紫のほのかに香る想い花




ゴロリと畳の上に横になり、仙蔵は天井を見上げた。
何も思う事もなく、ただ天井を見上げた。
板一つ一つの線を、かつて大木であったであろう木々の年輪を見つめていた。

「十五・・・か」

大雑把に数え上げたその年輪は今の自分と同じ。
この年で刈られ、加工され、忍たま長屋の自分の部屋の天井板になるとは思いもつかなかったであろう
かつての木に、仙蔵は思った。

――― 災難だったな。

それでもこの若さで死ぬという事は虚しく、仙蔵は目を伏せた。
自分ももしかしたらこの年で死ぬかもしれない。
直ぐではなくとも近いうちに。

「でも、せめて三十は越えたいなぁ〜」

思わず口に出た言葉に仙蔵は口の端を持ち上げた。
ふわりと入り込んだ風につられて、仙蔵は目を開いた。
部屋の入口を見やれば、外は秋真っ盛り。
夏のあの瑞々しい緑の葉っぱが、今は赤く影をつけていた。
風に吹かれ一枚、また一枚と自分の役目を終えた葉っぱが舞い落ちた。

静かな時間だと思った。

授業を終え、みんながそれぞれ遊びに行ったりとしている中、自分一人部屋へと戻ってきた。
いつも一緒に居る悪友達も恐らく外へと出て行ったのであろう。
まあ、あの心優しい青年だけは今頃事務室へと足を運んでいるであろうが。

そこまで考えてふとあの不器用な友人、いや恋人を思い出した。

『好き』と言った訳ではない。
『好き』とも言われた事も無い。
いつも傍にいて、無口な彼の体温を感じながら、彼の不器用なまでの優しさを知って惹かれたのは自分。
なら彼は何故私と一緒に居るのだろうか?
彼からは一言も言われた事は無い。
むしろそんな事思っているのかさえ分からない。
でも、互いに肌と肌を重ねあい、粘膜と粘膜を擦り合わせるかのようにして貪る口付け。
触れる彼の肌はとても熱く、それでいて心地良いものだ。
身体を滑る彼の手は、不器用な性格が表れていてぎこちない。
それでも優しく、優しく身体の隅々まで覆ってくれた。

仙蔵はソッと自分の口元に触れた。
彼が何度も何度も口付け、触れた箇所。

「今頃、図書室で寝てるかもな・・・」

安易に想像できる愛しい恋人の姿に仙蔵は苦笑を漏らした。

外ではまだ、赤い葉っぱが風に揺られて舞い落ちている。
仙蔵は体を起こすと縁側へと出た。
青く、それでも夏よりは近く感じる空を見上げ、ふと何かを思いつき微笑んだ。
まだ寒いという季節ではないのだが、肌寒い午後。
仙蔵は縁側から外へと飛び出した。





午前の授業を終え、クラスの奴らの殆どが学園の外へと慌しく飛び出して行った。
いつも一緒に居る悪友達も、今回ばかりはバラバラだ。
小平太と文次郎は外へ団子を食べに出かけ、伊作はいつものように事務室へと向かって行った。
何が一体楽しいのか検討もつかない、というより考えたく無いだけなのだが。
図書室の奥へと入って行った長次は、日当たりの良い場所へと腰を落ち着かせた。
当番でもないのにココに寝にくるのはどうやら長次だけらしく、今日の当番である久作はため息は吐き
つつも無視無言を通した。まあ言っても聞かないせいでもあるのだが・・・。
秋の陽光は、夏の陽光と違い優しい暖かさがある。
少し埃っぽいのは仕方ないとしても、充分睡眠を貪れる。
長次はほんの少しだけ窓を開いた。
冷たい風が暖かい風に惹かれ、室内を駆け巡った。
それを肌で感じた長次はふと、一人部屋へと戻って行ったもう一人の友人の顔を思い出した。

暗闇に溶け込んでしまいそうな程の漆黒な長い髪。
それと相対するかのような雪のように白い肌。
猫のように鋭い視線を投げかける双方の瞳。
そして赤く濃艶な唇。

その唇から紡ぎだされるのは甘く切ない快楽への言葉。
雪のように白い肌は、意外にも簡単に熱を持つ。
緩やかに撫で上げれば仰け反る背中。晒される喉元。
喰らうかのように歯を立てれば、口内に広がる甘い血の味。
全ての血を吸い上げたい衝動に狩られた事もある。
誰にも渡したくないと、誰にも見せたくないと、深く深く口付け攻めたてた。

長次は僅かに口元を緩めた。
そして窓の外を見やる。

秋真っ盛りのこの頃。
赤く・・・まるで燃えさかる炎のように、葉っぱが舞い上がっていた。
上へ下へと風に吹かれながら、赤い葉っぱは舞い踊る。
長次はその光景を無表情ながらボンヤリと見つめていた。

が、その舞い踊る葉っぱの中を一人駆けて行く生徒に気付いた。

向かうのは学園の外だろうか。
しかし、町へ行くには方向が違う。
長次は、めんどくさげに立ち上がると頭を掻きながら図書室を出て行った。
図書室に残った久作は、昼寝の途中で出て行く先輩が珍しかったのか、ジーッと長次の後姿を目を真ん
丸くして見つめていた。





キャーキャーと騒ぐ1年は組の騒がしい声。
仙蔵は学園の裏山へと来ていた。
その途中でススキの陰に隠れたり、逃げ回ったり、飛びついてしがみ付いたりして遊ぶ1年を見つけた。
とりあえず木の上に登った仙蔵は、まだ初々しさの残る1年を楽しげに見つめていた。
「子供は風の子か・・・」
そう呟いて、まだ自分も子供だったと思い返し一人笑った。
自分もこんな風に遊んだ頃があったと昔を懐かしみ、楽しそうに笑い遊ぶ1年を少しだけ羨ましく思った。
そして仙蔵は気付かれないようにと気配を消して、奥へと進んで行った。


仙蔵が消えて数分後、仙蔵が居た場所には別の誰かの影があった。
その影は未だ騒ぐ1年を一瞥すると、直ぐにその場を離れ仙蔵が向かった方向へと消えてしまった。


仙蔵は首を左右に振りながら、必死になって何かを探していた。
随分と奥まで入ってきてしまったらしく、どこを見回しても着た道が分からない程に草木で覆われてしまった。
念の為にと目印を立てて置いた事に仙蔵は胸を撫で下ろした。
「たしかこの辺にあったはず・・・・・・あ、あった」
仙蔵はようやく目的の物を探し出した。
陽光に照らされて、紫色の花弁がうっすらと透き通って見えた。
秋に咲く花で、毎年咲く場所が違うから探すのに大変な花だった。
それはエゾギクと呼ばれる花で、菊と同じ属性らしい。
以前図書室でふと目に付いた本に載っていたのだ。
濃い紫の花びらの内側に、淡い紫の小さな花が咲いているとても可愛い花だったのを覚えている。
仙蔵は一本だけ摘むと、花の香りをかごうと鼻先にその花を持って来た。
強くは無く、ふんわりと香る花の香りに仙蔵はうっとりと目を伏せた。

「こんな所で何をしている」

低くゆっくりとした声が仙蔵の背後から聞こえた。
無愛想な口調で、何の感情も含ませていないような声。
それでも仙蔵にはとても優しく、心地よい声だった。
仙蔵は驚きもせず、ゆっくりと後ろを振り返りその声の主に微笑んだ。
「部屋に飾ろうと思って、花を摘みに・・・。長次は?」
「・・・・・・・・・・・・」
無言の返事を寄越す長次に仙蔵は再び微笑んだ。
仙蔵は長次に歩み寄ると、長次の鼻先に花をかざした。
「良い匂いだろ」
「・・・・・・」
仙蔵の言葉に長次は無言で返し、仙蔵の手から花を取り上げた。
「あ、そんなに乱暴に扱うと可哀想でしょ」
そう言って長次を見上げた仙蔵は、下を向いた長次と目が合った。
「・・・・・・」
「え?」
ボソリと呟いた長次の言葉が聞き取れなくて、仙蔵は聞き返した。
長次は無言のまま、手にした花をスッと仙蔵の髪に差した。


「お前に似合う花だ・・・」


ボソリと、無愛想に呟いた言葉。それでも優しい声色に仙蔵はうっすらと頬を染め上げた。
「ありがとう・・」
小さく呟いた言葉は長次の胸に抱きついた瞬間に。
大きくて広い背中に手を回し、その温かさを確かめるかのように仙蔵はギュッと抱き締めた。
長次の手の内で仙蔵の黒髪が踊り、エゾギクのほのかな香りが二人を包んだ。
長次はソッと、まるで壊れ物を扱うかのような手付きで仙蔵を抱き締めた。



深く深く貪るは互いへの愛しさの為。


風で揺れる淡い紫の中に埋もるは愛しき人。
暗闇よりも黒い長髪をその中で広げ、晒す白い首。
幾重にも重ね付けた小さな紅い花。
吸い付くように再び唇を合わせた。

広く大きな背中に爪をたて、引っかき傷を作る。
痛くないわけあるはずがない。
それでも無愛想な彼は平然と肌を重ねる。
脈打つ心臓は早鐘のようで、それでも合わせた胸から聞こえるのは愛しき人の心臓の音。
まるで何かを急かしているかのように二つの心音は重なり合い一つになった。


エゾギクのほのかな香りが辺りに広がる中、黒髪の中に咲く一輪の花はより一層その香りを放った。



「あれ〜?立花先輩、その花どうしたんですか〜?」
夕焼けが広がる最中、学園へと戻る道で二人は1年は組と合流してしまった。
声をかけたのは乱太郎だった。
意外にも目ざといなと思いながらも仙蔵は微笑んだ。
「貰ったんだよ」
「中在家先輩にですか〜?」
首を傾げながら聞く乱太郎に、チロリと横目で長次を見たが、どこ行く風を見ているのか他を見ている長次。
仙蔵は小さく息を付くと、それでも小さく微笑んで頷いた。
「やっぱり貰うと嬉しいものですよね〜」
「そうそう」
乱太郎の言葉に相槌を付いた仙蔵。
その瞬間に学園の鐘の音が響いて来た。
「今日の晩御飯は何だろ〜ねえ〜vvv」
ジュルリと音を立ててヨダレをすするしんべヱに長次意外は一歩だけ退いた。
「確かお昼過ぎに、兵庫第三協栄丸さんを見た・・・」
「僕、お魚大好きぃ〜〜vvv」
仙蔵の言葉を遮ってしんべヱが叫んだ。
「しんべヱは何だって大好きじゃない」
「だって美味しいんだも〜んvv」
「はいはい。だったらさっさと行かねーと、その美味しい晩御飯が無くなるぞ」
きり丸の言葉にしんべヱは普段とは想像も付かない速さで砂埃を巻き上げながら走り出した。
「目の色変わってたよ・・・?しんべヱくん」
「ったくしょうがねーなぁー」
そう言ったきり丸の言葉には組の面々は苦笑いを浮かべた。
「じゃあすみませんがお先に失礼します」
礼儀正しくお辞儀までして、庄左ヱ門と団蔵がしんべヱの後を追った。
真面目っ子〜。と小さく言葉を漏らしたのはきり丸で、それを聞きとめた乱太郎がきりちゃんっ!
と叱るのを横目で見ていた仙蔵は、小さく笑った。
次々とお辞儀をしては学園へと向かうは組の面々に、仙蔵は小さく手を振った。
「あ、立花先輩!」
途中で何か思い出したのか乱太郎が振り返って叫んだ。



「その花、“私の愛は貴方の愛より深い”って意味を持ってるんですよー!」



「え・・・・・・?」
突然言われた仙蔵は目をパチクリ。
呆然とする仙蔵に乱太郎は微笑み再び学園へと走って行った。
仙蔵はゆっくりと顔を隣へと向けた。
視線の先では珍しく頬を染めた長次が居て・・・・・・。
仙蔵は珍しく感情そのままに長次に抱きついた。
照れる顔と嬉しそうな顔が向かい合い、目を閉じたのは仙蔵が先だった。
重なり合う本日二回目の口付けに、黒髪に咲く一輪の花が再び香りを放った。




《聖鬼様のコメント》

何と申しましょうか、やはり裏ではなく表になってしまいました。
しかも長次の出番が・・・・・・。渋くないかもしれない・・。格好良くないかもしれない・・。

それにしても久しぶりに長仙書きましたよ。
いや〜。やっぱり難しいですな〜。
最近はもっぱら仙ちゃんを攻めとしか見てなかったから、口調やら動作やらが・・・。
書けば書くほど変になってしまいます・・。

ということで、こんなんでも宜しければ貰ってやって下さいな。



聖鬼翔様の【御伽遊戯】でキリ番200をGETした折に頂いたもの。
ちぃょぉぉぢぃぃぃぃ!!!愛してるよぉぉぉぉ!!!
聖鬼様、表ですって?これが?ほほほほ、ごじょうだんを。
これはバッチリ裏ですよぉvvだって、粘膜がって・・・貪りあうって・・・
書いてあるじゃないですかぁ。もうその表現だけで妄想爆発です。
ナニがあって、どうなったのか、私の頭の中では煩悩渦巻きです。
長次は言葉少なくて良いんです。それが長次、それだけで存在感があるvv
いい男は無口なんですもの〜。
嗚呼、私も長次の背に爪を・・・////////。いや、ごめんなさい仙蔵兄様。

聖鬼様、色っぽい作品をありがとうございましたvv



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