年代物の時計の針が午前2時を回り、窓の外では闇が深さを増す。
夜行性の吸血鬼にとっては最も過ごしやすい時間だったが、彼の隣にいるプッチはそうでもなかった。
修道女のヴェールに包まれた頭は絶えずうつむいては上げられ、
重そうな瞼の下で瞳が夢と現実を行ったり来たりしていた。

「……プッチ、もう遅いから寝た方がいいんじゃあないのか?」
「いや……まだ起きてる……大丈夫……」

二人は寝椅子で一緒に画集を眺めていたが、夜が更けるにつれ
次第にプッチがうとうとし出し会話も鈍くなってきた。
神学校の寮で義務付けられた早寝早起きの生活に慣れているプッチは、夜中の2時まで起きている事など
めったにないのだ。
それでもプッチは夜型の親友と少しでも長く話していたいがため頑張っていたが、
ついに睡魔に負けてDIOの肩にもたれて眠ってしまった。

「………………」

穏やかな寝息だけが広い部屋に響く。
DIOはぶ厚い画集を閉じ、無防備に眠るプッチの横顔を見下ろした。
長い睫毛、張りのある褐色の頬――紅を差さなくても艶めく唇が、誘うように薄く開かれている。
触れて柔らかさを確かめてみたかったが、起こしてはいけないと思いとどまった。
DIOはプッチを静かに抱きかかえて客用の寝台へと運んだ。
修道服を着たままの身体を柔らかな寝台に横たえ、絹の寝具を掛けてやる。
白い羽根枕に頬を埋めて、不安な事など何も無いように眠るプッチに
彼女はどんな夢を見ているのだろう?とDIOはふと思った。
極彩色の楽園の夢か、それとも灰色の廃墟の悪夢か――
その穏やかな寝顔の中で唇がかすかに動いた。

「…………DI……O……」

夢の中から自分を呼ぶその無邪気な様に、DIOは目を細め
ゆっくり眠るといい、とプッチの耳元に小さく囁く。
DIOは傍らの椅子に腰を下ろし、ランプの灯りで本の続きを読み始めた。
面白いから読んでみて、と言ってプッチが貸したものだ。
夜が明けて、彼女が目覚める頃には読み終えられるだろう。
プッチの寝顔を時折観察しながら、DIOはページを捲り物語に没頭していった。



翌朝、プッチはすっかり身についたいつもの起床時刻に目を覚ました。
暖かなベッドの中でもぞもぞと身動きし、眠い目をこすりながら顔を上げると
長い脚を組んで椅子に腰掛けたDIOと目が合った。

「おはよう」

プッチは戸惑いながらもおはようDIO、と挨拶を返した。

「ごめんなさい、ゆうべ、わたし途中で眠ってしまったみたい……」
「気にしなくていい」

もしかして彼はずっとわたしの傍にいたのかしら、と想像して少し恥ずかしくなる。
窓も扉も締め切られて陽の光は遮断されていたが、ベッドの傍の時計でもう朝だと分かった。

「少し寝坊してしまったわ…… 朝だけど、あなたは眠らなくていいの?」
「そうだな…… じゃあ少しの間、君の膝を貸してくれ」

DIOはおもむろにベッドに上がり、プッチの揃えた太腿の上に頭をあずけた。
豊かな金髪が黒いスカートに流れ、美しいコントラストを描いた。
驚くプッチをよそに、DIOは瞼を閉じて膝の温もりを楽しんでいる。

「……DIO!」
「そう言うな、ゆうべはわざわざ君をベッドまで運んでやったんだ
 ……棺の中もいいが、ここもなかなか居心地がいいな」
「もう……」

膝の上でくつろぐDIOの金髪を撫でながら、何だか猫みたいとプッチは微笑んだが
むしろ午睡を愉しむライオンと言う方が相応しかった。
よく眠れるように、とプッチは子守唄を小さく口ずさむ。
どんなオルゴールよりも優しい響きがDIOの耳をくすぐった。

(このDIOを子供扱いするとは、まったくたいした度胸だな……)

心中で苦笑しながらも、DIOの表情は母に抱かれる幼子のように穏やかなものだった。
プッチが恥らうのもかまわず腰に腕を回し、膝に深く顔を埋める。
読み終えた本の感想を述べる事も忘れ、DIOはつかの間の心地よい眠りに堕ちていった。


(END)

 

 

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