自己満足の殿堂 the小 説


 【使 命】

2002/03/25



しくじった。

大木雅之助は珍しく焦っている。
以前仕えていた忍術学園の学園長の依頼である戦場にて暗躍していたのだが。


   話が全然違うじゃねぇか。


学園の下調べで敵軍の兵の数は鉄砲隊五十、弓矢隊百、槍隊百、騎馬隊五十、足軽兵二百、その他諸々の補給部隊の数を入れても壱千に満たない軍だと聞いていた。


   鉄砲隊は倍、弓矢隊は三倍・・・・・おぉっと!?


今や追われる身となっている雅之助は木々の合間を縫い、闇を気にせぬ速度で走り続けていた。
ふと気を逸らした瞬間に、耳元を弓矢がヒュンッとかすめ飛ぶ。


   いい腕してやがる。っと、また来た!


今度は続けざまに五本の矢が打ち込まれた。追っ手の数はざっと十人。
正確な人数を読めないのは気配を確かめる暇がないほどの執拗な追撃を受けているためだった。
今までこれほど自分が追い込まれた経験はない。
闇夜なれば有利であるのは夜目の利く自分であるはず、だが弓の使い手達との距離は少しづつ縮んでいる。
先程のように矢を連続で打ち込まれたら。


   次は避けきれねぇかも。来る・・・・・!


自分の立っていた足下に三本の矢が刺さる。
地を蹴って高く跳躍しそれを避けたが、着地した場所にまた矢が打ち込まれ雅之助はバランスを崩して倒れる。


   俺もこれまでか。あいつ、うまく逃げたかな。


想いを馳せたのは茶色の髪のきつい眼つきの若い男。共に行動し敵の情報を味方軍に伝えるため先に走らせた。
諦めるなど忍の考えることではない、しかし今はもう・・・・・。
そう思い薄く笑いを浮かべ、矢を放たんと間近に迫った敵を見たその時、目の前に茶色の物体が舞い降りた。
放たれた矢はとすとすと鈍い音を五つ立てそれに刺さる。
驚いたのは雅之助も敵も同じ、しかし一旦矢を放ち次の矢をつがえるまでに生じる僅かな時間は反撃の好機。
すかさず苦無と棒手裏剣を投げるとそれらは見事に敵の喉を切り裂きその場に五つの死体を新たに作った。
ふぅ、と息を吐いて落ちてきた茶色の物体に目をやるとそれは人間。そして見慣れた髪の色は間違うことか、彼の想いを馳せたばかりの人物。


「利吉!!」


慌てて顔を上げて見れば唇は血色を失い頬も青白く変わっている。しかし薄く眼を開き雅之助の無事を見ると清らかに微笑んだ。


「大木先生、ご無事で何より。私の方は終わりましたよ。」


それだけ言うと利吉は意識を失った。






次に利吉が目を覚ましたとき最初に目に入ったのは見覚えのある天井、そして無精髭を生やした雅之助。
雅之助は利吉の眠る床の脇に胡坐を組みこくりこくりと居眠りをしている。
利吉は布団の中から手を伸ばしその膝にそっと乗せるとゆっくり目が開いた。
二人の目が合うと雅之助はニッと笑った。つられて利吉も微笑んだ、だが。


「この大戯けがー!!わざわざ戻ってくるとは何を考えとる!それでもヌシは忍か?いいか忍とはなぁ、たとえ仲間が傷つき倒れてもその屍を乗り越えて任務遂行を全うし己の保身を第一に考えて・・・・・」


目が覚めるなり大声で怒鳴りつけられては堪らない。延々と続きそうなお説教を終わらせるべく利吉は考えをめぐらす。


「あの・・・・大木先生、傷が・・・傷が痛い。」
「傷はとっくに塞がっとる、あれから七日経ったからな。」
「七日・・・・・もですか?」


傷を受けた背中が多少突っ張る感じはあるが傷口に痛みは感じなかった。
自分が怪我をして七日も眠り続けていたことに利吉は驚いていた。


「お前に飲ませた薬のせいだ。矢はそう深くなかったが得体の知れん薬が塗ってあったので解毒剤と発汗剤をまとめて飲ませたんだが、間違って睡眠薬も飲ませてしもうた。まぁ、何はともあれ無事でよかったじゃないか。」
「そりゃそうですけど。」
「なんか文句あるのか?」
「ありませんよ。大木先生、ありがとうございました。」


礼を言うのはわしの方だと、雅之助は頭をぼりぼり掻きながら薬湯を取りに立ち上がった。
利吉は半身起き上がってその背に向かい力の入らぬ細い声で問い掛ける。


「大木先生、泣いたでしょう?」
「なぜわしが泣かねばならんのだ。阿呆かヌシは。」
「私が死ぬかもしれないと思ったから先生は泣いた。私の傷、重かったのでしょう。」
「軽かったと言ったろうが。」
「七日も眠り続けるような強い睡眠薬を使ってまで体の機能を低くする必要があったんでしょう。体を仮死状態にして毒が体に回るのを遅くした、甲賀忍者であった先生が薬を間違えるなんて事考えられ・・・・ぅぶっ!!」


雅之助は利吉の背後を取り顔を上げさせると、口移しに薬湯を流し込んだ。その苦味の壮絶さに吹きだしそうになるのを雅之助に押さえ込まれやっとの思いで無理やり飲み込んだ。
咽びながら雅之助を見るといたずらの成功した子供のような笑顔で得意満面である。


「どうだ、苦いだろう。」
「・・・・この味で死にそうです。先生はよく平気で居られる。」
「わしはもう慣れた。日に三度お前にこうして飲ませておったんだからな、感謝せい。」


眼と眼が合いしばし無言が続くと雅之助は利吉の手首を掴み低く呟いた。


「いいか、今度からは任務と己のためには仲間も捨てろよ。」
「・・・・・仲間なら、只の仲間なら捨てますよ。でも貴方は・・・・。」


青白い顔をうっすらと頬を染めて言う利吉に雅之助はにやりと笑うと両の腕でしっかりと抱きしめ低い声で呟いた。



「すまんかった、利吉・・・・。すまんかったの。」



珍しく弱気な一面を見せた雅之助が愛しく、そして哀しく見えた。


    ああ、この弱虫で強がりな男より先に私は死んではいけないのだ。


利吉に新たな使命が与えられた時だった。





・・・fin・・・
2002/03
                      


  

いきなりですが大×利です。でもほんとはこれ、はにわ様の「利刃3」に投稿するつもりでした。
でもなんとなく雰囲気、というかいまいちノリが軽いかな〜っと思って急遽別の作品を書き上げ送りました。
【利刃3】とは、はにわ様主催の「愛される利吉同好会」発行の同人誌です。そうです。私同人誌に初参加するんです〜。わーいvvおめでとう、私。





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