エナSIDE
ルナ「Zzzz・・・Zzzz・・・」
あ・・・私・・・そっか・・・あのままルナちゃんと一緒に寝ちゃったんだ・・・
目を覚ますとすぐ隣にはルナちゃんの顔・・・なんだか・・・ちょっと・・・くすぐったい・・・エヘヘ・・・
何時だろ?・・・時計を見ると・・・もう、9時!
おばあちゃんに電話するの忘れた!・・・けど・・・もう、きっと先生が連絡してくれたかな?・・・おばあちゃんにしても、何時もの事って感じかも・・・
とりあえず、先生に挨拶してから帰ろっかな?
私は荷物とルナちゃんに貰ったチョコレートみたいな物体を抱えて先生の所に向かった・・・
先生は・・・あっ・・・まだ検査室に居るみたい・・・
部屋をノックしてから開けてみたら・・・居た!
エナ「先生?」
翔「・・・・・・・・・」
まだお仕事中なのかな?・・・もう9時なのに・・・顕微鏡と睨めっこしてる、
エナ「あの?・・・先生?」
返事が無かったもんだから、私は近くまで行ってから声をかけたけど・・・依然として反応無し?
エナ「先生!」
翔「うわっ?!・・・エ、エナ・・ちゃん・・・」
エナ「あ・・・ゴメンなさい・・・脅かしちゃいました?」
翔「い、嫌・・・何でも無いんだ・・・そ、それより何かな?」
?・・・気のせいかな?・・・先生、なんだか様子が・・・変?
エナ「あの・・・そろそろ帰ろうかと思ったんですが・・・家のおばあちゃんから電話とかありました?」
翔「えっ?・・・あ、嫌・・・電話は受けてないけど・・・うんっ・・・今電話してみるよ・・・」
なんだか・・・先生、・・・やっぱり・・・変!
翔「あっ・・・二ノ宮さんのお宅で・・・はい、神崎です・・・ええっ・・・来てますよ・・・はい、今から帰るそうですから・・・はい・・・今替わります」
エナ「あっ・・・おばあちゃん?・・・ゴメンね、遅くなっちゃって、今から帰るから」
おばあちゃんは気をつけて帰ってらっしゃいって言ってたけど・・・なんだか・・・先生が気になっちゃう・・・
電話が終って・・・先生が送ってくれるって行ってくれたけど・・・
エナ「先生・・・あの・・・大丈夫ですか?」
翔「・・・ああ・・・何でも無いんだ・・・何でも・・・」
・・・でも・・・その次の日ルナちゃんは学校を休んじゃいました・・・
ルナSIDE
翔「どうして・・・今頃・・・」
パパ?・・・部屋の外から・・・パパの声が聞えた・・・
ルナ「パパ?」
呼んでから・・・暫くしてパパが入ってきた・・・けど・・・なんだか浮かない顔、
翔「ルナ・・・大丈夫か?」
ルナ「えっ?・・・どしたの?パパ?」
翔「ひょっとして・・・皮疹が出ているんじゃないか?」
ルナ「・・・うん・・・ちょっとね・・・」
翔「・・・そうか・・・」
パパの顔を見ればあたしにだって判る・・・
ルナ「・・・風邪じゃ・・・ないよね?」
昨日から・・・私の躯に・・・皮疹が出始めてる・・・背中が痒いかな?・・・って思ってたら・・・それはあっと言う間に全身に広がった・・・
ルナ「・・・教えて・・・パパ」
翔「・・・輸血後GVHDだ・・・すまない・・・」
ルナ「・・・やっぱりね・・・エヘヘ・・・伊達に医者の娘やってないわよ」
・・・もしかしてって・・・思ってたけどね・・・
・・・怖いよ・・・エナ・・・とっても・・・怖い・・・
翔「私のせいだ・・・あの時・・・焦りで・・・確認を怠った・・・」
ルナ「・・・ね?・・・パパ・・・エナ・・・呼んでくれるかな?」
翔「・・・判った・・・学校まで迎えに行ってくるよ・・・」
・・・そっか・・・GVHD・・・輸血された血液のTリンパ球が生着・・・増殖して・・・あたしを異物として・・・攻撃・・・
発症してしまったら・・・治療法は・・・無い
エナSIDE
突然・・・先生が来て・・・私は半強制的に車に乗っけられちゃいました、
まだ授業中だったのにぃ〜・・・
エナ「先生?・・・どうしたんですか?」
・・・幾ら聞いても・・先生は答えてはくれなかった・・・けど・・・たった一言だけ・・・
翔「ルナに会って欲しい・・・」
エナ「・・・ルナちゃん・・・何が・・・あったんですか?」
翔「・・・ルナは・・・」
・・・けれど・・・その後・・・先生の口から漏れた言葉は・・・途中から・・・聞えなくなった・・・
だって・・・ルナちゃんが・・・死ぬなんて・・・
・・・ソンナコトアルワケナイヨ・・・
ルナSIDE
エナが居ないのはとっても寂しい・・・
いつもエナと一緒にいたいもん・・・
エナはすぐに怒る・・・すぐに泣く・・・でも・・・その後、ちょっとだけ・・・笑ってくれる・・・
エナが居て・・・あたしが居て・・・それだけで良かったんだけどな・・・でも・・もうすぐ・・・終っちゃうね・・・
コンコンってノックの後に、部屋のドアが・・・開いて・・・そこから・・・あたしの一番の人が・・・入ってきた・・・
ルナ「エヘヘ〜・・・エナァ・・・」
・・・凄く怖かった・・・けど・・・なんだか・・・エナの顔見たら・・・もうちょっとだけ・・・頑張れそう!
エナ「・・・ルナ・・・ちゃん・・・」
うぅ〜ん・・・情けない顔してるわねぇ・・・
エナ「どう・・・して?」
あたしの顔・・・さっき鏡で見たけど・・・まぁエナに見せられる様な顔じゃ無かった・・・
・・・でもね・・・やっぱ・・・会いたいもん!
ルナ「ねっ・・・こっち来て・・・ね?」
エナが・・・一歩一歩・・・歩いてきて・・・すぐそばまで・・・
ルナ「な〜によぉ・・・何泣きそうな顔してるのよぉ〜?」
エナ「だって・・・ルナちゃ・・・」
ルナ「エッヘッへ〜・・・ゴメンネ・・・やくそく・・・破っちゃいそう・・・」
エナ「・・・だって・・・それって・・・あの時の・・・」
ルナ「まぁね・・・しっかし随分ノロマよねぇ・・・半年も経ってからなんてね・・・」
あ〜あ、エナってば・・・またすぐ泣いちゃうし・・・
エナ「・・・グズッ・・・ゴメ・・・ゴメンね・・・わた・・・しの・・・グスッ」
ルナ「せいじゃないわよっ!・・・ま、パパのせいってわけでも無いけどねっ!」
・・・ホントは・・・怖いけど・・・でも、決めたんだもん!エナの前じゃ・・・笑うんだって!
エナ「・・・ヒグッ・・・だ・・・だって・・・私なんか・・・私なんか・・・助けなきゃ・・・ルナちゃ・・・」
ルナ「そしたらあたし、生きてる意味も無いもん!・・・エヘヘ・・・エナはねぇ・・・あたしの一番なんだから・・・ね?」
ふらついちゃう・・・ベットの上で躯を起こしてるだけなのに・・・
ルナ「エヘヘ・・・もうちょっとだけ・・・そばに・・・ね?」
エナがあたしの手を握りながら・・・あぁ〜あ・・・また泣いちゃった・・・
エナ「・・・ヒグッ・・ルナちゃ・・・ふぇぇ・・・」
ルナ「エナってば・・・ホント泣き虫よね・・・でも・・・泣いちゃダメ・・・ね?・・・エナは笑顔が一番可愛いんだから・・・」
エナの髪を撫でながら頬をつたう涙を拭ってから・・・エナを引き寄せた・・・
ルナ「エヘヘ・・・エナ・・・ね?・・・正真正銘・・・最後の・・・一生のお願い・・・ね?・・・」
エナ「グズッ・・・ヤ・・・ダァ・・・最・・・後・・・なんて・・・ヤダ・・よぉ・・ヒグッ・・」
ま・・・随分、勝手よねぇ・・・百合の世界に引き摺りこんどいて・・・置いてきぼり食らわすなんてね・・・でもね・・・
ルナ「ゴメンね・・・これがあたしの性分だから・・・我が侭・・・聞いて・・・ね?」
最後の・・・我が侭を・・・ね?
ルナ「エヘヘ・・・キス・・・して欲しいな・・・も一度だけでいいから・・・ね?」
エナの唇はとっても柔らかい・・・一番・・・一番大好きなエナがもう一回・・・キスしてくれたら・・・あたしは・・・それで・・・いいや・・・
ルナ「ホントはもうちょっと・・・一緒にいたかったんだけど・・・でも・・・あたし・・・それだけで充分だから・・・ね?」
だって・・・ホントに大好きな人と・・・一緒の時間を半年だけでも・・・一緒に過ごせたんだもん
・・・それ以上なんて・・・ちょっと・・・贅沢だから・・・
エナ「・・・グスッ・・・ルナちゃ・・ん・・・」
涙でグシャグシャな顔のエナの唇が・・・そっと・・・重なった・・・
ルナ「エヘヘ・・・ちょっとショッパイね・・・」
エナ「ルナ・・・ちゃん・・・」
・・・名残惜しいけど・・・もう・・・ダメかな?
ルナ「・・・・・・ありがと」
・・・でも・・・きっとあたし・・・・上手く・・・笑えたよね?・・・
エナ「ルナちゃん?・・・ルナちゃ・・ん・・・・・・・・・ヤ・・・ダ・・よぉ・・・ルナちゃん!ルナちゃん!」
遠くでエナの声が聞えたけど・・・あたしは・・・もう・・・頑張れなかった・・・
エナSIDE
ルナちゃんは・・どんなに呼びかけても・・・もう・・目を覚ますことなく・・・その十日後に・・・息を引きとった・・・
ルナちゃんは・・・私にいっぱい・・・いっぱいいろいろな物をくれたけど・・・私は・・・最後まで・・・ルナちゃんに何も・・・してあげられなかった・・・
・・・なのに・・・「ありがと」なんて・・・言わないで・・・
私の方が言うべき言葉だったのに・・・もう・・・二度と伝えられない言葉・・・
私に何が出来るの?・・・何も出来ない・・・ルナちゃんとの・・・泣かないって約束も・・・守れない・・・こんな私に・・・
・・・5年後・・・
あれからもう五年・・・私は今・・・準看護婦として、神崎医院で働いています、
ルナちゃんの部屋はそのまま・・・時々私が掃除するんだけど・・・その度、身に覚えの無い私の服や下着が引き出しの奥から出てくるのは何故なんでしょうね・・・ルナちゃんらしいけど・・・
やっと・・・午後の診察が終って・・・私はカルテを片付けると先生の所に向かった・・・
エナ「先生?・・・あの・・・今日は・・・」
翔「ああ・・・そうだね・・・準備は出来てるかな?」
エナ「・・・はい」
私達は車に乗って・・・ルナちゃんに会いに行った・・・
二月の下旬・・・雪が積もったお墓・・・
ルナちゃんのお母さんと、ルナちゃんのいるお墓・・・
エナ「久しぶりだね・・・ルナちゃん」
先生が水を汲みに行っている間に私はお花を供えながら、ちょっと周りをお掃除してあげた・・・
エナ「ゴメンね・・・ど・・しても・・・私・・・約束・・・まも・・れない・・よ・・・」
此処に来ちゃうと・・・どうしても・・・涙が・・・溢れちゃうの・・・
でも・・・ルナちゃんとの約束だから・・・
私は・・・今の私に出来る・・・精一杯の・・・笑顔を向けた!
エナ「あのね・・・私・・・赤ちゃん出来たの・・・先生との赤ちゃん・・・女の子だって・・・エヘヘ・・・名前・・・考えたんだ・・・ルナ・・・神崎ルナよ・・・いい名前でしょ?・・・私の・・・一番の人と同じ名前・・・」
あの後・・・私は・・・高校を経て・・・看護学校に通いながら神崎医院で働き出して・・・
エナ「・・・グズッ・・・や・・・やっぱり・・・私って・・・卑怯だよね・・・今度は・・・先生に・・ルナちゃんを重ねてる・・・」
可笑しいよね・・・ルナちゃんに先生を重ねてたのに・・・何時の間にか・・・先生にルナちゃんを重ねてる・・・
私は・・・弱いから・・・一人じゃ・・・立ち直れなかった・・・
ルナちゃんの信じた神様は残酷だ・・・お父さんもお母さんも・・・おばあちゃんも奪い・・・そしてルナちゃんも奪った・・・
私には・・・結局・・・何も残してくれない神様・・・
エナ「だから・・・私・・・今度は絶対・・・無くせないの・・・」
ルナちゃんとこの子は・・・同じじゃないけど・・・きっと・・・同じくらい大切・・・
でも・・・ルナちゃんは・・・いつまでも・・・私の・・・一番の恋人だから・・・ね?
エナ「・・・私・・・上手く笑えているかな?・・・ね?・・・ルナちゃん?」
泣き笑いしていた私の肩に手が掛かる・・・
振り向くと・・・ルナちゃんに・・よく似ている顔・・・
エナ「・・・先生」
翔「・・・私は・・・先生なんかじゃないよ・・・結局、大事な人は誰一人・・・救えなかった・・・」
先生が戻ってきて・・・水をかけてお線香を焚く・・・
先生もきっと・・・いろいろあったんだと思う・・・それは・・・先生の手首の傷が物語ってた・・・
神崎医院が復旧したのは極最近・・・
あの後の先生は・・・見るに堪えなかった・・・
・・・明るかった先生は・・・見る影も無かったもの・・・
・・・でも・・・きっと、ルナちゃんは・・・そんな事望んでないから・・・だから・・・私は・・・先生に・・・
只の慰めあいなのかも知れないけど・・・ルナちゃんが居なくなっても・・・そのまま生きていけるほど・・・私達は強くなかった・・・
結局・・・ルナちゃんの形見になっちゃった・・・プレゼントのサファイア・・・これはきっとルナちゃん・・・
ルナちゃんは偽りの無い人だったもの・・・
サファイアは真実を語る人・・・ルナちゃんそのもの・・・
・・・慈愛、誠実、徳望・・・
だから・・・ね?
私・・・大丈夫だから・・・
・・・また・・・明日から頑張るから・・・
今は・・・少しだけ泣かせて・・・
翔「体を冷やしてはいけないよ・・・車に戻ろう」
私は先生に支えられて・・・そして・・・先生を支えながら歩き出した・・・
・・・一瞬・・・ルナちゃんが私を呼んだような気がしたけど・・・直に風の音にかき消されてしまった・・・
エナ「それじゃ・・・またね・・・ルナちゃん」
「・・・ありがとう・・・」
終
・・・でも・・・夜に目を閉じると・・・いつも其処にはルナちゃんの顔・・・
ルナちゃんは・・・私にそっと語りかける・・・「ずっと・・・いっしょにいるよっ」って・・・
だから・・・私は・・・きっとこれからも・・・
大好きなルナちゃんと・・・いっしょに・・・生きていくんだって・・・そう・・・思えるの・・・