|
房中仙女
・伊珠が夏侯惇に大サービスするだけの話 ・香油でぬるぬるプレイ ・房中術がかなりご都合主義
(元譲さま、近頃お元気がないみたい……)
それが、夏侯惇の護衛武将・伊珠の最近の悩みであった。 事実、伊珠の意中の男は魏軍の中でも一二を争う苦労性の男であった。 日頃から、個性派揃いの魏将の纏め役として何かと気苦労の多い立場に加えて 曹操を諌めたり兵の面倒を見たり自ら屯田や治水工事を自ら手伝ったりと 夏侯惇の過ごす日々は戦の有無に関わらず忙しいものだった。 何かと良く気のつく伊珠の補佐もあって執務が滞る事はなかったが、それでも最近の夏侯惇は 顔色がいまひとつ優れず、多少疲労を溜めているようだった。 それを察した有能な護衛は気を利かせ、愛する将軍のため秘密の計画を試みた。
その夜の房事はいつもと少し違っていた。 猫のように牀に潜り込んで来て、伊珠は夏侯惇の耳にこう囁いた。
「何もなさらないで下さいね、私にお任せください」
伊珠の妖しい笑みを見て、何か妙な策があるのではと少し警戒したが たまにはこいつに主導権を握らせても良かろうと思い、夏侯惇は言われるままに横になった。 その上に柔らかな重みがかぶさる。伊珠が手に握りこんでいた小瓶の封を開けると、甘い花の香りがし
た。 瓶を傾けてぬめる液体を手にとり、それを自分の肌に塗り付けている。どうやら香油らしい。 白磁のような肌が燭台の灯りに照らされてぬらぬらと光る。 とろりとした油が伊珠の胸の膨らみを伝い、臍の小さな窪みに溜まる様を夏侯惇は目で辿った。 伊珠は香油にまみれた手を夏侯惇の胸板に添え、徐々に下へと這わせていく。
「……う」
腹筋の隆起をなぞり、辿り着いた目当ての得物を両手で握り香油を塗り込む。 ぬめった掌で優しく弄られ、思わず息を詰める夏侯惇に伊珠は悪戯っぽい表情を浮かべる。 やがて勃ちかかったものを途中で放り出し、そっと夏侯惇の上に覆い被さると 互いの胸と腹が密着し、体温に馴染んだ香油でぬるぬると滑った。 ただ肌が触れ合うだけなのに、いつもと違う快さがある。 それだけではつまらないと思ったのか、伊珠は自分の乳房を夏侯惇の胸板に押し付け しなやかな脚を下肢に絡めて、全身で相手を感じられるように抱き付いた。
「何と言うか……いつもよりいやらしいな」 「そうですね」
ひそやかな息が夏侯惇の耳朶をくすぐる。 ぬるり、と伊珠のしなやかな肢体が蠢き、二人は全身で互いを愛撫し合った。 心地よい熱に、香油に濡れた互いの肌が溶け合うようだった。 体が擦り付けられる度に乳房が柔らかくつぶれて形を変え、離れては元の半球形に戻った。
「ふぅっ……ん……」
重たげに揺れるふたつの乳房は香油に濡れて光り、いつも以上に淫靡に見える。 その中心で切なそうに勃ち上がった乳首に目を引かれ、手を伸ばそうとすると伊珠に制止された。
「あ……いけません、私に良くさせて……」
夏侯惇の前に跪くと、香油でぬるぬるになった豊かな乳房を寄せて勃起を挟み込んだ。 太腿に挟んでする仕方も知ってはいたが、肉棒がよく見えるこちらの方がいいと思ったからだ。 そのまま伊珠は胸の谷間を滑らせるように擦り上げる。 何度か往復させて一旦動くのをやめ、谷間から覗く亀頭の先端に軽く音を立てて口付ると 弾む熱い息が夏侯惇の下腹をくすぐった。 ふたつの乳房の間に肉棒が深く挟まっている、ひどく扇情的な眺め。 普段の房事で幾度となく触れた乳房だったが、その柔らかく吸い付くような感触を 夏侯惇が自らの掌でなく性器で感じたのは初めてのことだった。 摩擦するたびに剛直が震えるのをじかに胸で感じ、伊珠はいつしか汗が滲むほどの興奮を覚えていた。 そのうちに夏侯惇は何か思いついたようで、上体を起こして伊珠の尻に手を回し 香油に塗れた指で秘処に悪戯を始めた。 流れた香油とは違う熱い蜜が指に触れ、夏侯惇は隻眼を細めた。
「んっ……」
指の感触に伊珠は白い背を震わせたが、情人を気持ちよくしようと愛技を続けた。 秘処に浅く埋められた指先を、焦らすような緩慢さで抜き差しされる。 いつ指が奥まで挿入ってくるか分からず、それだけに深く突き入れられるよりも感じてしまう。 そうかと思えば別の指で蕾を執拗に嬲られ、伊珠は眉を寄せて奉仕の手を止めた。
「どうした? 良くしてくれるのではなかったか?」
意地の悪い言葉に、涙目で貴方のせいですと訴えるが、夏侯惇は構わずに最も敏感な箇所を弄び続けた。 ぷっくりと愛らしく膨らみ、包皮から頭を出した蕾を軽く摘んでやると伊珠はあっけなく気をやってし
まった。
「ん……んんぅっ!」
伊珠が体を大きく震わせた拍子に竿がずるり、と胸に擦れ、先端から精が迸った。 顔に温かい飛沫がかかるのを感じ、咄嗟に眼をつぶるがどうにもできない。 豊かな胸にもたっぷりと白濁を浴び、快楽の余波に悶えながら伊珠はただ汚されるままになっていた。
顔を拭かれている間中、伊珠は口惜しそうな表情で欲望の残滓を見つめていた。 美しい情人の滅多にない顔を見て、何が不味かったのだろうか、やはり顔にしたのが…と 内心穏やかでない夏侯惇だったが、伊珠の本心とは大幅に食い違っていた。
「あんなに沢山出して……勿体無い事を」
どういう意味だと夏侯惇が聞き返す間もなく、伊珠は股間に手を伸ばした。 巧みな指が絡みつき扱き上げるとすぐに勢いを取り戻す。 手の中のそれを愛しそうに見つめ、伊珠はおもむろに夏侯惇の腰を跨いだ。
「ん……あぁ……!!」
昂ぶった雄が伊珠のなかにゆっくりと沈み込んでいく。 根元まであたたかい柔肉に包まれる感触に、夏侯惇は思わず低く呻いた。 官能に眼を潤ませた伊珠が荒く息をつくたび、雄を咥え込んだ花弁が蠢く様がよく見えた。
「……元譲さま、お手を……」
差し出される武骨な手に細い指がすがる。 先程同じ指で夏侯惇を翻弄していたとは思えないいじらしさだった。 あるいは、それも手管のうちなのか―― 無理なく動ける事を確認した伊珠は自ら腰を使い、一人で愉しみ出した。 自分で動くだけではなく、夏侯惇を悦ばせようとしているのか下腹に力を入れて締め付けてくる。 時折夏侯惇が腰を突き上げてやると、体の上で白い裸身が艶かしく踊った。
「やぁ、あっ、……元譲さまっ……!」
深く突かれれば突かれるほど湧き上がる熱に、伊珠の理性は溶かされていく。 荒い呼吸に精一杯で睦言を口にする余裕もない。 随分な乱れ様だな、とその様を夏侯惇に揶揄されて切なげに首を振る。 自分から貪る姿を愛しい人に見られているのを意識し、身の内が一層熱くなった。 そのせいで意識とは裏腹に、身体だけで勝手に絶頂を迎えてしまう。 ほっそりした背から腰にかけて甘い震えが走り、唇からかすかに上擦った吐息が零れた。 行為こそ大胆だったが、気をやる所作は随分と控えめなものだった。
「―――ぅっ」
予期せぬ事態に夏侯惇は思わず呻き声を漏らした。 自分では伊珠のなかに放ったと思ったが、妙な事に一滴の精も漏らす事はなく 達する一歩手前の感覚を延々と味あわされている異常な状態にあった。 初めての交合の時、伊珠に手でされても何故だか出せなかった事が脳裏に甦る。 伊珠の細腰を掴んで自ら突き上げようにも、しっかり両手を握られていた。 さっき顔にぶちまけた意趣返しか、と思ったがもう遅かった。 もちろん夏侯惇が本気になれば伊珠の細腕で押さえられるはずもないのだが、 本音としてはこの快さをもっと味わいたかった。 今、自分から動いて終わらせるのはあまりに勿体無い気がする。 本能と理性が拮抗している中で、夏侯惇は動くに動けなかった。
「く、……伊珠……!?」 「うごかないで……私に、まかせて……」
ゆっくりと、硬いままの持ち物で自分の胎内を掻き回すように腰を動かす。 蕩けるような法悦を味わいながら、伊珠は前のめりになって夏侯惇の胸に体を預けた。 そのまま深く口付けて舌と舌を絡ませ、上と下で激しく交わる。 唇の甘さに酔いそうになり、夏侯惇は思わず息を荒げ伊珠を揺さぶった。 次第に腰の動きが激しくなり、やがて伊珠は声にならない声を上げてもう一度気をやった。 震える柔襞に吸い付くように締め上げられても、やはり精を吐き出す事はできない。 出すに出せないもどかしさにどうにかなってしまいそうだった。
「殺す気か……」
精気を吸い尽くされて情死するというのが本当なら、これがそうかも知れないと 夏侯惇は熱に浮かされたような頭でうっすら思ったが、実際はその逆だった。 接して漏らさず――つまり精を漏らさぬよう交合する事で、精気を体内に何度も還元して気を蓄え さらに女の気を自分に取り込み、二つの気を和合させて気力を充実させる。 いわゆる房中術で、還精の法と呼ばれるものだった。 伊珠はこれで情人を元気にしようと思い、出すに出せない状態にして強引に還精の法を実行したのだ。 もちろん夏侯惇本人はそれを知る由もなく、伊珠の秘技に翻弄されるばかりである。
(良いですわ、精気が充ちてきましたね……)
繋がった処から互いの気が交じり合うのを感じ、伊珠は弾む息の下でかすかに笑った。
それから何刻経ったのか。 甘美な地獄を味わい尽くした挙句に、夏侯惇はようやく伊珠のなかに吐精を許された。 濃厚な精を身の内に受け、満足げに息をつく姿の何とも言えない妖艶さに やはりもう少し愉しめば良かったかも知れない、と未練がましく思う自分に呆れた。
「お休みなさい、元譲さま……」
伊珠の囁く声を遠くに聞きながら、夏侯惇は眠りの淵に堕ちていった。
次に眼を開けた時、伊珠の姿は朝露のように消えていた。 体は拭われて夜着も調えられ、昨夜の事など何もなかったかのようだ。 あまり眠っていないはずなのに、なぜか妙に目覚めのいいすっきりした気分だった。 不思議な身体の軽さに首を傾げながら牀から起き上がると、香油の甘い残香が仄かに立った。 まるで昨夜の艶かしい夢の余韻のように。
「伊珠め……」
すっかり気力体力が回復した夏侯惇は、散々自分をいいようにした愛しい護衛に どんな報復をしてくれようか、と朝から邪な事を考えるのだった。
(終) |