一気飲みの連発でダウンしたチップのそばで、ファウストの目が不気味に発光する。
「ヤラれんのも早い、と……オペ開始ですか〜?」
「先生、ここで刃物は危険ですわ〜」
ファニーが差し出したのはお約束、油性マジックであった。
辺りにきゅこーーきゅこー・…と音が響き、シンナー臭が広がる。
「ふむ。絵なら多少は。……大統領……」
祖国に想いを馳せ、ポチョムキンの視線が宙を泳ぐ。
チップの鼻の下からもみあげにかけて、豊かなヒゲが誇らしく描かれた。
閉じたまぶたには、もう1つの目がキラキラと輝く。
また1人、また1人と旅立つ友への寄せ書きの如く、チップの顔に記録を残す。
ある者は歯を黒く塗りつぶし、ある者は眉を異様に凛々しく整形し、
ある者は「何をやっても駄目」、ある者は「ハヤいのね……」と。
「どうしても…脱がねばならないのですか!?」
「男に二言はねえよなあ?」
宴会のお約束、野球拳にカイの酔いが一気に冷める。
薄着の闇慈に重装備のカイが脱がされる羽目になる程の、圧倒的な勝敗であった。
ろれつの回らなくなった紗夢が間に割って入る。
「脱げないならは〜脱がへるまで、ヨ〜」
「ちょっ……紗夢さんやめて下さい、服がっ……」
「ハズかひいノ?一緒に脱いだゲルネ〜〜」
闇慈が紗夢をカイから引き剥がす。
「あーそんなモン見たくもねえや」
「アンタ人の恋路を邪魔するなアル!」
「せっかく俺がお前の為を思ってだなあ……あ」
鈍い音と共に、紗夢が崩れ落ちる。イノの手刀が見事に紗夢の首を捕らえた。
「ひっ……」
「坊や。覚悟は、出来てるかい?」
悪魔の笑みをうっすらと浮かべたイノに、カイが地獄の1丁目へとずるずる引きずられていく。
その後、カイの姿を見る者は居なかった。
アクセルと闇慈が気絶した紗夢を挟み、耳打ちしあう。
「ちょっとどーすんのさ、紗夢ちゃん」
「据え膳食わぬは何とやら、ってな〜♪」
「にひひ、お代官様もワルですなあ……うひょぁ冷たッ!!?」
「……手が滑っちまった。良い酒あるじゃねぇか」
今「空にした」グラスを片手に、梅喧が紗夢の隣に割り込む。
(何か入り込めない空気が……後ろに薔薇が、百合が……)
(だから急いだ方があああ)
(あ…姐さんの膝枕……羨ましいぞ紗夢……)
闇慈とアクセルが目配せをしながら、頭から雫を垂らして震える。
「寒いんなら暖めてやるぜ?ほらよ」
梅喧のキセルから首筋に落とされた灰に、2人が奇声を発して走り出す。
一方その頃。
「ナインボールゲットだ……!」
ミリアの髪が一陣の風に揺れる。
「……できる……!!」
「むう……しかし、その調子ではまだまだだな」
スレイヤーが口の端を歪め、余裕の笑みを浮かべる。
……店の片隅では、アサシン達がカクテルを片手にビリヤードの台を囲んでいた。
「ア」
ごびいいいいいいい。
エディがキューを引っ掛け、盛大に台の布を破く。
「………」
何だかものすごく気まずい空気が流れた。
あとがき
「飲め!飲め!のめのめのめのめ吐け!吐け!はけはけはけはけ
死ね!死ね!しねしねしねしね死ぬまで飲め〜〜ッ!!」
という素敵な乾杯の音頭を先日教えて頂きました。まだ増えるかも。