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願い事
フラッグマン/文


  七月も半ばになり、学校が夏休みに近づいていったある日の夜。

  宮城県仙台市のあるマンションにて・・・

 「はぁい、永倉でぇ〜す!・・・って、わぁ〜い!ダーリン!」

  お風呂から出てきて、今まで録画していたオカルト関係の番組をベットに転がりながら見ようとしていた時、脇に置いてある電話の子機が鳴り響く

  父はまだ帰宅していないし母は入浴中であるため、自分がテレビのリモコンから手を離して子機から電話に出た。

  その先から聞こえてくるのは、えみるが「運命の人」と信じて疑わない彼の声。

  彼女は彼を「ダーリン」と呼んでいた。

 「えみる!久しぶり!元気にしてた?」

 「ブー!元気にしてた?じゃないよぉ・・・いつダーリンから電話が来るのか、えみりゅん、ずっと待っていたのに」

 「ごめんごめん。最近はバイトとかが色々忙しくて、連絡する時間もなかったんだよ」

 「そんなの関係ないもん!・・・えみりゅん、ずっと寂しかったんだからね。」

  受話器を耳に当てながらブゥーッと膨れるえみる。

  彼には彼女の表情を伝える事は出来ないが、たとえ電話であれ感情による表情変化が激しいのはえみるらしいと言えるかもしれない。

 「本当にごめん!あ、でも・・・今度の8月に一日だけ休みが取れそうなんだ。その日にえみるに会いに行こうと思うんだけど・・・」

  彼は自宅の周辺でバイトをしている。

  ほぼ毎日バイトをしており、夏も暇ができることなど殆どない。

 「えっ・・・?仙台に来てくれるの?」

 「もちろんだよ!今までえみるを寂しがらせてしまったからね」

 「わぁ〜い!わぁ〜い!えみりゅん嬉しいりゅん!またダーリンに会えるんだね」

  ベットの上に腰掛けていた彼女は勢いよく立ち上がり、ピョンピョン跳ねることで喜びを表した。

  それほどまでにえみるにとって彼とである事は大いなる喜びなのだ。

 「それで、ダーリンの休みはいつ頃取れそうなの?」

 「多分、8月6日ぐらいじゃないかな・・・?その一日だけ休みを貰えるらしいんだ。まったく、人を何だと思っているんだ・・・」

 「ねえ、ねえ!じゃ、8月6日は仙台で七夕祭があるんだよ〜!それに行こうよダーリン!」

 「七夕か・・・仙台にいた時も結局、七夕には行けなかったからな。」

 「だから、行こう、行こう!」

 「分かったよ。じゃ、今度の8月6日はえみると七夕だね。楽しみにしているよ」

 「うん!絶対だよぉ!『8月6日はえみりゅんと七夕』って覚えておいてね〜!約束だよ!」

 「じゃ、8月6日に仙台で・・・じゃ、そろそろ・・・」

 「絶対に絶対だからね!」

 「約束するよ。じゃ、えみる・・・・おやすみ」

 「おやすみりゅん!ダーリン・・・」

 

  回線が切れてツーツーという音が聞こえてくるまで、えみるは子機を置こうとはしなかった。

  そして子機を置いた途端、えみるはベットに倒れ込み、力強くヒヨコのように見える丸い人形ビッコちゃんを抱きしめる。

 「ビッコちゃん聞いて!今度ダーリンと七夕に行ける事になったんだよ!最高に嬉しいよ!」

  ビッコちゃんを自らの胸に押し付け、ハキハキとした声で語りかけるえみる。

  今まで自分の愚痴や嬉しい事をたくさん聞いてくれたビッコちゃんだが、今日ほどビッコちゃんに楽しく語りかける事が出来るのは彼と再会した時だろう。

  最近は嬉しい事ばかりをビッコちゃんに聞いて貰える事が出来て、えみるは心底喜んでいた。

 「昔一緒だった頃、結局ダーリンとは七夕一回も一緒には行けなかったからね〜・・・ダーリンも仙台の七夕を一回も見たことはないみたいだし〜・・・」

  その時、えみるの目がキラリン!と輝いたかと思うとビッコちゃんを抱え上げる。

 「そうだ!ダーリンは七夕が初めてなのだから、えみりゅんがリードしてあげなきゃ!ダーリンに仙台の七夕がいかなるものか教えてあげるんだりゅん!ね、ビッコちゃん!」

  うんうんと自ら納得し、ビッコちゃんに自分の決心を教えた。

 「そうと決まれば早速、明日から色々と準備しなくちゃね〜!」

  えみるはビッコちゃんを傍らに寝かせて自らもタオルケットを羽織る。

 「明日からはいそがしくなるりゅん!早く寝なくちゃね・・・」

  せっかく、最愛の人と七夕祭に行く事ができるのだから・・・

  色々と準備して最高の七夕祭を彼と一緒に体験したかった

 

  そして、彼女はせっかく録画したオカルト番組を再生することなく眠りにつく事になった

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

  それからのえみるはある意味、彼女らしくない行動をとっている。

  行きつけの本屋で探す本はオカルトの本ではなく夏の風物詩である浴衣を特集したファッション誌や仙台七夕のスポットを徹底研究した本に変化した。

  さらに今までのピンクの子供っぽい浴衣の代わりに買ってきたファッション視にあった灰桜色基調とした浴衣を購入したいと考えるようになる。

  だが、自分の財政事情を鑑みるとおいそれと手を出す事が出来ず、しかたなく誕生日プレゼントとして親に望んでいた「怪奇!インターチャネルの七不思議」という本を諦めることで浴衣購入費を援助してもらうことになった。

  更に入念な現地視察など等、彼女はそのエネルギーを全て彼と過ごす七夕に向けて投入していく。

  全ては「ダーリンとの最高の七夕を経験する!」と言う自分の欲求のために。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

  そして8月6日の七夕祭当日の夕方。

  えみるは母に浴衣の着付けを手伝ってもらい浴衣に着替えたが、時間が余っていたため自室で暇を持て余していた。

  彼女の両親は既に古くからの友達と会うために出掛けていたため、今、家に残っているのは自分一人である。

 「ふみゅ〜ん・・・暇だよ・・・」

  一番の難所であると思っていた浴衣の着付けは母の助けで難なく済んだし、既に彼女の念入りな調査で得た情報を元に組み立てた「えみりゅんの仙台七夕攻略ガイド」は頭の中に入っている。

  準備万端の状態でえみるは出発の時間を待っていたが、なにぶん、暇である。

  何か暇つぶしをするべく部屋の中を見渡す。

  その視線に自分の部屋に飾った七夕飾りが目に入る。

  彼女は小さい頃から七夕の時には自分の部屋に笹を置き、飾りをつけて七夕を祝っていた。

 「そうだ!まだ今年の願い事は書いていなかったりゅん!」

  今年は色々な準備に追われ、毎年恒例の短冊に願い事を書く事についてはすっかり失念していたえみる。

 「はぅ〜う!急いで何か書かなきゃ!」

  急いで忘れていた彦星に願う事を書こうとするえみるであったが、いざとなると書く内容が思いつかない。

  今まではさして悩む事がなく、願い事がかけたのだが・・・

 

 (そう言えば、今までは何をお願いしていたのかな・・・?)

  自分の記憶を辿るえみる。

  そして記憶を探し当てた途端、えみるの顔は赤みを帯びる。

 (そうだったりゅん・・・えみりゅんのお願いはいつも一緒だったんだ〜・・・)

  そう、いつも短冊に託す願いは同じだった。

  途中で途切れた時間は戻る事を願う想い・・・

  いつも彼女はそれを毎年毎年短冊に書き込んでいった。 

 (でも、毎年、短冊にお願いしたおかげで、やっとその願いは叶ったんだよね・・・だから、こうしてダーリンとデートをする事が出来るんだよね・・・)

  えみるはオカルトとか占いを信じているため、比較的七夕の時の短冊に願いことに対する信頼も他の人よりも厚い。

  だからこそ、えみるは自分が切に願う気持ちを短冊に当てて来たのだ。

  そして、前の願いは叶えられた。

  次に望む事は・・・

 

 

 「・・・これでよしりゅん!さあ行こうっと!」

  短冊に新たなる願いを書いたえみるは彼の待つ仙台駅へと向かうべく、自宅を後にした。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

  仙台駅は既に七夕祭に参加するために集まった人々で溢れ返っていた。

  8月6日から8日にかけて、仙台駅西口から七夕飾りが町を受け尽くす一番町四丁目商店街、そして七夕パレードが行われる定禅寺通りは多くの人々で埋め尽くされる。

  えみるはJR仙台駅と地下鉄仙台駅との間にある青葉通りの百貨店VIVREに向かった。

  新幹線で仙台に来る彼との待ち合わせ場所に駅ではなくそのデパートを選んだの、駅では七夕に向かう人達に遮られしまうからだ。

  VIVRE正面の道路の脇に植えられている並木の一つの下で彼はえみるを待っていた。

  彼はいつも誰かと待ち合わせの時には30分以上先に待ち合わせ場所に行くよう心掛けている。

  今回の待ち合わせ時間である午後4時半であったが、4時には仙台についていた。

  そんな彼に遅れること30分、えみるはこの場所に到達した。

 

 「わぁ〜い!みっつけたー!ダーリン!!」

  彼の姿を見つけたえみるは大声を上げて走ってきた。

  彼は自分を独特の名称で呼ぶ彼女を振り返って手を振る。

 「えみる!ここだよ!」

 「ごめんね、少し遅れちゃったりゅん!」

 「そんなことはないよ。俺が早く来ただけだから」

 「そうだったね。ダーリンっていつもえみりゅんより先に待っているんだもんね」

  駅から少し離れているとは言っても、周囲はやはり多くの七夕を見に来た人々でごった返していた。

  その中を掻き分けて走ってきたえみるの額にはうっすらと汗が浮んでいる。

 「ほら・・・ハンカチ・・・」

 「・・・えっ?」

 「えみるの額、汗が光っているよ」

 「ええっ〜!せっかくお化粧で決めてきたのにぃ〜」

  頬に手を当てて、乱れたファンデーションを悲しむえみるであったが、彼には逆にえみるのそんな仕草がとても可愛く見える。

 「どうしよう〜!せっかくダーリンと一緒だから今までよりも丁寧に仕上げてきたのにぃ〜!」

 「大丈夫だよ。気にしない、気にしない・・・」

 「でも、ダーリン!」

 「えみるは化粧なんてしなくても、とても可愛いんだから・・・」

 「・・・・・・・・・」

  化粧が乱れた事に対する怒りも彼の何気ない一言の前に霞んでしまう。

  えみるの顔を赤く染めていた怒りは恥ずかしさの赤みへと変化した。

  さすがのえみるも自分が顔がとても赤くなっている事に気づき、そんな自分をまじまじと彼に見つめられているのが恥ずかしかった。

 

  えみるは恥ずかしいさを紛らわすためだろうか?彼の手をとって走り始めた。

 「お、おい・・・えみる・・・?」

 「ダーリン!早く行こうりゅん!もうそろそろパレードが始まるんだから!」

  えみるは自分の小さな体を弾ませながら、彼の体を引っ張っていく。

  多くの人たちの合間を走り抜けていく二人。

  まだ、やっと仙台の空は赤みを帯びてきたばかりだった。

 

 

 

 「こっちだよダーリン!」

 「こら!えみる・・・この人だかりを早く走っちゃ・・・」

 「平気だりゅん!」

  本来は幻想的なオブジェが天井を飾っているアーケード街クリスロードだが、今は七夕飾りでその天井を窺う事は出来ない。

  アーケードの下を多くの人達が歩き、まるで人の川と言った様相であった。

  その中を掻き分けていくえみるは彼の手をとって掻き分けながら進んでいく。

  大はしゃぎしながら、自分の手を引いていくえみるに彼は注意の声を上げたが、彼女の耳には届かない。

  えみるは今、彼と七夕に行けた事に大きな喜びを感じているのだ。

  彼女にとって七夕とは家族や女友達で行くものだった。

  だが、今年は違う。

  最愛のダーリンと仙台が誇るイベント、七夕を見る事が出来るのだ。

  大きな喜びに包まれていたえみるは文字通り浮かれていたといえるだろう。

  逆にその事が彼女の注意力を散漫とさせていた。

 

 

 

  それは二人がクリスロードを抜け、東ニ番丁通りからマーブルロードのアーケードに入ろうとした時だった。

  二番丁通りと向い側のクリスロードから多くの人が集中していたため混雑していたのだが、えみるは彼の手を引いたままその中に割り込もうとした。

  だが、多くの人だかりにそこはあたかも満員電車のようになっていた。

 「えみる・・・!」

 「あううぅぅ・・・きゃあっ!」

  短い悲鳴と共にえみるの体が群衆の中に飲み込まれてしまう。

  不規則になっていた人の流れに強引の分け入った二人は前後左右から人の波に飲み込まれる事になってしまった。

  彼は何とか踏ん張ったが、えみるの方は体の小ささが災いして圧力に耐え切れずに群集に飲み込まれてしまう。

 「えみる!」

 「ダーリン!!」

  えみるは必死に手を伸ばす。

  彼はその手を握る事に成功して必死にえみるを手繰り寄せた。

 「うきゃうっ!?痛っ!」

  彼女の短い悲鳴が喧騒の中から聞き取れた。

  少し強引だが、えみるの腰を掴んで体を持ち上げた彼はそのまま彼女を担いで群衆の中から抜け出すべく外に向って進み始めた。

 

 「大丈夫か?えみる・・・」

 「い、痛い・・・・」

  何とか群衆を抜けて落ち着いた所に出る事が出来た二人。

  えみるは浴衣を気にせず地面に座り込み、左足首のあたりに手を当てている。

  顔が赤くなっている所を見ると相当な痛みを感じているだろうが、えみるは歯を食いしばって耐えているようだ。

 「えみる・・・足が痛む?」

 「うん・・・・ちょっとだけ・・・えへっ、でも大丈夫りゅん・・・」

 「そんな訳ないだろう・・・見せてみろ・・・」

 「あっ・・・」

  彼は屈んでえみるの足首を診たが、やはり明らかな痛みをえみるは感じている。

 「挫いているみたいだ・・・これは早く治療しないと・・・」

 「大丈夫だよ・・・」

 「な訳ないだろ!これじゃ、七夕はむりだよ・・・一回、えみるの家に戻ろう・・・」

  それは妥当な提案であったが、相手の反応は激しかった。

 

 「ダメだよ!絶対に七夕を見るの!」

 「何を言っているんだよ・・・こんな足じゃ歩くことも出来ないだろう?」

 「だって、だって・・・せっかくダーリン、東京からはるばる七夕見に来てくれたのに・・・こんな事で台無しにするわけにはいかないよ〜!」

  そう言って立ち上がろうとするえみるだが、足の痛みが邪魔して上手く立ち上がれない。

  ふらふらとするえみるの体を彼は支えた。

 「えみる・・・」

  一言えみるの名を呟いた彼は一呼吸置くと、彼女の体を両手で持ち上げた。

  そのまま、彼女を抱きかかえ、再び自分達が歩いてきた道を向き直る。

 「ちょっと!ダーリン!?」

 「ほらほら・・・怪我人は静かにしているの・・・」

 「きゃっ!ダーリン〜!」

 「静かにしてろって・・・俺がおんぶしていってやるからさ・・・」

 「だから!ダーリンと一緒に七夕を・・・」

 「嫌だよ。俺は・・・えみるが痛い思いをしながら自分が楽しもうだなんて思わないよ」

 「でも・・・」

 「でもはなし・・・さ、帰ろう・・・」

  半ば強引にえみるを背負う彼。

  さすがのえみるも大人しくそれに従った。

 (はぁ・・・・・・えみるってなんてダメなんだろう・・・)

 

 

 

 「ごめんね・・・ダーリン・・・」

 「気にしない、気にしない・・・」

 「・・・・・・うん・・・」

  人の流れとは逆に彼らはえみるの自宅への帰路についていた。

  浴衣を着た少女を背負って歩く彼の存在に、七夕をに沸き立つ人々は奇異の視線を向けたが、彼はそれを気にする事はなかった。

  人の流れを抜け、えみるへの自宅への道を急ぐ。

  えみるの住むマンションは仙台から離れた郊外にあり、そこにたどり着くまでに二人は川原の土手を進んでいった。

  空は夕日が沈み、暗闇に衣を変えている。

  しかし遠くには七夕で湧く町の光が見え、その喧騒が耳に届いていた。

  それがえみるにとって気を静める原因にもなっているのだが・・・

 

 「ダーリン・・・怒っているよね?」

 「何が・・・?」

 「せっかくの七夕なのに・・・えみりゅんが怪我したばっかりにたのしむことができなくなっちゃって・・・本当にごめんなさい・・・」

  いつものえみるらしくなく、声には豁達さも明るさもない。

  彼の顔は背負われているえみるには分からない事が今の彼女には不安の要因の一つでもあった。

  だが、彼の声はあくまで優しい。

 「えみる・・・何度も言っているけど、気にしないで・・・事故なんだから仕方がないからさ」

 「でも・・・」

 「さっきも言ったろ・・・えみるの足がこんな状態なのに七夕を行くわけには行かないよ・・・・」

 「・・・・・・りゅん・・・」

 「それに俺はえみると一緒にいられれば良いんだから・・・」

 「・・・えっ?」

  落ち込んでいたえみるの声が妙に裏返ったものになってしまう。

 「俺は七夕を見に来たんじゃないよ。えみるに会いに来たんだ。だから、えみると一緒にいられれば何でもいいよ・・・」

 「・・・・・・・・・」

  あのえみるでも返答に困る事を平然と言ってのける彼はさすがと言うべきかも知れない。

  だが、これが彼の飾らぬ本心であった。

  彼が仙台に興味があるのは、えみるの住む土地だからである。

  えみると共に七夕を見たかったのだ。

  七夕に行くためにえみるを誘ったのではなかった。

 

  途端に静かになる二人・・・

  彼の想いを込めた言葉に混乱するえみる。

  自分の想いを表に出し、恥ずかしさに苛まれる彼。

  表現できない緊張と思考の果て、二人を沈黙が支配した。

 

  その後、二人は一言も口を聞かないまま、えみるのマンションへと到着した。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 

 「これでよしと・・・」

 「ごめんね・・・ダーリン・・・」

  えみるの自宅に到着して早々、彼はえみるの家に常備されている救急箱の中身を使って彼女の足を治療した。

  彼女をベットに腰掛けさせ、湿布を貼り、テーピングで固定していく。

  湿布の涼しげな感触が彼女には気持ち良かった。

 

 「・・・・・・本当にごめんね・・・」

  一息ついた後、もう一度口に出して彼に謝るえみる。

  「気にするなよ・・・さっきも言っただろう?」

 「うん・・・そうだけど・・・」

  彼自身も口調に張りがあるわけではない。

  間接的な表現とは言え、自分の本心を曝け出したのだから。

  またも、二人の間に緊張と沈黙が走る。

 

 「お、俺・・・何か飲み物でも持ってくるよ。喉が乾いただろう・・・?」

  先に沈黙を破ろうとしたのは彼の方だった。

  無意味に明るい声を出して平静を装うとする。

 「あ、えみりゅんがするよー!ダーリンはここで待っていてよ」

  えみるは逆に自分が行おうとし、立ち上がろうとした。

 

 「あ・・・きゃあ・・・」

 その瞬間、彼女はバランスを崩した。

 それはそうだろう。彼女は足を怪我しているのだから。

 まるで小石に躓いたように倒れこむえみるの先には彼の姿が・・・

 

 「うわ!?」

 立ち上がろうとしていた彼にはえみるを支える事はできず、お互いに折り重なるように床に倒れこんだ。

 「ううっ・・・ごめんりゅん・・・ダーリン・・・・!?」

 度重なる自分の不祥事にえみるは顔を赤らめながら誤ろうとしたが、顔を上げた途端、固まってしまった。

 当然だろう、相手の息遣いが聞こえるほどの目の前に彼の顔があるのだから。

 彼もえみるの顔が目前にあるのに、固まっていた。

 お互いにここまで急接近した事は今まで無かったのだから当然だろう。

 

 (ダーリン・・・の顔がすぐ目の前に・・・)

  今まで愛して止まなかった人の顔が目前にある。

  せつなさに潰れそうになるほど愛した人がすぐ目の前にいる。

  彼女の脳裏に先ほどの彼の言葉が蘇る。

 

 「俺は七夕を見に来たんじゃないよ。えみるに会いに来たんだ。だから、えみると一緒にいられれば何でもいいよ・・・」

 

 (ダーリン・・・それがダーリンの気持ちなんだよね?えみると一緒にいたいって思ってくれるんだよね・・・?)

  彼を目前にして、彼女は自分の中で問いかけをした。

  そして、自分の気持ちを・・・

 (えみるもね・・・ダーリンの事・・・・・・)

 

  自分になにが起きたのか分からないといった表情だった。

  だが、しばらくして気づいた。

  自分がえみるからキスされた事を・・・

  温かく、柔らかいえみるの唇。

  驚きが過ぎ去った後には、心地良さが心を支配していった。

 

  彼女はしばらく彼の唇を奪った後、ついに告白した

 

 「・・・えみるね・・・ダーリンの事が・・・好き・・・」

 

 「・・・・・・俺も好きだよ・・・」

 

  えみるの精一杯の気持ち。

  それに彼も自分の素直で飾らない気持ちを改めて伝えた。

  彼の迷わない返事がすぐに返ってきたとことに戸惑いはしたが、素直に喜んだ。

 

 「ずっと好きだったんだよ・・・あの公園で再会した時から・・・」

 

 「・・・ああ、俺もえみるの事が好きなんだ。いつも、いつも・・・えみるの笑顔が・・・忘れられなくて・・・」

 

 「嬉しい・・・嬉しいりゅん!」

 

  想いが伝わり合ったえみるは涙を流しながら喜んだ。

  そして、再び二人は熱いキスを交わす。

  そのキスが濃いものに変わるまでさしたる時間は掛からなかった・・・

 

 

 

 「・・・ダーリン・・・ダーリン・・・」

 「えみる・・えみる・・・」

  互いの名を呼びながら濃厚なキスを交し合う二人。

  時々、唇を離してはうわ言の様に相手の名前を呼ぶ。

 「ダーリン・・・ひゃん!」

  そして、その動きに変化が訪れた。

  えみるにキスをしながら彼の手が後ろに回った半幅帯の結び目を捉えた。

  両手を使って帯を解いていく。

  その間、えみるはキスに酔いしれているかのように彼の唇を離そうとはしなかった。

  彼の手がえみるの浴衣を這いまわり、ついには半幅帯と腰紐を解いてしまう。

  衿先から二つに開け、彼女の黄色のキャミソールが控えめに姿を見せる。

  今まで形が整えられていた浴衣が崩れ、彼女の幼げな清らかさとは裏腹に欲情を誘う色気を放ち始めた。

  その間、散々互いの唇と舌を貪った二人はどちらかとも無く顔を離し始める。

  えみるの表情はまるで真夏の暑き夜を過ごしたかのように、眠気眼になったような潤んだ瞳と熱にうなされたかのような赤くなった顔色をしていた。

 「・・・ダーリン・・・優しくしてね・・・」

  えみるらしくない細く消えてしまいそうな声。

  えみるの緊張と未知の体験に対する恐れを感じ取った後、彼は少しでも彼女に優しくしようと決意し、しっかりと頷いたのだった。

 

 

 「・・・ひゃふん・・・・・・・」

  えみるの体がビクビクと震える。

  甘美な電流が彼女の体を駆け巡っているからだ。

  えみるの浴衣を完全に二つに割り、彼女の下着を露にした。

  可愛らしい黄色のキャミソールにフレアパンツという可愛らしい組み合わせだ。

  それが男の目前に晒され、執拗な愛撫を受けていた。

  黄色の布地の上から彼女の小さな膨らみを優しく摩り、指に力を入れて弾力を楽しむ。

  えみるは未知の快感に翻弄されつつも熱くなっていく体に戸惑っていた。

  だが、彼の手が自分を着実に熱くさせていくことは理解していた、いや、なんとなく分かった。

 

  彼の手がキャミの内側に滑り込んだかと思うと、それを上へとずらして彼女の局部を露にした。

 「!?・・・・やん!」

  自分の誰にも見せたことない丘の頂が外気に晒される感触とまじまじと異性に見つめられる感触に震えてしまう。

  一方、彼女の胸を露出させた張本人も緊張に心臓が高鳴る。

  えみるには失礼な話かも知れないが、彼の頭の中では彼女の女性らしい部分についての想像がし難かった。

  幼き頃・・・そう、初めて出会った小学4年生の時、えみるのキャラクターに圧倒されて、彼女の異性としての部分に興味抱く事はなかった。

  だが、お互いに高校生となり、再びあの思い出の公園で再会した時、昔の面影を残しながらも見違えるほど可愛く、いや、美しくなったえみるに心奪われた。

  えみるを本当の意味で異性と感じたのは、この再会の際が初めてかもしれない。

 

  恐る恐る胸に手を添えてみると、それだけでえみるの体はビクっと過剰と思えるほど反応する。

  直接見比べた事はないが他の女性よりも小さく見える・・・が、手に感じた凶悪と形容できるほどの柔らかさは彼の頭にかかった桃色の靄を更に厚くさせる。

  その指から感じる感触を更に求めて優しく揉みしだく。

 「だ、だめだよっ!・・・ダーリン・・・い、はあ・・・」

  初めての愛撫にえみるは悲鳴に似た声を上げるが、体の中を突き抜けていった初めての刺激に自分でも妙と思えてしまう声を上げてしまった。

  一回、二回と彼の指がえみるの柔肌に食い込む度に彼女は震え、そして声を上げる。

  何度も掻き回すように胸を弄んだ彼の手は、しばらくすると、その頂のピンクの突起に狙いを移した。

  既に、僅かに固くなり、存在を強調し始めている。

  それを指でつまんでみるとまるで電流を体に流されたかのようにえみるは跳ねた。

 「ダーリン・・・変だよ・・・・んはっ!」

  愛撫が自らの体に変調をもたらしている事を伝えようとしたが、彼はそれに答える前に別の愛撫に、口を使っての愛撫に移っていた。

  右の乳房をまるで子供がソフトクリームを楽しむかのように舐め上げる。

  彼の両手はそれぞれの乳房を揉み、左手は二本の指で乳首を挟み、弄る。

  そんな彼の責めは本当にゆっくりだが強くなっていき、えみるは翻弄され続ける。

 「あん・・・胸が・・・ダーリンに・・・そんな・・・口に含むなんて・・・ああ!」

  彼の口はしばらく胸に唾液の螺旋を描いた後、乳首を口に含んだ。

  口の中で唇と舌を使って彼女のそれをたっぷりと堪能し、感じさせていく。

  交互に左右の頂を責めると、徐々に喘ぎ声が大きくなっていった。

 

 

 「はぁ・・・・はぁ・・・体がとっても熱くなるんだね・・・」

  しばらく胸を責めた彼の手が止まると、しばらくえみるは熱い吐息を繰り返し、そして言葉を出した。

  彼女も知識として、そして僅かな慰めの経験から胸を愛される際の刺激のことは知っていたが、それでも異性に・・・それも大好きな青年に愛されるとここまで昂ぶってしまうのかと考えてしまう。

 「えみるは胸でとっても乱れちゃうんだね・・・」

 「えっ?そ、そんなことないよ!普通だりゅん!」

  彼の言葉を自分の胸は普通じゃないと指摘している、という風に取ったのだろうか?顔を真っ赤にして反論するえみる。

  しかし、彼は優しくえみるのサラサラした髪に手を当て、その感触を楽しみながら言った。

 「でも、とっても乱れていたよ・・・顔を赤くして・・・体が震えて・・・そして声を上げて・・・」

 「も、もう!ダ〜リン!」

  えみるの膨れた表情で彼を見たが、彼は笑いながらも優しい笑顔を返す。

 「でも、とっても可愛い・・・えみるの感じている時の顔も声も・・・全部がとっても可愛くて・・・嬉しいよ・・・」

 「嬉しい・・・の?」

 「だって、俺の手で・・・えみるが感じてくれて、可愛い声を上げてくれるんだから・・・えみるを愛する事ができる、本当に愛し合えているっていう実感が湧く事が出来て・・・」

 「・・・ダーリン・・・」

 「えみる・・・何度も言うよ。愛している・・・うっ」

  彼の「愛している」という言葉にえみるは咄嗟に彼の唇を奪った。

  素直なえみるのストレートな表現・・・

  彼女にとっては自分の彼への想いに素直に答えた結果でしかなかった。

  そしてキスの後に言葉は続いた。

 「えみりゅんも大好きだよ・・・ダーリン・・・あの小学生の時に出会ったときから世界中の誰よりも・・・」

  黙って頷き、今度は自分からえみるにキスをする。

  今までの唇を合わせるだけではない、互いの舌を絡ませ、口内を貪りあう。

  それは二人が本当の意味で相手を求め合い始めた事を証明する行為なのだろうか・・・?

  ただ、舌を絡ませ合う度に鳴る卑猥で湿った音が二人の欲情を煽っていた。

 

 

 「・・・ダーリン!うあぁっ!す、すごいよぅ〜・・・!!」

  男の手がえみるの全身を愛撫する。

  彼はえみるの体に覆い被さり、左手と口はコンビを組んでえみるの胸を、そして右手はえみるの下半身へと伸びて下着の上から女性の部分を愛撫していた。

  最初は思わず足を閉じて手の進入を阻んでしまったが、それでも彼の手が優しく太腿やお尻をマッサージするように摩ると緊張が解けたのか、彼に対してその部分を開放していった。

  彼の指がショーツの布地に触れると既にうっすらと濡れているのが分かる。

  ゆっくりと、というよりも恐る恐る指を這わせていたが、彼女の反応は大きかった。

  既に燃え上がっていた彼女のそれは僅かな指の動きに過敏と思えるほど反応した。

 

  胸と秘部への二点に対する愛撫でえみるは自分の体を制御できなくなったと錯覚させるほど昂ぶらせていた。

 「はふ・・・あ、ああんっ!・・・ひゃあぁぁ・・・」

  感極まるえみるの声はあくまで弱々しかった。

  自分でもおかしいと思えるほど、いつもらしくない自分。

 「・・・!?やん!」

  彼の指はいつのまにかショーツの横へとずらして彼女の中を直に触れていた。

  自分の誰にも触れられた事がない部分を触れられ、助成の大切な部分に初めて侵入した事に二人は一瞬、硬直してしまった。

  数瞬の硬直は彼の指が再び動き出した事によって解かれた。

  彼女の熱く濡れた花園の淵をなぞる指。

  彼の動悸はこれ以上ないほど高鳴っていたが、えみるの高鳴りはそれをはるかに超えるものだった。

  緊張と気恥ずかしさと体の熱で息も絶え絶えになっているえみる。

  だが、そんなえみるを更に燃え上がらせるために指を動かした。

  まるでえみるの全てを知り尽くそうとして蠢く指は着実に彼女の中への進入を試みていた。

  ゆっくりと、熱い襞を掻き分けながら入っていく・・・

 「ううぅ・・・入ってくるよ・・・ダーリンの指が・・」

  眉をしかめるえみるの表情からは興奮と圧迫感を受けていることが見て取れる。

  彼も彼女の熱いクリームのような感触に酔いしれていたが、逆にこれほど狭い場所に自分のモノが入るかどうか不安をを覚えた。

  既に彼女の痴態を見た自分のモノがこれ以上ないほど大きくなっている。

  いつもは見慣れている自分の怒張が彼女の花を見てからだとなぜか大きく見えてしまう。

  だからと言って、彼は最終的な結びつきを欲して彼女を慣らし、燃え上がらせるべく愛撫を続けていった。

 

 「ダーリン・・・ダーリン!!ちょっと待って・・・指を止めてりゅん!おかしくなっちゃうよ〜!!」

  えみるのめくるめく快感に受け続ける事に恐怖した。

  快感そのものに対することではない、自分の痴態がエスカレートする様子を彼に見られることに改めて恥ずかしさという名の恐怖を抱いているのだ。

  それほど自分の乱れる様が尋常ではないと自分では思っていた。

  だが、彼は指の動きを止めることなく、さらに激しく彼女を責め立てた。

  その動きはえみるに痛みを与えはしたが、同時に強すぎる疼きが彼女の脳髄に突き刺さる。

  段々と高まるえみるの体・・・

  もう、えみるの体は十分に受け入れる準備ができていたと言えるだろう。

 「ハァ・・・ひゃあぁぁぁ・・・・」

  最後に奥深くまで指を一突きさせた後、えみるの中から指をゆっくりと抜く。

 「・・・はううぅぅ・・・」

  自分の中から指が抜かれる感覚にえみるは声をあげながら、同時に今まで自分をかき回していたその指を潤んだ瞳で見つめる。

  べとべとに濡れた指・・・それは自らのどれだけ蜜であそこをぬらしているかの証明だった。

  えみるが横になっている体勢ながらも自分の引き抜いた指を見つめていることに彼は気づき、えみるの前に持っていく。

 「ほら・・・えみるのここはこんなに・・・」

 「・・・これがえみりゅんの・・・・・・・・!?・・・いや、恥ずかしいりゅん!」

  目の前に差し出された指を一旦は凝視したえみるであったが、しばらくすると顔を赤らめて横を向いてしまった。

  いつも以上に濡れている自分の体にえみるは興味があったのだろうが、いざ、目の前に差し出されるとさすがに羞恥が興味を凌駕するのだろう。

 「えみる・・・」

 そんなえみるの仕草に苦笑しながらも、彼は体を起こしてえみるを見つめた。

  えみるも彼を見つめ、二人の視線が交差する。

  二人とも、既に十分すぎるほど準備が整っていることは分かっていた。

  あとは最後の確認をし合うだけだった。

 「・・・お願い・・・ダーリン・・・」

  その言葉に彼は無言で頷いた。

 

 

  彼はえみるの足を割って、間にも間に体を潜り込ませた。

  既に互いの体を覆うものは何もない。

  そして、互いの距離はゼロに等しい。

  自分のモノがえみるの中に入る・・・

  ついに彼と結ばれることができる・・・

  二人は興奮状態だったが、どこか感無量な気持ちが心に広がっていた。

 

  ゆっくりとえみるの花に自分を押し当てていく彼の動きをえみるは目を閉じながらも感じていたが、既に彼女は体のぐったりとさせ、彼に全てを委ねていた。

  彼もえみるが無防備な姿を晒す勇気に応えようとした。

  彼が生唾を飲み、えみるはベットのシーツを握り締める力が強くなる。

  今、二人は初めて一つになろうとしていた・・・

 

 

  だが、二人の初めては決して形が良いものにはならなかった・・・

 「ひぐっ!?い、痛い!!」

  彼が僅かに侵入をした途端、えみるは体を弓なりにして痙攣を起こした。

  快感に体震えているわけではない、彼女のそれは男を向かい入れる事に悲鳴を上げているのだ。

  確かに、初めての時は激痛が走るというが、彼女の苦痛の声は明らかに度を越しているように見える。

 「え、えみる!」

  彼の背中に一筋の冷気が差し込んできた。

  自分のそれは確かにえみるの中ほどまで入っているが、とても窮屈に、いや、まるで拒むような硬さでそれを受け止めていた。

  確かにえみるのそこは十分すぎるほど潤い、向かいいれる準備は万全であった。

  だが、個人差の範疇で彼女のそこはあまりに狭く、彼のモノを受け入れるのは容易な事ではなかったのだ。

  えみるは苦痛に涙し、彼はパニックに陥った。

  互いに初体験同士である。

  こういう問題に直面して、落ち着けるほどの器量は持ち合わせてはいなかった。

  どうしよう・・・どうしよう・・・と心の中で言葉だけは浮かぶが、その言葉はただ連呼されるだけで、答えを出してはくれない。

  決して、結ばれると言う事は簡単なことではなかった。

 

 「おねがい・・・ダーリン・・・気にしなくて良いから進んでよ・・・」

  息も絶え絶えという形容が似合うような声をえみるは出していた。

  頭の中が真っ白であった彼がえみるの言葉を理解するのに少し間があった。

 「でも、えみる・・・今のえみる・・・とても痛いんじゃ・・・」

 「・・・平気・・・だよ・・・・え、えへ・・・大丈夫だりゅん・・・えみりゅんの初めての証をダーリンが貰ってよ・・・」

  精一杯の彼女の努力が彼には分かっていた。

  いつもの自分らしい言葉遣いで、いつもの陽気な笑顔を作って彼を安心させようとする彼女の努力が・・・

  だからこそ辛い・・・

  自分の辛さを我慢してまで、自分との結びつきを優先してくれる彼女の健気さが・・・

  もしくは、そこまで自分に初めてを捧げたいと思うほど自分を愛してくれる彼女の気持ちが・・・

 

 「・・・痛かったら・・・ちゃんと言うんだぞ・・・」

 「うん・・・うぅ・・・」

  ゆっくりと挿入を再開した。

  彼女の膣内に強引に楔を打ち込むかのように突き進む彼。

  動くたびに彼女の口からは苦痛の声が、体はビクビクと震えた。

  彼女の乙女の証まであとほんの少しの距離だが、今の二人にはとても長く感じる。

  まるで永遠と思えるかのように・・・

 

 「ひ・・・ううぅ!・・・くうぅ・・・」

  彼女の声が痛みを訴えている。

  彼女は今、体が引き裂かれるような思いをしていた。

  彼もそれが分かっていたため、どうしようか一生懸命に考えていた。

  むしろ、ゆっくり進むより、一気にいった方が彼女の痛みも僅かで済むのではないか?

  ゆっくり進んでも痛みを感じるなら、せめて、その痛みを早く終わらせてあげたいと彼は考えた。

 「えみる・・・・痛いかもしれないけど・・・一気に行くよ・・・」

 「・・・あく・・うん・・・うん!・・・ダーリンに任せるよ・・・」

  恐らくは彼女の頭は彼のいた言葉を完全には理解してないであろう。

  それでもえみるは彼に信頼を寄せ、彼に全てを任せようとしている。

  それを尊重しなければならなかった。

 

  一旦、勢いをつけるために僅かに引き抜かれる彼。

  引き抜く動きだけでも肉が擦れ合い、えみるは痛がる。

  その姿が痛々しい・・・

 「いくよ・・・えみる・・・」

  一瞬、動きが静止した時に彼はえみるに問いかけ、彼女はそれに頷いた。

  それを見た彼は一呼吸を置いてから、一気に腰を突き出したのだった・・・

 

  ・・・何かを破ったというより、引き裂いたといった感触であった。

  「きゃあああううぅぅぅ・・・っ!!」

  えみるの悲壮な声、悲鳴といってもいいだろう・・・

  あまりにえみるの表情と声は普段の彼女の笑顔と声からは想像できないものであった。

  結合部を見ると、血が流れ出しているのが見えてしまう。

  自分がえみるの処女を奪ったことを確認したが、同時にえみるに耐えがたい苦痛を与えたことも・・・

  本当は喜ぶべきことなのだろうが、少なくとも彼は素直に喜んではいなかった。

  確かにえみると繋がる事ができたのは至上の喜びであったが、そのために彼女が涙するのは我慢できなかった。

  今になって、彼女の明るい声、笑顔がどれだけ貴重なものであったか・・・よく分かる。

  そしてそれが自分の最も欲していたものだという事が・・・

 

 「・・・ううっ・・・ダ・・・リン・・・動いて良いよ・・・」

  えみるの言葉で自己の世界から現実の彼女の痛みに歪んだ表情の現実へと戻される。

  精一杯、痛みを抑えて笑顔を作ろうとするえみる。

  いや、彼女は心底喜んでいることには違いなかった。

  自分だってそうなのだから・・・

  だが、それにしてはえみるの初めては苦痛に満ちたものだった。

  それが自分には苦しかった。

  そして・・・

 

 「・・・!?・・・・・・・・・どうして・・・?」

  信じられない・・・という表情をえみるは見せた。

  それもそのはずだ。

  彼はえみるの中からゆっくりと自分を抜きさったのだから。

  せっかくの痛みを押して、大好きな彼と結ばれたというのに・・・

 

  だが、そんな驚愕の表情をするえみるの唇を彼は優しく奪う。

 「!?・・・う・・・」

  一瞬でえみるの頭を真っ白にするキスの効果。

  口を塞がれ、彼に投げかけようとした言葉も忘れてしまうような錯覚に襲われる。

  このまま、この心地よさに身を委ねたいと言う欲求に駆られながら・・・

 

  そして、長いキスが終わり、彼は再びえみると向き合う。

 「俺・・・嬉しかった。えみると一つになれて・・・」

 「・・・えみるも嬉しかったよ。ようやくダーリンと一緒になれたんだから・・・それなのに・・・どうして・・・?」

 「・・・だって、えみる・・・とても痛そうだったから・・・」

 「そ、そんなこと・・・えみりゅんの事気にしないでくれていいのに・・・」

 「・・・・・・・いや、気にしないわけには行かないよ・・・俺にとって一番耐えられないのはえみるが涙を流すことだよ。そして一番大切なものはえみるの笑顔だって・・・」

 「・・・ダーリン・・・」

 「最初から無理をすることは無いよ。今日、俺はえみると一つになれる事ができただけでも嬉しいから。俺たちは恋人同士なんだから・・・これから一つずつそういう事を解決していけばいいじゃないか?俺たちはこれからなんだからさ・・・」

  二人の関係は始まったばかりだ。

  まだ、これからも未来があるのだ。

  その中で今日のような問題を解決していけばいい・・・

  それを彼はえみるに諭そうとした。

 

  えみるは彼が自分の事を考えて、中断してくれたことは嬉しかった。

  確かに、体を引き裂かれるような痛みを感じていた。

  そして、これからの事を解決していこうと言ってくれる。

  今だけじゃない、これからも関係が続く事を改めて教えてくれたのだから。

 

 (でも・・・えみりゅんね・・・ダーリンに喜んで欲しかったんだよ・・・)

  自分の体で彼に喜んでもらいたいと言う彼女なりの気持ちの体現は果たされなかった。

  その残念な想いは別の形でえみるに行動を促した・・・

 

 「ダーリン・・・これ・・・」

 「な、何を・・・?」

   思わず彼の声が裏返ったものになった。

   それもそのはず、いきなりえみるの手が彼のそそり立ったものに添えられたのだから。

   優しく撫でるような動きで手が動く。

   えみるの蜜と破瓜の血でべっとり濡れていたが、えみるが触れた途端に彼はビクンと震える。

   確かに彼はえみるの中を堪能する事は諦めたが、燃え上がった体はそう簡単に抑えられるはずは無い。

  それがえみるの手に過敏に反応したのだった。

  「ごめんね・・・えみりゅんのために我慢してくれて・・・でも、ダーリンにはえみりゅんで気持ち良くなって欲しかったんだよ」

  段々とえみるの手の動きが激しくなる。

  優しいが僅かに荒々しい・・・そういう感じだ。

  その手の動きにさらに彼は硬さを強め、大きくなっていく。

 

 「せめて・・・ダーリンだけでも気持ち良くなって・・・」

 

  えみるは彼の体の下から抜け出して逆に彼をゆっくりとベットの上に押し倒した。

  そんなえみるの動きに彼が戸惑っている間に彼女は更に信じられない行動に出た。

  彼にモノをマジマジと見つめたかと思うと、それを口に含んだのだった。

 「ううっ!?」

  彼の悦の入った声がえみるの部屋に鈍く響く。

  とても柔らかく、暖かい存在が彼の性感帯を包んだのだから、感じない訳が無い。

  しかも、特に想いを寄せる相手にされたのだから・・・

 

  えみるにとっても勇気を必要とする行動であったであろう。

  本当は自分の中で彼には自分を感じて欲しかったが、自分の体はそれを許すほど成熟し切れてはいなかった。

  そんな自分が恨めしかったが、そこで止まってはいけない。

  何かで自分の気持ちを表現しなくてはならない。

  自分がどれだけ「ダーリン」を愛しているかを・・・

 

  ねっとりとした舌が、口内が彼を包み、愛撫する。

  えみるは嫌悪感を覚えていないわけではないが、それでも一心不乱に口と舌を動かした。

 (ダーリンは・・・我慢してくれたんだよ・・・それなのにえみりゅんが何もしないなんてしちゃいけない・・・だから、頑張らなきゃ・・・)

  彼女は自分なりの知識と発想で口を動かす。

  動きは決して滑らかではなかったが、それでも懸命に唇と舌を動かしてみる。

  ビクンビクンと彼は震え、特に舌が彼の竿の裏筋を舐め上げると彼は激しく反応することが分かった。

  とりあえず感じているらしいので、さらに舌で彼を責めてみる。

 

 「ううっ・・・え、えみる・・・」

  男の喘ぎと言うのはこういうものか・・・?と妙に感心しながら、えみるは口を使い続ける。

  彼は抵抗したいと言う気でもなく、全てを任せると言う気でもなく、ただ、えみるに成すがままにされている。

  何も考えられない、ただ頭の中が真っ白になっていく・・・

  すこぶる快感がぞわぞわと高まっていくのがおぼろげにも分かった。

 

  えみるも自分の口の中で彼が更に固く、大きくなっていく。

  このまま大きくなっていくのかな・・・?という妙な考えを抱きながらえみるは奉仕を続ける。

  そして彼も彼女の一心不乱な行為に、自分の中で熱きものが込み上げてくるのを感じた。

  もちろん、彼は自分が限界へと近づいている事がおぼろげに分かっていた。

  もう、達してしまうのかと自分では恥じたが、初めてなら致し方ないことだろう。

  とにかく、彼はこの状況で自分を抑えられるほどできてはいなかった。

  なら、素直になろう・・・

  彼女の想いに自分の想いを吐き出そう。

 

 「うぅぅ・・・ん・・・」

 「・・・えみる・・・うう、えみる!」

  その時、えみるの喉の限界まで彼が打ち込まれてきた。

  えみるは思わずむせ返りそうになったが、それを受け止めた。

  刹那、彼が脈動したかと思うと、彼の白い想いがえみるの喉の叩きつけられた。

  「うううぅぅーーー!?」

  熱く、むせ返るような想いを彼女は懸命に受け止めようとした。

  しかし、初めての彼女には全てを受け止める事はできず、思わず咳き込み、彼と放たれたものを吐き出してしまった。

  口の端から零れる白きそれが、えみるの顔を妖しく染めたのであった・・・

  その姿に彼は欲情を、そして愛おしさ更に膨らませたのだった。

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

  二人はその後、一緒にシャワーを浴びる事にした。

  共に浴室へと入り、お互いの体を流し合う二人。

  その手の動きが愛撫へと変化するまで、さほど時はかからず、浴室で湯気に囲まれながら再び体を貪り合った。

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 

  熱いシャワーの中で体が気だるくなるまで愛し合った後、ついに二人の至福の時間は終わりを告げる。

 「じゃ・・・俺、東京に帰るよ・・・」

 「・・・・・・うん・・・」

 

  彼は今夜の夜行で東京に直行し、その足でバイトに行く事になっていた。

  その事は了解済みであったが、やはり、このまま別れる事にえみるは寂しさを隠せないのであろう。

  もちろん、彼とて彼女と別れるのは辛かった。

  それでも、今までとは違う気持ちで別れる事ができる。

 

  二人はどちらともなく顔を近づけ、そして唇を合わせ合う。

  もう、今までのように秘めたる想いを胸にやるせない気持ちで別れる事はない。

  恋人同士として、またの再開を期待して相手を見送ることができる。

  寂しくないと言ったら嘘だが、今はそれより、次に再会する時に喜びを期待することができる。

  えみるも彼も同じ気持ちであったが、彼女の方はちょっとだけ相手が同じ気持ちであるかどうか心配であったが、彼のキスはそんな心配を霧消させる。

  心地良い熱が二人の結びを証明しているかさえ感じる・・・

 

 

 「また・・・仙台に来てね・・・」

 

 「ああ、帰ってくるよ・・・この仙台に・・・お前のいるところに・・・」

 

  二人の七夕はこうして終わりを告げた。

 

 

 

 

  いまだに窓の外からは打ち上げ花火の情緒豊かな音が聞こえる。

  その音から仙台は喧騒に包まれている事が肌から伝わるようだ。

  えみるは窓のそばにあるベットに座り込みながら、その音に聞き入り、そして夜空を見上げる。

  天の川が視界を埋め尽くす夜空を・・・

 

 「・・・ダーリン・・・ちゃんと東京行きの電車に乗れたかな・・・?」

  彼が東京へと帰り、一人寂しく残されたえみるは彼の事を考えていた。

  しかし、その顔は寂しさに満ちたものではない。

  今の彼女はせつなさに身を焦がすことなく、あくまで温かい気持ちを宿す事ができる。

  自分がこんな絆を彼との間に結ぶ事がで来たのは本当に幸せ・・・と彼女は思っていた。

 

 (でも・・・本当に叶うんだね・・・お願いって・・・)

  彼女はふと、自分の部屋に飾られた七夕飾りに目をやった。

  自分の願いを込めた短冊を・・・

 

  『ダーリンと恋人同士になれますように!』と・・・

 

 終

 


解説

 フラッグマンです。今回、DDD二周年企画ということで私も参加させていただきました。

 私の担当はなんと永倉えみる(大汗)

 センチキャラの中で一番電波な女の子です(笑)

 

 軽い気持ちで受けたえみる担当ですが、書いてみると苦難苦難の連続でした。

 とにかく、今までFEばっか書いていたので(笑)他のネタを書くと言う事そのものに慣れていませんでしたから、何かと詰まる事が多かったです。

 そして、えみるちゃんと言うキャラクターに翻弄され続けました(涙)

 そんな状態で書いた小説ですから「えみるらしくない」「Hじゃない」という意見もあるでしょうが、何とぞご容赦を。

 

 それでは読んで頂いてありがとうございました。

 失礼します。

 



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