ミーンミーンミーン
ジーワジーワジーワ
ふぅ、暑いですね野村先生。はい、水をどうぞ。
おお、すまんな利吉。雅之助はどうした。
まだ一仕事して来るって畑へ行かれました。私もうへたばってしまいました。
私もだ。畑仕事と忍びの仕事は使う体力が違う。
御尤です。
ミーンミーンミーン
ジーワジワジワジワジワジワ
あのぉ、野村先生。先生は大木先生とのお付き合い永いですよね。
ああ、腐れ縁だな。お前が生まれる前からの縁だ。
ミーンミーンミーンミーンミーンミーン
お聞きしたいことがあるのですが。
答えられん事もあるぞ。
ジーワジワジワジワジワジワジワ
大木先生はなぜ現役の忍を辞めて忍術学園に来られたのか。どう考えても大木先生に学園の生活は退屈・・・やり甲斐がないと言うわけではなくて、物足りないのではと思うのですが。
ふむ、そうだな。現役の忍から見れば学園教師という生活はハッキリ言って刺激は少ないな。それなりにやり甲斐はあるが。
ジーワジーワジーワジーワジーワジーワ
ミーンミーンミーンミーンミーンミーン
利吉、雅之助は恐ろしい奴だろう。
ええ、冗談ではなく大木先生は敵に回したくないですね。怖い人です。
ああ、彼奴は恐ろしい奴だ。私も今まで何度か鬼になった彼奴を見たことがある。だがな、彼奴は冷酷な奴じゃない。非情に成りきれないところがある。
そうなんですよね。向かってくる敵は殺せても、逃げる敵と無抵抗の人間は殺せない人です。
ジャワジャワジャワジャワジャワジャワ
ジャワジャワジャワジャワジャワジャワ
あの時、私が二十三で雅之助は二十二だった。今日みたいな蝉のうるさい夏の日でな。
ええ。
私と雅之助、それからあと五人ほど連れだって市房の出城に入り込んだ。
あすこの護りは堅かったでしょう。
ああ、今以上だった。市房城主を石堂の手の仕業に見せかけ屠り、市房と石堂に戦を起こさせるのがその時の任務だった。顔を見られては其処から足が付く、誰一人として顔を見られては為らなかったのだが。
見られたのですか?
仕事を成し終えて塀を越え出ようとしたときな。たまたま便所に起きた母子連れ二人が庭の隅に居たのだ。先頭を走っていた雅之助はその母子と不意に顔を合わせてしまった。辺りは闇だったから多分見えては無かろう。だが・・・。
忍に「多分」は命取り・・・。
下命を果たすには斬るしか無かった。
大木先生が、
斬ったのは私だ。私は雅之助を知っているからな。
そうですか・・・・。
ジャワジャワジャワジャワジャワジャワ
ジャワジャワジャワジャワジャワジャワ
ジャワジャワジャワジャワジャワジャワ
雅之助はひどく悔やんでいた。
その母子を斬ったことを、ですか?
それもあるが、母子を斬らざるを得んかった原因を一番悔やんだ。
雅之助が先にその母子の存在に気づき、迂回するか隠れるかすれば、顔を見られることなく、そもすれば私が母子を斬る必要もなかった。あいつは自分の不甲斐なさを一番悔やみ、現役忍びとしての道を見失った。
そんな・・・・。大木先生は忍として充分の器量を備えた人です。
雅之助自身はそう思えんかったのだろう。自分の落ち度で無関係の母子を死なせたのは事実だし、ましてや・・・・非情になれねば忍として完璧とは言えぬ。
それは・・・・。
だからこそ「人」だと言えるのだがな。
え?
忍としては不完全でも、奴は人として完璧だ。そう思わんか?
・・・・・はい!大木先生は強くて優しい・・・完璧な・・・素敵な人です。
素敵??か・・・。そうか、彼奴がな・・・はっはっはっ・・・・はっ!?(ベシャァッ!)
だ・・大丈夫ですか野村先生!?泥まんじゅう??何処から・・・・わっ!(ベシャァッ!)
うっ・・ぺっぺっ・・・、口に入ったぁ〜・・・・。
雅之助!貴様っ!!!
大木先生・・・酷い!!
がーっっはっっはっっはぁ!雄三、利吉、何をジジ臭く語りあっとる、さっさと手伝え!
利吉、さっきの言葉は撤回する。奴は最低最悪の人間だ。
ええ、そして極悪非道の人格破壊者です!
雅之助!そこ動くなっ!
大木先生!今日という今日は・・・!!
ばかたれ〜、ワシという天才忍者がおまえらごとき凡忍に捕まるものか〜!
カナカナカナカナカナカナ・・・・
カナカナカナカナカナカナ・・・・
貴様っ・・・・!
大木先生っ・・・・!
がぁ〜っはっはっはっはっはっは・・・・・!
カナカナカナカナカナカナ・・・・
カナカナカナカナカナカナ・・・・
カナカナカナカナカナカナ・・・・
カナカナカナカナカナカナ・・・・
…fin…
2002/09
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