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螺旋―外伝―
チェシャ/文


 森の中を走る。生い茂る木々も何の障害にもならない。

 目の端に緑色の影が映る。あれは「仲間」である。同様の任務についているはずだ。

 「螺旋」という大会の選手を会場に運び、説明を施すと言う任務を。

 

 あらかじめ割り当てられた地点に到着する。肩に担いでいた女を地面に落す。

 目の前に転がる女、この「大会」の選手だ。

 忍術によって、体を拘束され、身動きすらできずにこちらを見上げている。

 何やら騒いでいるが、全く気にはならない。そんな感情はないのだから。

 女の頭を掴み、喉にクナイを押し当てる。怯えたように体を硬直させて沈黙が訪れる。

 任務に移ろう。この選手にルールを説明する。それが任務だ。

 記憶に擦り込まれた文章。意識が芽生えた時から用意されているものだ。

 

 「これから詳しい説明をする。質問は認めない。一言でも口を聞いたら即失格だ。

 まず最初に言っておく。渡されたマスターコイン、それをなくしたら失格だ。

 逆に、他の選手からコインを奪え。全員分を集めたら優勝だ。

 優勝者は人質の解放、莫大な賞金、そして他の選手一名の処遇を決められる。

 殺すも犯すも、または救うのも希望次第だ。

 

 コインを手に入れる方法は問わない。何をしても良い。反則は存在しない。

 今持っているマスターのコインを奪われたら…どうなるかはもう分かっているはずだ。

 ちなみに、コインから500mは離れると失格だ。コインを隠しておく時は気をつけろ。

 コインから500m離れた場合、選手は失格。コインは委員会が回収する。

 回収されたコインは、大会会場のどこかにランダムで配置される。

 配置の際には放送で配置場所を発表するから、好きにすると良い。

 

 しかし、コインの争奪だけではつまらない。闘ってもらう。

 誰かと遭遇して、戦意があれば交戦開始だ。どちらかが戦意を失うか、戦闘ができなくなったら終了。

 共倒れは両者敗北とする。また、もしも決着が2日間つかない場合も同様だ。

 この戦闘に限り、勝敗が決したら我々監視員が敗北者を移送のために保護する。

 コインを奪いたければ、監視員に保護されるまでに奪い取ることだ。

 

 負けた方は委員会に身柄を拘束され、24時間指示に従ってもらう。

 24時間の間、戦闘から離れる代わりにペナルティを受けてもらうことになる。

 繰り返すが、拒めば人質に害が及ぶ。受け入れるしかない。

 ちなみに、殺さない限り、どんな怪我でも治せる。安心して闘え。

 コインさえ奪われなければ、何度でも戦線に復帰できる。

 ただし、敗北ごとにペナルティは受けてもらうが…

 ちなみに、コインの獲得が3日間に一度もなかった選手は、戦闘時の敗北と同じ処分を受ける。

 このコイン獲得ができない敗北が許されるのは一回。2度目は失格だ。

 

 戦闘に勝った方は、非戦闘区域で治療、入浴、食事など安息を与える。

 戦闘に勝利した場合は12時間。誰かを失格させた場合は24時間の滞在が許される。

 食事については1日3回支給する。足りなかったり、紛失した場合は自分で調達しろ。

 

 …不満なようだが、もし拒めば、人質に代わりになってもらう。

 それが嫌なら、がんばることだな。逃げ場はない。希望は勝つことだけだ。

 

 一人で闘うのが嫌なら、同盟を組めば良い。誰か一人とだけ共闘することが許されている。

 共闘者とはコインの共有が可能だ。自分が奪われそうになったら、共闘者に託すという手もある。

 同盟の結成は、我々監視員が受諾する。いつも近くから監視しているから、好きな場所に向って宣誓すれば良い。

 ただし、同盟の結成は二人揃っていなければできない。

 逆に同盟の解除はどちらか一方の申し出で成立する。裏切りには気をつけることだ。

 

 脱走や反逆は失格となる。

 それ以外は、どんなことをしても許される。殺人は困るがな。

 正面から闘う必要も、正々堂々と殴りあう必要もない。

 どんな手段を用いても、どんな戦い方をしても構わない。

 戦意さえあれば、相手から逃げて奇襲することも可能だ。

 我々は戦意を感じ取ることが出来る。

 

 武器の使用は自由。ドラゴンに乗る者もいる。魔法を使える選手もいる。

 ただし、この島では魔法の基となるエネルギーがそれほど強く満ちていない。

 魔法の使用自体は可能だが、魔法の威力は落ちるし、かなりの制限を受けている。

 

 選手は実に多様だ。だが、言語に関しては心配いらない。

 身柄を確保した後、食事に混ぜておいた物質が翻訳を可能にしている。

 原理は全く謎ではあるが…」

 

 長い長い時間をかけ、ようやく説明を終えた。

 女は不安に満ちた顔をしている。

 

 「まだ闘いへの恐怖があるか?いや、それはないな。

 我々には分かる。これから出会う闘いへの期待に満ちていることが…

 仮に戦いを望まないとしても敵は多い。闘わずにコインだけを奪うことも不可能ではないが…」

 

 まだ不安を浮かべる女。内面には闘志が満ちていると言うのに…

 もっとも、不安は自分の行く末についてだけだろう。

 そればかりは、我々にはどうすることもできない。

 

 「どうなるかは分かっているはずだ。優勝以外に道はない。全員が逃げる場を断たれ、追い込まれている。

 全選手の中のたった一人だけが解放される。状況は変わらない。

 そんな中でどうするかは自分で決めろ。大会中の命だけは我々が保証する。

 あと5分もすれば、拘束は解ける。では、健闘を祈る。」

 

 女を残して姿を隠す。というっても、穏行を使い、茂みに隠れただけである。

 もっもと、我々に「気配」というものはない。音をたてず、姿を隠せば、存在は消えたも同然だ。

 もぞもぞと動く女を監視する。今度の任務はこれだ。この選手を監視すること。

 感情はないが、ふと考えがよぎる。

 茂みに隠れ、もぞもぞと動く女を見つめる自分の姿…「間抜け」と言うのはこう言うことではないだろうか?

 感情のない自分には、分かりかねることだった。

 

 終

 


解説

 大会のルール説明が曖昧で、ご迷惑をおかけしたため、説明文を作ってみました。

といっても、大差はないのですが…

 初めて一人称に挑戦いましたが、よりによって「量産型不知火」(笑)

 感情のないキャラの一人称ってアリなんでしょうか?(笑)

 

 大会について、ご質問がありましたら受付けますので、お気軽にどうぞ。

 ただし、ご自分でルールを良く理解し、他の書き込み状況を見てからにしてくださいね。

 同じ質問を何度も答える無駄は省きたいもので…

 


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