裁判は警察が上げた証拠を論争して罪の『重さ』を決めるのだ。この方法だと調書を書ける人間に圧力を加えることが出来れば冤罪も無罪もつくりたい放題であるのが現行の少年法である。

  さらに、未成年は名前を隠され、世間から隔絶されてしまうので、世論は決して動かない。再審制度も無いから有罪になれば児童相談所へ送致されてからは、教護院(少年院のことです)か『私立の矯正施設』に移送される。

  期間は最低で二年。

  志保の行く先は既に決まっていた。少年の一人が政治家の父に相談した時に決まっていた。

  彼女が送致されるのは『私立の矯正施設』だった。

 


解説

  うーん、説明が多すぎてエロが少ない・・・・。

  今回は、場面転機と今後の方針を決定する場面などで説明過多。ちょっと食傷気味になってしまう回ですな。これも、設定に凝りすぎて収集がつかなくなる典型になりかけているので次回は、エロテイストをふんだんに使おう。

  とってつけた設定が多すぎる(笑)

  毎日、4000字くらい書いていると行き当たりばったりが多くなります。現在、私は文脈の技量よりも表現の稚拙さに凝っています。文脈がおかしい部分もありますが、エロはやはり、表現力の勝負だと思っているので読み苦しい点をお詫びします。

  文章力には2種類あるそうで、場面の表現と文脈の整合にあるそうです。文脈は純粋に書いていれば上達するそうですが、表現力は才能というか右脳の発達具合によるそうです。ウミル様、度々ありがとうございます。

  それでは厳しい意見お待ちしております。もちろん読後の感想も・・・。

 

  少年法について、多少の薀蓄を語ったりしてまるで社会派小説みたいだ。これは『エロ』小説です。

 


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