読み方が難しいかもしれませんがご自由に捉えていただければと。
真ん中が台詞、両サイドがそれぞれ視点の出来事です。






Side A
Side other
男の声はどんどん遠くなる
真実などほしくなかった
心が衝撃を与えられたジクソーパズルのように


回る、廻る、周り、何が、どれが、嘘、偽、贋、真、誠、丹、震える、奮え、篩える、戻る、 引き返す、過去が、得た物が、せり上がる、食物、こみ上げる、思い、想い、重い、喉に、咽に、 来るは、繰るは、郭、己のみ、のみ?、飲み、こめない、奴が、八が、一人の、命だと、めい、盟、名、冥、明謎鳴瞑迷、 ………………迷う、だって?、何に、名に、煮、似、ない、認め、れない、なんで、なんて、

惨め







ああ、あれはいつの年だっただろうか。だが悲しいかな、月日は覚えてしまっている。 そうあれは、何年か前の――――













「……何してんの?」



あまりに自然に溶け込んでいてなかなかに気づかなかった。 全体的に白に近い色をした笹塚が気付いた時、その男は笹塚の財布を漁っていた。 あまりに堂々としていた。真昼間の犯行の容疑者である男は肌以外は何処までも黒く。 自分のもののように、人の財布を手に納めていた。色彩で言えば笹塚とこの男は全くの正反対だ。 顔に傷があり、どう見ても表社会では浮いた存在を持っている。 だがどことなく雰囲気は双方とも似ているとも言える。だからかもしれない




早乙女は近くにいた白っぽい男がぼんやりとしていそうだったのでなんとはなしに財布を盗んだ。 この男が刑事であろうことは雰囲気が物語っている。財布の中は多くも少なくもないがやけに千円札が目立った。 金を数えるのが面倒なのだろう、万札で支払ってばかりだからこうなる。 まぁ、早乙女も人の事はいえないのだが。 早乙女は金を盗むのを後回しにし、男(しかも刑事だろう)の情報を盗もうと免許証を取り出した。 するとさっきの声が聞こえたのだ。振り向いた男は早乙女と似た雰囲気を持っていた。だからかもしれない





――今日お前誕生日か

「そういえばそう」

――俺もだ

――さっきお前から産まれたんだし



こんな言葉を鵜呑みにしたのは





こんな嘘を付けたのは。


いや他にも原因はあるだろう。 黒い男はあまりに驚くほど笹塚の近くにいたのだから。家の付近で会うだけなら笹塚も嘘で済ませられたはずだ。 だがあまりにあの黒い男を変則的に見かけてしまう。 やたら会うなと思っていた笹塚に真実という名の嘘への思い込み、 その決定打を与えたのは職場で目撃してしまったからであろうか。 黒い男を。思わずもう一人の自分説を信じそうになったが、あまりに有り得ぬ事態故、まだ笹塚は信じきらない。 笹塚は自身を落ち着かせるためにトイレに向かう。これがいけなかったのか。




早乙女は男の空きを作るため、嘘をついたはずだ。その日はうまく切り抜けた。 だがその後、あまりに驚くほどたまたま出会うことが何度もあった。 早乙女は自身が裏のさらにその裏で行っているビジネスが警察に掴まれているのかと思うほどだった。 それだったらこんなにも堂々と目撃できないだろうが。 そんなことが続いたある日だった。 吾代のバカが何かしらの事件に遭遇したらしく見目が見目故、警察に拘留され軽く容疑者扱いをされてるとのことでイライラしながら早乙女は警察を訪れた。 入った途端の居心地の悪さったらない。喉がイガイガし、鼻がムズムズする。 早乙女は間違いなく警察アレルギーを持っている。鼻を咬みたくてトイレに向かう。 吾代の事は二の次だ。個室でトイレットペーパーをふんだんに使って鼻を咬んだ。 どうせこれも税金だ、っと早乙女個人は消費税ぐらいしか払ってないにもかかわらず金の出どころに舌打ちした。 個室のドアを開けると洗面台に顔を近付けた、よく見知ってしまった男がいた。


―――よぅ




笹塚が顔を洗う。目が覚めるように目を覚ますように。 なのに、かけられた声に顔を上げると黒い男と鏡越しに目が合う。 男は個室トイレの扉にもたれながら、音が出そうなほどニヤリと笑った。 確かに雰囲気は己と似てる。だが一つ一つは全くの逆だと笹塚はすでに思い込んでいた。




気付いたら声をかけていた。早乙女はこの男が嘘か真かわからないが左右どっちつかずな物腰が嫌いではない。 振り向いた笹塚を見て、己の逆を作り上げたらきっとこうなるのだとも考えた。 早乙女はこの男とのどっちつかずで矛盾を抱えた言葉遊びを楽しみたくなったのだろう。




「……どうして」

――だってお前の分身だから

「……じゃあお前は」

――お前だよ

「お前は俺……?」

―――そうだぜ、笹塚

「なら、表の俺の裏はお前……?」

――ああ

「……じゃあなんでこの憎しみは消えてないんだ?」

――気持ちまで分離すると?

「違うのか?」

―――じゃあその憎しみを味あわせろよ




お世辞にも綺麗だなんて言えないトイレの個室で笹塚は黒い男と熱の交換をした。 甘くだなんて表現には程遠いがっついたキスをした。 歯同士が当たる音がし、そこから痺れが生まれ、それさえも一種のプレイと受け入れた。 口内を男の舌が噛もうとしているようだと、あくまで笹塚は心の中で第三者を気取った。 キスをしたまま、お互いの手がお互いのベルトを外しだす。 こんなことをしてお互いに何を獲れるのか笹塚は考えることを止めた。男の手が笹塚の後ろにまわる。


熱を生み出す行為のはずがいつまでたっても生温い感覚が存在し続ける。確かに快感は生まれている。 そこで早乙女は笹塚の低い体温に気付く。だからといってどうともしないのだが。 こんなことで男の持つ憎しみを己のものに出来るとも思えない。そう、ただの儀式だ。 ベルトに延びてきた手を薄目で見ながら早乙女は心で笑った。 笹塚のことはちょっと掘り下げただけで多くの情報を得た。 刑事も刑事自身の情報もこんな手薄でいいのかと笑った。自分の後ろの穴は自分の利益を得るために早乙女は使う。 こんなチャチな儀式には使いたくない。早乙女の手が笹塚の後ろにまわる。


「………え、つっ、こむ気…?」

―――わりぃか?

「……オナんのにそっち使うほど、飢えてない」

――ははっそうかよ


笹塚が男を己だと認めた瞬間だった。


早乙女が男を、ある意味己ではないかと疑った瞬間だった。


笹塚はそれから男との自慰行為を度々行った。突っ込みも突っ込まれもした。 男は己から生まれたのだからと笹塚は男を衛士と呼んだ。 笹塚の家に衛士が入り浸っても笹塚は何も言わず、二人分の食費にすら何の疑問も抱かなかった。 人が2人いれば誰しも何かしらの共通点を持っているものだ。 衛士との共通点を見つける度、笹塚はやはり己だと何度も確認してしまう。 そうすることで深みにはまった。








早乙女はそれから笹塚の家に度々上がり込んだ。 笹塚の窓が一つだけいつも開けっ放しなのにたまたま気付いたため、 そこから勝手にあがりこみ笹塚の部屋のソファーで寝るのが日常的になっていった。 笹塚の前で早乙女は笹塚が作り出した幻覚という設定を装おうともしなかった。 なのに笹塚は信じきっているようで早乙女が人間的な三大欲求を満たしている姿を見ても何も思ってないようだった。 あまりに笹塚が信じているので、早乙女は度々どっちが嘘かわからなくなることがあったが、考えるのはやめた。 笹塚の前では早乙女も自身が笹塚の幻覚だと信じるようになってしまった。





7.20の日には男がケーキを買ってきた。初対面から一年立った。 こんな甘いものを同じ生の男と食べたのは初めてだった。お互いの生誕を祝ってるような空気はまるでなかったが。


7.20の日が来たことで早乙女は笹塚と出会ってから一年立ったことに気付いた。 まぁ深い意味も考えず一応建て前ではお互いの誕生日でもあるのでケーキを買ってみた。 似合わないと一人早乙女は呟いた。たまには、と玄関から入ったら笹塚は既に家にいた。 ケーキを見せた瞬間笹塚はどこか驚き怯えた顔をした。早乙女は笹塚の過去を軽く知っている。 だから傷を抉る真似はしない、そんな趣味もない。 早乙女が気付いた時には笹塚は早乙女を自身の下の名で呼ぶようになっていた。もはや末期だ。笹塚は縋るような声で早乙女を呼ぶ。


「衛士、」


――あ?




「何でもない」








だが、それからしばらくして、いきなり衛士は消えた。 あまりにも突然だったが、笹塚は特に何も思わなかった。 ああ、元に戻ったとしか思わなかったのだ。己が笹塚衛士に戻っただけだと。


そんなある日のことだった。早乙女が殺されたのは。


そして何気なく毎日を生きていた笹塚の前に吾代という男が現れた。 事件を介して会っただけだったら何も起きない関係だ。そう何も起きなかった。吾代と街中で偶然会うまでは。


早乙女が死んでからただでさえ激動の人生を生きてた早乙女の弟分である吾代はかなりの短期間に波乱万丈な生活をおくった。 そして何の因果か笹塚という男と出会う。事件を介して会っただけだったら何も起きずにいれた関係だ。 そう何も。笹塚と街中で偶然会うまでは。


会った2人は言い合いのような言葉遊びをした。いつものように。 もはや恒例行事とも呼べる事柄に、笹塚自身もよく飽きないなと感じていた。 だがいつもと違うことが1つ、吾代の口から飛び出した社長という言葉。


会った2人は言い合いのような言葉遊びをした。いつものように。 吾代は心の中で社長の匂いを笹塚からかぎとったのか、笹塚と話すと言い合う言葉で知らず甘えてしまっていた。 だからかもしれない。社長の話をしたくなったのは。
「社長が生きてたらこんなことには――」

「社長って望月さんだろ?」

「んなわけあるか!あんな奴じゃねぇ。もっと男くさくてかっけー人だ。ほら、これが社長な。」


そう言って差し出された写真を笹塚は見てしまった。笹塚の脈が大きく音を立てて流れる。


吾代は大事にパスケースにしまっている写真を笹塚に見せた。笹塚の様子が変わったことに吾代は気付かない。


「俺がバイクで事故って地面に倒れてたら、記念だとか何とか言って他の奴らと一緒に記念撮影しやがった。 こっちは死にかけてんのによう。救急車とか先に呼べよな。見ろよ、この社長の顔。 どんだけ嬉しそうなんだよ。俺頭から血出てんだぜ?でもこれしか社長の写真ねぇんだよな。」

レアだぜレア。


笹塚の耳には最後までは聞こえなかった。 笹塚の頭は過去の映像と吾代の言葉がぐるぐるとまわっている。何が嘘で、何が真か頭で回るがわかりたくない。 笹塚には恐れていることがあった。他人に深入りすることを極端に恐れていた。 あの男は己のはず、だがどうだ。この写真は明らかにあの男が1人の命として生きた証ではないか! その恐れをすでにしてしまっていた可能性に直面したからか、体がカタカタ震え、せり上がる食物と過去の映像が気持ち悪い。 そこから引き出された思いが重たくのしかかる。喉にこみ上げた液体を感じ、震える手で口と喉をそれぞれおさえる。 男は一つの命として存在し、名を持ち、謎なことに笹塚に近付き、盟を結んだように当たり前にいたということは明らかだ。 だが迷う。まだ曖昧でいたい。
なんで
認めないといけない。
認められない。
認めたくない。
認めない。
認めれない。


笹塚の様子を見ないまま吾代は嬉しそうに話した。頭の中では社長の顔がまわる。 社長はいつも音が出そうな笑みをしていた。吾代は何もかもを真実と受け止めれる強さを持っている。 嘘だと思っても起きてることは起きてることだから真実だと考えている。 これもあの探偵と助手のおかげなのかもしれない。社長との思い出をこれ以上この男に話す必要もない。 たまにポロポロと社長の思い出をこぼしたくなる時がある。 こぼしたからと言って減るわけではないが減りそうで、社長のことは話したくない。 だが、話さないなら話さないで社長がいた事実が消えてしまいそうでこうやって話すのだ。 吾代がこぼした先である男を見ると男の様子が明らかにおかしい。 吾代はあまりの状況変化についていけず、おいと言った口はただ開け閉めされるだけで終わった。 この男は何に怯え震え口を押さえている?なんで?社長の写真を見たから?なぜ?社長を知っているのか? この男は社長の何を知り何に怯える?なぜ、なぜ、なぜ?この男と社長の繋がりを
なぜ
認めないといけない。
認められない。
認めたくない。
ないないないないないないないない!なんて


こんな簡単な事ができないなんて


なんて


惨め







なにを


恐れている









そこで笹塚の意識は崩れた。出会った誕生日まではまだ遠い日のことだった。



笹塚のからだが目の前で崩れ落ち笹塚はそのまま意識を失った。思わず受け止めたが、吾代もただただ立ち尽くし続けた。





「あんたに先に出会えば良かった」


そう言った笹塚が伸ばした手を吾代が掴んでしまうのは例の誕生日に遠くはないある日だった。









読みにくくてすいません。一度挑戦してみたかったのです。
綱渡りのようなすぐに壊れてしまうような関係の國笹國が好きなんです。
落ちも弱いですがこの2人とネウロと弥子ちゃんに巻き込まれる吾代は確実に苦労人ですね。
誕生日ぐらい幸せにしてやれよと言われそうですね。全て仄暗い感じになってますね…
ちなみに2年前に打っていたものでした。せめて更新しろよ(笑)。
見てくださりありがとうございました。



2009.8.25(加筆、修正2011.4.16)






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