まだ昇り切っていない日の光は、目に柔らかだ。
広場に張り詰める空気の冷たさが、頬に心地良かった。
足元の石畳は軽く湿り気を帯びている。
昼はよどむ事無く流れ行く人も、今はにぎやかな市場の至る所で足を止めていた。
屋台では、仕事へ向かう前の労働者達が腹ごなしをしている。
「紗夢」
早々に音を上げ、自転車を引く闇慈が足を止めた。
朝早くからの労働は空きっ腹にこたえる。
視線の先では、湯気の上がる豆乳と、練乳を添えた揚げパンが道行く客を誘う。
「そなの後。ウチの店で済ませるヨロシ」
走り書きをした紙を手に、紗夢が買い込んだ乾物の袋を自転車の荷台に積む。
この長い買い物が終わる頃には、屋台はとっくに閉まっているだろう。
闇慈が眉をひそめた。
市場に来る時は紗夢が乗っていたそこには、干しアワビやキクラゲが山積みだ。
どうも嫌な予感がする。
「帰り、どうするんだ?2人乗りは無理だろ」
「アタシ自転車漕グ。アンタ走て帰レ」
ちょうど横を犬が、死に物狂いで走り抜けていくのが目に入る。
朝の散歩なのだろうか。自転車に乗った主人に引かれている様子がどこか哀れだ。
同輩よ、と闇慈がため息をついた。
「おっと」
乾いた音が何個も重なり、路地に響く。
地面に落ちた乾物の袋の束を、紗夢が手早くかき集めた。
「ボーっとしてナイデ。とっとと拾うネ」
「悪ぃ悪ぃ。手間かけたな」
突然ピントのぼけた光景に、状況を把握できないまま紗夢が息を飲んだ。
一瞬眼前が暗くなる。
袋の山で塞がった両手は、その場に留まるしか無かった。
風も無いはずなのに、ひゅう、と頬にかかる髪が揺れた。
「……ナ、ッ」
だんだんと焦点が定まってくる。
目を開くと、そこには笑いをこらえる闇慈の顔が有った。
「礼、ってな?」
まだ消え切らぬ夜明けの寒さが、ほんの少し残る温みを鮮やかに浮き立たせる。
「ナ、ニ、……スル、ネ、……このバカッ!!」
何があったんでしょう、無かったのかもしれない。
得票頂きました漫才の質問からです。甘ッ甘ッ!!これほど知人に見せられないSSが有ったでしょうか、いや無い(反実仮想)。
ウチのサイトの闇慈、他のオナゴにもありったけこんな調子。多分。
市場見学、休日で断念。旅行行った時の朝市を思い出しつつ。本場で食べてみたいなー、
朝の屋台で豆乳と揚げパン。
で、また微妙に増えたり減ったり題名変わったりするかも。2003/10/15