落花流水
あーあ、また来たヨコイツは。
誰もいないはずの店の中に、客がまた1人やってきた。
おぼつかない足取りで歩み、突然ソファーに倒れこむ。
「闇慈!人の店で勝手に寝るナ、バカ!」
またどれだけ飲んできたんだか。覗き込むとずいぶんとお酒臭い。
「まあまあそんな固いこと言わねえ言わねえ……、紗夢〜」
ものすごい力で身体を引き寄せられる。
「暑イ!!暑苦しイ!!放すアル!!」
「あー柔らけえ……むー」
腕がもがく紗夢をとらえ、放さない。胸元に顔を擦り寄せる。
「アタシ抱き枕違うヨ!!」
「んーでももう少しボリュームが有れ……」
「失礼なオトコアル!!」
暴言を吐いた後、闇慈がすうすうと寝息を立て出す。
倒れこんだまま、ソファーの片隅に目をやると、手の平に乗りそうな大きさの包みが一つ転がっていた。
さっき土産がどうとか口走っていたけれど。
緩んできた腕にそっとソファーを抜け出す。
春は婚礼の宴会が続く。今日も明日も、休んではいられない。
花開く季節に誓いを交わす恋人達は後を断たない。
忙しくて外にも出られない日々が続いていた。
包みを拾い上げ、開いてみる。
アタシへの土産なのだろう。
中から薄桃色の薄片が詰まった、小さなガラスビンが出てきた。
……なるほど。
湯が沸くまでのゆったりとした時間を待つ。
卓上には耐熱グラスが2つ。
ビンの中身を取り出してグラスに入れ、湯を注ぐ。
グラスの中に、半透明の八重桜が柔らかに花を咲かせるのが見える。
桜茶だ。
闇慈にしては随分と気が効いた土産だ。
「……熱ぃッ!!!」
ソファーを独占する闇慈の頬にグラスを押しつける。
「いつまで寝てるアルカ」
「突然何すんだよお前!!」
グラスを突き出す。
今夜は外に行けない代わりに、ここで小さな花見だ。
「冷めちゃうアルヨ」
桜の香りのする湯気の向こうに、にっと笑う顔が見えた。
もう夏だけど、季節外れの春のお話。たまには本館に置ける闇慈×紗夢を。
桜茶本当に綺麗で良い香りの、幸せになれるお茶です。勿体無くて飲めないです。
日本文化って良いですよね。
多分紗夢も中華料理店経営してるだけあって、世界各国のお茶には通じてると思います。
紅茶も中国ルーツのもあるもんね。06/23
題名を「さくらさくら」から変更。
「落花流水の情」=落花には流水に流れたい、流水には落花を乗せ流れたいという情が有る
→男女が慕い合う様、だとか。これまた風流な言葉です。06/30