自己満足の殿堂 the小 説


 【ささやかな願い】

Last Up Date 01.12.24


夕食をとった後、三郎は人知れず学園の塀を乗り越えて街へと出て行き、戻ってくるのは丑満頃。

三郎は同室の雷蔵と仲が良い。好敵手として親友として、お互いに何でも話し合い相談して来たが、今回ばかりは雷蔵の存在を無視したように行動をとっている。
雷蔵は三郎の外出を止めさせようと、それとなく窘めてもみたが一向にその行いは改められない。三郎の夜の行動を知っているのは雷蔵だけであるが、三ヶ月も続くと教師たちにも気付かれそうだった。
ばれたら退学ものである。
今夜限りで街に行くのを止めさせようと、雷蔵は腹に肝を据え三郎と向かい合った。

「三郎、学園を抜け出して街に行くのもう止めなよ。先生達もそろそろ気付き始めてる。」

雷蔵は親身になって心配をしているのに三郎はまるで聞く耳をもたない。
それでも雷蔵は三郎を放って置けず、あれやこれやと言い宥める。就職に響くかもしれない、病気があるかもしれない、道すがら夜盗に襲われるかもしれない、親しい友への心配事は尽きない。

「雷蔵、俺が街に行く理由は知っているだろう。」
「知ってるけど・・・だからって・・・。我慢できないの?」

三郎が何のために街へ出るのか知っている。女を買いに行くのだ。
何のために女を買いに行くのかといえば性欲処理だけのためだが、それにしても三郎は危険な橋を渡っている。
諦めずに言い聞かせると三郎は大きくため息を吐いて雷蔵にすっと近づき、耳元で小さく囁いた。

「それほどまで言うなら街へ出るのは止めてやる。だがその代わりに雷蔵、お前が俺に抱かれてくれれば。」

雷蔵は鼻の頭を真っ赤にして固まってしまった。目は潤んで今にも涙が零れ落ちそうだ。
そんな雷蔵を見て三郎は僅かに目を細めた。所詮は人間、どんなに綺麗事を並べても一番大事なのは自分の身。
商売女の代わりにと言われ、おいそれと身体を開けるはずが無い。今まで親友と思っていた人間から受けた侮辱はさぞ大きい事だろう。
それがお人好しと言われ、純朴で人を疑う事を知らぬ雷蔵であっても。
一度口からこぼれた言葉は戻らず、傷付けてしまった友の心も二度とその手に帰らない。


「俺はお前をそんな目でしか見ていない、解っただろう雷蔵。だからもう、俺に近づくな・・・・。」
そう口にしようとした時、予想だにしなかった雷蔵の言葉が耳に届いた。




「三郎が・・・・・僕を望むなら・・・・。」




三郎は自分の耳を疑った。まさか雷蔵が承諾するとは思っていなかったのである。


「僕は男だけど・・・・出来るんでしょう、男同士でも・・・・・。」


俯いたまま首から耳まで真っ赤にして、やり場なく膝の上で遊んでいる指先を見てみれば、さっき聞こえたのは空耳ではなかったようだ。
そう思ったらもう雷蔵を抱きしめて唇を吸っていた。



雷蔵の肌は綺麗な色をしていてきめが細やかだ。胸の鼓動は三郎にも感じられるほどに早く繰り返している。
雷蔵が生きている証拠、三郎が雷蔵を抱いている証拠。
色付いて硬くなった胸の突起を指で抓れば、首を振って固く目を閉じ頬を染める。
繋がった部分を更に激しく抉れば、キツク締め付けて三郎を苦しめる。
握り締めて、わき腹をなぞって、首筋に紅い痕を付けて、耳たぶを噛み、優しく名を呼ぶ。

「雷蔵、好きだ。」

好きだ、と囁くたびに何度も深く突き上げる。すれば雷蔵は高い悲鳴をあげて言葉が出ない。
言葉にならなければ、今この至福の時に「キライだ」などと現実味のある無粋な言葉を聞かなくて済む。
好きだと呟く言葉と同じ回数だけ雷蔵を突き動かして、三郎だけの会話を作る。
「雷蔵、好きだ。三郎、僕もだよ。」


女を抱く時もそうだった。目を閉じて自分の頭に言い聞かせて女を抱いた。
この肌は雷蔵の肌、この髪は雷蔵の髪、この声は雷蔵の声。
そうして紛らわせなければ、いつ自分が雷蔵を襲うか自制が効かないところまで追い詰められていた。
だから女を抱いた。雷蔵の代わりに。
掛け替えのない大事な人を傷つけて嫌われないために。

「雷蔵、好きだ、愛してる、本当に好きなんだ、お前だけなんだ、雷蔵・・・・・」

その呼びかけに答えようと雷蔵の口がかすかに動くが、それを許さないように三郎は唇を重ねてふさぎ、更に強く突き上げると鼻から抜ける雷蔵の苦しげな甘い呻き声が三郎の耳を痺れさせる。


雷蔵は慣れない行為で身体中が軋み悲鳴を上げる。眼からは熱い想いが零れ落ち頬を伝って落ちていく。
最初は優しく、しかし次第に乱暴に扱われて身体が熱く燃えて熔けそうになる。
言葉を紡ごうとする度にそれは遮られ、更に激しく痛めつけられる。
それでも三郎に伝えたい。

「僕も三郎が好きなんだ、だから行かないで。」

だが言わせてもらえず、本当は身体だけを望まれているかも知れないと思った。しかし途切れることなく愛してると囁かれる言葉だけが雷蔵の心に灯をともす。
「愛されているんだ。この行為は、愛されているから行われるんだ。」


三郎の背に回した腕に力を込め抱きしめると、それに答えるように更に深く身体を抉られ、一瞬速さを増した三郎の腰がピタリと止み、二度ばかり深く抜き差しを繰り返した後、雷蔵の身体の中が脈打ち熱く満たされた。





熱く震える雷蔵の身体を抱きしめたまま三郎は身じろぎ一つしない。
欲望が満たされた今になって自分の所業の浅墓さを思い知って青くなっていた。

この場を繕う言葉を見つけなければ。
しかし思考は空回りし、言葉など思い浮かばない。この状況を繕うのが可能であるかどうか、その判断さえつかない。

時間だけが過ぎて常に無く焦りと後悔に苛み、無言でこの場を去ろうとする三郎を雷蔵が引き止めた。

「待って、三郎・・・・。」
三郎にきゅっとしがみ付く。


「僕は・・・、三郎が僕以外の人間に優しい言葉を囁いているなんて、想像しただけでイヤだったんだ。」

三郎の胸が締め付けられる。


「だから・・・これは僕が望んだ事かもしれない。」


「君を引き留めるためなら・・・・どんな手だって使うよ。」


「僕の方が君のこと好きなんだ。」


耳に届くか届かないかの小さな声で囁く雷蔵を三郎はもう一度抱きしめた。





「鉢屋の雰囲気が、最近なんかこう・・・・・柔らかくなったというか・・・前みたいな乾いた感じがしないな。」

そう言ったのは仙蔵だった。
放課後図書委員の仕事をしている雷蔵の所へ本を返しに来たついでに雷蔵をからかっていた。
それは仙蔵の日課となりつつある。

「ナニカアッタノカナ?」
そう言って口の端を上げてニィっと笑う仙蔵は全てをお見通しという目で雷蔵を見る。

「いえ・・・別に何もっ・・・・ね・・ぇ、三郎、ね!」
忍者に有るまじき動揺振りでその言葉を否定する。

三郎も仙蔵の言葉を否定してみるがその表情はさも意味ありげである。

「ええ、これと言って変わった事はないですよ。成るべきものが成ったと言うだけで別にこれと言ってなぁ、ら〜いぞ。」
「う・・・うん、そう、だね。」

仙蔵はふぅんとニヤニヤしながら顔色を赤から青へとくるくる変える雷蔵を見ている。

「程々にな、慣れない内は出血するから。あ、これ私からのお祝い。使い切る頃には体も慣れるだろう。ねぇ長次ー、まだ終わらないのか。」


仙蔵は懐から小さな薬入れを出して三郎に手渡した。開けてみるとぬるりとした油分の多い塗り薬が入っており、三郎はニンマリしてそれをしまい込んだ。いっぽうの雷蔵は目線を泳がせたまま落ち着かない様子で、早々に仙蔵を追い返すべく長次から図書委員の仕事を引き継いだ。
雷蔵がほっとした所へ三郎が後ろから抱きついてきた。
腰に回された腕はもぞもぞと動きながら袴の脇から中に忍び込もうとしている。

「ちょ・・・っ、さぶろ馬鹿、やめてよ、ここ何処だと思って・・・人が来るだろっ!」
「じゃ、もう閉めちまえよ。そしたら二人っきりだ。」
「何言って・・・・んっ・・・・・・。」
「好きなんだろう俺のこと。なぁ?」
「好きだよ・・・・好き・・・・だから・・・・・・・これ入り口に掛けてきてよ。」


雷蔵は引き出しの中から閉館の札を取り出し三郎へ手渡した。





・・・fin・・・




2001/12





                              


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